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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
14/30

第11話 計画と初めての友達

第11話 計画と初めての友達




コツコツと講義室に響き渡り、近づいてくる靴音。


先ほどの演舞で見せた表情は消え、そこには天使のような微笑みしかなかった。

さらにその姿さえも可憐な少女へと変えている。

年齢は少なくともリエラよりは高く、おそらくは17、8歳のどちらかといったところ。

リエラと同じ制服を着用してはいるが、それが和服として見えてしまうほどに凛とした顔立ちが印象深い。

髪の色は闇のように黒く、光に反射したその艶やかさを長く伸ばし、先端は切り揃えられているのが特徴だ。

 大和撫子、その言葉が実によく当てはまる生徒会長である。


「ラウルさん、アルベルクさん、リエラさん。どうやらご案内が遅れてしまいましたわね。」


「あの俺たちは、謀られていたのではないんですか?」


「…?どういうことでしょう?

私が故意に行ったことではありませんわ。

大方生徒会が絡んでいることでしょう。

毎年新入生の上位の方に強くあたる在校生が多くいらっしゃるのですわ。

お気をつけくださいませ。」


「そ、そうなんですか。

いや、でも、桐生先輩、失礼な質問かもしれませんが演舞が終わってから何をされていたんですか?」


「もちろん、着替えですわ。

女性の着替えには時間がかかるものですわ。

そうですわね?リエラさん。」


「えっ、えっと、はい、そうです、ね。」


「それでは、参りましょう。

これ以上遅くなっては申し訳ありませんもの。」


静葉先輩は微笑みながら方向を変えて、歩き出す。

この状況の突然の収束に納得がいかない3人は反論しようとしたが、その大きな存在感に己の言葉を詰まらせた。

仕方なく重い足を持ち上げ後に続く。


その後何事もなく、先輩から各建物の説明を全て受け終わった。

あたりはもうにが日が落ちかかっていて周りには全く新入生は見当たらない。

おそらく案内の終着点であるゲートが見えてきたところで静葉先輩は1人足を止める。


「 今日はお疲れ様でした。

本当に遅れてしまってすみませんでしたわ。

アルベルクさんとリエラさんにはお話がありますので残っていただけますか?」

2人は振り返ると、自分の両手をじっと見下ろし、互いに見つめ合う。

何か気に触るようなことをやってしまったのか、と。


「じゃあな、ラウル。また明日」

「明日からよろしくね、ラウル。」

静葉先輩がお辞儀する。

彼らに手を振り返した。


僕は話し始める彼らを一度振り返りはしたが、ゲートへと歩き出した。


>>


1人別れた僕はゲートへと向かう足を止めていた。

夢のような時間が終わってしまったことに肩を落とすが、すぐに深呼吸する。

なんせ明日からは今日のような時間が毎日続くのである。

微笑む口元を手で覆いながら再び歩き始める。


しかし、また立ち止まる。


それはラウル自身による行動ではない。


今、目の前に現れた3人組が止めていた。

僕の身体中に衝撃が走る!


その3人組には見覚えがあるどころではない。

リトルスクール時代、3年間嫌でも顔を合わせることになった連中。


そうおなじみのいじめっ子集団である

どういうわけか、セントバルムアカデミーの制服を身に纏っている彼ら。


どうして彼らがこのアカデミーに?

リトルスクールでは僕が離任式を風邪で休んだことになってるからな。

またいじめるために来たのか…。

ここまで執念深いとは…。

でも、僕はもう前とは違う!


そんな彼らを前に動揺の色を出しながらも、僕は両手を丸めて拳を握る。



「ラウルー、久しぶりだな。

なんでここにいるんだ、って顔してるな。

俺たちから逃げられるとでも思ってたのか。ああっ?」

片足で地面をコツコツと叩きながらヒュース=ローデンファルスは僕を睨む。


大丈夫、落ち着け僕。

落ち着くんだ。

慎重に事を運べ、彼らの言葉に耳を貸すな。


そう、冷静に…。


返答にしないラウルに、好機かと思ったのか追撃をかける。


「ラウルくん、お前はバカみたいだから教えてやるよ。

僕たちはここに入学したのさ、お前を追いかけてね。

どう?嬉しい?」


相変わらず体格のよいウォル=リムが、彼らがここにいる理由を明かした。

どうせいつものように親の力でも使ったんだろうと、両眉を上げてみる。

大丈夫、彼らはもう僕にとって過去にすぎない。


今この瞬間を、僕のターニングポイントにする!


だが、殴られたり蹴られたりした感触が即座に蘇り体が震えた。


そんなラウルのいつもより静かな様子をみて、唾を地面に飛ばすライナス=ドルナントが


「調子乗ってんじゃねぇぞ。」

という言葉と共に、ラウルへと殴りかかろうとしていた。


僕は震えることなんてお構いなしに、その拳を受け止めようと守りの体制に入る。


<<


一方、ラウルと別れた、静葉を始めとする3人はゲートに1番近い庭に来ていた。

来るなり、静葉は身を屈めしばらく茂みの陰に隠れゲートの方向を見つめる。

それに合わせてアルベルクとリエラも以下同文。


もう帰っていてもおかしくはないはずのラウルが見覚えのない3人組と対峙していた。


「お二人とも、すみませんでしたわね。こんなところへ連れ出して。

お気づきになりましたか?」


「ラウルが誰かと話しているように見えますが?

それがどうかしたんですか?」


「リエラさんは?」

「はい 、あの3人組は確かアリーナで席順が99番、100番、101番の人たちですよね?」

「そうですわ。流石リエラさん。」

両手を合わせる静葉。


だが、すぐ目を細める。

「ラウル=リチャットさんと、あの3人の関係は、

いじめられる方といじめる方ですわ。」


アルベルクは驚く。

リエラは目を閉じ何かを思い出そうとしている。


「やっぱりそうだったのね。

ああいう表情には見覚えがあるのよ。」


「リエラさん、それは経験済みということですか?」


その問いにリエラは、

やっぱり講義室での会話は聞かれてたいの?

いや、今はそれどころじゃないわ。

と、頭を切り替える。

「ち、違いますよ。」

否定するリエラを見てアルベルクが笑っている。


「すると、ラウルはあの3人組にいじめられているってことか。

早速助けましょう。」


「最終的には助けていただくつもりですわ。

しかし、ラウルさんの現在の状況を教える前に、お二人のご真意を確認させていただかなくてなりませんの。」


静葉は今にも助けに行こうとするアルベルクを手で制す。


はっきりとした物言いで、その琥珀色の瞳に光を宿しながら2人を見る。


「「なんですか?」」


2人はすぐに静葉の様子に、事の重さを感じ取ったようでその視線を真っ直ぐに受け止めた。


「今後ラウルさんと、友達としてでも恋人としてでも構いません、仲良くしていただけますか?」


一瞬どうしてそんな事を聞くのだろうか、と思ったがそれほどの事なのだと再認識する。


「当たり前ですよ。

おふざけですが喧嘩したり、言い合いもしました。

もうラウルとは男の友情で結ばれてますから。」


「うわー、アル気持ち悪っ。

男の友情なのに、結ばれてるとかっ…。うわー。

…。

えっと、私はラウルとは何か縁を感じていたし、そ、そのっ、恋人?なんていうのは全く今は考えられないんですけど今日を通して3人での会話が楽しく感じられたので、仲良くやっていけると思います。

それにラウルに関しては嫌いになるところがありませんから。

だからって、好きってわけじゃないですよっ!」


その返答に微笑み返す静葉。

「そうですか、心配する必要はなかったという事ですわね。


…っ!!


すみませんが、詳しい話は後になりそうですわ。」

どうやらラウルの方に進展があったようだ。


すっかり話が盛られていたが、静葉の言葉に我にかえる2人。

見ると、ラウルに拳を握った3人組の1人がゆっくりと近づいていた。


「アルベルクさん頼みますわ。なんとしてでも彼らのいじめを止めてください。

暴力行使はいけませんわ。」


「わかりました。」


アルベルクは跳躍で茂みを飛び越え、物凄い足の速さで、ゲートにいるラウルの方へ駆け出す。

「間に合ってくれっ!」


>>



僕はもう下を向いたりしない。


彼らのいじめに真っ向から立ち向かうべく、両手を広げて威勢を見せる。


その様子をみてライナスが足を止めるはずもなく、いらつきが増し逆に足を速めた。


ライナスが右手の拳をふりかざす。

僕は両手で受け止めようと拳の軌道を図る。


しかし、喧嘩に不慣れな僕の作った両手の盾はいとも簡単に破壊されてしまった。

そして、視界が埋め尽くされ、拳が僕の顔面を捕らえようとしたその瞬間、拳と顔面との間に何かが、いや誰かが立ち塞がった。


その誰か、の勢いは地面の砂を巻き上げるだけにとどまらず、視界を奪っていく。


両手で防げなかったので、殴られることを覚悟していたし、どうせなら真っ直ぐに前を向いてやろうと思っていたのだが。

一体誰なのだろうか。

徐々に視界が晴れ、その人影を確認する。

アルだった。

ラウルに背中を向けているが、横顔の険しさから相当怒っているようにみえた。

両手で拳をを作り、前を見据えていた。


どうしてアルがここに?

さらに近づいてくる人物がいた。

リエラまで…。それに静葉先輩も!?

一体どういう事なの?

また助けられちゃったのか僕は…。


対するライナスは、砂が目に入ったのが予想以上の痛みだったのか

「目がー、目が〜。」

同じみのセリフと共に、地面でのたうち回っている。


そんな相手の様子を気にすることもなく、アルは見たことがないくらい眼光を放ち3人組を睨みつける。


だが、流石3年間僕を痛めつけていただけはあるいじめっ子集団は負けじと睨み返す。

ライナスが立ち上がる。


「君たち、俺の友達に何しようとしてるんだ?」

アルの言葉は聞いたことがないくらい重みのある言葉を放つ。


「うるせぇ。お前がコイツと友達だろうが関係ねぇんだよ。

コイツが誰だか分かってんのか?」


「君たちには、関係ないかもしれないが俺には関係ある。

いじめもラウルのこともな。」


「はぁあ?屁理屈こいてんじゃねぇぞ。

こっちはお前のせいでイライラしてんだよ。」


「それに、コイツはリチャット家の恥晒しだからな。」


今1番みんなには聞かれたくない言葉だった。


「何を言っている?

他の家庭の何を言えるんだ?


親にしかすがれない君たちに!


ラウル=リチャットの何がわかるっていうんだ。」


アルのなかで、何かのスイッチが入ってしまったようだ。


「へっ、親にすがるのだって有効な手段なんだよ。

お前もいじめて欲しいのか?

あぁん?」


「おい、ヒュースまずいって。

コイツ知力テスト一位のやつだよ。

確か剣術について馬鹿みたいに話してた、あっ、そうそうアルベルク=エリオット。」


ライナスはこの状況の最終的な局面を予想したとばかりに不安になっていた。


「おいおい、ウォルまさかビビってんのか?

おいっ、お前ハルベルクだかアルベルンだか知らねぇが、自分の家が名家だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ。」


エリオット家は無知なヒュースでさえ知っているほど有名だ。

アルの態度が急変する。


「俺の家が名家だと知っているとは思わなかったよ。

どうせ裏口入学でしか入れないほど脳なしかと思っていたんだ。

悪かったな。」


「・・・ああ、確かに俺たち3人は裏口入学だがよぉ、お前みたいなクソ貴族の出じゃねぇんだよ。

あんまり怒らせると親父に言いつけるぞ。」


素直に認める彼ら。

そんな彼らを見てアルは顔を手で覆い笑い出す。

「そうか、ハッハハ。

流石に脳なしとは俺も情けをかけすぎたみたいだな。

君たちは雑種以下だ。

誇り高きリチャット家を侮辱し、ましてや我がエリオット家まで…。

今日お前たちの帰る家はないと思え。

さて、その前に力の差を見せた方がよさそうだな。」


「はぁあ?何言ってんだ、テメェ。」

脳なしという言葉に反応したのか、雑種以下という言葉に反応したのか知らないがキレるヒュース。


アルがポケットからスマホを取り出し、どこかにかける。

「あぁ、俺だ。

アルベルクだ。

至急アカデミーに急行しろ。事件沙汰になったらまずい、城の厄介にはなりたくないから手伝ってくれ。

今回は男3人だ。

ん?あぁ、大丈夫。


前回ほどひどくはやらないから。


あと今からいう名前の家を潰してくれ。

ああ、抵抗されても構わずにやっていい。それと・・・」


アル、それは流石に大変なことになるんじゃ、と思っているとそれを読んだのかとばかりに彼は一瞬後ろを見てニヤリと笑う。

おそらく今頃リエラが、

あの顔は、安心しろ、俺に任せとけって顔ね。

と思っているだろうが、

その顔が何を意味するかは流石に僕にも分かった。


「ヒュースマジでヤバそうだぞっ!」

流石のいじめっ子集団も、動揺の色を隠せない。


「あぁ、くっそ。お、おいっお前っ!」

苦しみながらも、どうやらアルに屈するようだ。


「お前、だって?今、電話中なんだが。」


「ア、アルベルク!俺たちが、、悪かった。

ラウルには心から謝るよ。

この通りだ。」

3人がバラバラに礼を僕にするが、その程度で3年間の傷が拭いされるわけがない。


「あぁ、そう。

だが、俺はやると決めたからにはやる。」


「なんだよっ!、謝ったじゃねぇか。」


謝れば許してもらえるとでも思っていたのだろうか?

無性に腹がたつ。

だが、アルがかわりに言葉にしてくれた。

アルは彼らを指差しこう言い放った。

「男なら土下座してラウルに謝れ!


そして、今後一切俺たちに関わるな。


親頼みでも敵わないということが分かっただろ?

いいか、最後のチャンスだからな。」


破壊力は抜群だった。

3人はその悔しさ苦しみながらも足をたたんでいく。

流石にそこまではやらせなくてはいいのではないかと思い、アルへと近付こうとするが手で制される。

ここにはアルに任せよう。


「くっそっ。くっそっ、

くっそぉーー。


ラ、ラウル。

ぐっ、

す、す、すい、

すいません、で、でし、た。


「チッ。

ア゛ア、ア。


す、すいません、でした。」


「うぅ、

ラウルくんごめんなさい…。」


そこには、僕に向かって嫌々ながらも土下座する3人の姿があった。


僕の足は勝手に動いていた。


今言わなくてどうする。

この際簡潔に彼らの記憶に焼きつきように言ってやる。


僕はヒュースの元に行き、立ち膝の体制を取るとネクタイを引っ張り胸ぐらを強引に引っ張った。

ボタンが数個外れるがそんなの気にしない。


ヒュースが抵抗しようと体をよじらせるが、そんなことは僕が許さない。

さらに力を強めると、ヒュースを睨みながら僕は言った。


「おい、ヒュース。

僕は確かにリチャット家の恥晒しかもしれない。

だけど、そんなことを言われるほど僕は落ちぶれちゃいないぞ。

なんでも親まかせの君たちが、それでも一端の男だっていうなら堂々と勝負しに来なよ。

僕はいつまでも弱いわけじゃない。」


いつもは抵抗する声しか出さないラウルが、自分の意見を言ったことに唖然とする3人。


だがすぐに、早くこの場から立ち去りたいのか、それとも本当に恐怖しているのか分からないが、何度もコクンコクンと頷いた。


そして、彼らは勢いよく立ち上がり勢いよく僕らを睨め付けると背中を向けて帰っていった。


彼らの顔を見れなかったのは残念だ。

見せないところをみると、余程悔しい顔をしているに違いない。

だが、これで彼らが諦めるとも思えない。


彼らが再び僕の前に立ち塞がる前に強くならなくちゃいけない。

いつまでも弱いわけじゃない、なんていう大口をたたいちゃったわけだし…。


僕は立ち上がり、後ろを振り返ると、ニヤリと笑うアル。


そして、ほっとしたような顔をするリエラと静葉先輩が見えた。


リエラが、ずかずかと歩み寄ってくる。

「ラウル、あんたね。

男なんだからいじめなんてはね返してやりなさいよっ。

そんなんだから、恥晒しだなんて言われるのよ。

このっ意気地無しっ。


最後にあんなこと言うぐらいだったら、あいつらの顔蹴っ飛ばすくらいはやりなさい!

とにかく、ラウルは剣術が使えるんだから。

試合になったらズタズタにするのよ。」


リエラが僕の胸ぐらを掴んで前後に激しく揺らす。

なんかいじめっ子集団のいじめよりも、リエラの言葉がグサグサ刺さるのは気のせい、…なのか?


あっ、そんなに揺らすと気分が悪く…。

「リエラさん、ラウルさんが…。」


「えっ、はっ!!。ちょっとラウル大丈夫?」


いきなり手を離すので地面に尻をついた。痛い。


「でも、僕のためにありがとうね、リエラ。」


「何言ってんの。

そんなんじゃないわよ。

ウジウジしてる男なんだからは嫌いなだけっ。」

とプイっと顔を背けてしまう

「ラウル、俺は君の発言には驚いたよ。

あんなに力強い言えるなんて知らなかった。

君の物腰を見て感じたんだけど、やっぱり剣術は…。」


「アル、色々言ってくれてありがとう。

キャラ崩壊したのは驚いたよ。


そう、僕は剣術を何1つ学んでいないんだ。」


「あのキャラ崩壊は演技だよ。

あれぐらいやらないといじめなんて終わらないと思ってな。

そっかー。

剛の剣術とは、手合わせして見たかったんだけどな。

理由は聞かないことにするよ。


だけど、俺とリエラはもう君の友達なんだからな。

心配なんてかけまくってもらって構わない。」


友達…。

その単語を聞いただけで僕のモヤモヤした心の中は、一瞬突風により空っぽになるが一気にメラメラと炎が灯ったような気がした。


「そろそろ、よろしいかしら?」


僕たちは静葉先輩へと向き直る。

「ラウルさん、リエラさん、アルさん講義室ではすみませんでしたわ。

幸運にもラウルさんが誰かと話しているのを見かけたましたので、しばらく観察させてもらいましたの。

ラウルさんをいじめから救ってくれるのに相応しい人たちなのか、を。

そして、私の目に狂いはありませんでしたわ。

お二人とも本当にありがとうございますわ。」

と深々と頭を下げる先輩。


「いえいえ、顔を上げてください。

頼まれてなくても、俺はラウルを助けていましたから。」

「私も同じです。」


嬉しかった。

アルやリエラ、静葉先輩が、僕を助けてくれたこと。

たとえ頼まれていたとしても…。


でも。1つ気になることがある。

「静葉先輩、1つ聞いてもいいですか?」


「?、何でしょうか?」


「どうして僕がいじめられていることを知っていたんですか?」


「それもそうね。

私たちに伝えようとしてた詳しい話とは何だったんですか?」


「それはですねー。

端的に申しますと学長に頼まれたからですわ。

これが詳しい話の内容ですの。

実は学長は私の叔父上にあたりますのよ。

学長がどこで知ったかは分かりませんわ。」


「そうですか。

おそらく…僕の遠い親戚の方が言ってくれたんだと思います。

学長とは知り合いだと言っていたので。」


「そうですか、叔父上と知り合いとは…興味がありますね。」


「流石リチャット家だな。」


「そうね。

私も剣術の家に生まれたかったわ。」


シンリィさんごめんなさい。

流石に姉とは言えません。


ん? って待てよ。


そういや時間…。


講堂に取り付けられている時計をみる。

固まる僕。


もう3時回ってるし!

あっ、早く連絡を。


バタバタ慌てる僕。


3人がそんなラウルのまわりが見えていない様子を見て呆れた顔をしていると不意にリエラの肩が叩かれる。


さっきまで誰もいなかったはずなのに、と3人が思って振り返ると、なんと学長がそこにいた。


隣には若い女性がいた。

歳は30歳前半ぐらいの黒髪ロング。


ラウルはようやく落ち着き、3人へと目を向けて固まる。

学長の隣にいる人物に視線がいく。


「シ、シンリィさん!?

どうしてここに?」


3人ははてなな顔をしてラウルをみる。

そして、女性は答えた。


「ラウルくーん?

私はいつから遠い親戚になったのかしら?

お姉さんでしょ、お・姉・さ・ん。」


「もしかして、聞いてたんですか?さっきの会話…。」


「ふふふ、誰のおかげでいじめがなくなったと思ってるのー?

ほんと連絡もよこさないで心配したんだから。

それで心配してきてみれば、遠い親戚なんていうワードが聞こえてきたのよ。

連絡はちゃんと寄越しなさい。

それと、友達に感謝するのよ。」


「ごめんなさい。

連絡できる状況じゃなくて。

でも、次からは連絡しますね。

友達には感謝しきれないくらいです。

シンリィさんありがとうございました!」


「うん、いい面構えになったわね。」


それから何やら話込み始めてしまうシンリィとラウル。


そんな様子を見ていた残りの人たちは、

「ホッホッホッ。

お前さんたちご苦労ご苦労。

静葉ちゃんもよくやってくれたのう。」

「いえ、叔父上。

滞りなく済ませることができました。」


「それで、あのラウルと話している方はどなたなんですか?」

アルベルクの質問に、リエラも興味津々の顔をする。


「ホッホッホッ。あの方はシンリィ=アズバルト様。アトネス城専門研究隊『アリオンの琴歌』の隊長をしておられる方じゃ。」


「アリオンの琴歌って言えば、昔電話とかスマホを発明したっていうすごい人たちじゃない。」


「リエラ、最近でもアリオンの琴歌は活躍しているんだ。

特に新兵器の開発が話題になったんだ。

そして、それを剣に…」


「はい、ストーップ!剣の話はしないで。

それにしても、どうしてシンリィさんがラウルのお姉さんなのよ。」


「俺が思うに、イケない関係とか。」

「あんたはもう黙ってなさい!」


リエラはアルベルクに回し蹴りを放つ。

遠心力と体重が加わり風切り音までする強烈な蹴りはアルベルクの腹にめり込もうとするが、ひらりとかわされてしまう。

「リエラ、威力は十分そうだけど動きが遅いよ。」

「ふんっ。」


そこにラウルとシンリィが近づいてくる。

随分と明るい表情になっていた。

ラウルにとってシンリィの存在は余程大きい存在だと理解した2人は、シンリィが姉である件について別に無理に聞くようなことではないのかも、と思っていた。


シンリィさんは2人の顔を見比べると、頭を下げる。


「アルベルク=エリオットくん、リエラ=ドレッドさん。ラウルをこれからよろしくね。」


「は、はい。任せてください。」

「こちらこそ。」

とアル、リエラは緊張しながら返す。


「学長と桐生静葉さん、助かったわ。」


「いえ、私は叔父上の頼みを成しただけですの。

それでも、あなた方新入生3名の会話には楽しませてもらいましたわ。」


「ホッホッホッ。

シンリィ様の頼みとあっては断れませんからのぅ。」


どこまでシンリィさんには権利があるのだろうか。

底が知れないのは確かではあるが…。


僕もシンリィさんに合わせて礼をする。


「さてと、ラウルくん、私学長と話があるんだけど、あなたにも関係があるから来てくれる?」


何だろうとは思ったが、どこかシンリィさんの表情が緩んでいた。


「わかりました。

ごめん、アル、リエラ今日はこの辺で。

本当にありがとう!」

急に友達が帰ってしまうと思うと、悲しくなる。


「いやいや、明日から毎日会うだろう…。

何そんな悲しい顔してるんだよ。

「そうよ、私たちは友達なんだから。

うわー。

ベタなセリフ言っちゃったわ。」


2人はさよならを言って帰っていった。

あたりはもう暗くなっている。


「それでは学長室へ参りましょう。」

静葉先輩の手招きのままに移動した。


<<




「ラウルくん、アカデミーはどう?」

「そうですね、明日から楽しみです。

それにしても、アルとリエラが僕の友達なんて夢見たいですね。」

「ラウルくん、アルベルクくんって第1位らしいわね。」

「そうですよ。下位神ラグタナっいう神の名前を知っているぐらい博識なんですよ。」

「っ!!!。わ、私も下位神ラグタナなんて聞いたことないわね……。どこで知ったのかしら……?」

「確かお父さんに聞いたって言ってましたよ。訪ねてきたらしくて『下位神ラグタナに、気をつけろ』って帰り際に言ってたとかって。」

「そ、そう。

(やっぱり、コピーは息子に接触していた。

そして、下位神ラグタナの名前まで下っ端が知っているということも分かった。

やはり再調査を検討して間違いなかったようね。

子供達を巻き込まないようにしなければ……。)」



学長室の中は、黒革を使ったソファが2つとその間にテーブルが。

その他に見事な彫刻模様があしらわれたデスクなど、お高いイメージが強かった。

奥のソファにシンリィさんと座り、対してソファに学長と静葉先輩が座る。


「ホッホッホッ。

では、話を始めようかの。

私の名前はゲルマ=ファルマン。

この子、静葉の叔父にあたる。」


「どうも、先ほどは…」


言いかけたところでゲルマさんにかぶりを振られる。


「ホッホッホッ。

そんな堅苦しい口調なんぞ使わんで良い。

私にはタメ口でも構わんくらいだ。」


「はぁ、そうですか。」


「叔父上、そのくらいにして話の本題に入りませんと。」


「そうであったな。

ラウルくん、君の現在の状況は聴いておる。

いじめのことも家庭のことも、もちろんヴェラフィムのこともである。」


驚いて、目を丸くしてシンリィをみる僕。


「大丈夫。

ゲルマは学長でもありながら、今も城の内務を担当している人だから。

それにヴェラフィムの古い友人でもあるわ。」


「ふむ、そういうことじゃ。

ちなみに静葉は私の秘書として手伝っておらっておる故、事の内容は把握しておる。」

静葉先輩が頷いた。


「それで、話と言うのは?」

ゲルマさんが、静葉先輩を目で促す。


静葉先輩は息を大きく吐くと、僕を見つめる。

そして、口を開いた。


「ラウルさん、私の傍付きになってくれないかしら?」





ハッ!?

ラグくん、なんかやらかしたのですかな?

それはさておきもうすこし展開を早くしたいと思っております。

いつものよーうに誤字脱字報告よろしくお願いいたします!

それでは、失敬!

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