たぶんそれだけで幸せ
小ネタ。アリアバートとザーリッシュ。
何を思い立ったのか、突然窓まで歩み寄るアリアバート。部屋には彼しかいない為、その行動を咎めるモノはいない。がちゃりと窓を開け放ち、そのまま勢いよく数回開閉させる。情け無い声と共に落ちていく数人の暗殺者を見て、彼はやれやれと肩を竦めた。
次に、がさごそと服の懐から小瓶を取り出す。ついでに、ライターも。その二つを持って部屋の中央に立ち、ニッコリと彼は微笑んだ。ただし、怖いくらいに綺麗なという形容がつく類の笑みで。キレた時とはまた違う、静かな怒りを秘めた笑顔である。
「ちなみにこの小瓶の中には簡易爆弾の燃料が入っている。意味が解るね?」
にこやかなその台詞に反応するように、壁が動いた。正確には、壁に張り付いて隠れていた暗殺者達が、だ。天井裏でも同様のことが起こっている。愛想笑いを浮かべながら出て行く暗殺者達を見て、彼は微笑んだ。さっさと出て行かないと殺されると彼等が思ったかどうかは知らないが、その逃げ足は速い。少なくとも、トカゲよりは早かった。
慌ただしい暗殺者駆除が終わった後に、扉が開く。一瞬の半分だけ表情を引き締めた彼は、すぐに笑みを浮かべた。そこにいたのは、ザーリッシュ。アリアバートの唯一の親友にして、直属の上司。ついでにいえば、貧乏な実家に変わって彼の学費を払ってくれた恩人でもある。呆れたような顔をした怜悧な美丈夫は、アリアバートの手にしたモノを見て眉間に皺を寄せた。
「アル、お前何をやっていたんだ?」
「ん?害虫駆除。」
「・・・・・・・害虫?」
「そう、害虫。どれだけ駆除してもわいてくるんだから、大変だよ。」
ニコニコと笑いながらいうアリアバート。言葉通りにとってはいないながらも、サラリと聞き流すザーリッシュ。つまりは、彼等にとってはこれが普通だというわけで。こういう遣り取りが、日常であった。
「気にしなくていいんだよ、ザーリッシュ。」
「・・・・・?」
「君に必要とされていることは、私にとって喜びなのだから。」
「そうか。」
珈琲でも飲むかいと、アリアバートはいつもの口調で問いかける。だからこそ、ザーリッシュもいつもの口調で呑むと答えるのだ。それがいつものカタチであるように。何もなかったかのように。ただ、そうやって。
互いが側にいて友人でいられることだけで、幸せなのだ。