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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
16/30

第13話 初めての試合

第13話 初めての試合



「では、はじめっ!」

その掛け声とともに、剣を持つ生徒は相対していく。

そう俺もその1人。目の前の敵の打ち方や構えのクセの穴を確実に狙う。

そして、視線の先で肩をすくめる女の子がいた。

今日は初試合。


時間は早朝へと遡る。


>>


木刀を握ってからすでに約一ヶ月が経とうとしていた。

ラウルは相変わらず鬼モードの命名した静葉先輩には怒鳴られてばかりだが、それでも、頭が上がらないほど感謝していた。


いつもの時間に起床。

朝は二個になったタイヤ引きと、900回の素振り。

静葉が言うには、昔の剣士は朝3000、夕8000もの素振りをこなしていたらしい。

それを聞くラウルの目は、もはや以前とは違う。

肉体においても精神においても変化していた。

一人称を変え強引のように思えた口調の変化は違和感は残りつつあるるものの、一ヶ月間毎日欠かさず行われた稽古や筋肉マッサージの末、肩、腕、腰、脚の筋肉はひとまわり厚くなった。


今丁度、900回目を終える素振りは木刀だとは思えないほどの風を周囲に起こしていた。

畳は何度も取り替えられ、しまいには野外ですることになった。

朝のまだ鳥が起き出した頃に、外で素振りをするというのは申し訳なかった。

ラウル自身も素振りはこのぐらいの風は

普通だと静葉から言われていたので少しも疑問は持たなかったが、この素振りが常人レベルでないことは明らかである。

これは静葉がラウルに己の才能に溺れないようにさせるためである。

そんなことにも無頓着なラウルだが、疑問に思いはじめていた。

一度、木に作られていた鳥の巣が落ちてきたこともあったので本当にひやひやしたこともあった。


ラウルは強く、強くなっていた。


だが…


「ラウルっ!、遅いぞ。

もう素振りは筋トレ扱いすると言っていただろう!」

「すみません!」

「押忍だ!もやし小僧」

「押忍!」


そう、ラウルは未だ静葉からみてもやし小僧のままである。

時折褒めてくれることはあるが、それは全て剣術に関することのみであり、精神面に関してはまだ太鼓判を押されていない。

だが、この圧倒的な圧力の持ち主に認められるには相当な努力が必要であると感じていた。


「では、月が変わり一ヶ月が経った。

つまり、今日から実戦の注意点と心構え、そして新たな朝稽古を教える。」

「押忍!」


静葉がラウルに説明したのは、2点。

まずひとつは、実戦について。

初動は筋肉を使わず、動作の延長として剣を振ると良いこと。

それと相手の攻撃パターン、構え方には癖がある場合がありその穴をついていくのが基本ということだ。

心構えとしては、もやし魂を燃やして耐え凌ぐことだけはするな、どうせ負けるぐらいなら、根性と気合いで猛攻撃をしかけろ。と、言われた。


もう一つは新たな稽古メニューである。

立ち木打ちと言う。

刀の太刀筋や手の握り、腰、気合いなどの修練を行うのに最適らしい。


さっそく庭へ出て、屋敷で1番太いとされる木のもとに行く。

身長の4倍ほどもあるそれは自分を飲み込むかのように

枝葉を広げひっそりと佇んでいる。

一呼吸置くと、構えを忘れず、横から叩く。

しかし、木に当たったときの衝撃が痺れとなって襲ってくる。

静葉曰く踏み込みが甘いらしい。

この立ち木打ちは、この木が倒れるまでという無理難題な課題を与えられた。


稽古を終え、食堂へ赴くと静葉はいつも先に着席している。

制服を身を包む様子からは、あの鬼モードが今でも想像できない。


ラウルと静葉はアカデミーへと登校した。

今日からアカデミーでも剣術の試合が行なわれる。

素振りやステップ、反復横跳びなどの基本的なことは講義内で学んだことを出し切る日である。


直接アカデミーの道場へ足を運ぶと、全校生のほとんどが集まっていた。

実技講義は三年組も強制出席なので、ざっと300人と言ったところだろう。


ラウルたちは人混みの間を全力で走り誰にもぶつからずに行くことに挑戦した。

静葉に言われたことではないが、何かにつけ自分に課題を与えることにしていた。

人の隙間を縫うように全力疾走する。

反復横跳びで鍛えられた瞬発力が発揮された。

ぶつかりそうな対象に直前まで近づきかわしていく、こうすることで足腰は喜びの悲鳴をあげ活発になるのである。

難なく、走り抜けアルベルクとリエラのもとにたどり着くラウルだが、すでに静葉が来ていたことに驚愕する。

どこまで底が深いのか測れない生徒会長であった。

「おはよ!」

「おはよう、今日もすでに疲れてるな、ラウル。」

「おはよう、ラウル。脚が震えてるわよ。」


大丈夫だと脚を両手で叩く。

震えてはいるが痛みは感じない。


「今日からやっと実技ね。ラウル大丈夫なの?」

「リエラさん、私が教えているのですわ。問題ないに決まっていますわ。」

「そうなんですかー。

ラウルは相当先輩を怖がっているように思えましたが。」


リエラと静葉は何かにつけ衝突することが多くなっていた。

そのほとんどにラウルが絡んでいるが、高レベルな議論へと発展することがある。

唯一止められるのは授業のチャイムと教師の言葉くらいである。


その唯一があり、言いあいは落ち着く。

本当に懲りないなとは思うが、なぜ衝突しているのかがわからないラウルである。


「よし、みんな集まっているな。

今日からは実技だ。

しばらくは2人1組でやるからまずは組んでもらおうか。」


自然に静葉のもとへいくラウル。

弟子と師匠の関係であるから当然の行動である。

対して、アルベルクはラウルと組みたかったのか項垂れる。

いや、もしかしたら静葉と組みたかったのかもしれない。

その横ではリエラも項垂れていた。

「なんで、アルと一緒なのよ。」

「俺だって、ラウルと一緒に組もうと思っていたんだ。

恐るべし生徒会長だな。」

このとき二人が目に火を灯し、自分に対抗心を持ち始めたことを静葉は知らない。


教師は全員が組み終えたことを確認すると手本を見せた。

しっかり見ようと思うラウルだったが、ふいに誰かの冷たい手が視界を遮った。


「ラウル、見るなよ。

お前に馴染みつつあるものが崩れてしまうかもしれない。」



「押忍。

講義中だとそっちの先輩なんですね。それにしても、先輩の手冷たくて気持ちいいです。」

「なっ、講義中に何を考えている。

集中しろ!」

「押忍。

でも、手は取らないんですね。」

「うるさい…。黙ってイメージでもしていろ。」

ラウルと静葉の仲はいつか師弟の関係を超えるかもしれないと、手をわなわなと動かしながら2人の様子を見ていたアルベルクとリエラ。


「おい、リエラ。

あれはどういう状況なんだ?

俺にはイチャついているようにしか見えないよ…。」

「な、んなわけないじゃない。

あのもやしラウルが先輩とそういう関係になれるわけが…。

そうよ、あの2人が釣り合うはずがないわ。」

「リエラ、ちょっと落ち着けよ。

まだそうと決まったわけでもないのに。あの2人の顔どんな顔だ?」

「メスとオスの顔よ。」

「うん、リエラ一旦真面目に落ち着こう。

手合わせでそんな状態じゃ困る。」

「そこは、経験済みなのか?、ぐらい聞きなさいよ。

もうっ、あとで先輩に色々言ってやるわ。」


段々と勢いが増してくるリエラを、アルはもう手がつけられないとばかりに肩を竦める。


説明が終わり、全員が木刀を持つ。

今回は互いの素振りを受けるというものだった。

それが、終わったら軽い模擬戦を代表者にやってもらうという。

素振りに関してはラウルに限らず全員にとって優しい内容である。


「いいか、ラウル。

一ヶ月間の素振りの成果を私に見せてみろ!一刀でこの木刀を叩き割るぐらいに!」

「押忍!」

「だがら、講義中ははい、でいい。

恥ずかしいからな…。」


意外と鬼モードでも天使部分はあるのかもしれないと思うラウル。


ラウルは木刀を構え、頭上まで上げる。

静葉はいつでも来いと言わんばかりに木刀を真横にして両端を持っている。


一ヶ月間。

ラウルの頭の中にはこれまでの鍛錬の日々が映像となって流れていた。

(静葉先輩、ありがとうございます!)


そう、この一刀に込めるのは静葉へのラウルなりの感謝の気持ちである。

毎日声を張り上げ、自分を指導してくれた静葉の背中を追っていくための第一歩でもある。


(根性、気合い、だ!)

ラウルは渾身の素振りを、静葉の持つ木刀へと振り下ろす。



直後ラウルの木刀が静葉の持つ木刀を真っ二つに叩き切った。

同時にものすごい突風が吹き荒れ、他の生徒たちはよろめく身体を支えるのに必死だった。

ただでさえ、300人が稽古できるほどの広さを持つ道場も、ゴォオオオオオオオと唸り声をあげる。


ラウルの素振りはそれだけでは終わらなかった。静葉のジャージですら半分に切り裂き、下着だけがなんとか残る。

静葉は顔を赤く染め、前を両手で隠す。


突然の出来事に当の本人が唖然。

まだ静葉の状態に気づかない。

周りの生徒の視線はようやく発生源であるラウルたちに向く。

ようやく状況を飲み込みはじめ、静葉を見るラウル。

「静葉先輩、どうしたんですか?」

「どうしたも何も、ジャージまで切れとは言ってないぞ!」

「えっ、でもなんとかセーフですよね。

まだ一枚残ってますし、」

「よくない、なんて恥ずかしい格好をさせるんだ。早く着る物を寄越せ!」

「っ!。す、すみません。じゃあ、ちょっと待ってください。」


ジャージの上着を脱ぎ、先輩へと渡す。


目で終えない速さで着替えると一息つく静葉。

微妙にサイズが違い、ブカブカになっている様子が実に可愛らしい。

だが、その魅力に気づけないラウルである。


「おいっ、今の風なんだったんだ。」

「素振りで風が起こるなんて聞いてないぞ。」

「あいつ、会長の傍付きじゃねー?」

「そうだよ、確か名前は…。」

「ラウル…」「ラウル?」

「ラウル=リチャットよ」

「リチャット家ってあの!?」

「なんか納得かも。」

「でも、会長の下着姿が拝めるなんて」

「いいやつだな。」「ああ。」


女子陣が男子の目潰し殺人を実行したのはいうまでもない。

ちなみにリチャット家であることをポツリと言ったのはリエラ。

どこまでも策士である。


「おい、リエラ。

ラウルは剣術を初めてまだ一ヶ月なんだよな?」

「そのはずだけど、すごいわね。

あれだけの素振りなんて見たことないわ。アルでも葉っぱを切るくらいでしょ。」

「ああ、そうだ。

葉っぱ以上に厚くて固いものはまだ切れない。

やっぱりラウルはリチャット家の恥晒しなんかじゃない。

リチャット家の、光だよ。

でも、会長の下着姿…」

「アル、あんた見たの?答えなさい!」

「ああ、見た。

そう簡単に見られるものではなかったから…って、うぉ!」

リエラの回し蹴りを、すれすれで交わすアルベルク。

「落ち着け、リエラ。

もしかしたらラウルも見てるかもしれないぞ。」

「な、なんですって!?

もやしには制裁が必要ね。」


リエラはラウルのもとへと走っていった。

「ラウル、すまん。」

その後、リエラと静葉の衝突が起きたがまたもや教師の一喝により鎮圧された。


その後、今日はみんな試合をやってみようと教師が内容を変更した。


昼食を食べ、再び道場へと集まる。

「よし、みんな集まったね。

それじゃあ、今日行う試合は初手決着だから間違っても無防備な相手を攻撃しないように。

相手な互いに承諾してから始めること!まずは相手を決めてくれ。」


ここで普通は静葉のもとに行くラウルだが、静葉には

「できるだけ多くの相手と戦ってこい。

素振りの構えは使わず、相手があの立ち木だと思って初手で決めてこい!」

と言われていたので他の空いている生徒を探す。


探すまでもなく、ラウルの前に現れたのはリエラだった。

「ラウル、あんたの腐った目を叩き直してあげるわ。」

「なんで、目なんだ?そこは心じゃないのか?」

「うるさいわね、いいからやるわよ!」

「わかった。受けて立つよ。」

「みんな、対戦相手を見つけられたみたいだね。

では、はじめっ!」


その声とともに多くの生徒が動き始めるが、ラウルとリエラは微動だにしない。

(リエラの家はもともと体術の家系。

剣術は俺と同等と見ても、身体能力が向こうが高いし体術を使われる前に叩くしかない!)


対して、リエラは…。

(私、落ち着きなさい。

あの素振りを見せられて突っ込んで行く馬鹿はアルくらいだわ。

となると、相手の出方を見るしかないわね。うー、早く目潰ししないと…。)


ラウルの素振りはそれだけの恐怖を相手に与えていた。

だが、2人は剣術において初心者同士。

一ヶ月間みっちり鍛えられたラウルと、体術という別の武器があるリエラ。

普通に考えると分が悪いのはラウルだが、初手決着の試合形式である。

勝負の行方は相手の初動をいかに見極めるかにかかっているだろう。


そして、均衡は破られた。

はじめに動いたのは、やはりラウルである。

ラウルは6メートル先にいるリエラに向かって全力疾走。

しかし、リエラは動かず腰を低く落とし木刀を構える。

ラウルの動きを見逃すまいと視界を広げた。

リエラまでの距離が4メートルを切った瞬間、リエラが走り出したのではなく、低い構えのまま前方へ飛び出した。

虚を突かれるラウル。


(リエラのあの構えはレイピアを使うときの構えだったはず…。

脚力を応用した突きが考えられる。

相当な速さだろうけど、あれにどう対処する。

飛び越えるか、いやでも飛び越えようとした時にでリエラが足をもう一度踏み直して上に突かれたら負ける。

だとしたら、手は一つしかない!!)


ラウルが考える手が一つはしかないのには、次の理由がある。

一つは、突きの構え自体がハッタリである可能性。

直前で突きから攻め方を変えるかもしれないといという予想。

低い体勢からの突きから、斬り上げ。

または突きからの体術も考えられる。

二つ目は、リエラの突きがそのままの攻め方で迫り想像よりも速い場合。

真正面から受けることになると、間違いなく負ける可能性。

三つ目は、リエラが攻撃を捨てラウルの攻撃ほ防御、または交わすことを考えている可能性。

以上の3つである。

だが、あらゆる可能性を打破する手をラウルは思いついていた。


ラウルのリエラの距離はもうすでに3メートルしかない。

すると、ラウルが走るスピードを上げた。

リエラは、ラウルがこのままのスピードで自分の攻撃を交わすか防御、または攻撃してくると思っていたのである。

飛び出した自分が着地する所でラウルの反応をみて次の手を考えるつもりだったのだ。

だが、ラウルは、着地するはずだったところを通過しようとしている。

突然のラウルの行動に速度が上がった突きの構えをとるリエラの体は簡単には速度を抑えられず地面に足はつかない。

このままだとこの突きの体勢のまま攻撃を受けてしまう。


そうリエラが思考を巡らせているほど、残された時間は少なかった。

「てやあぁぁぁぁぁ!!!」


リエラは仕方なく木刀を突き出す。

ラウルは、リエラの着地する手段をなくすことで、そのまま木刀を突き出すのを待っていたのだ。

それでも、ギリギリである。

横にわずかに移動してギリギリ突きをかわすと、

「ハッ!」

その無防備な背中を軽く叩いた。

2人が動きだしてから、たった5秒。

たった5秒の間に2人は考えられる相手の全ての行動を予想した。

だが、至高の策によりラウルが勝負に勝ったのである。


倒れたリエラは悔しさでいっぱいだった。

もともと体術とは剣術よりも読み合いが大切と言われている。

だが、生まれてから体術一本のリエラは読みにおいてラウルに負けたのだ。

リエラは痛感していた。

自分の行動にこそ、穴があったのだと。ラウルの行動だけを読むだけで、自分の行動が最善であり完全であるか見落としていたのだと。

リエラが顔を上げると、心配そうな顔をして自分をみてくる少年が手を差し伸べてくれていた。

その手をとり、リエラは立ち上がる。この少年、ラウルはもやし小僧ではないと。

リエラがはじめてラウルを男として認める瞬間であった。


「負けちゃったわね。

読みのドレッド家がボロ負けだわ。」

「リエラ、大丈夫か?

俺まだ手加減とかできないから背中痛かったら言ってよ!」

「訊いてないし…。ラウルらしいといえばラウルらしいけど…。


ちょっとラウル。

背中すごく痛いわ。

肩貸しなさいよ!」


「ええっ、ほんとに!?

じゃあ、医務室まで運ばないと…。

先輩にあれほど気をつけろって言われたんだけど、やっぱり怪我させちゃんたんだな。」

「えっ、あっ、痛いわ。ラウル早く」

「は、はいっ。」


「じゃあ、よいしょ、っと。」

「ちょっとラウル、私は肩貸してくれればいいのよ。

そ、その後ろに背負わなくてていいのよ!」

「ダメだよ、肩貸したら背中痛むだろ?

背中痛いんでしょ?」

「そうよ、しょうがないからお願いするわ。」


ラウルはリエラを軽々と背負うと周りからのニヤニヤとした視線にも気づかずに道場をでようとする。

その2人を遮るように鬼静葉が立ちふさがった。

「おい、ラウル。背中に背負ってるのは何だ?」

「なんだ?って、リエラですよ。

背中を痛めたらしいです。」

「ほう、背中を痛めたと。

リエラ本当だろうな。」

鋭い眼光が、リエラの悪い心をグサグサと刺激する。

リエラは突然ラウルの背中からさらりと降り立つ。

「リエラ?」

「ラウル、もう大丈夫みたいだわ。

大したことないみたい。」

「えっ、でも痛いって言ってたじゃないか?」

「おい、ラウル。

本人がそう言っているんだからいいだろう。

言いたいことがあるからついてこい。」

静葉はラウルの首をホールドし、どこかへと行ってしまった。

途中で静葉が振り返り、ニヤリと笑みをこぼしたのをリエラは見逃さない。

(あ、あの会長め!ラウルも、ラウルよ。

いつか絶対会長を負かしてやるんだから。)

その後リエラのストレス解消は、その他の生徒との試合でなされたことは言うまでもない。


<<

「ラウル、さっきの試合は良かった。

褒めてやる!よく読めたな!」

「いえいえ、リエラが初めから突きの構えをしていてくれたからこそ勝てました。」

「おそらく、次にリエラと試合するときはラウル、お前は負けるだろう。

だが、相手の動きを盗むことも大事だ。」

「相手の動きですか?」

「そうだ、自分のものにしろ!

そうすることで選択の幅が広がるからな。

さらに相手の小さな動きも見逃さないことで、自分がどう対応するか瞬時に判断できるようにもなってくる。」

「なるほど」


それからリエラとは戦わず、講義終了までラウルは他の生徒と戦った。

10人中3人には勝てたが、残りの7人とは引き分けた。

大体の生徒が自分より後に動き出すため、ラウルはその際の攻め方をほとんど知らないので無意味な攻撃を出すしかないからである。でも、なんとか相手の攻撃に対応できた。

講義終了後、自分から向かうときは構えの隙を狙うことだと思い出すが、気づいたら静葉の喝を受けていた。


「全力で行けと言っていただろう。

あれほど構えを堂々としているんだ、隙なんて考えればわかることだろう!」

「すみません…。」

「だが、初試合にしては良かったぞ。

ちょっとは男らしく強い心を持てるようになってきたんじゃないか!」

捨てゼリフを吐くようにそう言い、背中を見せて更衣室へと向かっていった。


男子更衣室内へ行くと、アルベルクが待ち構えていた。

「ラウル、リエラに勝ったんだってな!

俺とは明日やろうぜ!」

「まだ無理だよ。

アルは小さいころから剣術を習ってるんだがら、俺が他の生徒に勝てるようになってから頼むよ。」

「そうか。

それにしても、ラウル。男っぽい口調になってはきているが、まだ抜けないな。」

「やっぱり?

無意識のうちに、だね。とか言うことが多くてな。だな、とかは意識しないとまだ言えないんだ。」

「それで、先輩とはどんな感じなんだよ?けっこう仲よさそうじゃないか?」

「そう?まぁ、師弟関係みたいなもんだからな。

仲良くないと一カ月も続かないよ。」

「違う違う、お前は男。

先輩は女。

ただの師弟関係ってわけには俺はどうも見えないぜ。」

「んー。

俺にはよく分からないよ。

女の子の考えてることって不思議な部分多いし。」

「ラウルって、鈍感ハーレム野郎なのか…。」

「ハーレムって?」

「いやなんでもない、俺はお前を信じているぞ。

あわよくば、先輩を俺に譲ってくれ!」

「なに言ってるんだ?、アル。」

「じゃあ、俺に先に行くね。」


アルベルクが熱烈と話している間に、ラウルは着替えを終え更衣室を出て行く。

(ラウル、俺はお前に負けないぜ!)

と、ボタンの掛け違いに気づきますます着替えが遅くなる始末であった。


ラウルが先輩と待ち合わせたゲートへ行くと、またもや衝突している2名の剣士。

「明日から休みですね、先輩?」

「あぁ、先輩に喧嘩売ってんのか?リエラ!」


講義中でも、稽古中でもないのに鬼バージョンのままの静葉。

制服を着ているにも関わらず天使に戻っていなかった…。


「そうですよ、私は喧嘩を売っているんです!」

「ほほう、読みで負けたやつが何を言ってるんだ!」

「ぐぬぬ、私は決めました。

今日は先輩の屋敷に泊めさせてもらいます!」

「何を言っている!誰がそんなこと許可するか!」

「ラウルですよ。

あいつなら断れませんから。」

「ふ、ふん。

ラウルがお前の頼みなど聞くものか!」


ラウルはその場を離れようとしていた。

2人が言い争いをしているときは何かと巻き込まれることに慣れているラウルだが、今日だけは2人がの間に流れる悪い空気から何かを感じ取った。

背筋に悪寒を感じ、建物の陰に隠れたはずがどこからか視線を感じる。

アルベルクが着替え終え、ラウルに気づき駆け寄っていく。

そして、2人が血眼になってラウルを探していることを理解した。

ニヤリと笑うアルベルク。

もはや悪人の顔だ。


「おーい、お二人さーん、ラウルはここにいますよー。」

「おいっ、アル。そんなこと言ったら…。」

「ふふふ、日頃の…グハッ…。」

言い終える前に走ってきた2人に邪魔だと腹を蹴り飛ばされるアルベルク。


「ラウル、リエラの頼みは絶対聞くな。

いいか!

聞いたら、素振りと筋トレ明日から10倍だぞ!

それと手合わせではサンドバッグになってもらうからな!」

「ちょっとラウル、今日から私泊まりに行ってもいいでしょ?

ねっ、いいわよね?

いいって言わないと試合の時体術でボコるからね。

あと、あんたの扱いアルレベルに下がるから。」


2人の必死の懇願に迷うラウル。

そして、出した決断は…。


「俺、休日はアルの家に泊まりますから。

2人で過ごしたらどうです?

稽古はアルと行いますから。」

「ラウル、それは俺が許さん!

君はおとなしくファルマン家に帰るんだ。

そして、俺も泊まりに行く!

リエラの相手をしていればいいんだろう?

任せておけ!」

「アルがこんなにいいやつだったなんて俺知らなかったよ!お願いするよ!」

「よし、ラウル。

それでこそ俺の親友だ!」


首を落とすリエラと静葉。

お互いに傷の舐め合いをしながら先に車へと向かうのだった。

4人で車に乗り、ファルマン家へ。

さすがの2人も車内の空気には緊張していた。


屋敷につき、一通り静葉が場所の説明をし、ラウル以外の3人が浴場へ向かう。


ラウルは夜の素振りをこなす。

今日の試合の数々を思い出していた。

(大事なのは、根性と気合い。

対人戦の基本は、相手の隙をつくことと自分の穴を塞ぐこと。

これを同時に、しかも数秒でやらなくちゃいけない。

それにもし競合いになったら相手より強い力が必要だな…。

一刀一刀があの素振りのような風が起こるまでに仕上げないと、アルには勝てない。)

暗闇の中で、自然発生のように起こる突風は夜の木々のさざめきを激しくさせていた。


1人遅れて、浴場で汗を流し終え自室へと向かう。

すると、アルベルクが来客用の部屋から顔を出し手招きしている。


「アル、どうしたの?俺もう眠いんだけど…。」

「ラウル、落ち着いて聞くんだ。

リエラと静葉先輩が今、道場で試合しているらしい。」

「なんで?さっきまで仲良くしてたじゃないか…。」

「なんでも、浴場で一悶着あったらしい。

男子は来るなって言われてるけど行くか?」

「いや、行かないよ。

あの2人は仲良くなれそうだから、きっと大丈夫だよ。」

「余裕の発言だな。

そんなラウルに質問だ。

リエラと静葉先輩どっちが好みだ?」

「急にどうしたのさ?」

「いいから、答えてくれよ。」

「今まで女子と全く話してこなかったからあんまりそういうの分かんないんだよね。」

「…。ラウルお前その話ほんとか?」

「うん。」

「そっか、そっか。俺にもチャンスがあるかもしれないってわけだな!

だが、ラウルその話は2人の前ではするなよ。

絶対にだ。」

「何をそんなに熱くなってるのか分からないけど、分かった。

俺はもう寝るよ。

アル、おやすみ。」

「そうか俺も寝ることにする。

おやすみラウル。」


男子陣が寝静まるころ、道場では…

女剣士が2名、対峙していた…!










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