リーダーと参謀閣下その4
小ネタ。バンとジーン。
傷の痛みを感じぬ程の怒りを、果たして何と呼べばいい?
殺してやる。左腕を爆発に奪われて隻腕になりながら、彼は思う。殺してやる。何があっても許さないと、そう誓う。殺してやる。世界の果てまで追いかけて、必ず殺すと決めた。
傍らで、彼の傷を案じる仲間たちの声がする。けれど、その声はどれも聞こえてはいなかった。彼にかばわれた二人の心配そうな声すらも。バンとリィの悲痛な声すら届かぬ程に、ジーンは怒っていた。
「バン、早く創造してやれ!」
「解ってる!解ってるが、……ッ、くそっ。」
「バン?!お前も怪我したのか?!」
「違う、怪我じゃなくて、これは…………ッ。」
強い何かに意識を乱される。それが一種の精神魔法だということをバンは知っていた。それでもそれを振り払い、精神を集中させて力を発動させる。傍らで隻腕になった『兄』の傷を癒すために。彼ら二人を庇って爆発を一身に引き受けたジーンのために。
すぐさま光に包まれて腕は再生し、皆がほっと安堵の息を吐く。ゆらりと、ジーンが立ち上がった。まとう気配が、人間のモノではなくなっている。強すぎる怒りと生命の危機を感じた時にだけ表れる、生存本能。それに躊躇うことなく従った今のジーンは、鬼神へと変貌し始めていた。
『ジーン、やめろ!』
「…………うるさい。」
「馬鹿なまねはよせ!その体でどうするつもりだ?!」
「さっさと帰るんだよ、このぼけ!」
「…………そこをどけ、二人とも。」
かろうじて残る自我で、ジーンはそういう。けれど二人も譲らない。ひたむきなそのまなざしに、おれたのはジーンの方だった。ゆっくりと力を抜いていき、すぐに彼の気配は人間のそれに戻る。瞬間、ぐらりとその体が揺らいだ。
あわてて支えた二人の腕の中で、ジーンは気絶していた。貧血を起こしていたのか、顔色が悪い。あわてて医療班を呼び寄せるバンの声に重なり、ジーンの名を呼び続けるリィの声が響いていた。
痛みさえ越える程の怒りは、大切な家族のため。




