表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
11/30

第8話 未だ掴めぬ影

第8話 未だ掴めぬ影




アトネス城、3階の西の一角にそれは所を構えている。


[王立研究所 ヴァルナ支部 アリオンの琴歌]


と書かれた看板がかけられた一室である。

その部屋は割と広い。

もうすでに日が落ちかかり、部屋の窓から夕焼けの光が差し込む。


研究員計9名が所属しているはずだが、今は何かの研究に追われているのか部屋の中には1人の女性しかいなかった。


背中のあたりまで伸びきった黒い髪を揺らし、その青く澄み切った目を動かしながら、


シンリィ=アズバルトは1枚の紙に目の焦点を合わせていた。

そして、その顔をしかめさせる。


ヴェラフィム=リチャットを含む計10名が殺害された、マットレス大聖堂会談事件。

これはその報告書である。



昨日のうちに、子供黒装束が、私の予想通り男が監禁されているところを発見し取調べた。

長い時間の監禁に男はやつれていた。

もう何日も物を口にしていないのかもしれない。


監禁場所は、大聖堂の会議室のトイレの中だった。

どうやら、ムコウの連中が私たちの現場調査終了を見かねてトイレに入れたのだろう。

やはり、どの監視カメラにも誰も映っておらず、またどのセンサーも反応しなかった。

機械等は全て故障しておらず、正常だった。

例の反応も感知できなかったということなので、ますますが謎が深まるばかり。


一旦報告書から顔を上げ、天を仰いだ。


監禁されていた男の名は、イルーク=エリオット。


顔を見てピンときた。

エリオット家の二代目当主である。

確か、ラウルと同い年の倅がいたはず。

何度か都市間会談で面会したことがあるはずだ。


エリオット家は確か花の都と呼ばれる都市ザッツレイの剣の名家。

リチャット家の剣術は古風であり剛の形だと言われているが、対してエリオット家のそれは新風であり、美の形だと言われている。


予定通り黒装束の3人に、イルークに接触した人物を調べてもらったがイルークの記憶はここ2週間の記憶がないという。


私も流石に今回も尻尾をつかめるだろうと思っていたのだが、案の定ムコウの連中はやすやすと証拠は残してくれない。


椅子から立ち上がり、飲みかけのコーヒーに口をつける。

コーヒー豆の奥深い香りが鼻腔をくすぐる。

取調べで最後にイルークはこんなことを話した。


会談の前に、受験のために中央都市に来ていた息子と数日過ごすため3月1日に屋敷を出たという。

だが、屋敷を出てからの記憶がなく、息子に会ったかどうかさえ覚えていないらしい。


私は思ったのだ。それなら、と。

彼の息子は父の来訪をあらかじめ伝えられたいたそうだ。

それならもしかしたらコピーされたイルークと接触している可能性がある。


どうやらまだ諦めなくてすみそうだ。


コーヒーを片手に、夕焼け空を眺める。

その光は彼女の顔を照らしているが、対照的に心がかげる。


ムコウの連中がこういった事件を起こすのは、5年前研究職についてから、約20回にまで及ぶ。

そして、毎回ターゲットがコピーされ、元の人間が犯人扱いされるが事件前の記憶がないケースが続いていた。


現段階ではムコウの連中に出来て私たちにできないことが多いすぎる。


1つはコチラへの移動。

私たちは行う術もないし、その原理も知らない。

故に未知の領域である。

ただ話を聞いただけでは、頭を悩ませるだけだった。

何らかの手段を持っていることは確かだがそれが分からない以上、この連続事件を解決することはできない。


もう1つは、例の反応。

どうしてコチラでアレを行使できるのが不明だ。

今更悔やんでももう遅い。

ムコウには戻れないのだ。


急に昔のことが頭の中に、蘇ってくる。

眉間にシワを寄せ、目元を指でつまむ。

今回も証拠が見つかっていないが、手がかりはある。

イルーク=エリオットの倅アルベルク=エリオット。

どうやら、王立セントバルムアカデミーへの入学が決まったらしい。

接触するのは警戒されるかもしれないが、同年代のラウルに近づけさせてみようと思う。

危険がないとは言い切れないが、同じ人間やその周りの人間に関わらないのがムコウの連中の鉄則だと考えている。

だから、わざわざ手がかりを残すようなマネはしないはずだ。


ラウルに入学を進めたのがこんな形でつながることになるとは、思ってもいなかった。


シンリィは取り敢えず、今回は今までと同様の結果にならなかったことに安堵していた。


だが、事件に気を取られていると足元をすくわれる。


唇をキュッと結ぶ。


まだムコウの連中は下っ端みたいだから大丈夫だが、本体が来てコッチにまで被害が及んだら…。

いや、大丈夫。

ムコウにはバカ剣士の倅がいる。

大抵のことは任せてもいいはずだ。

とにかく、今は証拠を掴むしかない。


フーと息を吐きながら、窓に手をかけ 外を眺める。

ここからは城下町の様子がよく見える。

行き交う人々。

そして、彼らの笑顔。

私たちはこの平和を守らないと、シンリィは肩をすくめるのだった。


この平和が続くのも今だけかもしれない、ある起こりうるかもしれない何かに向けて対策を考えよう。


未だ掴めない、影。

私たちの代から続くこの因縁を早く断ち切らないと。


シンリィはもう一度息を吐くと、体の後ろで緩く手を組みながら研究所を後にするのだった。


誰もいなくなった研究所には、重い空気だけが残る。

窓にから入る風がその空気を後押ししていた。

すると、窓から1枚の木の葉が入ってくる。

その木の葉は微風に吹かれながら、一点の方向に進まずにひらりひらりと迷いながら静かに降り立った。



<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


今回は短くてすみません、と僕こと先導者のせんちゃんが作者に変わりましてお伝えします。


シンリィさんやヴェラ爺は何やらムコウの連中について、何か知っているようですが…。

それに、"ムコウ"とか"コッチ"ってどういう意味なんでしょうな。


えっ、ミルフェは知っているのかですって?

もちろん全てを見渡す魅惑の案内人先導者ですから、知っておりますとも!


僕をそんなに褒めないでくださいませ。

ふむ?褒めていない?

まあ、いいでしょう。


流石にお教えできませんよ。

教えたら、存在ごとあの方に消されてしまいます。


読者のみなさんは次回からのラウルくんの話を期待しましょう。

物語に終わりはないのです。

気長に待ちましょう!

それでは、失敬。








第12話あたりから、作者が書き方変えるらしいですっ。突然の変更すみません。

今後ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ