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下位神のワールドメーキング  作者: 文字trum
第1章 第一部
10/30

第7話 立ち上がる少年

やっぱり、僕に書き溜めるという選択肢はなかったみたいですw

それでは、第7話をどうぞ!、

第7話 立ち上がる少年


僕は、目を開ける。

周りに何もない真っ白な空間。


横には、祖父ヴェラフィム=リチャット。

後ろを振り返ると、僕を温かく見つめる両親と弟。

そして、その後ろにはリトルスクールの友達や教師たち、アトネス城のシンリィさんやアンクさん。


みんな笑顔で僕に笑いかけてくれる。



これが僕の理想。僕が見たい幻想。


僕がいくら望んでも、いくら強請っても手に入れることができないもの。


現実は甘くない。


自分が家族として扱われることのない、悲しみ。

教師がいるなかでも、いじめられ続けたリトルスクールでの3年間。

そして、僕のたった1人だけの大切な人の死。


これが現実。

これがこれまでのラウル=リチャットの人生だ。


僕は誰かに体を揺すられて、本当の意味で目が覚めた。

ゆっくりと瞼を持ち上げる。

たくさん泣いたせいで、目が痛い。

顔を上げ、その誰かを見つける。


シンリィさんだ。

祖父の知り合いであり、僕を気にかけてくれる数少ない人のうちの1人である。


シンリィさんは心配そうな顔で僕の顔をじっと見る。

「ラウルくん、落ち着いた?」


起きた直後なので、体が変な感じはするが、頷くことはできた。


「あなたまだ祝い品貰ってなかったんですって?」


どうしてそのことを知っているんだろう。

「はい、でも祖父が今日手渡してくれた弁当で満足しました。」


実際、いじめっ子グループに捨てられたことは言わなかったし言えなかった。


「そう。でもね、ヴェラフィムはちゃんとあなたに祝い品を用意してくれていたわ。」



「えっ?嘘っ、…。」

信じられなかった。

まさか祖父が両親に代わり祝い品を用意してくれていたとは…。

そう考えただけでも、あれだけ流したはずの涙がまた流れだす。


シンリィさんは、上着の大きなポケットから何かを取り出すと僕の手を取って乗せた。

片手の手のひらサイズの立方体の白い紙箱だった。

何も包装されていないところがどこか祖父を連想させる。


「さっき、アルクから受け取ったの。

ヴェラフィムが会談に行く前に『すぐ帰ってくるから、頼むのう』って言って強引預からせたらしいわ。

開けて見たらどう?。」


祖父はもしかしたらこうなることを覚悟していたのかもしれない。

でも、すぐに帰ってくるって言って全然帰ってこないじゃないか。

どうせなら直接、あの歯をギラギラさせた笑顔を見て、祖父の手から受け取りたかった。


シンリィの促しに応じ、白い紙箱に手をかける。

箱を開けて、中を覗くと金色に輝く腕輪とニ枚の二等分して折られた紙が入っていた。

ラウルは手紙だと思い、折られた紙を取り出し広げる。

そこには祖父の字でこう書いてあった。


「 ラウルよ、

リトルスクール卒業おめでとう。


わしはこういう水臭いことは実は好きではないが、可愛い孫には甘かったようじゃ。


祝い品は金色の腕輪じゃ。


男はギラギラ輝かんといかんからな。


わしの金歯と同じ色なのは勘弁してくれよ。

そして、ラウル。

お前は、もっと強くなれ。


肉体はわしのようにむきむきにならんでもいいが、心だけは揺らぐことのないぐらい強くなれ。

どんなことにも慎重に対応し、万人にその優しさを振りまいてあげるのじゃ。


さて、わしは、ラウルに謝らなければならんのぅ。

1つは、お前の両親と弟のこと。


もう1つは、いじめのことじゃ。


まず両親と弟についてじゃ。

ラウルは3人をよく思ってないかもしれん。

嫌いかもしれん。


じゃが、本当はあの3人はお前のことが好きなのじゃ。


ただ、接し方が分からず、またもし接したとしてラウルの成長を悪い方向へといざなってしまうのが怖いだけなのじゃよ。


受け入れづらいことかもしれん。


しかし、彼らはお前が話しかけてくれるのを待っておる。

無理して話しかけろとは言わん。


お前の好きして構わん。


次にいじめのことじゃ。

わしはラウルがいじめられているのを知っておった。

すまなかった。


じゃが、わしはラウルが何も話してこないことを、ラウルはいじめを自分の力で解決したのではないかと勘違いしてしまったのじゃ。

初めて血を流して帰ってきた時は、当然驚いた。


あのラウルが喧嘩したと思っていた。


バカなわしは、強い子になったのだと勘違いしてしまった。

本当にいじめだと気づいたのは最近じゃ。

今までいじめられていたことに気づかなかったわしは今日、本当にどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。


朝の階段での会話で、無理に笑顔を見せることしか出来んかった。


仮にいじめのことを言い出したとして、ラウルに許してもらえるのかどうか怖かったのじゃ。


そして、朝飯も食べずに行くラウルを見て、その弱り切った心を見て、どうしてわしは今まで気づくことが出来なかったのだろうと頭を抱えた。


ラウルわかるか?

これがわしの心の弱さじゃ。


本当にすまなかった。

許してくれるとは思わんが今後もこの老体と仲良くしてくれたら嬉しいのぅ。


この腕輪は完全防水、防火、防電じゃから、ずっと外さずとも問題はない。


ラウル、強い男になれ!


ヴェラ爺より 」


僕は二枚の手紙を箱へとしまい、目を閉じる。

すると祖父との思い出が脳裏に蘇る。


祖父は、いじめのことを勘違いしていたにしても僕のことを最後まで気にかけてくれていた。

いじめなき今となっては、それで十分だった。


強い男になれ…か。


それに両親たちのこと。

祖父はああ言ってくれたが、まだ向き合えそうにない。

それは僕が強い心を持ってからでも遅くはないと思った。

両親たちへの見方が変わっただけでも少し嬉しかった。


目を開け、箱の中から金色の腕輪を取り出す。

表面には何の加工もないが、素材は金でできているようだ。

そんなに重く感じない、不思議な腕輪。

腕輪を腕に通し、表面を触っていると腕輪の一部分に現在時刻が表示された。

再び触ると、時刻が消えることから、触れることで現在時刻を表示されること ができるらしい。

祖父からもらった金の腕輪。

しているだけで、なぜか自分の中から祖父が語りかけてくるような感じがして、なんだか嬉しかった。

完全防水、防火、防電であるらしいから外さずにつけておくことにした。


いつの間にか、少年の涙は自然と止まり、表情に明るさが戻っている。

まるで心の中に火がついたかのようで、笑顔を見せていた。


そんな彼の様子を見てシンリィは安心していた。


(ヴェラフィム、ラウルは大丈夫よ、あなたのことは許してくれると見たいよ。

今後の彼は私が見守るわ。)

心のなかで、遠く彼方のヴェラフィムに向かってそう語りかけると、シンリィもまた笑顔になるのだった。


シンリィは切り出した。

「ラウル、ちょっといい?」


「…はい。大丈夫です。」


腕輪から目を離し、彼女を見る。


「あなたがいじめを受けていることは今日ヴェラフィムから聞いて知ったわ。


そこで提案なんだけど、このまま地元のアカデミーに入学するとまたあなたがいじめられそうで心配なのよ。


だから、私が必ず入学手続きを取るから王立セントバルムアカデミーへ行きなさい。」


王立セントバルムアカデミーと言えば、この王国バルジネスタのなかで最も合格難易度が高く、高い知力が必要とされる。

雲の上のような人たちがいくアカデミーだと思っていた。


シンリィは単に僕が祖父の孫だから気にかけているだけかと思っていたが、祖父亡き今になっても心配してくれているのだ。

この好意に甘えることにした。


「わかりました。僕行きます。

でも、なぜそのアカデミーなんですか?

それにそこまで頭良くは…。」


とりあえず、お願いを聞いてくれたことにホッとするシンリィ。


そして、話を続けた。


「あのアカデミーは、実はアルクの出身アカデミーなのよ。

それに学長とは知り合いだから。

だから色々口利きできるし、剣術なんかの授業もあるらしいわ。

あそこなら、心身共に強くなれるから、これからのあなたには丁度いいと思うの。

確かに相当な知力を要するけど、ラウルの今の成績なら大丈夫だわ。」


剣術か。


ウチの家系は代々、剣術の名家と言うだけあって親に剣術を学んでいたらしい。

だが、今では弟ですら父親に剣術を習ってはいない。

当然それは僕も同じだが…。

大丈夫。

祖父と一緒なら、と腕輪を見つめる。


瞬間腕輪が輝いたように感じた。


「わかりました。

ご迷惑かけるかもしれませんがお願いします。」


とりあえず、今日はその話で終わった。

屋敷に帰る前にシンリィさんからリトルスクールに、僕が身内の事情で離任式に行けないことを伝えてくれた。


僕が普通の母親に産んでもらっていたならば、きっとシンリィさんみたいだったに違いない。

そう思いながら、屋敷帰った僕は長い一日を終えるのだった。




それからの僕は、一言で言えば大変だった。

祖父の葬式は、国家機密の漏洩を防ぐためとリチャット家合意のもと行われないことなった。


また卒業式から3日後シンリィさんとともに、アトネス城下町にある王立セントバルムアカデミーに行って入学手続きをし、新入生ランキングをつけるために知力テストを行ったりした。


その後に、新しい穴なんてどこにも空いていない制服一式を揃え、アカデミーに必要なものを揃えた。お金は全てシンリィさんが出してくれた。本当に感謝のしようがない。


それから約3週間近く経ち、今日はアカデミーの入学式。

あの日からの大きな話題と言えば、屋敷からアカデミーへは相当距離があるため、アカデミーの近くに住むシンリィさんの家にご厄介させてもらうことになったことだろう。


流石に年齢は離れているとはいえ、女性と一つ屋根の下というのは流石に身構えてしまった。


たまに僕がいることを忘れてお風呂上がりに下着姿で出てくるので男の僕は反応に困りただただモジモジしてしまう。

実に情けない。


とまぁ、こんな具合で僕の新しい生活も習慣となり始めている。


これからのアカデミーでの生活に向けて、剣術を、教えて欲しいとアンクさんにお願いした。


「ふふ、団長のお孫さんに教える日が来るとはな。」


と言ってくれたので期待したが、


「ラウルくん、君はまだ体ができていない。

ふふっ、このセリフ一度は言ってみたかったんだ。

おっと、体ができていないのは確かだぞ。

よし、入学式まで俺と筋トレ生活だ!」

とか言われた。


僕はどうやら筋力以前にスタミナがないらしく、筋トレ生活ではなくなった。


そして、ランニング地獄生活にグレードアップした。

一日中城内ランニングコースを走り続けるという内容。


アルクさんが

「ふっ、少年よ。

全て根性で乗り切れ。

全て全力疾走で走ってこーい!」


というので、全力で走ったところ城の一階部分4分の1を走っただけで倒れてしまった。

3週間経った今では、ようやく一階部分全てを一度に全力で走りきることに成功した。


しかし、僕が一階部分を走り終わるまでにアルクさんは城内を一周していた。

アルクさんの全力疾走が速いわけではない。

僕の足が遅すぎるのだ。

言ってしまうと一階のランニングコースはたったの800メートルしかない。

僕の運動神経の悪さが分かっただろうか。

結局今日まで剣を握ることもなく、ダンベルを持ち上げることもなく入学式の日になってしまった。


だが、心構えはきちんと出来ている。剣術は出来なかったとしても、鍛錬してできるようにすればいい。

周りの生徒たちはきっと僕よりすごい人たちばかり。

もしかしたら、またいじめにあうかもしれない。

でも、物事を慎重に見極めれば自ずと答えは見えてくるはずだ。


それが、祖父の言う、強い心をもつことに繋がることを信じて僕は突き進む。



西暦2316年 4月6日 王立セントバルムアカデミーの入学式


少年は新たな門出を迎えるのだった。


<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


どうも、ミルフェであります。


前回、前々回は気まずい内容でしたのでこの僕は珍しく登場を自重させてました。

話したいことはたくさんあるのですが、あのヴェラフィム様の会談事件はどうなったのでしょう。

気になりますね。


えっ?


ふむ。ふんふん。


えっ、次回は会談事件について!?



ラウルくんの新たな姿は次回のその次の回までお預けですか…。

でも、ムコウの連中について何かわかればいいですなー。

それでは、またの機会に。

では、失敬。





ミルフェが全部言いたいこと言っちゃったんですよ。

ですが、いつものように誤字脱字報告はお願いします!

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