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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
15/30

第12話 桐生静葉の多重人格!?

第12話 桐生静葉の多重人格!?



「傍付き、とは何ですか?」

僕は静葉先輩へと視線を向ける。


元々アカデミーには、興味がなかったのであんまりシステムを知らない。

高い知力レベルを要するということだけしか頭に入ってなかった。


「傍付きとは、簡単に言うと訓練の専属相手ですわ。

今日のアカデミー案内において新入生3名に対し、在校生1人が担当しました。

これにはある目的があるのですわ。

それは、在校生1人が新入生3人のなかから、伸び代が十分にある、または素質がある者を1人傍付きとして選ぶことですの。

アルベルクさん、リエラさんは既に剣術、体術をある程度習得しているようなので、ラウルさんを選びました。


実は最初からラウルさんにするつもりでしたの。

剣術を学んでいないとはいえ、剛の名家の方ですから。

それにラウルさんは強くなりたいのでしょう?

私は、ヴェラフィム様が書かれた剣術の教えを元に剛の剣術の腕磨いておりますので、

ラウルさんにお教えすることも出来ますの。どういたしますか?」


丁寧に説明してくれる静葉先輩。

そういうことか、と納得するが、でも相手は女の子なわけである。

しかし、剛の剣術リチャット流剣術を教えてもらえるなら助かる。

それに、アルも喜びそうだと思った。

よし頼もう。


「ぜひ、お願いしたいんですが、剣術のほうはアンクさんにお願いしていまして。」

返答に安堵する静葉先輩。

すると、

「それについて何だけどね、ラウルくん。」


「どうしたんですか?シンリィさん。」


「アンクたち近衛騎士団と、私たちアリオンの琴歌は明日から長期間の遠征に行くことが決まったのよ。」


初耳だ。

今まで城であったことはその日の夜に色々教えてくれていたので、おろらく今日決まったのだろう。


「えっ?ちょっと待ってください。

そんな急に決まったんですか?

それに長期間って、どのくらいなんです?」

「今日の午前中に、決まったの。

遠征目的は、あのマットラス大聖堂会談事件をはじめとする全21件の再調査。

期間は十分な手がかりが揃うまでかしら。」

祖父の事件の真相に近づける、それなら行ってもらった方がいい。

僕も行きたいのが本心だけど。


「そう、ですか。

あの事件の調査に…。

それで、僕はシンリィさんの家から今まで通り通うんですよね?」


シンリィさんは頭を左右に振る。

「そのための傍付き制度でもあるの。

続きは静葉さんに任せるわ。」

静葉先輩は咳払いすると、話を続けた。


「ラウルさんには、私の屋敷で住んでいただきます。

基本傍付き制度は傍付きが主の家に住むことになっておりますの。

同性同士が一般的ですが、私は気にしませんので心配いりませんわ。

道場もありますし。

それに、アンクさんからまずは筋肉をつけさせろ!、と言付かっておりますので問題ありません。」

さらっと問題発言を口にする先輩。

全く動揺していない…。


ちょっと待て待て。先輩の屋敷住む!?

それこそ、異性同士はまずいんじゃないのか?でも、道場もあるし、アンクさんからも頼まれてるからお願いしたほうがいいよな…。

そ、そうだよ。

強くなるためには仕方ないことだよね。

ラウルは自分が獣になどなれないことは自覚していた。


「わかりました、度重なるご配慮ありがとうございます。

これからよろしくお願いします。」


「ホッホッホッ。

決まりのようですな。

シンリィ様お時間は大丈夫ですかな?」

「ええ、ゲルマ大丈夫よ。

ラウルくん、くれぐれも迷惑かけないように。

静葉さんがいくらいい子だからって襲っちゃダメよ。

私たちは今日の夜、ここをでるの。

ラウルに必要は荷物は全部持ってきたから。」


僕にそんな勇気はありませーん。

シンリィさんは立ち上がる。僕もつづいた。

「シンリィさん、気をつけて行ってきてくださいね。

お、お姉さんに何かあると心配するんですから。

それに、僕は静葉先輩みたいな方を襲うほどの度胸はありませんからね。」


キョトンとした顔をする静葉先輩。

「ラウルさん、男でしたよね?」

そんなこと言わないでくださいよ、と内心思いながら頭を掻くラウル。


「ラウルくん、静葉さんに言われてるわよ。お姉さん……とは、言うようになったじゃない。

じゃあ、次はお姉ちゃんと呼ぶように。

帰ってきた時あなたが男前になっていることを期待しとくわ。


じゃあ、ラウルくん、行ってきます。

ゲルマ、ラウルくんを頼むわね。」


「ホッホッホッ。

任せてくださいませ。」

どこか温かい目で僕たちを見つめる学長だった。


お姉ちゃん、って呼ぶなんて無理無理。

だけど、次会う時にはシンリィさんが今よりもっと若く見えるようになってたりして…。まさかね。


「シンリィさん、お気をつけて。行ってらっしゃい!」

そう言うと、シンリィは僕に手を振り学長室から出て行った。

学長室の窓から、シンリィさんが乗った車が城の方へと走って行くのが見えた。


「では、私たちも行きましょう。」

「そうですね。」

学長は何やら仕事が残っているらしく、アカデミーに残るそうだ。


僕と静葉先輩は、学長室を出て用意していたらしい黒色の車体の長い車に乗った。

中は、運転席とは隔離されていて横向きに乗れるようになっていた。

車内は淡い光によって照らされている。

ちょっとリッチはな気分だ。


車は走り出したが、車の性能がすごいのか揺れを感じない。

ラウルは動き出したことに気づけなかった。


僕は車内の雰囲気と、ある意味女の子と2人きりという状況に緊張とよそよそしさを感じていた。

なにか話した方がいいのだろうが、なにを話せばいいのやら。

だが、僕が先に話すことはなかった。

「ラウルさん、1つ言っておきたいことが…。」

先輩の尋常じゃないほどの真面目な顔を見て、身構える。

「私、応援演舞や稽古の時に、その性格が変わってしまうのです…。」

それって二重人格ってこと、あのよくマンガやアニメで見かける…。


実際にそんな人がいたとは…。

どうしよう興味が湧いてきた。


「わかりました。どのくらい変わるんですか?」

「驚かれないんですね…。

変わるといっても、声色が太くなり、口調はあまり変わりませんわ。

それと性格は、ツンツンしてると思いますわ。」

「でも、そうなった先輩も見て見たいですね…。」

「あんまりお見せしたくはないのですわ。

ただでさえ、応援団の時は恥ずかしいんですから。

あと、私のことは静葉でいいんですのよ。」

「流石に先輩のことを呼び捨てというのは…。」

「傍付きは、主を呼び捨てするのが義務ですのよ。」


どこからが本当のことだろう。

流石に多重人格のことは本当だろうが、相手は歳上でましてやアカデミーの生徒会長。

呼び捨てでなんて呼べるわけがない。


そんな僕の様子をみて笑うと、

「呼び捨ては、冗談ですわ。」


やっぱりですか…。

ホッと息をついた。


そのあと先輩と話したが、静葉先輩は今は学長ゲルマ=ファルマンさんの屋敷に住んでいるそうで、僕がこれからお世話になるのもそこのようだ。

稽古の話も済ませてしまった。


はじめは剣の持ち方からみてくれるらしい。

明日から始まるとのことで、アカデミーの日は、帰宅してからの手合わせ。

休日は、午前中のみで先輩からの指導。

朝稽古は毎日だそうだ。

ここまで考えてくれていたとは、と正直驚いたし、嬉しかった。


屋敷につき、見たこともないぐらい豪華な夕食を食べ、お風呂で先輩と鉢合わせるようなラッキースケベも起こらず用意してもらった部屋のベッドに入る。


明日からのことを考えていたが、知らぬ間に意識は途切れていた。



翌朝アカデミー2日目の朝。

目を開けると、また知らない天井。

ここまで引越しを繰り返す人っているのかと 思うぐらい引越ししてると思う。


朝4時、なんとか起きることができた。

鳴る目覚まし時計をとめ、稽古用のジャージに着替える。

昨日就寝前に言われた、朝稽古の場所である道場へと向かう。


さすがに四時は早いので、屋敷内で誰かに会うことはなかった。

渡り廊下を渡り、隣接する道場へと急ぐ。


はやくアルたちに追いつきたい!

あいつらに見返してやるっ!

という思い故の行動だ。


道場へ裸足で踏み入れる。

中には畳が敷かれており、六十畳ほどの広さ。

前方の壁には横向きの掛け軸が掛けられており、

『猛烈果敢』と書かれていた。

知らない言葉だが、どういう意味なのだろうか?

だが、重要な意味を持っていることだけは確かだ。




鋭い声がかかる。

「おいっ、ラウル、早くそこに座れ。」

掛け軸から少し視線を落とすと、見慣れない女の子がいた。

身を青い道着で包み込み、光に反射に輝くその艶やかな長い黒髪は頭の後ろでポニーテールを形作っている。


彼女は誰だろうと、思ったが昨日の先輩の言葉を思い出す。

もしかして…。


声色は太く…、なってますね。

口調は…変わらな…い!?

もう見る影もなく変わってるじゃないですか。

まあ、次。

性格はツンツンして…。

もうザ・教官って感じなんですけども…。


「おいっ、お前の名前はラウルだろう?」

「そうですけど、やっぱり静葉先輩なんですか?」

「あ、当たり前だろうが。

ギャップ萌えするんじゃないぞ…。」

「…。確かに、ツンツンしてますけどデレも入ってますねー。」


「うるさい、ほらっ、さっさと座れ。」


僕は正座で、先輩に向き合うように座る。

「朝稽古は、6時半まで!

いいか、剣術とは気合だ!根性だ!

気合があり、根性があればどんなことでもできる!」


「そうでしょうか?」

「まだ話は終わってない。

お前の祖父のことは聞いている。

私が唯一尊敬している方だ。

今でもだ。お前の目標である!

強い心もまた、気合と根性が必要だ!分かったな?」

「はい!」

「返事は押忍、だ!


いいな?」

「押忍!」

「だが、ヤンキーな方の私にはいつも通りでいい。」

「僕が相当馬鹿になってない限り、先輩はヤンキーではなくおしとやか系ですよ。」

「口答えするんじゃない!

お前は私の言うことに押忍と答え、発言を求められたら、発言すればいいんだ!

分かったな?」


理不尽すぎる……。

「押忍!」

「それと、お前のその、ボクーっていう自分の言い方!

もやし野郎に見られるからやめろ。

俺、にしろ。

話し方ももっと男らしく、私のように話せ!」

「えっ、でも。」

ギロッ。

「押忍!」

「良し、いいだろう。

今日は剣の持ち方から教えてやる。」

「押忍!」

「もっと腹から声出せ!」

「押忍!」


「じゃあ、説明する。ほれっ。」

投げられた木刀をなんとかキャッチ。


「アンクから筋トレを念頭に、と頼まれたが正直面倒くさい!

実際リチャット流にいらない筋肉がついたら困るからな。

普段はどんな筋トレをしている?

「押忍、僕は普段は…」


「俺、を使え。」

「押忍。

お、俺はいつも朝起きた時と夜は寝る前に腹筋を100、腕立て伏せを100やってます!

アカデミーでは、両足1Kgずつの重りを巻いて生活してます!」


「では、大幅に変更する!」

「押忍!」

「まず、朝の筋トレはタイヤ引きをはじめは一個から行うこと!

何度も止まるぐらいなら、全体力を注ぎ込んで走り抜け。

そして、また体力が戻ってきたらまた全力で走る。

これの繰り返しだ。

コースはファルマン家外周コースがあるから、そこを一日二周。

それと腕立て伏せはなくし、腹筋を200やれ。」

「押忍!」


「腕立て伏せのかわりに、素振りを行う。

これは『腕、肩の筋力アップ』、『手の打ちや刃筋の矯正』、『打突の冴えやスピード』に効果がある。

はじめは軽い木刀で行うが、徐々に重いものに変えていく!

分かったな?」

「押忍。」


「良し、いい返事だ。

では、握り方の前にリチャット流について教える。

リチャット流は主に剣、刀を用いる流派だ。そして、その最大の特徴は、一生抜刀しないことだ。

だが、常に己の刀はよく研ぎ、よく刃を付けておけ。

人に無礼をせず、人に無礼を言うな。

この流派の完成形は危急の際いくら相手の刀が眼前に迫っていようとも刀を抜かず、気づいたら相手は二つになっていたという状態になることだ。

それ故、一撃必殺の異名もある。城の近衛兵が使う近代剣術とは違い、この剣術には古くからの先人の汗、涙、そして血が滲み込んでいると思え!

いいな?」

「押忍!」


「では、ようやく握り方を教える。

構えてみろ。」

木刀の下のあたりを、左手を上に右手を下にして持ち、自分の前に構えた。


「ダメだダメだ。

全然なっちゃいない。

お前は右利きだろ?

左右の手が逆だ。

それに両手をそんなにくっつけるな。

右手で傘を広げるようなイメージでやってみろ!」

「押忍!」

右手で傘を広げるイメージ、右手で傘を広げるイメージ…。

なんか様になった感じがする。


「どうですか?」

「まだ握りが甘い。

他人と握手するよくな感じで握れ。

左手は木刀を支えるイメージ。

右手は添えるようなイメージだが、力は抜くな!

あくまでもイメージだ。」


一旦手を話し、空気と握手してみる。

こんな感じか。

そのまま木刀を拾って握る。

そして、言われたとおりにイメージした。


「良し、よくなった。

次は指の力加減だ。

左右の手ともに人差し指と親指には力を入れずに、腕全体で支えるように…。」


こうだろうか、

「そうだ、いいぞ。

ん、ダメだ。

もっと右手は上を持て。

そう、そのあたりだ。

握り方はそのぐらいだな。」


「押忍!」

「次は、姿勢だ。

背筋を伸ばせ!猫背とは弱さの象徴だ!」


背中をバンバン叩かれ、急いで姿勢を正した。

「そしたら、そのまま頭の高さぐらいまで木刀の底辺を、握り方と姿勢を崩さずに上げろ。

振り下ろしのポイントはまっすぐ下ろすことは基本だが、中指、薬指、小指をしめろ。

あー、まだやるなよ。

あとは…。そうだ。

振り終えたあとは、手首が伸びていないといけない。

毎回全力で振り下ろせ。

そして、振り下ろすスピードを上げていけ。

よし、一旦木刀を離し、握るところから、やってみろ!」

「押忍!」

言われたとおりことを順番に思い出しながら、まず木刀を握る。

先輩は頷いている。

よし、次だ。

ゆっくりと言われた高さまで上げた。

最後は、振り下ろしながら中指、薬指、小指を締めるんだったか。

あと振り下ろしたあと手首が伸びえなきゃならない。


ラウルは全力で振り下ろした。

まっすぐに前だけを見て。


ガタガタガタガタッカタカタ。


振り下ろした瞬間木刀を中心に風切り音がし道場をわずかに揺らしていた。


未だに僕は状況を把握できていなかった。

初めての素振りで風切り音はすると思うが、建物を揺らせるほどの風を起こせるなんて。

でも、外で強風が吹いてたらがっかりだな。

瞬きを何度もするラウルのことを、静葉はやはりという顔で見ていた。


普通初めての素振りではまっすぐに振り下ろすことすら出来ない。

だが、ラウルはこの道場までも剣風だけで揺らせてみせた。

やはりリチャット家のあの人の孫である。

才能の塊だ…。

だが、その才能に浸らせている暇など与えない。

過信させてはいけない。

ラウルを一日でも速く成長させるためには。

静葉の瞳には双眸の光が宿っていた。


「ラウル、今のようなことは誰にでもできる。

だが、今の素振りは良かった。

褒めてやる。

毎回私が言ったことを意識しろ。

一つでもかけたら、素振りの意味がない。回数は朝稽古では500、夜寝る前に700やれ。

一週経つごとに100ずつ増やしていく。

全力で、だ。

お前はもう前にしか進めない。

後ろに下がっている暇などないことを肝に銘じろ!」

「押忍!」


「もう6時半だ。

今日の稽古はこれまで。

明日からはお前1人でやるんだ。

いいな?」


「押忍!ご指導ありがとうございます!」


静葉は道場に向かって一礼し出ていった。

僕は、もう一度素振りをしておくことにした。

あの感覚をもう一度味わいたかったのだ。

握手の手の形、傘、そうそう、あとは指の力加減。

振り上げ、木刀の底辺が頭のてっぺんと垂直になるように。

そして、振り下ろす。


ブォン。


先ほど以上に道場が揺れるが、これを連続で500、700回やるとなると極限まで集中するしかない。


一礼して道場を後にした。

あの二回だけでも、十分すぎるほどの汗が出た。

道場に取り付けられたシャワー室で汗を洗い流し、制服へと着替える。


どこかそのぎこちなさが気持ちよかった。

部屋で荷物をまとめ、食堂へと足を運ぶ。

まだ屋敷の中はわからない部分はあるが昨日の時点である程度は案内を受けていた。


もうすでに先輩は制服に着替え、席に座り僕を待ってくれていた。

「ラウルさん、遅いですわよ。」

「押忍!」

と反射的に言ってしまう。


先輩がクスクスと笑っていた。

鬼モードの方が印象がつよすぎてつい押忍、と言ってしまう。

「稽古以外では言わなくていいんですのよ。」

「わかってますよ…。口癖になりそうです。」

「ふふふ、一人称を俺に変えることは、稽古以外でもやってください。

またあの方たちに舐められてしまいますよ。」

「わかりました。頑張ってみます。」


これまた豪華な朝ご飯を食べ、先輩に許可をもらい木刀を袋にいれ車へと乗る。

未だ、この空間には慣れていない。


「そうでしたわ。

ラウルさん、アカデミーで傍付きは主と共に行動することになっていますわ。」

「ということは、アルやリエラたちとは一緒ではないと?」

「その点については大丈夫ですわ。

在校生や新入生は皆同じ内容の講義を受けますわ。

ですが、新入生は知力テスト順ですが3名、49名、49名に別れ、在校生は昨年の学内順位順に三分割されますの。

私は上の100人に入っていますから問題なくアルベルクさんたちと行動できますわ。」


「静葉先輩、去年100以内だったんですか…。

すごいですね。

僕…、いや俺も頑張ればなれますかね…。」

「それは、ラウルさんの日々の頑張りによりますわ。」


車はアカデミーへと到着し、僕=俺は、先輩とゲートをくぐり中へと入って行く。

だが、妙に視線が向けられている気がする。はじめは生徒会長である先輩かと思ったが、自分にも向けられていることに気づく。小耳を立ててみると、

「あいつだよ、会長の傍付きになったって。」

「えー、なんかがっかり。もやしみたいじゃん。」

「でも、顔は可愛いよねー。」


周りから聞こえる言葉に動揺を隠しきれなかった。

小声で横で歩く先輩に聞く。

「静葉先輩、これどういうことなんですか?」

「どうもこうも、あなたが私の傍付きであることを噂しているだけですわ。」

「違くて。どうしてそのことを知っているんですか?」

「私が叔父上に頼んでアカデミーからの連絡網として流しただけですわ。」

「どうしてそんなことを!

お、

俺はなるべく目立たないように…。」

「ただでさえ、第2位のあなたが目立たないようにするのが無理なんですもの。

いっそ、みんなに知られてしまえばいじめの防止にもつながりますのよ。

そのためのことでもありましたのに…。」

「…、わかりました。

先輩は俺のためにしてくれたんですね。

なんか色々とありがとうございます。」

「どういたしましてですわ。

でも、常にラウルさんの行動や試合などは注目されていることに気をつけてください。」

「先輩やっぱり二重人格って…」

「行きますわよ。」


言い終わる前にスタスタと先に行ってしまう。俺は、追いかけて講堂のなかへと入っていった。


1番上の階にあるのが、俺たちが講義を受ける講義室だ。

扉を開けて中に入ると、昨日友達となったアルベルクとリエラがすでに登校していた。

だが、他の人は誰1人としていなかった。

「おはようございます。

アルベルクさん、リエラさん。」

「「おはようございます。」」


俺も続いた。

「アル、リエラ。おはよう。」

「「おはよう。」」


今日もみんな元気である。

リエラの隣に、先輩に挟まれるようにして座った。

「ラウル、聞いたぞ。

桐生先輩の傍付きになったんだろ?」


アル、やっぱりそれなのか。

「うん、いや、ああ。

昨日あの後傍付きとして選んでもらったんだ。

剣術も教えてもらえるし…本当嬉しいよ…。」

「大丈夫、ラウル。

あんた言葉とは逆に泣きそうよ。

もしかして、先輩の家に住んでるんじゃないでしょうね?」


うぐっ。


これを言ってしまっていいものか。

「そんなわけ…」

「そうですわ。

昨日からラウルさんは私の屋敷に住んでますの。」

あまりの衝撃発言にアルが飛び上がる。

リエラも口を手にあてていた。

「なんだって!?

先輩の屋敷で一緒に暮らしてるだと。

ラウル、その、どうだ先輩は?」

「アル、それどういう意味だ?

とにかく、先輩は本当にすごい人だったよ。

あんなに熱い人だったなんて知らなかった。

それに、あんな快感を味わせてくれたんだよ!」

「あ、熱いって何よ!?」

「あんな快感とはなんだ!?」

「「まさか…。」」

と言って2人は先輩を見る。


「ふふっ。

教えるのには苦労しましたが、あそこまですごいとは…。」

「えっ、静葉先輩。

あのぐらいは普通だって言ってたじゃないですか。」

「私も言いましたわ。

ツンデレになるって。

いじめたくなったのですわ。」


2人は茫然として固まっていた。

「ラウルが、1日で遠い人になったみたいだ。」

「私もそう思うわ。」

「ちょっと2人ともどうしたの?

本当にすごいよ、先輩の剣術の指導は。

早く俺も先輩みたいになれるといいなぁ。」

「ラウルさんは私を近いうちに抜き去ってしまうかもしれませんわ。

ですが、油断して稽古を疎かにしてはいけませんわよ。」

「心得ております。」

「なんだ、剣術のことか…。」

「私たち馬鹿みたいじゃない…。」

ラウルは不思議な顔をしているが、静葉は心のそこから楽しんでいた。


「それにしても俺たち以外に誰もいませんね…。」

「あんた、一人称俺にしたの?」

「うん、先輩からの言いつけで。

どう?なんか変わる?」

「まだもやしのままね。」


ガーン。

項垂れる俺。

まあ、落ち込むよ。

「誰もいないのは当然といえば、当然なのですわ。

学内順位上位100人は私以外全て三年組ですから。」

「桐生先輩、100以内だったんですね。」

「すごいわ。」

「三年組っていうのは、つまり入学してから三年目ってことですか?」

「そうですわ。2年組は私だけですの。

三年組は、講義を受けなくてもいいことになってますの。

学内テストは、ほとんど剣術試合がメインですから。」

「なるほど、それでいないわけね。

ということは4人だけで講義受けるわけね。

なんか変な感じね。」


アカデミーのチャイムはなり教師が入ってくる。

簡単な自己紹介をした後、講義が始まった。

今日は剣術における基本動作についての説明だった。

剣術の基本動作は主に、防御、攻撃の二つ。

これは勝負ごとでは何においても同じことだ。

しかし、この二つの基本動作からの動作パターンは幾千通りもある。

防御でいうと、受けたり、流したり、カウンターのような返しもある。

そういう色んな要素がいくつもあり、それらが組み合わされたものが型というらしい。

リチャット流などの流派というものは、型の上位版と考えていいらしい。

それなら、講義は昼食をはさみながら午後にかけて続いた。


そして、現在午後4時半講義最後のコマであり5時には終わる。

俺がチラリと横をみると、2時間前から寝ふけっているリエラとアル。

まあ、2人はもう内容は知っていることだろうと安心する。


対して、先輩の方を向く。



天使がいました。

あの大和撫子が天使に化けました。先輩は長い睫毛を揺らぐことなく、目を閉じコクリコクリと首を傾けていた。

見ていたい気持ちもあるが、教師の視線がいたいので講義に集中。


残り15分を過ぎたところで、

「リチャットくん、僕もう終わっていいかな?」

と教師に言われた。


自分から講義を終わる教師があるか!と、言いたいところだが俺以外の3人はもう夢の中なので言えない…。

「すみません。明日もお願いします。」

教師は一礼すると、講義室を出ていった。


そして、俺は行動にでる。

金の腕輪には、実は無音のカメラ機能も内臓されている。


何撮るかって?天使の寝顔を、撮ります!

ついでにアルとリエラのも撮っておこう。

あとで見せた時の反応が楽しみだ。


無音カメラだが、バレないようにピントを合わせ写真を撮っていく。


そして、任務コンプリート。

いつから俺のなかで任務になっていたのかはわからないがいい記念になった。

毎日の記録として写真を撮るのも悪くないかもしれない。

保存されていることを確認し、3人を起こす。

起きた時の寝ぼけ顔ときたら…。

今日は天使を拝めました…!


アルとリエラに、挨拶してまた車に乗り先輩とともに帰る。

そして、毎回のように豪華なご飯を食べる。

素振りを700やるのは流石につらく、途中様子を見にきた鬼モードの先輩に速く素振りをするコツを教えてもらった。


浴場で汗を流し、体を癒す。

素振りだけでも、型や手首などご相当筋肉痛になった。

俺は悲鳴をあげる体をベッドへと投げ出し、何かを考える暇もないまま眠りに落ちていった。


これが、俺のアカデミーライフの始まりだ。

1番は剣術を学び始めたことが俺にとっての幸せだった。

でも、まさか僕から俺に一人称が変わることになるとは。

慣れるというか、それ以前に口調から変えないとおかしいので直すのに苦労した。



ラウル=リチャットは、小さな一歩でも確実に目標へと近づいている…。











これを期に、活動報告でも申しました通りしばらく筆を置きます。

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