第25話 転移3日目
お久しぶり
第25話 転移3日目
転移3日目、さすがに周りの景色には慣れ皆の心にも希望の光が見えてきた。
慣れたくもない朝の風景を眺めつつ昨日余しておいたウサギ肉を焼き、五人で分けて食べる。
「それで柊ちゃん頼みたいことって?」
そう柊は恭平に頼みたいことがあるのだ。
口の中にウサギ肉を詰めながらも話す恭平を注意しながらも柊は話した。
「ソードスキルの刀―そうだな、刀スキル に関してなんだが『晒し風』が発動段階に入ったら止められるかどうかということ。
もう1つは久喜たちの観察だ。彼らが少しでも気になる行動をしたら目をつけておいてくれ。」
「その久喜くんたちの観察っていうのはどの程度のことから気にしたらいいんですか?」
「そうだな、見る限りこいつ頭おかしんじゃね?って感じに思えた時でいいよ。」
「了解したっすー!」
「それで、柊ちゃんたちは何をするんだ?」
「ああ、そのことでも頼みがあった。
昨日から大々的にクラフトのスキルレベル上げをしていくから『晒し風』で木を切り倒して欲しいんだ。」
「えっ、あっ、わかった。多分切れるとは思うけど、もしこの木の棒が折れたら倒した木で木刀作ってくれ。」
「それは井上に頼んでくれ、専門外だ。
というか、その木の棒を木刀の形にしてもらったらどうだ?」
「できるんですか?」
「…………。」
鏡花の返事がない。
「おい、井上、起きてるかー?」
「……。眠いのよ。大きな声で話しかけないで声でくれる?
木刀にでしょうー、できなくもないけれど新しいのならすぐ作れるわよー」
「「「「?」」」」
鏡花は立ち上がって、背の高い木に近づくとその表面に触れた。
「『クラフト』」
そういって目を閉じると、
パアァァァァァ
触れている部分がオレンジ色に発光しだした。
その光景に他のグループも目を向けていた。
柊たちも驚きである。
そして、その発光部分が離れた鏡花の手の中に集まり形に作る。
まさに木刀のシルエットだった。
発光が終わり、木刀は深みのある茶のいろを出しながらも異様な存在感を放っていた。
「できたわよ。って、えっ、何?」
といって恥ずかしいがりながる鏡花。
パチパチパチパチ。
見ていた生徒たち観客から拍手が湧く。
生徒たちが散るのを確認してから木刀を恭平へと渡す。
「おおおおお!!木刀だぁ!しっかり竹刀サイズだし、井上さん、ありがとう!」
といって、素振りを始める恭平を見たところで朝飯の時間を終えた。
鏡花に訊いたところ、昨日寝るまでずっとクラフトを使っていたという。
スキルレベルはまだ2だというが、木に触れただけでクラフトできるというのは今後何かにつけ役立ってくるだろう。
恭平に『晒し風』で5本ほど木を切り倒してもらったあと、攻略組森へと向かっていった。今日は東の方角に進むらしい。
早く川を見つけたいというのはみんなの総意なのである。
ベースゾーンに残った柊と鏡花のすることは決まっている。
倒した木から、地下室を作る際壁に貼る木板をクラフトする。
この木はどうやら相当堅いらしく、手にした瞬間に恭平はステータスを確認したらしい。
装備欄には『タナヌの木刀』と表示されたいたらしい。
あのあと、西野のにもどうようにタナヌの木刀をクラフトした。
鏡花は残った木の残骸を集め、クラフトした。
クラフトしたのは30本ほどの木刀。
どれも良くできていて、サイズも統一されていた。
「ちょっと白雨。」
鏡花がこちらを見ている。
スキルレベルでも上がったのだろうか、と思っていると、手招きをされたので近づいた。
「静かにこっちに来なさい」
かつてないほどの強い眼差しに、忍び足で鏡花へと近づく。
二人は身を屈めた。
鏡花は柊をしっかりと見つめてから視線を移し、ある一点を指差した。
「あれ何かしら?」
見ると、西の方角の森の中、茂みの端から何か黒いものが少し見えた。
よく見ると、靴のようにも見えるのは気のせいだろうか……。
ある1つの可能性を考えていくうちに、恐怖にかられ尻を地面につけた。
なおも黙る柊に、鏡花は言葉を続ける。
「ちょっと、どうしたのよ?
魔物だったら危ないわ。でも、動いてないみたいだし見てくるわ。」
そういって、立ち上がろうとする鏡花の手を引き戻す。
「わっ、ちょっ、何よ。」
いきなり触られた鏡花は驚き、勢いで尻餅をついてしまう。
「あんたね……」
とこちらを見てくる鏡花。
だが、今の柊の顔は蒼白としていた。
顔色が青いどころの話ではない。
柊の頭の中ではもう1つの事実が蠢いていた。
誰かが、死んでいるのではないか。と。
「ちょっと白雨、あんた顔色に悪いわよ。
どうしたのよ?」
荒れる息をなんとか抑えながらも、鏡花の肩を強く掴んだ。
「ちょっと、痛いんだけど。
ほんとどうしたのよ?」
「…。いいか、井上。絶対に見にいくな。僕が見てくるから、ついてくるんじゃないぞ。」
「えっ、あ、うん。いいけどあれは何なのよ?」
「あれは、多分だけど
炎で焼かれて焦げた靴だ。
足元しか見えないから何とも言えないけど、もしかしたら死体かもしれない……。」
「えっ、う、嘘でしょ!?あれはべつに誰かの足のように見えるだけじゃ……。」
とまたあれを見る鏡花。
「う、嘘よね。ど、どうして陶山くんたちはラビットとしかまだ戦ってないんでしょう?
ラビットは、火魔法は使わないはずよ?だったら、なんで黒くなってるのよ……。
そうじゃないとしたら……。」
と、両手をクロスさせ自らの肩を抱く鏡花。
息も荒くなり、気が抜けたようにへたりと座り込んでしまう。
考えたくないことを、考えていて放心状態に近い鏡花をこの場に置いていく訳にもいかないが仕方がないのだ。
「井上はこ、ここにいるんだ。
このことは、誰にも、言わないよう、に。
すぐに戻ってくるから。」
と言って頷く鏡花を見ながらも視線をあの方角を移し、森へと入っていく。
茂みをかき分けながら、目的の黒いものが段々と大きくはっきりと見えてくる。
それがなんなのかはっきり分かった時点で柊は立ち止まった。
見たくはないが、確認しないわけにはいかなかった。
確かに黒焦げになったシューズ、足首なんかは皮膚が焼け落ち肉が露出していた。
誰なのかをはっきりさせなくてはいけない柊は、せり上がってくる吐き気をなんとか抑えつつも茂みに近づき、それの全体が見えるように回り込む。
「ッ!!!」
焼死体だった。
身体はもはや原形をどどめていない。
まるで内部から破裂したかのように器官が丸出しになっている。
違う方向の茂みに嘔吐しながらも、焼死体の顔へと目を移す。
体ほどひどくはないがひどくやつれていた。
ところどころ火傷をおい、頰の皮膚は剥がれている。
それでもいつも皆の行動をみていた柊は、細いと思われる体と良い歯並び、髪型、顔のパーツの位置から誰なのかを悟ってしまった。
「和久井 暁くん………なのか……。」
そう言った瞬間、和久井くんであろう焼死体は完全に崩れふしぎなことに地面へと吸収され消えた。
「なんで……。」
膝から崩れおち、地面に目を落とす柊。
目の前で起こったことに唖然としつつも、和久井が焼死体となった真相に思考を巡らせていた。
「久喜……。」
彼らしか考えられない。
久喜は火魔法スキル持ちであり、日本にいた頃から和久井のことをいじめていた。
久喜たちと和久井は中学生の時からいじめを受けていたわけではない。
それにも関わらず、入学当初から始まったいじめは段々とエスカレートし転移前までは
パシリだけではなく女の子に無理やりキスをするということまで命令させられていた。
周りから白い目で見られるのはいつも和久井だった。もちろん一番の元凶が久喜たちであることは皆分かってはいたのだが、言われるがままに命令に従う和久井を蔑むこともあった。
だが、転移してからグループ制となり久喜たちのグループに和久井は所属している。
皆は和久井の行動に迷惑しなくてすむと心のどこかでそう思ってしまっていた。
ゆえに特に気にすることもなく異世界で生活を送っていたらこんなことに……。
もっと早く気付くべきだった。
顔を上げると、焼死体があったところに透き通ったハワイの海水のような手のひらサイズの正八面体の物体が地面より1ミリの高さをふわふわと浮いていた。
「これは……?」
そう言いながら、その物体に触れると柊の体に吸い込まれるようにして消えた。
『和久井 暁の記憶を入手しました』
「えっ……?」
途端に頭の中に流れて表示されるメッセージのような言葉。
彼の記憶。
どうやったら見れるのだろうかと考えていると、突如その膨大はほどの記憶は、柊の頭の中を流れ出した。
段々と落ち着いてこれた。
そして、映像でも再生するかのように柊は和久井の記憶をここ1日のものを見ることにした。
表示されたのは、おそらく和久井の視界から見た景色だろう。
『ハッハッハッハッ。』
和久井はどこにいるのかは分からないが、息を切らせ全速力で走っていた。
まるで、何かから逃げるかのように……。
久喜たちか?と思う柊だが、次の瞬間その予想は覆された。
映像の和久井が追っての様子を見るために振り返ったのだろう。
視界が揺れながらも後ろを向いた瞬間。
それは、見えた。
黒い統一されたローブに身を包んだ5人ほどの集団。
その一人一人が凶悪な殺人犯のように目をぎらつかせ和久井のことを見ていた。
『うそでしょっ。僕のスキルじゃどうしようもないよっ。』
そして、前と振り返った和久井。
だが、その時和久井の視界は赤い炎で覆っていた。
「『うわっ』」
『うわぁぁぁぁぁぁ、
助けてー!助けてたすけてたすけてタスケテ……タ…スケ…テ』
そして、和久井の視界はそのまま暗転した。
まるで自分が燃えているのではないかと錯覚するほどの恐怖心にかられる柊。
しゃがみながら映像が消えるように念じると、映像は消えてくれた。
落ち着かない息を吐きながら、震える足を伸ばし立ち上がる。
この記憶は本物だ。
信じたくはない、久喜たちではない第三者の存在を。
いやまだ分からない。久喜たちが第三の存在と手を組んでいる可能性もある。
みんなにはまだ話さない方がいいだろう。
久喜たちの行動を一番に考えるか、それとも……。
「それじゃ、駄目だ。」
そう駄目なのだ。
和久井の死体がベースゾーンからそう遠くないところにあるということは敵はこの場所を知っているってことか……。
皆に話さなければ皆の無事でいることはできない。
もし久喜たちの罠なら、裏をかかれる可能性も考えられる。
もっとまずいことになる。
柊は立ち上がり、鏡花の元へと駆けて行った。
>>
「白雨、そ、その、大丈夫なの?」
鏡花らしくもない今にも泣き出しそうな顔を柊へと向けた。
鏡花は少しは落ち着いたようだが、逆に柊のほうが自分では気づいていないひどく顔をしている。
「……。」
無言のまま、鏡花を伴いAグループのスペースへと戻る。
正直鏡花の顔を見ていると話すべきか躊躇ってしまう。話さなければならないことではあるが、鏡花の心情を考えるとこれ以上悲しく怯えた顔をして欲しくなかったのだ。
作成した木製の椅子に柊は、崩れるように座った。
さすがにあれから誰の顔も直視できなくなっていた。
「黙ってちゃ何も分からないわよ。
あそこに何があったの?やっぱり……」
追求してくる鏡花。
「……。」
答えたくない柊。
この口は依然固く閉ざされたままだ。
「あんたね、私をそんなに可哀想な目で見るんじゃないわよ。」
いつの間にか顔にまで出るほど柊の表情は、悲しさを増していた。
「いい、白雨?
私はあんたが思ってるほどやわじゃないわ。
これでもヤクザの一人娘なんだからね。
だから、話して。」
「……。
わ、和久井だったんだ。」
「っ!?じ、じゃあ、やっぱりあれは焼死体だったのね……。
和久井くんって、嘘でしょ!?
久喜たちは何をしているのよ。
こんな誰一人としてかけちゃいけない時に。」
「そうだな。でも、彼を殺したのは久喜たちではないかもしれないんだ。」
「!?どうして、どう考えたって……」
「彼の焼死体がいきなり消えた瞬間、これが出現したんだ。」
先ほど鏡花の元へと移動する途中、ステータスウインドウにバッグのようなアイコンがあることに気づいた柊はもしかしたらと思いタッチすると画面が切り替わりアイテムウインドウになった。
これは先ほど初めて気づいたことだ。
おそらく他の生徒も気づいているだろう。
話題に上がってこないのはどういう訳なのかは知らないが、この世界に皆が酔ってきているのは確かだろう。
アイテムウインドウの一番上に表示されている『和久井 暁の記憶』をタッチしたまま、アイテムウインドウから出すように上に向かって指を上げる。
すると、光を発行させそのシルエットを形どりあの正八面体の物体へと変化した。
それを手で掴み鏡花の前へと見せる。
鏡花が目を白黒させているが、アイテムウインドウの話は後だ。
和久井のことを話すからには、鏡花にも協力してもらわなければならない。
自分も鏡花も非戦闘スキルだが、やれることはあるだろう。
「そ、それは何?」
「っ!?」
と言って触れよう鏡花の手が近づいてくるので、慌てて手を引いた。
鏡花にあの映像を見せる訳にはいかないのである。
「ちょっと、ケチらないでよね。こんな時に。」
「これは『和久井 暁の記憶』というアイテムだ。おそらく彼の生まれてからきょうまでの記憶がここに詰まっている。」
「アイテム!?
記憶がアイテムだなんて酷い話ね。
どうして私には触らせないのよ?」
「これに触ると彼の記憶が頭の中を駆け巡ってくる。しまいには彼の殺される時の記憶も見ることになるんだ。」
鏡花の表情が強張った。
「白雨は、その、見たのね?」
「ああ、その通りだ。久喜たちの仕業ではないかもしれないっていうのもこの記憶のおかげでわかった。」
柊は、未だに内容がつかめない鏡花に詳しく説明しつつあの黒ローブの集団についても話した。
当然、彼らと久喜たちが手引きしている可能性があることもだ。
そして、柊はある質問を他人にぶつけたかった。
「このことはどうしたらいい……。
伝えるにしろ、伝えないにしろ皆が危険に犯される。」
「そう、…ね。あんたが話したくないのなら話さなくていいんじゃないの?
それと私のことを幻滅するかもしれないけど、私はAグループが生き残れるならそれでいいから。もし和久井くんの件が皆に知れたらどんなことが起きるか分からない。
最悪の場合、自殺したり殺しあったりする可能性もあるわよ。」
「それは流石に飛躍しすぎじゃないのか?
井上の家はそういうものかもしれないけど…」
鏡花はハァーと息をつくと、目つきを変えた。
その鋭さには身の危険を感じさせるほどだった。
井上が立ち上がり、柊の首を両手で掴む。
抵抗できなかったは柊をそのまま立ち上がらせた。
まるでいまから殺すかのように。
「おいっ、井上。何するんだ?」
井上の目は、殺意に満ちていた。
その底のしれない暗闇に浮かぶ瞳に、魅力さえ感じてしまうほどだ。
「あんたをしたここで首を絞めて殺してあげるわよ。」
「お、……お、い…。何、い、言って……。
い、いの、う、え。」
「白雨、この状態でその頭で考えみなさい。
ここで私があんたを殺したらどうなるかを。
もし私が犯人じゃないということになったら私は人を殺す楽しみを覚えて他の生徒を皆殺しにするわよ。そうね、一番初めは陶山くん。次は梅崎くんもいいかも。」
だが、柊は諦めていた。抵抗をやめぐったりと全身の力を抜いていた。
鏡花は呆れ果てその首にかかった手を話した。
「………ガハッ。ゲホゲホ。」
鏡花の足元に崩れ、ひどくむせる柊。
「井上がそんなことする訳ないだろう。」
「あんたそう言い切れるわけ?
人間誰かにしら嘘の自分を繕うっているのよ。
もしかしたら、あんたの依然の無表情も演技だったのかもしれない。」
「んなわけないだろ!」
「そう。
あなたはそうでも皆は違うのよ。
例えば、…
そう、梅咲くんとか。
彼は今ではおとなしいみたいね。」
「どういうことだ。
あいつは昔から知ってる。
見た目はそう見えるかもしれないが、不良でもなんでもない!」
「その考えがいけないのよ。
知ってるだけじゃダメ。
分かっていなきゃね。
仕方ないから教えてあげるわよっ。
梅咲くんは、実はもともと不良だったのよ。
中学生時代、多くの先輩を病院送りにしていた彼があなたの前では普通を装いどこまでも普通である自分を演じていた。」
「嘘、、だろう?」
信じられない話だった。
だが、多くの可能性を捨てきれない自分に腹が立っていた。
「ええ、嘘よ。」
軽い言葉で言う鏡花に、やはりこの女は恐ろしいと感じざるを得ない柊。
「っ!?井上、お前何がしたいんだ?」
「分かったでしょ?
あり得ないなんてないのよ?
大体和久井のことだって久喜たち以外の可能性がでてきたもあり得ないことだったんでしょ?
それなら、その全ての可能性を考える必要がある。
でも、和久井くんの件が知れたら少なからずパニックになる。黒ローブの集団のこと、あまつさえ他に人間がいることも知らない彼らは私たちの中から犯人探しを始めるわよ。」
鏡花の言葉の真意にははじめから、気づいていた。
だが、認めたくないほど柊はこのクラスの生徒たちのことを深く知っているんだ、と思っていたかった。
ここは異世界。
ここは日本……ではない。
家族でもないし、友達でもない者もいる。
何が起こっても不思議じゃない。
あらゆる事態に備えて手を打たなければならない。
柊は立ち上がり、鏡花へと目を向ける。
「僕は、皆を守るよ。だけど、このことは伝えないでおく。知ってるのは僕と井上だけ。
他言無用だ。いいよな?」
突然のある意味立ち上がりに、鏡花はつまらなそうな顔をする。
「その、だけ、っていうのキモい。
あんたはもう少し落ち込むんじゃないかと思っていたんだけど、残念ね。」
「そういう文句は入りませーん。でも首を絞められるとは思ってなかった。あれは本当に身の危険を感じたよ。」
「そう。これ、貸し1つだから覚えといてよね。一応こっちもハラハラしてたんだから。」
「おいおい、怖いこと言うなよ。井上に今後何されるかわかったもんじゃないな。」
「ハハハハハ。あんたは本当に面白いわね。」
そう言って笑う鏡花に、一瞬胸が……
なんてことはなかった。
女子の笑顔なんて、たいていそんなものだと思いながら攻略組が帰ってくるまで『クラフト』のスキルレベルを上げることにした。
鏡花のスキルレベルは今日のうちには、上がらず依然2のまま。
しかし、色々と応用が効くようになっていた。
クラフトスキルレベル2で習得するのは、
『形質生成』
その物体に触れることで必要な量の素材を直接取り出し、想像した形に生成できる。
生成されたものを再生成することも可能。
地面の上に手を乗せることでクラフトした結果、土の表面が削れているのがわかった。
地下室作成にも拍車がかかるだろう。
だが、実際チートすぎるスキルだ。他の生徒にもこのスキルを習得したものはいたが、鏡花のように器用に生成することはできていなかった。スキルレベル2でこれだけのチートさ。これで、ソードスキルさえ持っていたらある意味での最強とも言えなくはない。
なんせ素材が周りにゴロゴロしているのだから。
>>
攻略組が帰ってきてから、二人は悟られまいとドキリとしたがその心配はなかった。
3人のほうが話を盛り上がらせた。
今日は東の方角に行ってきた彼らは、とりあえず川を目指したらしい。
滝に続くであろうその川へ向かうには巨大な岩石の壁を超えなければならない。
迂回して壁が低くなるところを探したらしいが今日1日だけでは見つからなかったと言う。
久喜たちは相変わらず独断先行、かつモンスタートレインまがいのことをやっているらしく恭平たちはぎゃくにレベルが上がるからいいと言っていた。
好感度上げなのかは知らないが、得に、そんなに離れて行動したりなどの気になる行動はしていなかったと言う。
そのあとは、スキルの話になった。
西野の話しによるとスキルキャンセルは可能なものと不可能なものがあるらしい。
どうやら、今日は3人揃ってレベル3に。
恭平と西野は刀スキルがレベル3に。
梅咲は回復スキルがレベル2になったという。
刀スキルレベル3で手に入ったスキルは、
『飛閃』
右側からの横斬り、左上からの斬り下ろし、そして、ラストに真正面への突きを行う三連撃である。
どうやら、スキルキャンセルが可能なようでおそらく連撃系のスキルに限って有効なようである。
回復スキルレベル2で手に入ったスキルは、
『ゲールスコア』
RPGなどでいうヒールに値する。
治したい部位に手をかざし、スキル名を口にすると発動することができる。
回復と聞けば、想像するであろう緑色の光を発する。
回復の効果はまだ低レベルなものだが、軽い出血程度は治せるレベルだろう。
遭遇した魔物は、ラビット。
それと、新しくもう1匹。
ファンタジーお馴染みの魔物と言えばゴブリンだが、ゴブリンでは、なかったのだ。
一言で言えば、猿。だが、尻尾が異様に長いことから『ロンテモンキー』と命名された。
異様に見た目が可愛いらしいが、敵と判断されると顔を一変させて威嚇してくると言う。
ラビットの1.5倍くらいの体力らしく、攻撃パターンも引っ掻くのみ。その代わり、動きは素早く木々を伝って攻撃してくるので初めは苦戦を強いられたらしい。
主なドロップ品は、
『テールウッキーの皮』
『テールウッキーの尻尾』
『テールウッキーの生肉』
『小猿骨』
『ボロい布切れ』の5つ。
なんでもアイテムウィンドウには、1人50こまでしか入らないらしくこれには武器なども含まれるらしい。
これがこのままゲーム要素に準じるようならば、アイテムウィンドウの所持数拡張を考えられる話だ。
また、テールウッキーは長尾猿種に属するらしいが、日本の面倒臭いほどの動物の種類わけがないことを祈ろう。
今日はとりあえず、いつものようにラビッシュの生肉を焼いて食べ、
メインディッシュにテールウッキーの肉を食べた。
感想――
柔らかすぎた……。肉の厚さからは考えられないほどのベーコン並みの柔らかさ。
この世界には絶品しかないのかすら思ってしまうほどの美味さ。
皆が言う可愛さにも同意していたが、この美味さではストックされているテールウッキーたちも食べ尽くされるに違いない。
食事を終え、また進化した寝床を鏡花が作る。
土を布団サイズに盛り上げそこに木を敷く。
そこに寝転がり今日の収穫であるテールウッキーの皮を掛け布団がわりにすれば簡易ベッドの完成である。
今やクラフトスキル『形質生成』を意のままに操る鏡花。
自分の料理スキルが未だレベル2であることに腹が立つが、仕方ないことである。
周りのグループも夕飯を終え、就寝する者たちも増えてきたころ……。
Aグループは完全に寝入っていた。
ただ狸寝入りをしている自分を除けば……。
未だ周りはガヤガヤしているがAグループに目を向けているわけでもない。
柊はテールウッキーの皮布団からでる。
日は沈み、夜空には考えられないほどの見事に輝く星々が見える。
それを見つめる少年の目には、あの光景が焼き付いてた。
和久井暁の焼死体と、死ぬ寸前の記憶映像が―
柊は巡回するクラスメイトに気がつかれないように近くの森へと入る。
向かう先は決まっている。
彼らのいる、久喜たちのいるFグループだ。
アルファベット順に並んでいるため距離がある。
途中から森へ入ると怪しまれるため、遠回りコースを選択。
彼らの動向を探るためにも今日のうちに何かを掴まなければならない。
なるべく音を立てず、時々うっかりタナヌの木の枝を折ってしまいハラハラすることはあったが幸い風音によって無音化されホッと息をつく。
しばらく歩き、木の間から向こうに葉山が入るのを捉えしゃがんだ。
匍匐前進とまではいかないが、少しずつ躙り寄り様子を伺う。
柊は、和久井に起こった真実を確かめるべくそっと耳を立てるのだった。




