第10話 くだらない会話こそ友情の証
只今、作者は三人称単視点の文を練習しております。これから舞台がどんどん広がっていくため人称を変更するのですな…。
第10話 くだらない会話こそ友情の証
僕は今、ある人物と対面している。
アルベルク=エリオットさん。
すごい、彼が第一位の人物か。
その端正な顔立ちは女子から人気がありそうだ。
それにエリオット家といえば、あの美の剣術の名家だよな…。
こういう人って1番話すの緊張するんだ。
でも、リエラのおかげで大分慣れて来たかもしれない。
「僕はラウル=リチャット。
よろしく。」
「ということは、同じ剣術の名家じゃないか。
すごい巡り合わせだ。
剣術はどこまで習った?
俺は…」
「ちょっとアル、あんたの剣術バカ話は長すぎるからやめなさいよっ!」
あの怒りっぽい性格のリエラが言うのだ、相当長そうだ。
ここは彼女に感謝である。
「悪い、リエラ、ラウルくん。
つい興奮しちゃってさ。
「2人は知り合い?」
「そう。
同じリトルスクールだったの。
こんなのと一緒に3年間もいたんだから。
毎回テストで2位しかとれない私の気持ちわかる?」
僕に訊いてきた。
「…。」
答えづらい。
リトルスクール時代、いじめられてはいたが学年の順位は常に1位をキープしていたからである。
「しょうがないだろ。
気づいたら、いつも1位とっちゃってるんだから。」
ムキーという顔をするリエラを無視しながら
「ラウルくん、ラウルと呼び捨てでも構わないか?
俺のことはアルとでも呼んでくれればいい。」
と話しかけてくれた。
「うん、大丈夫だよ。アル。これからよろしくお願いします。」
と言って手を差し出すが
「いやいや、タメ口でいいさ。」
と笑顔を作りながらも握手してもらえないので、
「…、アル、これからよろしく。」
というと手を握ってくれた。
それから、色々な話題について話したが、話題が尽きた時にアルがなんの話を始めたかはいうまでもないだろう。
そんなことをやっているうちに、入学式は始まった。
リトルスクールの時とほとんど変わらなかったが、唯一変わっていたのは新入生代表あいさつ。
ステージの壇上には、アルが立っていた。
「雪解け水が流れだし、ようやく春の訪れを感じさせる季節となりましたーーー」
と言う言葉から始まり、後半は予想していたとおり剣術の魅力について長々も話して終わった。
それはもう教師まで疲れさせるほどに。
どうやら、もう剣術を学んでいるらしい。
リチャット家とは大違いだ。
それにしても、彼は学長や生徒、教師が注目している中でどうして緊張せずにああも坦々と話せるのだろうか。
祖父の言う心の強さには、恐らくこういう時に緊張せずに話せる強さも含まれているに違いない。
僕の心の中で、アルが目標のようにも感じられたが、あの永遠とも言える語りグセは絶対にあり得ないと思っていた。
1時間という短いようで、長く感じられた入学式は終わり、新入生全員は講堂へと移動になった。
あの円柱もどきの建物だ。
生徒が列も組まずぞろぞろとアリーナを出て行く。
このアカデミーは色々な意味で自由らしい。
だが、制服はある。
在校生との違いはネクタイピンの色で新入生はネクタイピンが赤色、在校生は黄色ということになっている。
移動を始める新入生たちに合わせて、僕はアル、リエラと話しながらアリーナを出る。
移動中、アルにさっき疑問に思ったことを聞いた。
「ア、アル。ちょっと聞いてもいいですか?。」
だが、
「その口調は禁止だ。」
と指を立てて言うので、
「アル、聞きたいことがあるんだけど…。」
と言うと、オーケーサインが出た。
「なんだ?」
とリエラと揃って不思議そうな顔を自分に向ける。
「さっき言ってた、[カイ神 ラグタナ]ってどこで知ったの?
テスト後に調べてもどこにも載ってなくて。」
「それ私も気になってたのよ。」とリエラも加わる。
「へぇー、載ってないほど難しい問題だったのか。
カイは、下に位ってかいて下位。
これは父さんが教えてくれたんだ。
あれはテスト前日の3月4日だったかな。
こっちに受験に来てた俺のところに、父さんが
『仕事のついでだ。』
って言って寄っていったんだ。
その時、帰り際に突然
『下位神ラグタナだ、気をつけておけ。』
なんて怖い口調で言うもんだから、驚いてさ。
その下位神ラグタナについて聞いたら、俺たちが住んでるこの世界を作ってくれた神様だって教えてくれたんだ。
だから、父さんから聞いたとしか…。」
「ううん、それで十分だよ。
下位神ラグタナかぁ。
アルのお父さんは博識なんだね。」
「そうか。
ありがとう。
でも、剣術の知識の方がすごいぞ。例えば、 …。
「はいはい、ストーップ。アルいい加減しなさいよ。
いっつも剣術の話に持って行くんだから。
それにしても、アルがもしお父さんから教えてもらってなかったら私たち同率1位だったのにね。」
今まで2位しか取れなかったことは、本当に辛いことだったようだ。
あとは自分のことはあまり話さず、アルやリエラの話ばかり訊いていた。
この2人とは気が合いそうだ。仲の良い友達になれたら嬉しいなと思った。
>>
講堂に着き、一階の第一講義室には入る。
完全に周りに角がなく真円であることには驚いた。
何かの書物でみた、大学という教育施設の資料でみたのと同じような空間が室内には広がっていた。
長い曲線を描く机に、アル、僕、リエラの順に詰めて三人で座る。
女子の隣に座るのも初めての経験だった。
それ故にモジモジしていたらリエラに
「キモい!」
と一喝された。
それを見てアルが笑っていた。
これが友達というものだろうか。
初めての感覚に心が高鳴っていた。
今後の講義についての説明が終わった。
それから、在校生との顔合わせが行われた。
生徒会の人たちが司会を始める。
「在校生のみなさん、ご入学おめでとうごさいます!
入学したそうそう申し訳ありませんが、3月の学内テストでは負けませんのでどうかよろしくお願いします。
さて、それでは本アカデミー伝統の応援演舞から始めたいと思います。
応援団お願いします!」
新入生は最低でも2年間の在籍が認められているが、学内テストは受けることになっている。
1年目で卒業できないからといって手を抜かずに全力でぶつかって来い、といった感じだろう。
そんな生徒会の言葉に生徒会ではない在校生から非難のヤジが飛ぶ。
まあ、そうなるだろうな。
「応援団と言えば、確か生徒会会長が団長じゃなかった?」
とリエラが言い出した。
「そうなの?」
「俺に説明させてくれ。」
と身を乗り出しリエラに懇願するアル。
「わかったわよ。どうぞ、どうぞ。」
と手を差し出す。
そう言っていたら、応援団が出てきた。
団長は…、っと、あの人か。
すごい存在感を放っている。
あれ、長ランを着てるけれど女の子だよな。
「おっ、ラウル。
気づいたみたいだな。
あの人は現生徒会会長であり、応援団長でもある桐生静葉さんだ。
おかしな名前だと思うかもしれないが、王国外出身でそこの一族の一人娘らしい。」
「あんた、よくそこまで知ってるわね。知ってたとしても名前ぐらいだと思ってたわ。」
「朝、新入生を隠れて撮っていた、自作新聞を作っているという在校生から聞いた話だ。」
「そ、そうなんだ。
そろそろ始まるみたいだよ。」
団長の高い声が講義室内に響く。
ビブラートを効かせ、太鼓の音に合わせながら僕たちにエールを送るところから演舞は始まった。
始めはただ見ていた新入生だったが、次第に演舞が盛り上がってくると拍手をして太鼓の音に合わせた。
この空間に僕もいるんだと思うとなんだが胸が熱くなった。
汗を滴らせながら、キレのある演舞を披露する応援団。
見るものは自然とその世界へと吸い込まれていった。
気づいた時は割れんばかりの拍手が起こっていた。
本当に素晴らしかった。
応援団の演舞が終わり、生徒会から年間スケジュールの説明をされた。
9月にはセントバルムフェスタ、11月にはアカデミー対抗闘技大会などが行われるらしい。
そして、学校案内の時間になった。
新入生3名に対し、在校生1名が担当しアカデミー内を案内するらしいが、なぜか僕たちの前には誰も来てくれない。
そのまま時間は流れ、講堂からは皆がぞろぞろと出ていってしまい、生徒会の人たちまでも僕たちを見てニヤケながらが退室し僕たちだけが取り残される。
この状況に固まり、近くで雪風が吹く始末だったが、1番硬直から戻ったのはリエラだった。
「ちょっと、あんたたちいつまでもこの状況に固まってる場合じゃないわよ!」
「おぉ、そうだな。」「そうだね。」
アルと僕が遅れて、ピシリという音は立たないが硬直から解放される。
「それで、どうして僕たちには誰も先輩が来ないの?」
「俺が思うに、在校生の数が足りなかったと見る。
実は今日は在校生のほとんどが休んだとかで…それで、」
「はい、ストーップ。アルあんたは全く周りを見てないわね。
明らかに生徒会の人たち私たちを見て笑って出ていったのよ。あれは何か企んでる顔よ。」
「そうか、リエラの経験談なんて俺聞いてないぞ。」
「経験談じゃないわよっ!。」
本当に仲の良い2人だ。
「ラウル、あんたはどう思う?」
突然話をふられたが、
「うーん、そうだね。
新入生は入学式での席の番号ごと先輩達に連れていかれていたし…。
それにさっき僕たちに1番近くにいた男の先輩は、僕たちが近くにいるにも関わらず違う新入生を連れて行った。
それってつまり…。」
最後まで言い終わる前にアルが続きを話そうとする。
その顔は自信に満ち溢れていた。
「あらかじめ先輩たちは、担当する新入生が決まっていたってことか。
となると分かったぞ!
俺たちの担当する先輩は今日は休みなのか。」
僕とリエラは石になり崩れる。
もちもん、例えだが。
「アル、あんた本当に1位なの?
本当に休んでいたら、あの生徒会のニヤケ面をどう説明するの?」
その説明には僕が答えた。
「そうか!あれは、憐れみの視線を僕たちに送っていただけでしょ?お前たちは実は担当する先輩はいませんよーって。」
ズコッ。今度はアル、リエラが崩れる。
何かおかしなことを言っただろうか。
「ラウルくん、俺は君が第2位とは思えなくなってきたぜ。」
アルベルクの挑発的な態度に、ラウルの心に火がつく。
たまらず言い返す。
「へぇー、アルベルクくん、奇遇ですね、僕もですよ。あなたが第1位とは思えなくなってきました。」
アルベルクは思う。
ラウル、いい根性してるじゃないか、と。
2人は向き合い、互いの視線をぶち当てる。
見かねたリエラがため息をつきながら止めに入る。
「あんたたちっ、やめなさい。
分かったわ。
もう私が1位って思えばいいのよ。
そんなどうでもいいことより…」
「「どうでもよくないっ!!!」」
2人が口を揃えて、リエラに言い返す。
最後に2人に油を注いだのは、リエラだった。
一体何にそんなに熱くなっているのかとハテナな様子のリエラ。
そう、これは男と男の戦い。
だが、リエラの言葉によりそれは早々と終わりを告げる。
「とにかく、あんたたちは、発言禁止。
私の推測をまず聞きなさいよ。
実は私記憶力はいい方なの。
アルは知っていると思うけど。」
目つきが変わったリエラが話す言葉は一言一言が鉄槌のように2人へとのしかかり、その熱を吸収していった。
アルが仕方ないという顔をしてひとことも話さず無言で頷く。
「それで、無意識のうちに講義室内にいた人を、全員記憶しちゃったのよ。
本当に困るぐらいの記憶力なんだけど、今回は役に立ったわ。
私たち新入生がこの講義室に入ってから、多少同一人物の出入りはあったものの、私たち以外にまだ1人退室していない先輩がいるわ。
どうこれで分かったでしょう?
発言いいわよ。」
リエラの記憶力は、空間認識能力が高いことから生まれたものらしい。
そんなことをアルベルクが頭の中で考えていると、ラウルが先にハッとしたように顔を上げる。
どうやらわかった様子である。
「そっか。
さっき、セントバルムフェスタの説明で床が抜けて落ちていった着ぐるみの中の人が、先輩…、な訳ないですよねー。」
リエラの顔を見て的外れな答えであることを悟ったラウルは言葉を濁す。
「もういい。私が言う。」
アルベルクが何か言いたげな表情で、リエラを見つめるが、その視線は彼女の手によって払われる。
「生徒会長の桐生静葉先輩よ。
あの人だけまだこの講義室から出ていない。
出てこないのはどういうわけかは知らないけど…。
おそらく、私たちのことを試しているんでしょうね。
実は着ぐるみの中身が先輩であることは考えたんだけど、それだとあの生徒会のニヤケ顔が説明できない。
それなら、もう担当は会長だってすぐに分かるでしょ。」
感嘆の意を表明し、どこか面白くないような顔をして拍手を送る男子勢。
だが、そのやりとりの中で男2人には確かな友情が生まれたのでないだろうか。
するとその拍手に便乗しながら、同様に拍手をして近づいてくる人物がいた。
そう彼女である。
先程まで気力のこもった声を張り上げ、キレのある動きによって、新入生、いや在校生の視線までも釘付けにした華のある応援団団長であり、本アカデミーの生徒会会長でもある桐生静葉だった。
静葉はどこか明るい笑みを浮かべ、ラウルたち3人の元へと近づくのだった。
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