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第二十話



 フィナの腕が、大剣を悪魔に向かって振り下ろす。


 悪魔は横に跳んで大剣を回避するが、そこにアリシャの氷の杭が降り注いだ。



「ァァアアアアアアアアアアアアアア!」



 雄叫びをあげながら、悪魔は氷の杭を全て、腕の一振りが打ち砕く。



「……っ!?」



 驚きながら、アリシャは炎の弾丸を連射した。


 それを悪魔は建物の壁などを足場に跳躍を繰り返して、ことごとく掠めもせずに回避してみせる。


 空中に飛び上った悪魔に、フィナの大剣が振るわれた。


 確実に仕留められると、クロトもアリシャも確信した。


 だが……。



「な――っ!?」



 クロトの口から、驚愕の声が漏れた。


 悪魔は空中でフィナの大剣を両手両足を使って、挟むように受けとめていた。


 悪魔の身体が大剣の勢いで地面に叩きつけられるが、土煙の中からすぐに飛び出して来る。


 迫ってくる悪魔にアリシャが稲妻の槍を放った。


 悪魔が稲妻を避けて、闇に紛れこんだ。



「な、なんか……強くなってない!?」

「……ああ。間違いなく、強くなってる」



 クロトが眉間に皺を寄せた。



「どういうことだ……昨日とは、動きに雲泥の差があるぞ」

「っ、後ろ!」



 アリシャの声に、クロトがフィナの大剣を盾のようにして後ろに構えた。


 大剣の表面に、悪魔の爪がぶつかる。



「……なんだと?」

「っ、なんで……!」



 さらなる驚きがクロトとアリシャを襲った。


 悪魔の胸の傷が完全に塞がっていた。



「いきなり治るなんて……どういう仕組みなの!?」

「ちっ、厄介な……」



 フィナの腕が大剣を振るう。


 悪魔はそれを避けようとして、けれど避け切れず、右腕の肘から先が撥ね飛ばされた。



「……なに?」



 空中を回転しながら灰に変わって行く悪魔の腕を見ながら、クロトは訝しげな顔をする。


 腕を落とされた悪魔がアリシャに襲いかかろうとするが、その身体を無数の氷の杭が貫く。



「……私の気のせい? なんか、急に悪魔の動きが鈍ってない?」

「いや。お前の気のせいじゃない……確かに、動きが鈍い」



 フィナの大剣が氷の杭に貫かれた悪魔に向けられる。



「よく分からないが……好機だな」



 クロトが駆けだす。


 悪魔が迫ってくるクロトから逃げようとするが、その動きは氷の杭に全身を貫かれているせいもあって、ひどく緩慢だった。


 フィナの大剣が振るわれ、悪魔の肩口から脇腹までを両断した。



「よし!」



 アリシャが小さく拳を握る。



「これで……」



 切断された悪魔の下半身が消滅し、上半身も切断面から徐々に灰に変わって行く。


 フィナの腕が大剣を地面に突き立て、押し潰すようにして悪魔の上半身を地面に押さえつける。


 フィナの腕が鼓動を刻む。


 悪魔が暴れるが、フィナの腕から逃れることは出来ない。



「終わりだ……!」



 フィナの腕から放たれる気配が、一層密度を増す。


 強大に、禍々しく。



「なにを……?」



 思わず地面に膝をつきながら、アリシャが問う。



「よく見ていろ……これが、フィナの最大の呪い……」



 クロトが凄絶な笑みを浮かべた。


 その表情に、アリシャは氷水でも浴びたような錯覚を受ける。


 フィナの腕の付け根から、細かな糸が無数に生え、伸びていく。


 それらが絡まり、徐々になにかを形作る。



「……っ!」



 その形が成される前に、アリシャは信じられないものを見た。



「危ないっ!」



 クロトの背後に、迫っていた。


 ――胸に深い傷のある悪魔の姿を。



「……!?」



 アリシャの言葉に、クロトが慌てて後ろを向く。


 フィナの腕は、上半身だけの悪魔を抑えつけている。


 クロトには、迫ってくる悪魔から自分を守る術などなかった。


 悪魔がクロトに爪を振るう。


 爪が届く、直前――。



「クロトっ!」



 クロトと悪魔の間に、アリシャが割り込んだ。


 魔術によって作られた盾がアリシャとクロトを包み込む。


 悪魔がその盾ごと、二人の身体を吹き飛ばした。


 二人が、近くの民家の壁を突き破る。


 土煙が上がる中、クロトとアリシャは身体を絡めるように瓦礫の中に倒れていた。



「ごほっ……!」

「っ……」



 クロトが腕を振るうと、フェイの腕が上半身だけの悪魔を握りつぶし、そのまま拳を胸に傷のある悪魔に振るう。


 胸に傷のある悪魔はそれを軽々と回避して、闇の中に姿を隠した。



「ど、どういう、こと……?」



 頭から少し血を流しながら、アリシャが呆然とする。



「なんで、悪魔が二匹……」

「……とりあえず、考える前に一ついいか?」



 クロトが声をかけた。アリシャの下から。


 アリシャは、クロトの腹の上にまたがる形になったいた。



「……っ!?」



 そのことに気がついた瞬間に顔を赤くして、アリシャが慌てて立ちあがった。


 クロトも立ち上がり、服についた土埃を払う。



「……助けられた。礼を言う」

「え?」



 アリシャは自分の耳を疑った。



「なんだその顔は」

「え……あれ?」

「なんだよ?」

「……今、お礼っぽいこと言った?」

「ああ、礼そのものだ」

「……」



 アリシャが頭を抱える。



「あれ、私死んだ? 実はもう死んだ?」

「なんでだよ」



 呆れたようにクロトが言う。



「だってあなたが感謝だなんて……頭でも強打したの!?」

「……お前が俺をどう見ているかよく分かった」



 クロトが深い溜息を吐き出す。



「俺だって、助けられれば感謝くらいする。別に恩を感じることが出来ないわけじゃないんだ……それよりも、無駄話している余裕なんてないみたいだぞ?」



 クロトが顎で家の外を示す。


 アリシャがそちらに視線を向けて、硬直した。



「……え?」



 悪魔がいた。


 胸に傷のある悪魔と、左腕のない悪魔。


 さらに、無傷の悪魔が十体以上、クロトとアリシャを見ていた。



「なに、これ……!」



 悲鳴じみた声をアリシャが漏らす。



「……くそっ……こういうことかよ」



 このままでは貴方は死ぬ。


 クロトは、聖女シェリーの言葉を思い出した。



「なるほど……確かにこれは、きつい」



 引き攣った笑みを浮かべながら、クロトが外に出る。



「だがな……俺はまだやられるわけにはいかないんだよ……!」



 クロトが両腕を広げる。


 ぼんやりと、クロトの背後に赤い光が浮かび上がる。



「おい、なんだこりゃあ!?」



 と、アリシャのすぐ近くで声があがった。


 見れば、クロトとアリシャが壁を抜いてしまった家の主と思わしき男性と、その妻らしき女性に、子供が一人いた。



「あ……これは!」

「お前は……!」



 男性がアリシャの姿を見て、眉を吊り上げた。



「どういうつもりだ、こんなことをして……!」

「いえ、あの……ええと……」



 アリシャが返答に困窮していると……不意に、家族三人が突然倒れた。



「え……?」



 倒れた三人は、ぴくりとも動かない。



「な、なにが……?」



 近づいて確認するが、三人はちゃんと呼吸をしていた。


 まるで眠っているようだった。



「どうして、いきなり……」



 混乱するアリシャの背後で、強大な気配が発生する。



「……!」



 慌ててアリシャが振り返った、そこには……フィナの腕があった。


 ――フィナの、双腕が。



「行くぞ!」



 クロトが前に飛び出す。


 悪魔達もまた、クロトに向かって跳びかかった。


 フィナの右腕が、悪魔達の攻撃を防ぐ。


 すると、倒れた男性の身体がびくりと跳ねあがり、その全身から血が噴き出した。



「な……っ!?」



 いきなりの現象に、アリシャは唖然とすることしか出来なかった。


 フィナの左腕が、悪魔達に振るわれるが、ほとんどの悪魔達はそれを回避してみせた。


 三体の悪魔が攻撃に当たり吹き飛ばされるが、大した損傷もなく姿勢を立て直す。


 悪魔の一体が、目で追えないほどの速度でフィナの左腕に爪を叩きつけた。


 フィナの腕に爪跡がつく。


 倒れた女性の身体に、いきなり爪跡が刻まれ、血が噴き出した。



「また……!?」



 悪魔達が一斉にフィナの左腕を攻撃する。


 あっという間に、フィナの左腕はぼろぼろになっていく。


 女性の身体に、大量の傷が出来て、おびただしい量の血液が流れ出す。


 フィナの左腕が振るわれ、まとわりつく悪魔を振り払う。


 空中に投げだされた悪魔を、フィナの右腕が握りつぶそうとする……が、その悪魔は握りつぶす力に抵抗し、フィナの指を腕で抑える。



「ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 悪魔の雄叫びと共に、フィナの指が潰された。


 男性の右腕が、水の入った袋が破裂するように弾ける。


 飛び散った血液がアリシャの顔にかかった。



「……っ」



 半ば放心状態で、アリシャは自分の顔についた血を指先で拭った。


 赤い血のついた指先が、震える。



「……まさか」


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