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1.王都壊滅

 やがてオレのつまらない常識は国ごと焼き払われた。

 十四になり、親の仕事を覚え始めようかという頃、王都に一つの影が舞い降りた。

 伝説の如く、暗黒竜リュミエールを名乗るとてつもなく巨大な化け物は一夜にして王都を攻め滅ぼした。クラージュ村から見下ろせば、煌々と赤く燃え上がる地獄絵図と化した王都の有様はハッキリと目にすることができた。

 そしてクラージュ村へと攻め昇ろうとする、影の群れも――。

 襲撃を受けた村、影の軍団は問う。

「盾はどこに在る」

 見せしめに、教会の十字架に磔にされた父は威勢よく切り返した。

「此処に在る」

 斬首の間際まで、父は本当のことを言うことは無かった。既に盾が持ち出されていることを吐くことはなく、祠に在ることにしたのだ。

 この日を境に、世界各地に闇の僕が姿を垣間見せるようになる。跳梁跋扈する魔獣、そのありえない存在がいつしか当たり前になるほど月日が過ぎた。

 クラージュ村は闇の僕の支配下に置かれることになり、今なお祠の探索は行われていると伝え聞いていた。生き残りの家政婦に、父の最期を聞かれたのは一年後のことだった。

 先んじて、村の子供らと共にあるだけの財産を抱えて、俺は国境を越えて逃げ延びていた。南の隣国ルシェドに身を寄せ、俺は子供らと孤児院で暮らすことになる。

 郊外の孤児院は、幾度か散発的に、野良の魔獣に襲われることがあった。そのたび、騎士と共に戦いに赴き、どうにかこれまで戦い抜いてきた。

 ネムルが勇者だと告げ、本当に勇者として修練を積んでいることを知り、自分なりに得意の弓を磨いてきたおかげもある。

 それ以上に、ネムルに教わった魔法が大きかった。魔法の扱いには教養と素質が必要な上に、現在では世間一般に忘れ去られていた代物だった。魔法を扱えるのはごく一部の、秘儀を研究し続けてきた魔術師に限られていた。

 ごく自然と魔法を扱えるようになったというネムルに教わり、俺は必死に練習した。ようやく二年掛けて、軽い傷を治すことと鎌鼬を作り出すことができるようになった。自主的に勉学を重ねてもさして実力は伸びず、結局それっきり。

 それでも弓と魔法は大きくて、傷を治すことで幾度となく死地を脱することができた。他人をかばって死に掛け、無理やり魔法で身を起こし弓を引く。その繰り返しである。

 いつしか、俺は疾風の弓兵として知られるようになった。疾風の如く現れて風の刃で敵を薙ぎ、癒しの手で人を救う。そんなささやかな名声を得ていた。

 十七歳の頃、ついに闇の軍勢の一大攻勢によって国ごと孤児院は戦火に呑まれて潰えようとしていた。

 将軍たる虎頭の魔人が戦斧を振るい、長年付き添った騎士の首を刎ね飛ばした。懸命に弓を射ても鎧に刺さるだけ、魔人には通じず、抵抗虚しく俺は地に伏した。

 豪腕凄まじく、あっという間に利き腕を折られる。背を踏みにじられ、なぶり殺しにされようとしていた。

「おい……いつまで調子こいてやがる糞猫が……ぐ、がああああああぁ!! 」

 臓物がひしゃげてしまいそうだった。確実に肋骨くらい逝ってる。胴に掌を押し当て、癒しの魔法で相殺するが追いつかない。この重さを払いのける術もない。一か八か、風の刃を試そうとした。掌に魔力を込め、魔人の頭に狙いを――。

「ナニモノダ、キサマ」

 首は動かない。しかし言葉で解かる。救援が、魔人が驚くほどの何かが訪れたのだ。今が好機――俺は全力の魔法を解き放った。

 疾風が渦巻き、鎌鼬が切り結ぶ。魔人の胸を・・・。断末魔の叫びが上がった。かに思えたというのに、虎は生きていた。頭という狙いは反れた。鎧を砕き、肋骨を切り裂いても心臓までは届かなかった。これが俺の限界だった。

 目の前が真っ暗になる、もう余力の欠片も無い。絶望の淵にあった。本当に勇者が居るってんだったら、こんな時に助けてくれるんだろうにな。そう甘い夢を抱いた。

「ガルアアアアアアアアアアアアッ!! オノレ――ユウ…」

 目前に、虎野郎の首が転がり落ちてきた。まさか……。

 すっと誰かが手を差し伸べてきた。俺は思わず、その手を握り返して立ち上がり、くらくらとはっきりしない意識のまま、礼を言おうとした。

「すまない、助かった。俺はダイリー。あんた、名前は? 」

「……ネムル」

 伏目がちで人見知りの激しそうな黒髪の青年。片手には――クラージュの盾、間違いなくそいつはネムルだった。雰囲気は大分変わったが、間違いなどなかった。

 五年ぶりの再会だった。

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