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第五話


 身体を起こし、窓から外を眺める。


 夕焼けがはるか彼方に見えた。


 不意に、部屋のドアがノックされた。


 クロトがベッドがら下りて、ドアを開く。


 ロブフの妻であるネーファが笑顔で廊下に立っていた。



「お食事の準備が出来ましたよ」

「分かった。どこにいけばいいんだ?」

「ご案内します。こちらです」



 ネーファが歩き出し、クロトもその後に続いた。



「すみません、遅い夕食になってしまって」

「いや。むしろ、少し早いくらいじゃないか?」

「ああ……そういえば、他所の方は夜中に夕食をとるのですよね。この村は夜になにもすることがないせいで、皆寝るのが早いのです。そのせいで夕食も大抵は夕日が出てすぐに済ませてしまうのですよ」



 説明しながら、ネーファは一階にある食堂にクロトを案内した。


 食堂のテーブルには、ロブフをはじめとした四つの姿があった。


 その中の一人の少女とクロトの視線が交わり、両者が別々の反応を見せた。



「あぁあああああああああああああ!」



 その少女は叫びながら勢いよく立ちあがる。


 一方でクロトは無言で眉間に皺を寄せた。



「ど、どうしたんだい、アリシャ」



 同じテーブルについていた、赤ん坊を抱えた男性が驚いた様子で尋ねる。


 すると、少女――アリシャの悲鳴に驚いて、赤ん坊が泣き出してしまう、



「おっと。大丈夫だからね、エリナ。そんな泣かないで」



 男性が慌てて赤ん坊をあやす。



「座りなさい、アリシャ」

「……はい」



 ロブフに言われ、渋々アリシャが椅子に座る。



「クロトさんも、どうぞ」

「ああ」



 うながされてクロトも席についた。


 ネーファはそのままキッチンに入っていく。



「クロトさんは、アリシャと知り合いで?」

「村の外の森で偶然、な」

「今話した、奴隷の男を連れていたってのがこいつなんです!」



 アリシャが忌々しげに告げる。


 すると、ロブフや赤ん坊を抱いた男性の表情が僅かに渋いものになる。



「ちなみにどんな風に俺は言われてたんだ?」

「……奴隷を物のように扱い、死んだことをなんとも思わず、死体を獣の餌代わりにするような人物だ、と」



 クロトにロブフが答えた。



「おいおい、どんだけ酷い誇張をするんだ。家の食卓で話す小話にしても悪趣味すぎるだろう」



 呆れたようにクロトがアリシャに視線をやった。



「なんですって?」

「誰がいつそんな外道な真似をした。俺だって、出来ることならあいつに墓くらいは作ってやりたかったんだ」

「な……!」



 クロトの口ぶりに、アリシャが目を剥いた。



「あんた、今更なにを……!」

「けどな、俺は非力な吟遊詩人なんだ。護身に剣こそ持ってるが、戦う力なんてない。俺みたいのが、あんな魔物のいる森の中で呑気に墓なんて掘っていられるわけないだろ。まあ、優秀な魔術師であるらしいお前には分からんだろうが……」



 クロトが俯いた。



「確かに奴隷だし、軽視していたことは認める。でも、だからって死んでなにも感じないわけがないだろう。俺がせめてあいつに短剣の一本でも持たせていれば、あいつは死ななかったかもしれないのに……」



 僅かに、クロトの顔に陰が差す。



「あんた、そんな性格じゃなかったじゃない!」



 怒りに顔を赤くして、アリシャがクロトを指さす。



「こら、アリシャ。やめなさい」



 だが、ロブフはアリシャを制した。



「クロトさんとて、やむにやまれぬ事情があったのだ。それをお前は……もう少しちゃんと物事をとらえないさい」

「でもっ……!」

「アリシャ」



 ロブフの少し低い声に、アリシャは唇を噛みながら口を開こうとするのをやめた。


 ただ、クロトを射抜かんばかりに睨む。



「けれど、あの時きちんと言葉を交わす余裕もなく逃げてしまった俺も悪かった。そのせいで、いらぬ誤解をさせてしまったようだ……あんたの姪には謝らなくちゃならないな」



 気まずそうな顔で、クロトはアリシャとロブフを交互に見やる。



「いえ、いえ。魔物に襲われてしまったのですから、仕方ないというものです」

「……そう言ってもらえると助かるな」



 ふっ、とクロトが肩から力を抜いた。


 その瞬間、クロトの瞳がアリシャをとらえる。


 クロトの目には、アリシャを馬鹿にするような色があった。



「……!」



 アリシャがテーブルの下で拳を握りしめる。



「そういえば、そっちの二人は?」



 クロトがロブフの隣に座る男性と、その腕の中にいる赤ん坊を見ながら問う。



「ああ。これは私の倅のゼルと申しまして。そして、こちらの赤子が……」



 そこで、ロブフが妙に誇らしげな顔をした。



「こちらは、ゼルと聖女様の間に生まれた子で、エリナと申します」

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