第5話 僕の日常が終わる日
第5話は長いですが、お付き合いください。事前に「第5話を読む前に」を読んでいただくと話がより理解できると思います。
第5話 僕の日常が終わる日
暗闇の中に、1つの気配が存在していた。すると、気配は可視化し、そのまま身体の形をとりステッキとシルクハットを被った1人の青年に変化した。
「どうも、読者の皆様。ご機嫌麗しゅう。第4話で名前が判明してしまいました先導者のミルフェでございます。
僕が案内を務めるわけでありますが舞台は、前回までの神界とは大きく変わり、ラグタナくんが最近作ったとされる第六世界であります。
まず、第六世界を作る際、ラグタナくんが1分でこなした全設定について、流石に全てはお話しできないので大まかに説明致しましょう。
第六世界は、主にみなさんの住む地球になぞらえた設定は少ないですな。
むしろ、2次元真っ盛りですな。ふむ。
また、人間だけの種族ではありますが、 アジア系、西洋系など人種は地球にいるみなさんを参考にしております。ですが、言語は日本語オンリー。
もうめちゃくちゃでありますが、ラグタナくんが言うには、
『日本語の表現は、たくさんあるため気持ちを1番伝えやすい、だから日本語は素晴らしい…。』
とかなんとか言っておりましたが…。
舞台は、ぶ・た・いは、西洋系帝国っぽいんですが、他の建造物や文化はあらゆるもののごちゃまぜとなっておりまして、説明しきれません。
そんな作りになっていますが、魔物等は存在しません。国、地域間での戦闘が主のようです。
その他の説明は、彼に任せましょう。単にめんどくさいだけでありますが。
彼、というのは、ラグタナが気にかけているこの世界の住人の1人の少年です。
はたしてこの僕を楽しませるどんな面白いことが待っているのでしょうか。
僕は今後ナレーターとしてでしか登場しないので悪しからず。
では。どうぞ。
物語へご案内しましょう。」
青年はステッキで、手に持ったシルクハットを叩く。
すると、驚くことにそのシルクハットの中から青年の背丈の三倍倍以上の高さを持つ両開きの扉が出現した。
青年はこちらを向いてにこやかに微笑むとその扉を両手で開け放つ。
すると扉の向こうから光があふれ、ついには視界を覆い隠していった。
扉が消え、再び何もない暗闇の空間へと戻る。まだ彼はそこにいた。
誰かにいるはずもない方向を指差し、こう呟く。
「ここからは主人公視点で始まりますよ。それでは、いってらっしゃいませ。どうか、良い旅を。」
青年は微笑みながら暗闇の中へ侵食されるように消えた。
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朝が来て
昼が来て、夜が来て
また朝が来る。
当たり前のことだがそれが1日。
それが24時間。
よく「今週なんか短く感じなかったー?」や「今日は1日が早いな」と耳にするが、同じ24時間という時間でも人によって全く異なる時間感覚を持つ。
僕は、1日が長く感じる。
まるで一週間ぐらい経ってしまったのではないかと思うぐらい時間が経つことに執着していた。
時間を早く感じる人というものは、何か熱心になれることをしていたり、時間を忘れるほど何かに追われていたりするなど何らかの原因を持っている。
だが、僕にはその些細な原因すら待ち合わせていない。
どうせ今日もいつも通りの長い1日である。
今日は特別な日。
リトルスクールの卒業式。
だが、両親は見に来てはくれない。
それは弟の、プライマ・リクラスの卒業式へと行くからだ。
幼いころから、僕と弟には差があった。
何かにつけ僕と弟は比べられ、いつも下になる僕を、かわいようなやつを見るような目で蔑む。
とは言っても正直、卒業式には来ないで欲しい。
なぜなら、僕は貴族の家の長男にも関わらず
いじめられているからである。
いじめが始まったのは、3年間あるリトルスクールの期間のうち1年目の途中から。
それはもう漫画などでよく見るいじめのオンパレードが続いた。
多いのが私物をゴミ箱に捨てられたり、上履きに画鋲が入っていたり。怪我をすることもあった。
でも、誰も止めなかった。止められなかったのだと思う。
僕をいじめていた3人は、親が財閥の社長だった。
だから、教師も止めるのを諦めていた。
僕は親に迷惑をかけたくなかったし、自分の家に泥を塗りたくなかった。
だから、いじめのことを言い出せなかった。
どうせ言い出したところで、弟のことを優先させて僕のことは何も考えてくれない。
そう思った。この通りだった。
いじめが続けられる中、僕は初めて他人に殴られて口と唇を切った。
口と唇から血を流し、保健室にもいかず帰ったところ、そんな僕の様子を見ても両親、まして弟さえも何もいってくれなかった。
それからの僕はクラスにいないかのような存在だった。
前より格段にエスカレートしたいじめを受けていても相変わらず教師は知らんぷりする。
入学当初からいじめられていたので友達もいなかった。
だから誰にも相談せず自分で全部抱え込んだ。
そして、昨日までいじめは続いのだ。今日までおそらく続くだろう。
今日で最後だ、彼らにとっても僕にとっても。
後日行われる教師達の離任式への出席は、任意だし強制だとしても死んでもいくもんか。
次に会うことはないだろう。
頂点のやつらと、どん底の僕。皮肉にもいい絵だとさえ感じてしまうほど僕の心はダメージをうけていた。
そんなことを思いながら、午前6時30分目覚まし時計のタイマー通りに無事に起床した。
寝坊しても起こしに来ないのが物心ついた時からの母親の安定感ある僕の扱い。
もう流石になれた。
サイズの合わないパジャマから、3年間着続けたサイズの合わない制服へと着替える。
ズボンは膝ならまだしも普通ならありえないにところに穴空いており裾はボロボロだ。そんなことは僕にとってはいつものこと。
僕の家は、先ほども話した通り貴族の家だ。数々の戦績を上げてきた剣術の名家とも呼ばれるリチャット家。
僕は、その家の3代目当主になるはずのラウル=リチャット。
僕の家であるリチャット家の屋敷はかなり広い。
舞踏会用のホールや、訓練場。さらには花の菜園、噴水広場といったように多くの建造物が隣接している。
僕の部屋は、普段の扱いとは打って変わって、なぜかきちんと割り当てられており、弟の隣の部屋。
今ちょうど、母親が弟を起こす声が聞こえる。
当然、僕の部屋には来ずに足音が遠ざかっていく。
窓を開け、朝の風を顏に受けると嫌な気持ちもどこかに飛んでいったような爽快感が残る。
今日必要なものをバックに詰め、部屋を出て一階へと広い廊下を歩き長い階段を降りる。
そんな僕を階段で待ち構えていたのは祖父ヴェラフィム=リチャット。
リチャット家の現当主であり、僕と唯一接してくれる人物だ。
祖父は僕と目が合うとニカッと輝く歯を出しながら笑った。
手にはお弁当を持っていた。
僕のお弁当はいつもはリトルスクールの学食だが祖父がたまに作ってくれる。
階段を降り、お弁当をありがとう、と言って受け取る。
またニカッと笑う祖父。不思議なことにこの笑顔は嫌いになれない。
「おはよう、ラウル。今日も早起きとは感心だのう。ハッハハハハ。」
といって乱暴に僕の髪の毛をいじ繰り回す。
正直、こうされるのは嫌いではない。
「朝からやめてよ、ヴェラ爺。
それより、お弁当ありがとう。今日はウチにいるの?」
祖父は、今年で83歳になるはずだが未だ現役であり、この都市ヴァルナにあるアトネス城の近衛騎士団団長なのである。
それ故に家に帰って来れる日は少ない。
都市ヴァルナとアトネス城などについてはのちのち説明しよう。
「ふっふふー。今日は一日休みをもらったわい。ラウルの卒業式を見に行こうかと思ったんじゃがのぅ、流石に周りは両親だらけだしのぅ、ラウルがかっこ悪く見られてしまうかもしれん。迎えだけにしておくか…?」
と、僕を見つめる。
僕がいじめられていることを祖父は知らないはずだ。
だが、祖父の目の奥にどんな想いが詰まっているかなんて今だ15歳の子供の僕にはわからない。
でも、流石祖父である。知っていようがいまいが僕のことを考慮して迎えだけを提案してくれたのだろう。
「うん、考えたらカッコ悪いかも。
ヴェラ爺ごめんなさい、迎えだけお願いします。」
ヴェラ爺には、せっかく休みを取ってもらったのに申し訳ないが、情けない姿を見せるわけにはいかない。
ヴェラ爺が話を続ける。
「わかった。迎え行くのは、ゲートに13時ごろでよいか?」
ゲートとはリトルスクールの言わば、校門のようなものだ。卒業式が終わるのが12時30分だから大丈夫だろう。それにそろそろ行かないと。
「うん、13時でいいよ。じゃあ、行ってきます!」
僕は勢いよく駆け出し、屋敷を出て敷地から出る門までの道を走る。
ラウルが出ていった後ヴェラフィムは気づく。
「ラウルのやつ、朝飯は食って行かんのか?まあ、わしの孫だ。そんなに気にすることでもないかの。ワッハハハ。」
いじめの存在は知らないかのように近衛騎士団団長様は笑うのだった。
ヴェラフィムはラウルの気配が完全に屋敷の敷地内からでたことを確認すると、声を張り上げた。
「お前たち、出てこい。」
さっきのラウルに対する優しい声とは裏腹に激しい怒声をあげる。すると、
「ハッ。」
という声とともにどこからさ黒装束を纏った3人が瞬時にヴェラフィムの前に現れる。
3人とも片膝を立てヴェラフィムの言葉を待っているようだ、
3人とも、同じ黒装束だが1人だけ明らかに体格がちがう。
子供のような体格だった。
ヴェラフィムは話を切り出した。
「ラウルの弁当も作れんとは何事じゃ。
きちんと護衛はできているんじゃろうな?報告書を読んではいるが、ラウルがお前たちの報告通りの子だとは思えないのじゃ。で、どうなのじゃ?」
ヴェラフィムの目が細くなり、目線を3人へとグサグサと突き立てている。
3人はビクビク震えながらも努力して返答を試みた。
「きちんと護衛できております。ヴェラフィム様がお気になさるようなこともありませんし、ラウル様に危険が及ぶこともありませんでした。べ、弁当についてはも、申し訳ありません!」
3人は土下座をして、頭を下げていた。
そんな3人の様子に気にすることもなく、言葉を続ける。
「今日はラウルの護衛はワシがやる。お前たちは、例の件について引き続き任務を続行するのじゃ。では、散れ」
そう命令すると、
「ハッ。」という声とともに3人は姿を消した。
(ラウルよ、いじめなどに負けるでないぞ。なにしろお前はあいつの息子でありワシの孫なのだから。)
やはり、ヴェラフィムの目の奥の光は真実を捉えていたようだ。
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屋敷をでた僕は、リトルスクールへの道のりを歩いていく。
ここで、護送用車なんていうのは登場しない。
弟には登場するが…。
リトルスクールまでの道のりはそんに長くない。
なんせリトルスクールまで僕の家からは一本道。
丁度300メートルほど離れた向かいにある。
この一本道はリチャット通りと言われ、もちろん由来は僕の家。
祖父がまだ若い頃戦争で偉大な功績を残した際につけられた。
僕がリトルスクールに着くまでに、この国と、この都市、そしてリトルスクールのずっと奥に聳え立つアトネス城について軽く説明しよう。
この国は王国バルジネスタという、この世界の中でも最も力のある国であり、7つの大都市と、50を超える街や村があり豊かな水源を有している。
また広さは世界の大陸の5分の1を占めている。
そして、王国バルジネスタの国王がいるアトネス城があるのが、7つのうちの1つの大都市、僕の住む中央都市ヴァルナ。
主に交易や、産業などにおいて最北端の地と言われているぐらい発展している。
いまはこれくらいの事前知識があれば大丈夫だろう。
なんのために説明していたのか不思議になる僕だったが、リトルスクールのゲートが見えてきたので気にならなかった。
どうやら、他の生徒はまだ誰もきていないようがゲートは開いていたので駆け出す。
3年間一度も休まず通ったこのリトルスクールは、残念ながらいい思い出はない。
仲のいい友達もおらず、ましてや好きな子、好きな教師ですらいない。
そんな僕がなぜみんなより早く学校に来たかと言うと、後から来た時にみんなから視線を向けられるのが怖いからである。
それにいじめっ子集団はいつも遅れてくるので鉢合わせにもなりたくはない。
それ故の早い登校である。
下駄箱でボロボロの下足からボロボロの上履きへと履き替える。
朝の静けさが木製の古びた下駄箱を一層際立たせる。
誰もいない廊下に、誰もいない教室。
この世でただ自分1人だということを錯覚できる。その錯覚が何より心地よいのだ。
廊下を歩き、階段を登り、目的地である二階の自分の教室へと足を急がせる。
だが、この日はあの錯覚は味わえないようだ。
どうやら、すでに同じクラスの誰かが登校しているようだ。
教室に着くと、僕は唖然とした。
いつなん時でも、僕の都合に合わせることのなかった彼らが今日この瞬間だけ別の意味で合わせて来た。
そう、あのいじめっ子集団の3人である。
3人は僕の机に何かを書いていたようで、僕の香りを見るなり、互いに顔を見合わせてそして笑った。
予想外の事態にしばらく反応できなかった。
いじめっ子の1人リーダー格である、ヒュース=ローデンファルスが、取り巻き2人であるライナス=ドルナントと、
ウォルト=リムを連れて僕の進路を塞ぐように前へとやってくる。
ヒュースはニヤニヤ笑うと口を開いた。
「よう、リチャット家の恥さらし。
今日は随分早い登校じゃねぇか。あぁん?」
僕が顔を下に向けていた。
いくらリチャット家の恥さらしと言われたのが今日で503回目だとしても、堪えるものがある。
焦りそうになる自分の心を落ち着けながら慎重にことを進めるべく言葉を選ぶ。
「お、おはよう。僕はいつもこの時間なんだ。ヒュース達の方が早いなんてど、どうしたの?」
おどおど話してしまうのは自分の心が弱いからであり、いつも泣きたくなる心を抑えている。
彼らのほうが上なのだ。
彼らのいう通りにするしかない。
開口一番のいじめ言葉を軽くあしらわれたのがそんなに腹があったのか、ヒュースは隣の2人に目配せする。
ライナスと、ウォルトはニヤリと笑った。
ウォルトは僕へと近づき、後ろから脇の下から手を回され動けないようにされた。
本当に身動きが取れない。
ウォルトは3人の中で1番力があり体も大柄。
振りほどくのは無理だと諦める。
直後みぞおちが強い衝撃を受ける。
「カハッ、ハァ、ハッ。
カハッ。オエッ、ハァ、、ハァ。」
痛みと衝撃で息が整わないうちに、ヒュースとライナスは僕をサンドバッグがわりに交互に殴ってくる。
ヒュースが殴りながら、口を開く。
「おいっ、ラウルッ。
これは俺たちからの卒業祝いだよ。
どうせ、親から何ももらえなかったんだろっ?」
続けて、ライナスが話し始める。
「お前、出来の悪い兄だもんなっ!
親にも見放されてるんだろ。ほんと可哀想なやつだなっ!」
貴族の家に関わらず一般の家庭でも、リトルスクール卒業の前日に親から贈り物をされ、それを卒業式でお披露目するのがこの国では常識扱いされている。
だが、自分は何ももらえなかった。
そんなことまで彼らに馬鹿にされるとは思ってもいなかった。
背後にいるウォルトが、
「どうせ、何ももらってないんだよ。こいつ、手に何持ってるんだ?」
と、祖父から受け取った弁当に気づく。
祖父の弁当に気づかれてしまった。
どうしよう。
焦りが表情となって3人組に伝わってしまう。
「おい、それなんだよ。なんだ、親からもらったんじゃないだろうな。見せろよ。」
と、ライナスに弁当を取られてしまった。
急いで弁当の包みを開け、弁当だと確信した3人は、笑い出した。
「ハハッ。まさか、これが祝い品じゃないだろうな…。おかしくて、頭がおかしくなりそうだぜ。そうだっ、ライナスこれ捨てようぜ。」
「そうだな、捨てようぜ、ハハッ。」
なんだって、祖父からの弁当を捨てられなくちゃならないんだ。
止めるんだ。
「離せっ、それを返せ。おいっ!」
力を出して暴れるがウォルトの力には勝てなかった。
暴れる僕を見据えながら、ヒュースは話し始める。
「そういやぁ、俺がもらった。祝い品を見せてやるよ。これだぜ。」
と自慢気に背中の腰のあたりから取り出したのは、1つの短剣だった。
持ち手に大量の宝石があしらわれており、高価なものであることを表している。
それを僕の前にちらつかせ、うろたえる僕を見て楽しんでいる。
「天下の剣の名家リチャット家のおぼっちゃまなら、この短剣の斬れ味くらいみたらわかるだろ?」
今は短剣なんかを気にしている場合じゃない。
弁当を取り返さないと。
ヒュースは、僕が返答せずに暴れ出した様子を見て、舌打ちをしてゴミ箱の前に立ち祖父の弁当を手に持った。
すると、弁当を上に投げたかと思うとそれを短剣で無残に切り刻んだ。
圧倒的な斬れ味によりバラバラになり中の食べ物や、弁当箱よ破片がゴミ箱へと落ちていく。
「あああぁぁぁぁぁぁ。」
その時僕は涙を流しながら声にならない叫び声をあげていた。
そんな僕をおもしそうに見つめ、
「うるせぇ」
というと同時にヒュースはまたみぞおちを殴る。
くずれ落ち静かになった僕をみながら、ライナスはゴミ箱の弁当の破片を拾い上げ、
「うっひょー、ヒュース、その短剣凄い斬れ味だな。見ろよ真っ直ぐ斬れてるぞ、コレ。」
確かに斬られた断面は斬りムラがないほどに綺麗だった。
「当たり前だろ、この短剣は親父が城の鍛冶師に頼んで作ってもらったんだから。
おい、ラウル。
今日はこの辺にしといてやる。
他の生徒もきたみたいだからな。
一週間後の離任式は出席強制にするように学長に親父から言っててもらうから楽しみにしとけ。
ウォルト、ライナス行くぞ。」
いつもの強気な顔で、そう言い放ちいじめっ子集団は教室を出ていった。
すると、クラスの生徒たちが、ましてや教師までもが教室へとぞろぞろと入ってくる。
僕を憐れみの目で見つつ自分の席へと座る。
あれからそんなに時間が経ったのかと時計を見ると、すでに登校時間を過ぎていた。
制服についたゴミを払い、立ち上がる。
そして、誰とも目を合わせず自分の席に座る。
いじめっ子集団が教室に戻ってきたが、いじめられることはなく席へと向かっていった。
それからの時間が僕にとっては幸せだった。
卒業式は親同伴でアリーナへと入場するので事前に生徒と保護者に向けて説明が行われる。
だから、ずっと親の目がある3人は僕をいじめることはできなかった。
それさらの時間は体験したことがないぐらい早く過ぎた。
隣に親がいないことに不審感をもった他の生徒の保護者が僕を見ることはあったが、いじめられるよりはマシだった。
少しだけ長引いた卒業式は12時50分に終わり、リトルスクールからぞろぞろと生徒とその親がでて行く。
そんな中僕は駆け足でゲートへと向かう。
それと、同時にゲート前に見られない車が停まる。
だが、運転している人物に僕は見覚えがある。
祖父の知り合いで、城で研究専門の仕事をしている研究隊(アリオンの琴歌)のリーダー、シンリィ=アズバルトさんだ。
昔は女性ながら祖父と肩を並べて戦っていたらしい。
僕は車の後部座席に乗り込んだ。
「ハァロー。ラウルくん。13時1分。遅刻よ。」
普段からサングラスをかけている彼女は実にクールであり、時間には厳しい。
だが、面倒見のいい人で祖父に続いて僕を気にかけてくれる人だ。
祖父に年齢が近いはずだが、なぜか30代前半に見えてしまうのはいつも気になっているが…。
まあ、今度聞くことにしよう。
「すみません、シンリィさん。式が長引いちやって。」
彼女は後ろを振り返り僕の制服を見つめていた。
確か制服姿を見せるのは初めてだ。
すると、何かを察したように口を開く。
「いいのよ。さてさて、ん?もしかして、ラウルくんって……。」
流石にいじめられているのを見破られてしまったのかと考えているとどきどきしていると、予想外の答えが返ってくる。
「隠れ番長みたいにキャラ?いや、違うわね、余程のドジっ子?」
と、首を傾げて言うシンリィさん。
いじめのことは今日で終わったといえ、話せない。
返答に苦労している僕に気づいたのか、シンリィさんは口を開く。
「まぁ、いいわ。とりあえず車出すわ。」と車は走り出した。
「それでね、ヴェラフィムは国王に急遽呼ばれて迎えに来れなくなっちゃったのよ。それで、私が来たってわけ。」
祖父はその仕事柄、国王から勅命を受けることが多い。
仕方ない、せっかくのいじめ解放日だが祖父とゆっくりできさそうだ。
「そうですか、シンリィさんは忙しいなかったんですか?」
「ふふっ、子供はそんなことは気にしなくていいのよ。それで、これからあるところに向かうんだけど、『プルプルプル♪』ん?。電話ね、何かしら。ラウルくん、電話取ってくれない?」
この車は、城専用の車。車内には城のみとつながる固定電話がある。
受話器を取り、路上駐車したシンリィさんへと手渡す。
「ありがとう。」
と言って電話を受けとり、受話器を耳にあて話し始める彼女。
「もしもし…。シンリィ=アズバルトです。ええ、はい。、はい。っ、っ。嘘っ、それは本当ですか?ええ。それで?はい。場所は?。はい。はい。わかりました。至急向かいます。では。」
何やら、深刻な内容のようだ。
受話器の向こうの声は聞こえないがそれは彼女の横顔が物語っていた。
僕は気にしてシンリィさんに声をかけようとすると同時にシンリィさんは僕のほうを向く。
彼女の表情は今にも崩れそうなほどだった。
そして、軽く深呼吸すると僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「ラウルくん、いい?、
落ち着いて聞いて。
あなたの祖父、アトネス城近衛騎士団団長であるヴェラフィム=リチャットが、
亡くなったわ。
いえ、殺されたらしいわ。
」
僕はシンリィさんの言っていることがわからなかった。
ヴェラ爺は団長なんだよ、僕と違って他のやつに負けないんだ。
そのヴェラ爺が亡くなった?
殺された?
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
僕は頭の中が真っ白になっていた。
何も考えられなかった…。
西暦2316年 3月13日僕のリトルスクールの卒業式。
その日を境に僕の日常は色々な方向で終わりを告げた。
どうも、今度から後書きに参上することにしました先導者かことミルフェであります。ラウルの数少ない理解者、ヴェラ爺が、ヴェラ爺が亡くなってしまいました。シンリィさんの話によると殺されてしまったとか?ヴェラ爺が従えていた黒装束の3人組も気になりますが、それよりもやっといじめから解放されたラウルに襲いかかる悲劇。ラウルはどう切り抜けていくのでしょうかな?でも、離任式はどうするんでしょうかねー。というか、ラグタナくんに心の弱さは似てなくもないですが…。まあ、次回を楽しみしていてくださいませ。では、失敬。