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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
23/30

第20話 初めての喧嘩(殺し合い)

第20話 初めての喧嘩(殺し合い)







ラウルは、屋敷の外、都市中心から一番離れたところでアルベルクを待ち構えていた。

服装は白いワイシャツに黒ズボン。

袖を捲ってあり、筋肉のついた腕が露わになる。

右手には腕輪、左手には二本の木刀を持っいる。


二本の木刀とは、一本はアルベルクへと渡すものである。

いくら喧嘩といえど、剣術の名家同士。

アルベルクが自分より強かったとしても武器だけは対等で居たかった。

ラウル自身も木刀は最も扱いやすいものであり、模擬戦の戦いをこの場でやりたくなって居たのである。

内心、親友とのケンカにワクワクしているところも見られたが、この戦いの目的は第一に時間稼ぎなのである。


時折、リエラや静葉に頭の中を通して連絡をもらっている。

それによると、ラグタナの管理サーバー内に何者かが侵入を試みているらしい。

そのため、転移陣の範囲が都市ヴァルナを囲めきれす広さが元の60%くらいである。

リチャット家は都市の最奥に位置しているので、ちょうど範囲から外れてしまう。

アルベルクとのケンカが難航することを考慮すると、範囲内に入ることは難しいかもしれないことラウルは伝えた。

そろそろアルベルクが来るだろうとその方向の空を目を細めて見つめいた。



<<



一方、アルベルクは自分が走ってきた道を感慨深い思いで見つめながらリチャット家へと疾走していた。

まだ底が 知れない自分の体と力に恐怖することはなく、むしろ歓喜していた。

この力なら家族の仇を取ることができるかもしれない。

親友との絆を断ち切ることができると。


アルベルクの心は完全に壊れていた。

理性は保てているが、感情の変化が過剰すぎた。

あの異形な生物がアルベルクの体に与えた影響はそれほどのものだったのである。

森を抜けたアルベルクは大きく跳躍し、奥にあるリチャット家を目で捉えた。

怒りの感情が掻き立て、アルベルクの力を引き出していく。

もうどんなことがあってもその足は止まることはないだろう。


>>


またまた、一方その頃。

ラウルと分かれたシンリィ達は城へと急ぎ、第五世界出身者を中心に取り残された人たちの救助へと向かった。

魔法解放時間まで、まだ二時間半以上もあるなか着実に残りの25万人を集めていた。

転移陣の範囲がせまくなったことにも皆は動ぜず、やれることをこなしていく。

もし集め終わったとして、ラウルの戦闘の終息を待っている暇などない。

集め終わるまでの目安は、三時間以内だとラグタナが見積もってくれたおかげで計画の思案が捗るシンリィ。


計画の内容はこうである。

まず、救助が、最優先。

そして、転移陣への移動。

なぜ2つ同時にやらないかというと動ける人員が少なすぎるからである。

そして、三時間以内に完了した場合、ラウルとアルベルクの戦闘を見ながら離脱の機会を伺う。

もしシンリィ達が転移することを敵が気付いているなら、もう邪魔をしていてもおかしくはないからである。

集まった時点でもし狙ってきたら、ラグタナに全て任せてあったのだ。

転移陣は結界の役割を果たすため神が指定した人物しか陣内には入れない。

だが、それしか手立てはなかった。


ラウルの救助は、最も移動が速い蝶蘭に一任された。

魔法解放がなされた瞬間と助けやすいタイミングが重なることを願うばかりだが、生憎ラグタナが第六世界に干渉できる時間はまだたっぷりある。

リエラや静葉は時折、ラウルに状況を伝え行動しやすくしていた。


まもなく、一時間が経過する。

親友同士の殺し合いが始まろうとしていた。



<<




都市ザッツレイがある南の方角から、跳躍し近づいてくる人影を確認したラウルは全身に力を込める。



「はあぁぁぁぁぁ!!、」

腕輪が緑色に発光し、内部から変形し不可思議な模様の溝が円周上に構成される。

魔力が全身に流れている感覚を感じたラウルは、それを左腕へと集中させ、木刀を投擲する。

放たれた木刀は高速で空を裂きアルベルクへと一直線に向かう。

空中に跳躍していたアルベルクは、それを右手で掴み、すごい衝撃が加わろうとも離さず相殺する。



「ラウルゥゥゥゥゥヴー!!!」

アルベルクは地面へと―リチャット家の敷地内へと下降しながら、木刀に紫色の魔力を込め、重力と空中回転による遠心力の重ね合わせで木刀を振り下ろす。

それをラウルは魔力で強度を上げた木刀で受け止める。


拮抗する緑と紫。


2つの木刀がぶつかり合った瞬間、衝撃がラウルへと伝わりラウルの足元を中心に円心状に地面が沈む。

だが、ラウルを負けてはいない。

「アルゥゥゥゥゥーー!!!」

反撃とばかりにラウルが魔力を増大させ、アルベルクの木刀を押し返す。


「チッ。」

アルベルクが飛び下がり、体勢を整える。


ようやく互いの口が開かれる。

「アル、君は何をしてるんだ!」

「お前には、そんなことを言う暇などないっ!家族の仇打つっ!」


アルベルクが木刀を下段に構える。

赤髪戦で見せた、ライオット流剣術。

ラウルの思考は状況を冷静に判断していた。

(家族の仇?アルは家族を殺させたのか?

でも、あの紫の魔力色。

敵に屈したのか……。

迷っている時こそ、先手を取ることを優先する!)


アルベルクの構えの穴は存在する。

基本あらゆる構え方には穴が存在する。

どこかを守れば、どこかはおろそかになるのである。

下段の構えの最大の弱点は、攻撃面だけを考えた構え方。

それは先手を取ることで最も花開く。

なら、ラウルは咲かせないために枯らせるまでである。


ラウルは構えを取らず、走り出す。

構えは取らない方が、相手が思考する事柄を増やすことができる。

先手を取られたアルベルクは舌打ちをし、守りに徹する様子だ。

構わず、ラウルは穴と思しきところに高速で木刀を叩き込む。

だが、アルベルクは最低限無駄のない動きで交わしていく。

木刀は全て空を切り、掠りもしない。


(やっぱり、アルはすごいな。でも!)


ラウルは、アルベルクの避けた先の場所を予想し、その場所にアルベルクが現れると同時に木刀を振り下ろす。

だが、アルベルクの姿はなかった。


(なっ?逆に読まれてた!?)




「甘いんだよ、ラウルゥ!」


ハッとするラウルだが、もう遅い。

アルベルクは身を低く屈めると、ラウルの顎を下から片足で蹴り上げる。

魔力の乗った蹴りをまともにくらったラウルは物凄い勢いで後方へと飛ばされ、リチャット家の塀を粉砕し道路へと転がっていた。

ピクリともしないラウル。


アルベルクはゆっくりと近づき止まった。

ラウルが何かを話し始めたのである。

倒れたままの無様な状態で。


「そ、そうか。ハァー。、ハァー。リ、リチャット家のせいって誰に言われたんだ?

その力は、ガハッ、何のための力なの?」

起き上がれないほどの痛みに耐えながら、必死にアルベルクへと呼びかけるラウル。

「お前が、知る必要なんてねぇんだよ。

どうせ俺が殺すからな。」


「俺たちは、アルに接触した……連中を知ってる……。」

「!?……。だろうな、お前を殺すように言われた。俺もお前に勝って殺してやる。」

「そう……。連中は家族だけじゃなくて……親友も奪ったんだね……。」

「悪いな、ラウル。俺はお前を殺さないと殺されるんだ……。(ラウルの家族は赤髪たちに殺されたのか)」

「敵に騙されてるって分からないのか!アル!」

「ウルセェぞ、ラウル。俺には力がなかった。家族も守ることすらもできない弱虫だったんだ。だが、俺は力を手に入れた。

もうお前を殺すことなんて躊躇わない。」

「違うよっ!本当に必要なのは強い心だ。

連中に殺された祖父の言葉に、偽りはない!

アルは、そんなに弱い心を持っていたのかい?

俺よりも強くて、目標だったアルが……。力に溺れるなんて残念だよ。

少しでも考えら分かることだろう?

このまま俺を殺しても何にもならないって……。」

「違うな、ラウル。いくら心が強くても、力が弱くちゃ意味がない。だから、今お前は俺に殺されるんだ。それに迷わずに決めろというお前の言葉、で決めたことだ。

俺は親友を斬り、全てを断つ!

そこまでいうのならお前の言う強い心とやらを見せてみろ!」


ラウルは、木刀を杖代わりに体を揺らせながらも立ち上がり木刀を構える。

素振り。今まで何万回以上こなしてきたソレは、今やラウルの最も得意とするものと言っていい。

「アル、目を覚ましてやるよ。死なないでくれよ。」

魔力を込め、素振りに緑色の光の粒子が収束していく。

結界を破るほどの威力であることを知らないアルベルクは、念のためにバックして身構えた。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


魔力が積み上がり、途轍もない重力になっている木刀を必死に支える。

そして、振り下ろした。

剣圧は、10メートルほどの巨大な歪曲した形になりアルベルクへと迫る。


しかし、アルベルクはその剣圧を木刀で簡単に流してしまった。

左後方へと流れた魔力の固まりは爆発しながら木々を全て木っ端微塵にし、直線距離300メートルを平らにした。アルベルクの周りで爆煙が漂う。

アルベルクは拳を握りしめ、ラウルへと言い放つ。

「こんなもんか?なぁ、こんなもんなのか強い心は?おい、ラ!?」


突如、目の前の爆煙の中からラウルが現れる。

不意を突かれたアルベルクは防ぐ手段がない。

低い構えからの突き。

リエラがラウルとの初試合で見せたものだった。

緑色を纏った木刀の突きは、アルベルクの腹へ突き刺さることはなかったが深々と食い込む。

「ガハッ。」

口から血を吐き出す。

その衝撃は途轍もないもので、アルベルクは気づいたら後方へ飛ばされていた。リチャット家の道場を軽々と崩壊させたアルベルクの体は、反対側の塀へと叩きつけられていた。

塀に波紋が広がる。

「グハッッ……。」

反動で鮮血が滴り落ちる。

アルベルクが見たラウルの顔は、いじめっ子集団に怒鳴りつけていた時のものではなかった。苦しそうな表情だった。それだけで、アルベルクは腹が立った。彼にとって力が全てとなった今、心の強さとは弱さを生み出すものと考えていた。ラウルに力が全てだと分かって欲しかったのだろう。


対する、ラウルから見たアルベルクの顔は、かつての自分を見ているようだった。

力を全てだと思っていた頃の自分のようだと。助けなければならない、そうラウルは思っていた。

塀から抜け出したアルベルクは、頭に血が上っていた。そして、叫ぶ。

「俺を重ねるんじゃねぇ!俺はお前とは違う。」

ラウルの、視界からアルベルクの姿が、搔き消える。気づいた時には、背中から血が噴き出していた。

「クッ……。痛てー……な、これは。」

ラウルが、崩れ落ち倒れた。


「ラウル、お前と俺は確かに親友になったかもしれない。

だが、親友になったことで俺の周りからは家族が消えた。お前は、なんで俺と友達になったんだよ?」

もうアルベルクの精神は、正常ではなかった。彼の心はあの赤髪に完全に変えられてしまったのだ。

ラウルはまた起き上がろうともがく。

片足をついたところで、

「寝てろよっ!」

アルベルクの蹴りがラウルの腹へと突き刺さる。

「ガハッ……、うぅ、ガハッ。」

仰向けに倒れたラウルが血を吐き出す。


アルベルクは自分の目の前で血を吐きながら、倒れている少年を見て思っていた。


今なら、殺せると。




だが、彼のわずかな元の心がそれを邪魔する。

(俺は親友を手にかけるのか?ラウルを殺せすのか?ダメだ、そんなこと。

いいや、違うこいつは家族の仇だ。

もっと違う仇はあの赤髪だ。

ラウルは殺さなくても……。)


ようやく元の自分を取り戻していこうとするアルベルクだかわ、彼の中にいるヤツがそれを許さなかった。


『少年…早く目の前の人間を殺せ……。

家族の仇を取れ……。』

『ダメだ、ラウルは俺の親友なんだ。

俺の仇はあの赤髪だ。』

『ふふふ、愚かな人間よ。お前たちは本当につまらない。少年を殺し、さらに赤髪を殺せるほどの力を与えてやろう。どうだ?力だ。』

『力?、力……、力!、力!!、チカラチカラチカラ。

欲しい、チカラホシイ、チカラホシイ。

コロスチカラ寄越せ、ヨコセ。』

『そうだ。お前はそれでいい。常に私の求める者となれ。』



突如、アルベルクの心が闇に飲み込まれていく。

「がああぁぁぁぁぁぁーー!!」

激痛でまたもや脳が焼けるような感覚になり、元の心が涙を流しながら頭を抑えて唸る。


心の中で彼の正論は紫のイメージにより反論され紫色へと変貌する。


全身から紫色のどす黒いオーラが溢れ出し、

髪を白く染め上げていく。だが、理性は保てていた。

「これで、お前を殺せるぞ、ラウル。」


一方、ピクリともいわないラウル。

ラウルは完全に意識を失っていた。


『ラウルよ、強い心は持てたかのぅ?』

その声の主は、ラウルの唯一の理解者ヴェラフィム=リチャット。

驚いて、倒れていたラウルが立ち上がる。

そこは牢獄のような空間。鉄の錆びた匂いが鼻腔を刺激する。

なぜここに自分と祖父がいるのか分からなかった。

「ヴェラ爺、俺は強い心を持ててるかな?

親友を助けられるほどの心を持っているかな?」

ヴェラ爺は答えない。

まるでこちらの言葉が聞こえないかのようである。だが、一瞬白い歯をのぞかせず笑ったような気がした。

『ラウル、今までのことを思い出すのじゃ。

お前がしてきたことは無駄ではない。』

そう言ってヴェラフィムはふわりと空間に溶け込み消えた。

すると、背後から、

『おいおい、ラウル。こんなところで寝ていたらリチャット家の名が泣くだろ。』

振り向くと、

目の前に立っていたのは、我親友アルベルク=エリオット

アルベルクの声だと気づくのに時間がかかってしまった。

「アル!君はどうして…!」

ニィと笑い口パクで何かを話すとアルベルクはだんだんと白い空間へと溶け込み見えなくなってしまう。

「アル!待ってくれよ!」

突如ラウルを中心に円心状に液晶パネルらしきものが回転しながら現れる。

その1つ、1つにはアカデミーに入ってからの友達との記憶が永続となって流れていた。

帰り道の買い食い。試合で流した汗。

友達との戦い。何気ない会話。笑顔。

ラウルは、分からなかった。

アルベルクの心が……。

なぜあんなにまで壊れてしまったのか。

ガラリと変わった口調と風貌。

もはや、かつての口開け男はどこへ行ってしまったのかと。

だが、今自分は救える立場にある。


「俺は心が弱かったよ。」

去り際のアルベルクはそう口パクで話していた。


助けたい……。闇のなかなから引きずり出して叱ってやる。


アルベルク=エリオット。ラウルの初めての友達であり親友であり、ライバルであり、今や敵である。だが、敵だろうか何であろうがラウルには関係がなかった。助けると決めたら助ける。ただ、それだけ。地獄に向かおうとしている友達は放っては置けないのだ。

『ああ、親友を助けてやらないと。

目を覚ましてやる。絶対に。』


体に緑色の魔力を、纏わせ牢獄の鉄の棒をこじ開けようとする。

だんだんと開いていく牢獄とそのラウルの決意に目を覚ますものがいた。

だがその少年を食い物のように眺めていた。

ギラリとした鋭い牙と歯が暗闇のなかで輝く。

『今度は随分食いごたえのないやつだな。

よし、お前を利用してやる。』

ラウルがいる牢獄と相対するかのように巨大な牢獄がある。暗闇の中で開かれたなにかの緑色の目は、ラウルを飲み込もうとしていた。そのなにかから緑色の魔力が吹き出し手の形をとる。ラウルに向かっていくその手はラウルを強引に飲み込んでいった。

『久しぶりにいい餌が食べられそうだ。』

ラウルは突然のことに反応できず、

体を手に飲み込まれ意識を刈り取られていった。

「ウワァぁぁぁぁぁあああ!!」



<<



アルベルクは、理性は保ててはいるが時折頭痛に頭を抑えてい。今だに震える足を拳で叩き、離れたところにいるラウルへゆっくりと近づいていく。

片手を横に出し魔力を集中させる。

すると、紫色の剣が出来上がる。大方魔力剣とでも言ったところだろう。

アルベルクは勝利を確信していた。目の前で動かない、動けない相手。赤髪を殺す糧にしようとしていた。

ラウルの前に来て、その姿を見下ろす。

魔力剣を振り上げる。


「ラウル、サヨナラだ。おとなしく散ってくれっ!」

一段と激しい光を放つ魔力剣を振りかぶる。

そして、

「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

振り下ろした。




「カキィン」

魔力剣はラウルの見えない何かに弾かれる。

魔力剣の衝撃ですら吸収していた。

「バキッバキッ」

そして、魔力剣は粉々に砕け散る。

「!?、何だ?」

急に全身から汗が噴き出した。

どう考えても自分より強いと感じてしまうアルベルク。

すぐにラウルからバックステップで距離をとる。


ラウルは、手を使わずにふわりと起き上がり、地面へと足をつけた。

今だ目を開けていないが、腕輪が先ほどまでとは比べものにならないほど神々しく輝いておりアルベルクは嫌な予感が止まらなかった。

すると、ラウルが目をゆっくりと開け、叫ぶ。それは力強く温かい瞳のように見えたが、すぐに色を失う。

「オレはぁぁぁぁァァァァァアアア!!。」

ラウルの叫びが声となるがもはや人の声ではない。

その言葉が引き金となったのかラウルが纏う緑色の魔力が膨れ上がり周りの瓦礫や葉っぱを浮かせていた。そして、ラウルの背中あたりの緑色のオーラからと重なり合う。


アルベルクの視界からラウルが突然残像の残して掻き消えた。

あたりを見渡すアルベルクだが、ラウルの姿は見つからない。魔力の反応すらないと思ったその時、ラウルが前方から斬りかかる。

何とか反応できたアルベルクは魔力剣を避ける。迫り来る魔力の塊に必死に対応していたが、次第に目が慣れていき指先へと魔力を集中させる。

ラウルの魔力剣を、押されながらも受け止めていた。ラウルの固い表情は崩れない。

「何だよ、全然大したことなっ!?」

アルベルクが言い終わる前にすでにラウルは魔力剣を手におらず、その姿はまた掻き消えていた。

「何だと……。」

ラウルの魔力剣は爆発し、アルベルクがよろめいた瞬間、左横腹に感じたことのない衝撃が加わり体の筋肉が波紋状に波打っていた。

「ガハッ」


超高速で背後へと移動したラウルによる全体重と魔力を乗せた蹴り。

アルベルクの体は屋敷を吹き飛ばし、そのまま塀さえもぶち抜いた。

そのまま勢い緩まず、対向するものを破壊していく体。

すでにアルベルクは屋敷から800mほどのところまで飛ばされていた。


ラウルが無言で近づいていくと、突然アルベルクがいる方向から紫のブレスが迫ってきた。不意を突かれたラウルはブレスに呑み込まれた。髪の色は戻り、彼の体を覆っていた緑色の魔力は弾けるように消えた。



アルベルクが放ったブレスは、ムラサキの魔力によるもの。よろめいて照準が合わないことも考えられたが、なんとかラウルに命中させることができたようだ。

動かなくなった右足を引きずりながら、ラウルの元へと歩く。

(これで、死んでくれ。仇を討つ。おとなしくいってくれ!)

周りの瓦礫を、魔力を合わせながら口元に収束していく。ゼロ距離ブレス、これでアルベルクは勝負をつけるようだ。


「ラウル、親友との別れだ。じゃあ……グバッ、ゲハッ、ウッ、。」

またもや倒れ際を狙い、ラウルの不意打ちが成功する。倒れている相手を警戒するという選択肢は理性をギリギリで保っているアルベルクにはなかったのである。

といってもラウルがした攻撃は左手一本。左手をあげ、最大出力の魔力剣をアルベルクの^まだ動く左足の太ももを掠め取っただけである。

それだけでも、アルベルクの動きを止めるのには充分すぎた。

「ラウルゥヴヴヴヴヴヴーー!!!」

反撃とばかり、なぜかまたブレスを放とうと口元に魔力を手繰り寄せている。

ラウルは立ち上がりながら、魔力剣でブレスを止めようとするが、躱され口元の魔力の球体はますます大きくなっていくばかり。

アルベルクは笑いながら、

「このブレスでお前は死ぬんだよ。俺の家族を殺した罪を死で償ってな!」

「ウあァァァァァ!!」

理性を失い暴れるラウルの魔力剣は、一向に当たる気配がない。

だが、意識の中のラウルは緑色の手に対抗しながら必死に考えていたのだ。

(アルのブレスは、躱せても魔力剣が当たらなきゃ意味がない。ブレスの穴は、吐き終わるまでの時間

と、ブレスの紫の光によるアルの一時的な視覚障害。ブレスで視界が狭まり、若干目も眩むはず。)

そうと決まれば、ラウルのやることはいつもと変わらない。スピードで勝てないなら相手の不意をつくまで、幸い今のアルベルクは判断力が落ちている。

「ラウル、これで最後だ。」

ゴォォォウゥゥゥゥ!!

アルベルクのブレスの溜めが完了したようで、ラウルに向かって放射した。


ラウルがこれに対応するには、アルベルクの視界外で行動する必要がある。

つまり、ブレスの下だ。さすがにファンタジーのようなドラゴンのブレスだとドラゴンの頭は地面に近いので防ぐしかない。

だが、アルベルクは少し身を屈めはするが、ブレスの下を通れないわけではない。

ギリギリまでブレスの接近に耐え、アルベルクに当たったように思わせる。

そういう策である。


ラウルは近づいてくるブレスをギリギリまで待ち、そして、行動を開始する。身を屈め、ブレスの下を地を這うように駆け抜けていく。

途中小刻みに体を左右に移動しステップを踏みながら、加速する。

アルベルクはラウルの予想通り、ブレスの方向を曲げずラウルがいないことに気づいていない。

アルベルクの手前まで着いた、ラウルは魔力剣を作り体が横になるように身を投げながら魔力剣を切り上げた。

ズシャ!!

深々とした一撃がアルベルクの胸に刻まれ、

ブレスはアルベルクの口元で爆発し、爆煙が立ち込める。


ラウルはバックステップで距離を取り、不意打ちを取られないように身構えていた。

それに、相当なダメージを食らわせたはずがアルベルクからはなんの声も聞こえない。

すると、爆煙が強風にとって搔き消える。


アルベルクは拳を握りしめ、悔しそうに言った。

「何度も何度も何度も、さっさと俺に仇を討たせやがれよ!」

拳を何度も、に合わせて自分の太ももに叩きつけるアルベルク。

叫び声にも聞こえるそれは、ラウルの心を酷く刺激していた。

「オレハオマエヲクウ!殴ってでも連れて帰る!そう決めたんだ!」

「なんなんだ。ラウル。お前はなんなんだよ。確かにお前は俺の親友だ。俺は、俺の意志でここにいるんだ。お前の助けなどいらない。家族の仇であればいい。」


「ウワァぁぁぁぁああ!」

突然ラウルが叫び出す。ラウルの目からまた色が消える。

「ナンだ、お前は俺に利用されろ!」

「ふざけるな、お前の力なんていらない。

俺を従わせることができると思うな。

今はそれどころじょない!親友を助けなくちゃならないんだ。」


まるで、ラウルに2つの人格でもあるかのように自分で自分と会話している。

だが、片方の人格が大人しくなった。

ラウルは光の宿る目をアルベルクに向ける。


「何をいっても無駄みたいだな、アル。

次で最後にしよう。俺が勝とうが負けようが、連れて帰ってやるからな。」

「いいだろう。乗ってやるよ。

俺が勝てば、お前は死ぬのだからな。」


二人が距離を取る。


「はあぁぁぁぁぁ!!」

ラウルが魔力を増大させると、再びオーラを纏った状態になる。

そして、右手には魔力剣が作り出され、それを両手で持つ。


対して、アルベルクは同様に魔力剣を作り出し無言で紫のオーラを、増幅させる。

こちらは片手持ちである。


ラウルは上半身を前のめりにし魔力剣の切っ先をを斜め下に向け、

アルベルクは腰を落とし自分の頭と同じ高さに剣を添える。


長い沈黙――――――

時間が止まっているのかとさえ錯覚してしまうほどだったが、屋敷の木材がその時間停止を破壊する。


両者は動き出す。

あるものは、命と引き換えの力で。

また、あるものは家族に託された力で。


その影が1つになる瞬間、

緑に輝く者その剣を斬りあげ、

紫に輝く者その剣を振り下ろす。


ぶつかる激しい魔力。

その激しさは、建物だったものを塵に変え無へと変える。

剣と剣で生まれた魔力は融合することなく反発しあい、大爆発を引き起こす。

その範囲は転移陣と同等の広さであり、アルベルクとラウルも巻き込んでいく。

互いに魔力を使い果たしたようであり、大爆発の光に巻き込まれそうになる。

しかし、ラウルの体は残像として残ったわずかな影とともにその場から姿を消した。


同様にアルベルクも何者かにその身を抱かれ、空気を同化する。

大爆発はそのまま範囲を広げリチャット家を中心とした半径700メートルを平らにした。




<<


「シンリィ様、坊っちゃまを連れ帰ったでありますよ。転移可能でありますよ!」

リチャット家より遠く離れたところで、円形の魔法陣らしきもの――つまり、転移陣が展開していた。蝶蘭は無事にラウルの救出に成功した。

魔法解放までの三時間は、2分前に過ぎたばかりで本当に間に合って良かったと言えるだろう。

ラウルの様子に多くの人がホッと息をつく中、シンリィの表情は未だ真剣である。


「ラグタナさん、ラウルが戻りました。

転移をお願いします!」

『わかりました。


《転移・時空間》!!』


すると、転移陣が細部まで光を放ち25万人の視界を覆っていく。

そして、次の瞬間誰一人として第六世界に残っている人間はいなくなった。

ところが、姿を現わす人外の生物がいた。


「おやおや、アルベルベルクくんも全然ダメダメー。俺っちを殺すなんてまだまだ先の話ダネー。フッハハ。とりあえず帰ろうか!」

アルベルクを左肩に担いだ、赤髪は忽然と姿を消した。








































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