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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
20/30

第17話 下位神リベラム

第17話 下位神リベラム




今は朝なのか昼なのか夜なのか。


時間の流れを感じさせない場所。



血生臭い錆びた鉄の匂いはあたりに広がり、女神の希望の光が差し込まないほど深くてそして暗い。



ここは、第一級犯罪神監獄棟。


規約や条項、規則、法に逆らった者のなかでも最も罪が重いものが捕らえられている。

そんなこの棟に、神界史上はじめての第一級犯罪神が監獄入りした。


男の神の名は、『下位神リベラム』


罪名は『他神世界侵入罪』と『他神世界戦争暴発罪』である。

処罰は、二千年の監禁と自身が作成し管理している全ての世界へのアクセス権の剝奪と無位神への再生プログラムの行使である。

神界アラスは、立体的に横から俯瞰すると3つの構造に分かれていることが分かる。


上から、頂神界、老神界、堕神界。


無位神とは何の位もつかない神のことであり、下位神の下位互換と言えば分かりやすいだろう。

全神や上位神、下位神は主に老神界で、堕神界では無位神が生活している。

つまりは会社で言えば軽いクビのようなもの。

ただ落ちた無位神が下位神となるためには四千年の月日を要することになるため、しばらくリベラムが公の場に出てくることはないだろう。


今日もいつも通り部屋番号0001の監獄は冷え切り、そして発狂したくなるほどの爽快感が囚人を襲っていた。


下位神リベラムは、今日も笑っている。


監獄に入ってからもう既に1800年が経過していた。

にも関わらず、男の笑みは消えない。


神には見えないその不気味な薄ら笑いの陰には様々な思いが蠢いていた。


(あと二百年だ、ククククク、二百年経ちさえすればあいつを地獄に落とせる……。)


男には、懲罰も監禁も苦に思わない。


思わないほどの理由があった。

リベラムはある下位神が殺したいぐらい憎い。

特別な何かがあるわけではない。

ただ目障りだった。

上位神にちやほやされているのに腹が立った。

リベラムにとってある下位神は、獲物なのだ。

追って追って追い回し、止まった獲物の肉を引きちぎりほとばしる血のざわめきを自分の糧にする。


ある下位神とは、下位神ラグタナのことを指す。

リベラムと同時期に第三級犯罪神監獄棟への入った。

とうぜんのことである。


リベラムが自世界の住人を送った先こそ、追い回すべき獲物―下位神ラグタナの持つ世界だからである。

リベラムの計画は順調すぎるほどだった。

自世界の住人を他神世界に送る方法は、簡単だった。


ラグタナの自室に忍び込み、世界の詳細データをコピーする。

それを自分の管理している世界一覧ページにペーストすればいい。

そうすれば、リベラムが好きな時間に自分の駒である住人たちを送ることができた。


他神世界へのアクセスはできなかったが観察は可能だった。


それからの毎日は至高の日々だった。

観察しながら、ラグタナの世界の住人が死んでいくのを見て歓喜した。

笑い転げていた。

だからこそ、ラグタナの顔が見たくなった。


獲物が絶望している顔こそ最高の一品。


驚いたことにラグタナは動じていなかった。

もともとリベラムはラグタナをいじめていたが、ある日を境に篭っていた部屋から出てきた。

それが原因なのかもしれない。

ラグタナにとってリベラムは過去となっていたのだ。


リベラムはやるせない気持ちをすべてぶつけた、住人へ。


自分の世界の住人を痛ぶり、殺し合いをさせ、世界を滅ぼした。

そして、ラグタナの世界も滅ぼす手筈だった。


だが、ラグタナは自世界の住人と手を組み反抗してきた。

神の力が加わった勢力は、ただ送るだけのリベラムの勢力を侵食していった。

負けたのだ。


(チッ。

俺らしくもねぇ。

だが、次はない。

もう既にお前は詰んでるんだよ、ラグタナ。

ハハッ!ハハハハハ!


もうお前を助ける奴はいない。

俺が戻らなくてもあいつらがやってくれるからな。

最後の悪あがきで主力は潰したからな。

あとは第六世界に逃げた腰抜けどもを葬るだけだ。)


リベラムは監獄入りの果たすことを事前に考慮し、彼に従う3人の下位神にラグタナへの侵攻を命令していたのだ。


下位神デルトロミア、下位神ダーカ、下位神ファザスト。

下位神リベラムに忠誠を誓う下位神たちであり、現在第六世界に侵入しているのは彼らである。


彼らと連絡を取り合うことはできないが……。


(大丈夫。あいつらが失敗していようとも……。

ククク。

無位神になってもやれることはある……。)


リベラムにはまだ手が残っていた。だが、その手は彼の頭の中。


知ることはできない……。


「ククッククク、クハハハハ。

ラグタナ、俺はお前にはやく会いたいぜぇー。」

口角がつり上り、ニヤリとした表情で発せられたその笑い声は、誰の声にも届かないまま、監獄へと爛々と響くのだった……。


>>



「はぁー、やることたくさんありすぎるよ。」

「ラグちゃん、やっと出てこれたのにねー。長かった?1500年間は。」

神界には、神とは言えどショッピングを楽しんだり、グルメを堪能したりする。


この2人の人物が今いるのは、老神界商業区。

数々の世界の有名ブランド店が並び、女性の神にとっては引き出し扱いされる場所。


レンガ造りで統一された建物とが立ち並ぶこの区の外れ、『God 's cafe』というカフェに2人の神がティータイムを過ごしていた。


「ミリアナはいいよねー。

僕が監禁されてる間に上位神を飛び越えて異例の官神入りなんてしてるし……。」

「ラグちゃんだって、異例の自世界奪取されたじゃない。

似たようなものだよ〜。」

「もうミリアナとは話したくなくなってきた。

大体なんで今期のアニメを見るはずがこんなとこに来なくちゃいけないんだよ。」


みなさん、驚いたでしょう?

なにこのラグタナの口調!?って。

彼は元々こんな口調でありますよ。

目上の前では、ああ言っておりましたが……。

って僕が出てきたことには驚いてくださらないと…。

なんだか僕も変わってきたかもしれませんな……。

これも誰かのせいでありますな。

では、話を戻しましょう。



官神ミリアナは、ラグタナとは幼馴染といえる関係である。

生まれ育ちも一緒であった。

神は人間と同じように生まれてくるが、死ぬことはない。

成人年齢くらいで一度容姿が定着する。

全神ファウセンに至っては、顔中白髪のけむくじゃらであるからしてとんでもない年月を生きているのだろう。


「そんなこと言わないのー。

それで、第六世界の様子はどうなのー?」


「他の下位神の住人が攻めてきてるけど、僕は観察しか許されてないからどうしようもできない。」

「でも、第五世界から転移させるときに魔法の使用方法は教えたんでしょー?」

「そうだけど、彼らの時間感覚で30年でようやく一個完成させている。

だけど、このままじゃ間に合わない。」


「どうするのー?また起こす気ー?」


「万が一第六世界の住人が滅亡なんてことになれば、僕は二級犯罪覚悟で彼らを助けるよ。

即興で作った世界に転移してもらうしかできないけど、それでも時間稼ぎになれば……。」

「あのねー、私、ラグちゃんの監視役でもあるのよー。

そんなこととは言いたくないけど、見過ごせないなー。」

「そういうことじゃなくて、ミリアナに頼みがあるんだよ。」

「何よ、私の体はだめよぉー。

純白のまま行くんだからー。」


「なんで体が、世界救うのに必要なんだよ……。

ミリアナ、全神ファウセンに会わせてくれ。

ファウセンさんには小さい頃お世話になったから、言えば分かってくれると思うんだ。」

「ホントに分かってくれるー?

いくらラグちゃんのお父さんがファウセンさんと親友だったからって、私情を持ち込んだりしたら……」


「頼むよ、僕は見捨てたくないんだ。

僕が作った世界の人たちをこのまま見殺しになんてできない。」

「そこまでいうなら分かったよー。

今から行ってくるよー。

じゃあ、あとで部屋行くねー。」


ミリアナはそういって姿を消した。

官神クラスになると、使用を許可される移動法。

確か緊急時にしか使われないはずである。


一人残ったラグタナ。

青い空を見上げ、その上にかすかに覗く頂神界の底を見つめていた。


(父さん…。)

「って、ミリアナ荷物持っていってないじゃないか!あぁ、もうまたかよ!」

渋々荷物を手に取り、席を立つラグタナ。


そして、帰路へ着くのだった。


<<


自分の10倍もの大きさがある部屋の門の圧倒的な存在感に、未だに慣れない。


幼馴染の頼みを聞いたはいいが、全神ファウセンの話すのは幼少期以来である。


基本全神は官神と直接やり取りせず、神通という手紙でやり取りする。

余程の事情がない限り、全神との謁見は不可能である。

全神は門兵をつけたがらないと聞いていたが、その通りのようだ。

ミリアナは門に取り付けられたボタンを押す。


『ピヨピヨピヨピヨンポーン』


突然門全体から聞こえてくる大きさと、その効果音の意外性に身を固めるミリアナ。


『どなたかな?』

『ミリアナです!

官神ミリアナ至急お伝えしたいことがあり、参上しました。』


『ミリアナ、ミリアナミリアナ。

はてどこかで聞いたような……。』


『ラグタナと幼馴染のミリアナです。

お久しぶりです。』

『ミリアナちゃん!?そうか今開けるから入って参れ。』


重そうな扉は、軽い金切り音を出しながらもミリアナ一人が通れるほどの隙間を作り出した。


ミリアナは中へと足を進める。

全神の部屋には興味があったが、なかに入ってもキョロキョロする必要はなかった、


白い空間にデスクと椅子。

来客用用のソファで2つあるだけである。


(まさかのラグちゃんと同じパターン……。

嘘でしょ……。)


ファウセンはすでにソファに座り、お茶を注いでいた。

ミリアナは反対のソファへ座り、ファウセンを見る。


体は単色の白いローブで覆われているが、体格が良いわけではない。

だが、白髪のけむくじゃらのわりには体つきは良いのが不思議なところである。


「ミリアナちゃん、お久しぶりだね。

ラグタナくんとは上手くやってるかい?」


「ええ、まあ。

ファウセンさんはお元気でした?」


「私かい?

未だに全神という自覚がないよ。


それで至急の用というのは?」


「ラグちゃんの作ったもう1つの世界第六世界レゲングルドもリベラムではない他の下位神の世界の住人に浸入されています。


それで、ラグタナに世界作成の許可をいただきたいんです。今第六世界にいる人々を新しい世界に転移させるために。」


「そうか、ラグタナくんの第六世界にもうきているのか。

私ができるのはラグタナの第六世界へのアクセス権を戻し一時的な住人との干渉を許可することだけだ。


それ以上のこと、例えば浸入している住人の主の下位神を見つけ出すなんてことはできない。」


「どうしてですか?」

「確かに、他の神の世界に浸入することは禁忌とも言われているほどの重罪だ。

私は全神といっても老神界の全神。


頂神界の神に目をつけられれば一発でラグタナくんの世界は消滅させられる。

それにここには神が数え切れないほどいる。

無量大数に近い数いるだろう。

リベラムの時は、ラグタナくんの世界の住人が勝てたから捕らえられた。

だが、今回に至っては押されているのだろう?」

「はい。

もう滅亡も近いかもしれません。」


「ならば、こうしてはどうだ。第六世界の住人に干渉し、新たに作った世界に転移させている間に、第六世界で魔法を使用できるように修正する。

相手は魔法を使えているだろうからな。

もし邪魔されたらどうなるかわからないが……。

そこは住人の意志の強さにかかってくる。

とにかく急いだ方が良いな。」


「そうですね…『RRRRRRー♪』っ。



すみません、電話です。

失礼します。


んっ?ラグちゃん?うん。うん。


分かったよー。ラウルからです。」


ファウセンは頷いた。

ミリアナはスピーカーホンにしてファウセンにも、聞こえるようにする。


『もう第六世界はダメかもしれません。

世界中で自然災害は発生してます!

それにもう王国以外の場所は壊滅状態なんです!


ファウセンさん、お久しぶりです。

アクセス権の許可ありがとうございます!

それで今…。』


「ああ、分かっている。

今からラグタナくんの部屋に向かわせてもらう。

いいな?」

『うぇえ?今…。


ムムム、わかりました。

いつでもどうぞ。』


プツリと電話は切れた。

「ということだ。

では、掴まってくれ。」

「わかりました。」

ミリアナがファウセンの肩に触れる。


「開迅!」

そうファウセンが言うと、目の前が一瞬暗くなり目を閉じるミリアナ。



目を開けるとラグタナの地下空洞に来ていた。



>>


(どうしよう。

あの時だ。

あの時転移した人たちが助けを求めている。

ラウルくんには悪いことをしてしまった。

第五世界へのアクセス許可は取れないだろうか。

ライドバルドさんとレイラさんがいればこの苦境を乗り越えられるかもしれない。

でも、第五世界へはどう頑張ってもアクセス出来ないだろう……。)


パソコンの画面を見て、第六世界の今の状況を確認する。

シンリィやラウル、リエラたちの様子がパソコンのディスプレイに表示されている。



ウォンウォンウォンウォン


突然異常事態を告げる警報がパソコンから流れ出る。


「どうしたって言うんだ?まさか!」

キーボードに手を滑らせ、操作する。

画面が切り替わると赤く染まっていた。


「これは!!!

もうやばいぞ。

ヴァルナ以外ほとんど壊滅じゃないか!?くそっ!

買い物にいってる間にこんなことに。」


ウォンウォンウォン


また鳴り響く危機感を募らせる音。


「今度はなんだ!?」


マウスで、表示されている項目を順に切りかける。

自然の項目にした瞬間、ディスプレイの中の映像で火山からマグマが噴き出していた。

それも一件だけではない、

第六世界中で自然災害が同時発生している。


「くそっ!

ミリアナ、頼むぞ出てくれよ。」



ミリアナに電話する。

もしファウセンへ話をしているならば出るはず……。

『んっ?ラグちゃん?』


「そうだ、大変なことになった。

ファウセンさんに話はした?」


『うん。』

「第六世界へのアクセス権は許可してもらえた?」

『うん!』


「じゃあ、ファウセンさんにも伝えたいからスピーカーホンにしてくれ。」

『分かったよー。ラウルからです。』


「もう第六世界はダメかもしれません。

世界中で自然災害が発生してます!それにもう王国以外の場所は壊滅状態なんです!


ファウセンさん、お久しぶりですね。

アクセス権の許可ありがとうございます!それで今…。」


『ああ、分かっている。

今からラグタナくんの部屋に向かわせてもらう。

いいな?』


「うぇえ?今…。ムムム、わかりました。

いつでもどうぞ。」


電話を持ったまま、体を反転させる。


(あれから地下空洞の天使達はしまったことはしまったんだけど、ここの場所は知られてないんだよな。

よしっ、パソコンを持って上に……ってうぉ!)


ラグタナが上の八畳間へ戻ろうとすると、それを遮るかのように光の球体が2つ出現した。

それはたちまち体の形を取り、人型になった。

全神ファウセンとミリアナである。

ラグタナは顎が外れそうなほど顎が落ち、ムンクの叫びのような悲痛の声を上げていた。

「THE ENNNNNDDDDDD!!!」


「ラグちゃん、うるさいよ。

ファウセンさんに失礼でしょ。

ってなんでパソコン持ってるのよ。

速く机に置いてー。」


構わないでくださいとばかりに石のように固まるラグタナからパソコンをひったくり机に戻す。


「ラグタナくん、ここのことは前から知っている。

安心してくれ。」

「そ、そうですか……。

本当にお久しぶりです、ファウセンさん。」

「うむ、それより急がんといかんのだろう。」

「そうでした!ミリアナ今の状況は?」


パソコンのディスプレイに釘付けになっていた目をこちらに向けたミリアナ。

捨てられた子犬のようなかおをしている。

どんな顔だよ!


「ラグちゃん、第五世界の血を引く人たちが集まってラグちゃんの話してるよ。

今話しかけたほうがいいんじゃなーい?」


ラグタナがディスプレイを見ると、シンリィがラグタナについて説明していた。

だが、やはり魔法解放の道具は1つしかできていないことに気づくと、

「全神ファウセン様、どうやら僕にはここまでのようです……。」


「分かった。ラグタナくんの熱意伝わったぞ。オッホン。



全神ファウセンの名の元に、下位神ラグタナの第六世界への一時的アクセス権の回復と行使を許可する!」


全神ファウセンの白髪が、メデューサのように持ち上がったかと思ったら銀色の光を放った。

爆発的な光が空洞を侵食する。


すると、ディスプレイに新しく[緊急介入]のアイコンが表示された。


ラグタナは迷わずクリックしする。


ディスプレイ全面に第五世界の血を引くものたちの顔が表示された。

画面右下では24:00が23:59へと変わった。

タイムミリットは24時間しかないということだ。

マイクマークがついていることをみると、住人の頭の中に語りかけられるようになっているようだ。


ラグタナは水泳選手の着水のように大きく息を吸うと、長い時間をかけて吐き出した。


そして、話した。


『あーあー、テステス。

ただいまマイクのテスト中、あーあー。


第六世界レゲングルドにいる第五世界ライズダムの血を引く方々聞こえますか?


下位神ラグタナです。』


第六世界の最後の抵抗が今、始まろうとしている……。








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