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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
22/30

第19話 悪魔の取引き

第19話 悪魔の取引き






時は半日ばかり遡った、アルベルク=エリオットのお話。


―――――――――――――――――――



夜の部屋の中でロウソクのようにゆらゆらと淡く光る電灯。


ここ都市ヴァルナのはずれにある住宅街。

激しい雨の中その一角に聳え立つほど高くない煉瓦作りの建物こそ『マカリトス荘』


建物第二階一番奥にある部屋番号32番の一室。


その中で今にも寝てしまいそうな顔で電話をかけるものが1人、いた。


「ヴィヴィ、もうおやすみ。明日はリトルスクールだろう……?」


電話の相手はどうやら女の子らしい。

もうすでに部屋の時計は2時を回っている。

「お兄様、もう少し今日の出来事をお聞きしたいです。

他にどんな人とお知り合いなったのですか?」

「仕方ないなぁ、俺の親友とも言える人を教えてあげよう。」

「あら、気難しいお兄様にリエラさん以外にお友達ができたなんて、驚きです。」


「ふっ、妹よ。

そう兄を褒めるな。

親友の名は、ラウル=リチャット。

リチャット家の跡取りだよ。」


「まあ、リチャット家ですか。確か剛の剣術で有名でしたわね。

そのラウルという方とはもう手合わせされたのですか?」

「いや、彼はまだ剣術を教わっていないらしい。

でも、彼は俺と戦うために強くなってきてるんだ。

楽しみで仕方ないさ。」


ゴォォォォという雷の落ちる音が鳴り響く。

アルベルクは立ち上がり部屋のカーテンしめその耳障りな音を小さくした。


「ラウルという方、一度会ってみたいですわ。

お兄様についてたくさんお話して差し上げたいですわ。」

「リトルスクールをでたら、こっちに来たらいいさ。

もう今年で卒業だろう?」

「待っていられませんわ。

それに私の今の知力でセントバルムアカデミー入れるかどうか……分かりませんもの。」

「いつか紹介するよ。

『あっ、お父様。』

そこに父さんいるのかい?」


「ええ。お母様も。

いつもお兄様から聞いたことをお伝えしていますわ。」


「そうか、ヴィヴィ、寝ないと父さんたちが寝られないよ。

ヴィヴィ、体を大事にするんだよ。

夜はきちんとあったかくして寝るんだよ。



…?

『バタンッ!!!』


ヴィヴィ、今の音はなんだ?おい、ヴィヴィ?」


電話の向こう側にいる妹のもとで何かが起こっている。

心拍数が一気に跳ね上がり、妹の返答を待つアルベルク。


「お、お兄様。



今、お母様が、お母様が…。」



「!?ヴィヴィ、落ち着いて。

深呼吸するんだ。いいね。」



『お、お母様が突然倒れて……。



今、お父様が部屋へと運びましたわ。』


「母さんが倒れただって、大丈夫なのか?


……ヴィヴィ?


『バタンッッ!!』



今の音は、今の音はなんだ?


ヴィヴィ!」



またもや聞こえる謎の音。

悪い予想を立ててしまうのはなぜなのだろうか。

まさか、……。



「お、お父様が血、血を吐いて倒、倒れましたわ。


お、お兄様私どうしたらい、


きゃっ、何するんですの。


誰ですのあなたは!?


近づかないで。


あっ、いや、嫌っ。


お、お兄様助けてください!


お兄ンンーーン!。ンンンー!!!!



ブチッ。プー、プー(通話終了音)」



「ヴィヴィ!ヴィヴィ!!嘘だろ!?


父さん!母さん!


一刻もはやく実家に行かなきゃならない。車はないし、この時間だとバスも出てない。


くそっ!自転車か馬車、どうする!馬車の操作は分からないし。

自転車で。

とにかく急がないと!」


妹の必死抵抗しようとする声。

妹、父親、母親を狙った何者かの犯行。


アルベルクは頭に血を上らせながらも、慎重に考えていた。


ここから、実家のある都市ザッツレイまで車で3時間。

自転車だと2倍以上の時間がある。途中で誰かの馬車か車に乗せてもらうしかない。


雨具に着替えている時間もなく、階段を降り愛用の自転車に飛び乗る。


『マカリトス荘』の玄関を自転車でぶち破ると、都市ザッツレイまでの道のりを漕ぎ始めた。


<<


あれからどれくらい進んだだろうか、そう雨ですっかり冷え切った頭を使うアルベルク。

部屋を出てから、20分。


未だ誰ともすれ違わない。

追い抜くものもいない。


雨足が先ほどより強なり、アルベルクの熱を奪っていく。


漕ぐ足は未だ止まらず、家族が生きていることを信じて進むしかないのである。


しかし、次第に体力が落ちてきてバランスが取れなくなる。

転倒する体。



道路に打ち付けられる体。



冷たい体。


だが、妹の声や笑顔が頭に浮かんでくる。

父親と母親の姿がどんどん薄れていく。


「ダメだ。行くんだ。


行って助けないと。

ぅう、ハアハア。よいしょ。」


再び自転車を漕ぎ始めるアルベルク。


未だ2時と回ったばかりという真夜中。


さらには、鳴り止まない雷鳴と降り止まない雷雨。

それでも、家族の元へ行く少年には関係のないことだった。


>>



それから、何度倒れたことだろう。

ふらつく体をなんとか支え一歩でも多く前に進む。

道を間違えてはいないのにも関わらず、誰も通り掛からなかった。


だが、アルベルクの足は動いた。


動かさなければならないのだ。


いくら足が棒になろうが、痛くなろうがそんなことはどうでもよかった。


すっかり空は朝焼けをしている。

朝日の眩しさにも劣らぬ姿をアルベルクは見せているが、体力の限界が近かった。


漕ぎ始めてからすでに7時間が経過していた。


だが、一向に花の都ザッツレイは姿を見せない。


アルベルクの意識は何度も朦朧していたが、その度に家族の顔が頭をよぎる。


そして彼に力を与えるのだ。


7時間30分が経過したころ、一気に景色が変化した。


現在9時35分。


目の前には花畑が見えていた。



(もう少し、もう少しだ。ここを抜ければ着ける!)


足がもう上がらないことに気づき、自転車を投げ出し走る。


フラフラと揺れる姿をは、さすがに花畑には合わない組み合わせだった。


花畑の坂道の勾配に足を取られながら、都市ザッツレイの門へと近づく。


いつもならいるはずの門兵がいなかったが、アルベルクは気にせず入っていく。



次の瞬間、アルベルクの前には見慣れたはずの光景が見慣れないものへとなっていた。


門をくぐったらすぐ見える、とても高くそびえ立ちザッツレイのシンボルだった塔が倒壊していた。


根元の部分から折れている。


また、門の近くの家は基礎部分だけが残っていた。


周囲を見渡しても、誰1人として見当たらなかった。


途端に事態の悪さを実感し鳥肌が立ちどっと汗が出た。


実家がある、都市の住宅地へと走る。


「おいっ!誰かいないのか!

おいっ!居たら返事してくれ。」


アルベルクの足もとを彷徨う風の音だけが返答した。


「くそっ!誰もいないのか!」

住宅地にたどり着き、まだ屋敷が残っていることを視界の奥で捉えたアルベルク。


屋敷の門を蹴り飛ばし、屋敷内へ入る。

鍵が開いていることに動揺しながらも、順に部屋を見ていった。



一階から二階まで確実に、1つ1つくまなく探した。


いつも家族が集まる広間へ足を急がせた

父親が血を吐いたはずなのに、血の跡もない。

誰の姿も確認できなかった。


ただ、電話は、電話だけは。



受話器が置かれずに線は伸びきって縮むことを諦めていた。



アルベルクの足はようやく止まっていた。だが、それは本人の意思ではない。


事実が彼の心を壊していく。


実感してしまった、家族の死を。


ラウルのように精神にダメージを受けるのではなく、精神を固くし憤怒していた。



「誰だ。誰だよ!


俺の家族を連れていったのは!


誰だ!殺してやる。


殺して殺して殺して殺してやる!あああぁぁぁぉぁ。」


彼の言葉にならない叫びは、屋敷のどの部屋にも届いていた。

その悲痛は叫びは聞くものを悲しくするものだった。


だが、誰の心にも影響しなかった……。




すると、それに答えるようにアルベルクの背後に気配が現れた。



「はいはーい。

俺っちでーす、君の家族を殺ったのは。


どう?今どんな気持ち?

もしかして怒ってルンルン?」



当然の返答にアルベルクが声に気づいて振り向くと、1人の男が立っていた。


『10』と書かれたベロを出し顔が攣ってしまうぐらい笑みを浮かべていた。


赤い髪を肩のあたりまで伸ばした、高身長の男。


常に人を馬鹿にしているような声と、顔立ちに合わないその口調はアルベルクの怒りを増大させた。


「おい、お前!俺の家族をどこにやったぁぁあ!!」


壁に飾ってあった模造剣を抜き取り、男へと飛びかかっていく。


足の疲労がピークに達し、エリオット流の剣術も今や意味を成さなかった。

「君チミー、俺っち話聞いてたー?


もう殺ったんだってー。

チミの家族は今頃天国でちゅよ。」


と、フラフラと狙いの定まらない剣は空を切りアルベルクは体ごと倒れ込んだ。


「嘘だ。

父さんを、母さんをヴィヴィをどこへやった!

お前を俺は許さない!」


何度も倒れそうにあってもアルベルクは自分の体を支えながら、必死に敵へと刃を向けた。


だが、結果は同じ。

赤髪へは一度も当たらなかった。


「君さー、もう家族いないのによく戦えんねー。

ファザスト様が上玉って言ってたけど、全然使えないじゃん。

ダメじゃん。

こんな茶番続けてもつまんなーいし、君チミ、俺っちの話良く聞けよー。


はい、ここ重要!出るよ!」



もう気力を失いかけているアルベルクは顔を上げることしかできなかった。


「………。あ、ああ、あ。」



「俺っちなんてお人好し、とどめは差してあげませーん。


俺っちの話始まり始まりー。


まず1番目だよー。チミのフアァァミィィィィリーーーが殺されたのは、リチャット家のせいだぞ、だぞだぞー。」



赤髪の口から親友であるラウル=リチャットの家の名前が出たことにようやく驚きを表すアルベルク。



「ど、……どういう、ことだ。ハァ、ハァ。」

「俺っちの上司によるとー、なんかリチャット家のアホと揉めたんだってー。


だってだってー。

それで腹が立ってこの世界滅ぼそう的なー?」


「ハハッ、どうせお前たちが負けたんだろう。

……、お前たちごときがリチャット家に勝てるはずがない。」


「んー?君チミ今の言葉もう一回、もう一回、もういっかーい言ったらミンチにするからね、からねー。


でも、君の家族は不幸だったねー。

あれ?そういえばチミのこと連れてこいって頼まれてるんだった。


俺っちのウチクルー?」


「行くわけないだろう。

俺はお前を殺す。

家族を殺したお前を葬ってやる。」

「まあ、そうなるよねー。

じゃあ、 家族1人だけ助けてやるって言ったらどうするどうするー?」


「!?


お前たちは俺を連れて行くことてどんなメリットがあるんだ?

行くわけがない。

大体1人なん……」



「家族全員生き返らせてやるって言ったらー?来るー?」


「!!!



ダメだ、それでも行くことはできない。」

「じゃあ、こうするしかないね。」


視界から赤髪が消えたかと思うと、後ろからすごい衝撃を受けたアルベルク。


受け身を取ることすらできない常識はずれの攻撃にアルベルクは壁を二度破壊し、廊下を挟んで隣の部屋へと吹き飛ばされていた。


(だめだ、格が違いすぎる。

逃げることもできない。

それなら、相手に下るしか道はないのか……。)


口の中が切れ、血を吐くアルベルク。

敷いてある絨毯をたちまち血の色へと変える。

どうにかして立ち上がる。

だが、アルベルクの目にはまだ光が宿っていた。


「おいおい、俺っちがたとえ手加減したとしてもー。

普通の人間ならねー、死んでるよーもう。

君なんか飽きちゃったよ。


あっ、そうだっ!」


赤髪の男が指を鳴らすと、煙を立ててなにかが現れた。

影の正体が判明する。


アルベルクの家族3人の死体だった。

父親に至っては、目から目玉が飛び出し上半身と下半身が真っ二つに分かれていた。


赤髪は目玉を強引にむしり取り、手の中で潰した。



「ヴィヴィ!父さん!母さん!

貴様あぁぁぁぁぁ。。」


アルベルクは模造剣を持ち胸の前に十字に見える等に移動すると、下段に構えた。


息を吐くと同時に相手に向かって突きを放つアルベルク。


「チミいいのー?

死体を傷つけたらもう元には戻せないからからねー。」

と言って、アルベルクの剣が向かう先にヴィヴィの死体を向ける赤髪。


当たる寸前で止まる剣先。

「くそっぉぉぉう!」

と言って剣を投げ捨てるアルベルク。


「ほほう、ほほう、従う気になったのー?


ちなみにラウル=リチャットを殺せば父親だって完全に戻してやれるのになぁー。

俺っちヤァサスィー、優しーい、ベリベリーカ〜インド!!


さらにさらに仲間に下れば母親だって、プップププ。

で、君どうするノー?」


家族のことになると、悪しき道へと進めたくなってしまうアルベルク。


だが、ラウルは親友。アルベルクの中でラウルの存在はとても大きなものになっていたのだ。


「殺せるわけないだろ!

ラウルは親友なんだ……。」


「ふーん、じゃあ妹ちゃ〜んの目玉を分解しちゃおうかなー。

それと、今の君ではどっちみちラウル=リチャットには敵わないよぉ〜。」


赤髪がヴィヴィの死体に触れようとする。

アルベルクの声が先だった。


「やめろ!俺から提案がある。」


「ほほう、ほほう。

君がこの状況で提案ねぇー、どうぞどうぞ。

聞いてあげようじゃないのー。」



アルベルクはもう考えることができなくなっていた。

家族を助けるためにはどうすればいいのかわからなかった。

ラウルが強いということも赤髪の脅しだと感じたようである。


(ラウル、親友を殺すのか俺は。


ためだ、でもラウルはいつも言っていた。


迷うな、強い心をもってこその剣士なんだよ、って。


だがな、ラウル。


心が強くても勝てなきゃ意味ないんだよ。


今の俺みたいに、この赤髪に勝つには力が必要なんだ。


そうか、仲間になってから殺せばいい。俺は親友とは違う道を行けばいい。


力なのか、強い心なのか白黒つけてやる。

勝った方が正しいんだ…。


負けたら死ぬかもしれない。俺はラウルを殺してしまうかもしれない。)

アルベルクの頭の中は次の瞬間崩壊していった。



(そもそもリチャット家がいなければ、俺の家族は、父さんは!母さんは!妹は!



死ななかった。


俺もこんな目に遭わずに済んだ。


もしかしたら、


アカデミーの入学式で会いさえしなければ、


友達にならなければ、


親友と呼べるほど仲良くならなければ、


良かったのかもしれない。


簡単なことじゃないか。


リチャット家全員を皆殺しにすればいい。こんな目にあったのもあのクソ名家のせいだ!!


この赤髪は俺が充分な力を得るまで利用し、殺してやる!


ラウルは俺がこの手で殺してやる。そのためにも…)


様々な思いに葛藤するアルベルクだが

遂に彼なりの決断を出したのだ。


「ラウル以外の人間から、俺の記憶を消してくれ。

そしたら、俺がラウルを殺してもいい。その代わり家族を生き返ら…」


「ウッソぴょーん、死んだ人は行き帰りマッセーン!!なに本気で信じてたのー?俺っち嘘の天才かしらーん。

おと記憶を消すなんてこと俺っちには出来かねまっすぅー。」」



ここにきて、アルベルクの唯一の願いが消えていく。


(もともとこんな奴に踊らされていた俺がバカだった。

だが、ラウル達リチャット家は許さない。


俺の意思は変わらない。

そう迷わず決めたこと。)


「それでもいい。

俺は元凶のリチャット家のラウル=リチャットをお望みどおり殺してやる。


親友だからこそこの手でな。

だから力を寄越せ。


力が全てだとラウルに教えてやる。」



アルベルクの姿には、かつての熱い男の影すらなかった。

復讐に囚われた1人の男に過ぎなかった。


「ほっほう。やっほう。


いい乗りじゃないのー。


俺っち、君に、力、与えてやるYO〜。


♪ほらよっとー。」


赤髪はポケットからガラスの容器を取り出した。


中には、黒い液体があり動く何かが入っている。

それを荒々しくアルベルクへと下投げした。


アルベルクはそれを見て、凍りつく。


どう見ても中には自分の見たこともない、異形の生物が入り込んでいた。


「こ、これをどうするんだ?」


「口に入れなさぁーい。

それだけでいいYO〜。


あとはそいつが勝手にやってくれる。


それを口に入れたらもう戻れないからねー!」

戻れないということは、何かになるということアルベルクはもう赤髪の言葉など頭に入っていなかった。



ガラスの容器の蓋を回し、外す。


黒い液体の中で動く異形の生き物。


(みんな、さよなら……。

俺が俺自身で決めた道を生きる!!)


アルベルクの頰に一筋の涙が流れる中、液体から動くそれを片手で握りしめ口の中に入れた。



「あがああああああああっ!」


激痛がアルベルクを襲う。


立っていられない痛みにたちまち倒れてしまう。


グキ!バキ!メキッ!という音とともに、骨が移動するような感覚がした。


次の瞬間.体の中から焼けるような熱が発せられた。

「あああああああああぁぁぁぁぁ!」


体は人間のままだが、時折骨のようなものが変なところから盛り上がっていていた。


アルベルクが苦痛を耐え抜き、ゆらりと立ち上がる。

両手を見つめ、溢れ出ようとする力を感じていた。


「これで、殺せる。ラウルを。

(赤髪も、だがこいつは利用したからだ。)

赤髪、感謝するよ。」


「うんうん、もっといっていいよ。


これで君は俺っち達と同じ魔族になったワケよー。


いい気分だろう?

力が漲ってくるだろう?


じゃあ、約束通りラウル=リチャットと殺してこいYO〜!


殺し終わったら迎えに行くからさー、頑張ってさー。

じゃあねー。」


赤髪はまた指と鳴らすと家族の死体ごと消えた。


「今、お前を殺してやる。ラウル。

初めての殺し合いだ。」


アルベルクは魔力を身体全体に集中させる。

途端、アルベルクの体は紫のオーラを纏い、身体中の血管が見えなくなるほど、筋肉は一度膨れ上がり凝縮した。

一段と引き締まった身体に満足そうに笑みを浮かべるアルベルク。

そして、軽くジャンプしたあと地面を大きく踏み込んで飛び出した。


信じられない速度で跳躍する。


アルベルクはそのまま屋根を突き破り、見慣れた光景をわずか10秒で後にした。


投げ捨てられていた自転車を見かけるが、素通りした。

アルベルクの脚力は元の10倍近くにまで膨れ上がっていた。

あと一、二時間あたりで目的地に到着するだろう。


アルベルクの足は、真っ直ぐ、リチャット家へと向いていた。




窮地に立たされた人間の精神は壊れやすく、狂いやすい。


ラウルは祖父を失い、その精神は壊れてしまった。

はじめ彼の周りには誰もいなかったがいつの間にか支えてくれる人物が周りにいた。


アルベルクはどうだろう。

家族を失い狂った心を持ってしまった。

もしこのままラウルを殺したとして彼以外誰がアルベルクの心を改心させられるのだろうか。


それを知るものはどこにもいない。

だが、そうなる未来をアルベルクはどこか心の奥底で思っているかもしれない……。















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