第18話 打開策
第18話 打開策
頭に流れきた中年臭い声。
ただでさえ頭の中は膨大な量の知識でパンパンなのに、これでは全て忘れてしまいそうである。
「ラグタナさん、私です。
シンリィ=アズバルドです。
第六世界の王国外の状況を見せていただいても?」
『構いませんが、気分を害される方もいると思います。
そうなりたくない方は目を開いたままで、逆に見る方は目を閉じていてください。』
当然、見る以外の選択肢はない。
傍観者ではいられない状況なのだ。
『では、映します。』
すると、頭の中に1つのスクリーンが表れ、おそらく王国外の状況である各地の様子が流れている。
大地が割れ、吹き出すマグマ。
それから必死に逃げ回る人の姿があった。
また別の場所では、地割れした谷底へ何十人もの人が落ちていった。
マグマに溶かされながらも手を突き上げて助けを呼んでいた。
今度は街の中だった。
建物がほとんど消し飛んでいた。もはや基礎部分しか残っていない。
誰一人として人は見えなかった。
そこで映像は終わった。
脇ではリエラが先輩に泣きつき、その細い体を震わせていた。
リエラはアルベルクと同じザッツレイの出身。
おそらく今の最後の映像がそうなのだろう。
「ラグタナさん、現在この世界に残っている人類の数は?」
『25万人弱です。
すみません、観察許可はあってもアクセス許可がなかなか降りなくて。』
「前みたいに転移させられますか?」
『ちょっと待ってください。
今、神たちをまとめる全神ファウセン様と変わります。』
『どうも、全神ファウセンです。
アクセス許可が遅くなって申し訳ない。
私とラグタナ、それともう一人神がおりますので邪魔が入らない限り可能であるぞ。』
「ありがとうございます。」
『ただ、一箇所に皆を集めなければ不可能である。
失礼なことであるが、25万人はほとんどが都市ヴァルナ内にいる。
おそらく転移範囲は都市ヴァルナ内までしか無理だろう。
転移までの準備時間はそちらの時間で5時間後、それ以降になると大陸が崩れる地震が起こる可能性がある。
気をつけられよ。』
「ファウセン様、2つほどお願いがあります。」
『言ってみなさい。
できる範囲でこちらは助ける。』
「元第五世界出身者の魔法解放と都市内にいる人への連絡手段の獲得です。」
『うむ、、。しばし待ってくれ。』
これからどうなるかは分からないが彼らだがどうやら無事にすみそうなことを知りホッと息をつく。
リエラは今は落ち着いており、心配はいらなそうな様子だ。
あと問題はあるのかとラウルが考えた時、一人の人物の名が浮かんだ。
ラウルは神に問いかけを試みる。
「下位神ラグタナ様と、全神ファウセン様!
」
『今、全神ファウセン様は考えておられますが別件ですか?』
「はい、至急ある人物の居場所を突き止めて欲しいのです。」
リエラたちも気づいたようで、今にも泣きそうな顔をしていた。
『なんという名前ですか?』
「アル……、いやアルベルク=エリオットです。
歳は16。
今日は都市ザッツレイにいるはずです。」
『わかりました。今調べます。……!!
今私は第五世界の血を引く人全員に語りかけています。
ですが、今リチャット家にいるみなさん気をつけてください!
アルベルク=エリオットという人物は人間とは思えないスピードでそちらに近づいています!
あと2時間、いえ1時間で着くでしょう。
速すぎて映像が出せません。
状況が状況なので、敵がアルベルクさんを操っている可能性があります。
ファウセン様?
はい。はい。わかりました。
みなさん、すみませんがアルベルクさんが来るまでに魔法解放が間に合いません。
せめて三時間の時間が必要です。
それと、都市外にいる人たちに連絡を取れるようにしておきます。
頭の中で話したい人の名前を考えるとその人と話せます。
都市外にいる人の名前も同様に頭の中で考えたら出てくるようにしておきます。
それでは、どうぞ!
もう可能だと思いますができますか?』
シンリィはアンクへの連絡を試みる。
「あっ、アンク。
話は聞いたわね。
とりあえず城の車全部出して。
うん。そう。
じゃあ、よろしくね。
できたわ、大丈夫です。ありがとうございます。」
『わかりました。
私に用がある時も考えていただければすぐ話せますので。では。』
一度会話が終わり、あたりは騒がず、静かだった。
口元を覆い表情が分からないが玄角が言った。
「とりあえず、今はアルベルク様にどう対処するがであります。
おそらく操られているとみて間違いないでしょう。
シンリィ様何かお手立てはないのですか?」
「そうね、魔法解放まで三時間。
多分アルベルクは魔法を使えるはず、となると……。」
視線をラウルに向けなきようにするシンリィ。
「俺、……ですよね?」
「そう、そうなんだけど……。」
「ラウルに戦わせるなんて危険です。
城にいる近衛騎士団ではダメなんですか?」
「そうだな、いくら魔法が使えるとはいえラウルには荷が重すぎる。」
リエラと静葉がフォローしてくれるが、ラウルはもう心の中で決めていた。
「シンリィさん、ここから早く離れてください。
アルは俺が食い止めます。
まだ使い慣れてないけど、祖父と一緒ならなんとかなると思うんです。」
「ラウル!?」
「ダメだ、ラウル!」
「ラウルくん、ごめんなさい。
あなたにこんなこと背負わせるようなことになって。
危なくなったら、都市内を逃げて。
三時間経てば私たちも加勢できるわ。」
「分かりました。
とにかくアトネス城より遠くまで少しでも早く逃げてください。」
「シンリィさん、ひどいすぎです!私もラウルと一緒に残ります。」
「私も残らせてもらう。」
「ダメよ、生身のあなたたちを置いてはいけない。」
「だけど!」「だが!」
「蝶蘭お願い。」
「承知でありますよ。」
蝶蘭の姿が突然消えたかと思うと、ぐったりし気絶している二人を両肩に担いでいた。
ラウルが心配そうな顔をすると、
「坊っちゃま、大丈夫でありますよ。
少しゆっくり眠ってもらっただけでありますよ。
坊っちゃまお気をつけて。あとで会いましょうぞ。」
そう言うと、玄角、蝶蘭、蕾翠は姿を消していた。
本当に忍者なのかもしれない。
応接室にはシンリィとラウルだけが残っていた。シンリィがラウルのもとに近づいて来る。
そして、ラウルを抱きしめた。
「ラウルくん、ごめんね、置いていくようなこと担って。
死んじゃダメよ。
私の可愛い、弟なんだから。
うっ、ううっ、」
シンリィはラウルの肩で泣いていた。
一番辛いのは、シンリィなのかもしれない。
リーダー的な立場を保ち皆に発言しないといけない存在である彼女は、私情を持ち込めない。
ラウルが言った、アルを探して!と、言うような自分勝手な発言は許されないのである。
「俺は大丈夫だよ。
お、お姉ちゃん。」
恥ずかしいながらもようやく言うことができたラウル。
ギュウウゥゥゥゥ。
次の瞬間にはラウルの体は折れ曲りそうだった。
「シンリィさん、力強すぎです。
俺の体折れちゃいます。
折れちゃいますよ!!」
80代であることを見た目のせいで忘れていたラウル。
だが、シンリィはラウルの心を読み取っていた。
「ラウルくん、気をつけてね。」
ようやくラウルの体から離れて、ゆっくりと扉へと歩くシンリィ。
扉を開けた時振り返って彼女は笑顔で言った。
「ラウルくん、私はまだ29歳よ。」
泣き顔でもシンリィの最高の笑顔が見られたような気がしたラウル。
照れ臭くなって涙がでそうになるが慌てて抑えていた。
ラウルは屋敷の外へ出て、アルベルクが来るであろう方向の空を見据えいた。
「アル、親友との初めての喧嘩か……。」




