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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
29/30

第26話 襲撃者

お久しぶり

第26話 襲撃者






「今日も………ねー。」

満たされた腹をさすりながら、夜空を見上げるぽっちゃり体型の國坂。

「……何……てんだよ?お前食……ただけだろー?」

とケラケラ笑う葉山。


「そ……ことないよ、……んだって雅人に頼りきりだよねー。」

「まぁ、……はスキルがス………なー」

「なんのスキルだっけー?」

「お前ま………のかー?」

「うん。僕食べて………し。」

「……たな、國坂。ハハハ。

久喜……スキ……『……』……だよ。

全く………。」


どうやら久喜だけ席を外しているらしい。

風音は誰の味方にもならずに、彼らの言葉を所々かき消していた。

スキルについて話しているようだが、肝心のスキル名が聞こえない。

これで聞いたこともないスキルなら納得だが……。

和久井の話すら出ない。

久喜が単独で行動している可能性もある。

だが、今の会話では何も掴めない。


今気づいたが、Fグループも5人のメンバーがいるはずである。

和久井、久喜、國坂、葉山。

あと1人が誰であるのか柊は知らなかった。

和久井は回復スキル持ちだったはずなので、あと1人はクラフトスキル持ちとなる。

今視界に映っているテントらしきものは誰でも作れそうなレベルのものだ。

となれば、もう1人も……。

今日はこれ以上長居しても仕方ない。

そう思い、彼らに背を向けた瞬間、目の前には信じられない人物が立っていた。




「わ、和久井くん!?君は、だって、えっ、死んだはずじゃ?」

焼死体となり消えたはずの和久井暁がそこにいた。

葉山たちに聞こえないようになるべく小さい声で話したが、なぜここに彼が……。

そもそも、どうして生きているんだ?


目の前の和久井は、口をニヤリとして話した。

「そうか、テメェだな。和久井の死体を消したのは……。」


その言葉に言葉を失わずにはいられなかったが、その独特な口角の上げ方と口の悪さから1つの人物を思い当たった。

だが、彼がなぜ和久井のすがたをしているかは分からない。

だが、聞かずにはいられなかった。

「お前、




久喜なのか?」


「ほぉー、雑魚スキルもちの白雨でもおれの正体に気がついたか。


その通り。スキル発動『変装』解除。」


と、和久井の姿をした久喜が叫ぶと目の前の人物はいつの間にか久喜の姿をしていた。

動揺せずにはいられない。

彼に、自分が和久井の死を知っていることを教えてしまった。

やはりこいつか、和久井を殺したのは?

そう思うと怒りがこみ上げてくる。

拳を握りながらも少し後ずさるが、それを久喜の言葉が止めた。

「和久井の死体を消したってことは和久井の記憶も持ってんだろ?それを俺に渡せ。」


(この野郎、どうして記憶のことまで知ってるんだ。まさか、あの場のことを見られてた? それに久喜のスキル『変装』か……。

やっぱり火魔法じゃなかった。だが、あの時魔物は久喜たちが倒したはずだ。ほぼ全員が久喜が火魔法を使えることを知っている。

くそっ、訳がわからない。)


「おい、どうした?

お前も見たんだろ?記憶の中であの黒ローブの集団を。」

こいつじゃないのか?

敵意を感じない。

とりあえず敵対されているわけではないように感じた柊は、久喜を真っ直ぐに見る。


「あ、ああ。僕が見た。

だが、取引だ。

久喜のスキルのことと黒ローブ、それにどうして和久井のことを知っているのか教えてくれたらだ。」

「随分と多いなぁ。

まあ、いいぜ。教えてやるよ。

それぐらい和久井の記憶には価値がある。

まずは、一番知りたいだろうが黒ローブについてだ。

あいつらがウチのグループにいないもう1人のメンバーを和久井より先に殺した。

名前は小早川千紗

あのいじめられっ子の文学少女って感じのやつだ。

俺がそいつの死体を見つけたのは転移してすぐのこと。

ベースゾーンに魔物が侵入してきた日の前の日の夜だ。

転移1日目の夜、トイレの用をたすために森に浅く入ったんだが焼死体を見つけた。

さすがに驚いて、何度も吐いた。

死体は、殺した人間にはおそらく消すことができない。

つまり、第一発見者が見つけることで消すことができ記憶を入手できる。

黒ローブや火魔法のことを知っているのも小早川の記憶を見たからだ。

そして、昨日の朝から和久井が消えやがった。

俺は、2人がいないことを國坂と葉山をなんとか騙しながらも攻略組とともに森に入っている時単独で行動した。

だが、和久井は見つけ出せなかった。

そして、今日も探した。

で、また見つからないわけだ。

誰かに発見されたんじゃねぇかと、生徒一人一人の行動を観察することにしたんだ。

だが、生憎普段からあまり他人に干渉してねぇ俺は見ただけじゃ誰かなんて分かるわけがねぇ。でもよー、そしたらウチのグループに森を通りながら近づいてくる生徒を見つけた。

俺は、そいつをつけた。

そいつの目的は知らなかったが、俺にはそんなの関係ねぇ。

スキル『変装』で和久井の姿にさえなってしまえば、相手の反応で察せるからな。

そして、望んだ通り白雨、お前はいい反応をしてくれたぜ。


スキルについては悪いが言えねぇな。

2つほど教えておいてやる。

スキルは1つしか所持できないわけじゃねぇ。

それと、おそらくクラスでスキルを隠しているやつは山程いるぜ。いい意味でも悪い意味でもな。」


ということは、犯人は黒ローブ…?

だが、和久井を探す久喜の気持ちが分からない。和久井といじめの関係にある久喜がなぜ和久井のことを探すのかが分からない。


いや、そうか、そういうことか。

久喜は、クラスメイトの誰かが和久井の死体を発見しそれを皆の前で話されるのが問題だったんだ!

そしたら、当然のように久喜たちに罪が課せられる。

いくら、和久井の記憶を見たと入っても集団のように自分に接触してくる人がいるかもしれないと踏んでいたんだろう。

思ったより頭の切れる不良かもしれない。

スキルについては納得のいく話だった。

何せ自分がもとは2つ所持していたし、隠蔽をしているからである。

罪悪感だけが漂うが、今は久喜に和久井の記憶を渡しても大丈夫だろう。

犯人は黒ローブで決まりだ。

久喜と手を組んでいる可能性もあったが、攻略組での話からそうではないことが理解できる。

柊はある可能性を考えずに納得してしまい、アイテムウインドウから『和久井 暁の記憶』をオブジェクト化する。


「久喜、黒ローブの連中についてもっと何か知らないのか?」

「おいおい、その前に取引を終わらせようぜ。また、お前の前に和久井の顔で現れてやろうか?」


「っ!!

わかったよ。」

流石に和久井の顔で現れられると気分が悪い。そういって、物体を掴み久喜へと放る。


パシッ。

久喜は受け取ると軽くアイテムを指先で叩いて確認した。

「確かに受け取ったぜ。

黒ローブについてはおれたち攻略組に任せておけ。じゃあな。」

「おいっ!」


久喜は闇に紛れるように暗闇へと姿を消した。

それが彼のスキルなのかはわからないが、あまりにも不気味すぎた。


あの黒ローブの集団。

必ず罪を償わせてやる。

みんなの危険をいち早くなくすためにも情報を集めないといけない。


あたりはまだ葉山たちの声よりも小さな虫たちの鳴き声が印象強い。


柊は元来た道へ足を向けると、自分たちのAグループへと途中音を立てまいとひやひやしながら帰るのだった。


戻ると、自分がいなかったことに気づいていなかった他のメンバーを見て温かい目で微笑むのともに柊も眠りにつくのだった。




<<


チュンチュン。

チュンチュン。

そんな日本での朝早くのような鳥の鳴き声は、ここではいない。

そうここでは……、


ケッケッケッケッ

クラッククラクラクラクラ

ギャーォォォオオオ

といったような朝の目覚ましにしては推薦したいほどの声量の魔物の声で皆は目覚めた。


彼らの朝は、朝ごはんから始まる。

昨日の獲物を食べ、空腹を満たし全てのグループが食事を終え一休みをしたところで攻略組は森へと出向く。

今日は、また北へ、向かうらしい。

滝の下へと降りるようなことを誰かが言っていたが流石に30メートルの滝崖は降りられないだろう。


異世界転移して4日目。

いまや日本に戻る希望など無くし、ここで生き延びることを考え始めている生徒が1人また1人と増えている。

一星や七瀬といった全体の統率者の指揮のもと不自由ない暮らしを送り出せている彼らの心には不安と恐怖が消えかかっていた。


さえさえ、Aグループは朝飯を終え、柊と鏡花は攻略組を送り出しクラフトのスキル上げに徹する。今日はまた北へ向かうらしい。


「白雨ー、そろそろ穴を掘って見てもいいじゃないの?」

自信まんまんの顔でそう迫られては困るので、承諾せざるを得なかった。


「ふふふ、遂に来たわね。

スキル『形質生成』!!」

某錬金術アニメにも似せているのかは分からないが、一度両手を合わせ地面に両手をおく。


すると、半径30センチの範囲がが5センチほど地面が下にさがった。

「『形質生成』!!

『形質生成』!!……。」

何度もスキルを使用する。

連続使用のためズズズッという音を立てて自分と鏡花のいるところがゆっくりと下がっていく。

ギリギリ穴から出られそうなところで、上へと戻り昨日のうちに作っておいたはしごを穴の中へと入れる。

あとはこれを繰り返すだけで午前のうちに終わるだろう。

周りのグループに気づかれないように、穴の蓋を作った。

そこから見たらなんら地面にしか見えないが内側は木でできている。

本当に『形質生成』に頼りっきりである。


何時間か続けて、ようやく自分たちの身長がギリギリ入るぐらいの深さになった。

暗闇で何も見えないときに、鏡花から蹴りを入れられることもあったがステータス的に体力が少ないので真面目にやめて欲しかった……。イタイ、本当に痛いから……。


鏡花が作りだめしてくれた『タナヌの木刀』×50などその他魔物の素材などの一部を木箱にしまい穴の中へと保管。

緊急時以外は貯蓄庫として使うつもりである。

光が入らないのが唯一の欠点だが、それはおいおい考えていかことにした。

「にしても、暗いな。」

「あんたねえ、暗いからって変なとこ触るんじゃないわよー!」

「誰もお前なんか触らんわ。」

「へぇー、言うじゃない。さっきまで散々蹴られてたくせに。」

暗くて顔は見えないが、さぞ顔を引きつらせていることだろう。

柊は、密空間で女の子と2人……ひゃっほぉーということにはならず身の危険を感じるばかり……。


「そろそろ、休憩しようか?」

「そうね、あんたが先に出なさいよ。」

「?なんで?」

「ほっんと馬鹿ね。

私の服装を考えなさい。」

「ズボン貸そうか?」

「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ……!!いいから、さっさと登る!」

「へいへ…」


ドオオオオオオオオオオオォオオォォォァォン


言い終わる前に、地下室もどきに地震の初期微動とは違う明らかに地上で起きているであろう轟音がした。


「今の何!?」

「分からない、だけどすぐ上で何が起こっているのは確かだ。」


柊は穴の内側から蓋を少し持ち上げる、一応穴は森の茂みに近いところに作ったので出ている姿を目撃されることはないかと思う。


一筋の光が差し込み、柊の視界を明るくした。


そして、目の前に広がる光景。


Bグループが立てた木造の建物が炎に焼かれ燃えている。

聞こえてくるのは、生徒の叫び声。

「そんな……昨日の今日で……。」


それは助けを求める声でも、相手を威圧するための声でもなかった。

なんの意味も持たない言葉がつながっただけの叫び。

ただ、とてつもない恐怖に駆られていることは誰が聞いても明らかだろう。


そして、見つけた黒い影。

足が早すぎるのか、残像でしかその姿を捉えることができない。

だが、柊は気づいていた。

あの黒ローブの集団だと。

やはり自分たちを襲撃に来たのだと。



「やめてぇぇぇぇえええええええええ!!!」

遠くのほうで声が聞こえたので目を向けると、ある女子生徒がこちらに向かって逃げていた。

柊たちがいないことに動揺する暇もなかったようで、背後に現れた黒ローブの男が放った火球によってその姿は焼死体と化していた。

その体は火を包まれてもなお逃れようと暴れていた。

たちまち制服、皮膚は焼け落ち肉が露出する。

彼女は、地面に静かに倒れ


そして、死んだ。


危ないと言えない自分に、憤り

今の状況に、恐怖し

目の前でクラスメイトが殺されたことに、

頭の中が空っぽになった。


少しでも落ち着くために蓋をしめ、どうしようもない気持ちを何かにあてたくなる。


「白雨、どういう状況なのよ!?

今の声って、まさか……。」

「あ、ああ。例の黒ローブたちだ。

彼らがみんなを殺して…いる……。」


「早く助けないとじゃない!!

今すぐ出なさいよ!」

「……。」


「ちょっと、こんなことしている間にもみんなは…!

「……駄目だ、みんなを助けるわけにはいかない。奴らは確実に1人ずつ火魔法で殺している。それに僕たちは回復スキルを持っていない。見殺しにするだけだ。

それに、自分たちも殺されるかもしれないんだ!!」

「でもっ!だからって、このまま………。

幾ら何でも非道すぎる。」

「それでも無理なんだよ。今は生きることを考えないと。分かってくれ。


少し、外を見てみる。」


柊は、黒ローブ集団に見られていないことを願って蓋を開ける。

「!?嘘だろっ?」

目の前に広がるのは、チリひとつ残っていない更地だった。地面に焦げのあとさえついていない。敵のクラフトスキルによるものだろう。だが、四日間という短い間だったとしても住んでいたところがあっけなくなくなるというのはひどく心が痛んだ。

さらには、同級生の死体さえ消えていた。

記憶アイテムすらもドロップしていない。


「何にも無くなってる!!」


「そんな……。これからどうするのよ。」

これから……?、そんなこと考えてもいなかった。いや考えられなかった。

この状況で先のことなんて考えられるわけない。

だが、何もしなくていいというわけではない。

何か行動するんだ。

そして、考えろ。

黒ローブはどうして自分たちを襲って来た?

その前になぜ小早川や、和久井を殺したんだ?

まず関連する人物は、

久喜、國坂、葉山の3人が残るFグループ。

久喜だけが黒ローブの存在を知っていた。

そして、久喜は小早川の死体を発見し和久井殺しの犯人にならないために、失踪した和久井を探した。

そして、昨日和久井を発見したのが自分だと分かると記憶アイテムを――――?


どうして久喜は、記憶アイテムを欲しがったんだ。

自分との取引に応じた時、彼の持っている情報は現段階では必要な内容だった。

自分が久喜だったら、鏡花のような優秀なスキル持ちや食料、さらに言えば情報を求めることも出来ただろう―例えば、お前のスキルはなんだ?、とか。

つまり、彼にとってあの情報はゴミ扱いできるほど必要のない情報だった……?

いや、違う………!!


久喜は間違いなく和久井の記憶アイテムに価値を感じていた。

自分が話した和久井の記憶の内容だけで十分のはずだ。

それにも関わらず、記憶アイテムを欲したということはあの記憶アイテムには何か別の用途があるということ。


久喜が記憶アイテムを、持っていて有利なこと……。


そうか!!


和久井死亡の証拠隠滅。

これが、一番考えられる。

自分から証拠品が離れたことで、久喜は万が一久喜自身が和久井殺しの犯人として告発されることがなくなった。

だが、黒ローブか犯人であることは柊にも明らかだ。

おかしい。

矛盾している。

彼は、犯人が黒ローブであることを知っていてそれを証言してくれる自分という存在がいるにも関わらず、自分が犯人扱いされないために記憶アイテムを欲した。

もしかしたら、小早川も和久井も久喜が殺したのかもしれない。


次に考えられるのは、

記憶アイテムの別用途。

記憶アイテムがステータスやスキル、何かしら自分に効用があるものであるということ。

柊は気づくことはできなかったが、何かしら知っているのかもしれない。

多分それに気づいたのは、小早川の死体から記憶アイテムを回収した時。


次だ。

もし、黒ローブと久喜がつながっていたとしてあの俊敏な動きをする彼らを操るには相応の何かが必要なはずだ。

それがもし仲間の記憶アイテムだとしたら、久喜の行動もうなずける。


今、考えたことは全てが当てはまる場合がある。


(も、もしそうだとすると、と、と、いうことは皆が襲われたのは黒ローブと繋がっていた久喜が原因であり、襲撃が決行されたのは……)

「記憶アイテムを久喜に渡した僕のせい……?

ハ、ハハハ。まんまと嵌められたわけか。

もっと相手をよく見るべきだった……。」


途端に全身から冷や汗が吹き出し、体が震えだした。

「って、ことは僕がみ、みんなを……。」


もうはしごを掴んでいる気力もなかった。このまま手を離して浅い穴の底に当たった衝撃で死ぬ幸運が欲しいくらい。


今の柊は、鏡花と共にいる。

鏡花は柊の呟きをはっきりと耳にしていた。

そして、口にした。

「白雨、なにか色々あったみたいだけど今は行動しなくちゃ。何か考えないと…。」


その時の彼女は、かつてないほど真面目であるだろうが闇のなかでは無力であることに変わりはないのであった。









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