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第十六話


 踵を返し、クロトは歩き出した。



「行くぞ」

「待っ……答えなさいよ!」



 アリシャの制止をクロトは無視する。



「ちょっと……ああ、もう!」



 アリシャがクロトの後を追う。



「どこ行くのよ!」

「決まってるだろ。お前の叔父達の行った先だよ。あれは、明らかに普通じゃなかった。なにかあったんだろ……まあ、半ば予想はつくがな」



 最後にクロトは小さな声でこぼす。



「え、今、なんて……?」

「なんでもない」



 クロトとアリシャが、家を出る。


 アリシャが少しだけ安堵した。


 クロトの答えを、聞かずに済んだこと。


 取り返しがつかないような答えを、例えそれが誤魔化しだったとしても、聞かずに済んだことに。




 人混みは、昨日クロトとアリシャが悪魔と戦った通りにある二軒の民家の前だ。


 一軒目の家から、遺体が運び出される。


 担架にのせて運び出された遺体には布がかぶせられていた。


 すると、風が吹いてその布をめくる。


 誰もが目を見張った。


 布の下……遺体の胸に、鋭く深い爪跡が刻まれていた。



「あれって……」



 アリシャはその傷跡に見覚えがあった。



「悪魔の爪跡だ……」



 クロトもまた、そのことに気付いていた。



「で、でもどうして悪魔が家の中に……それに、これまでと、違う……どうして」



 これまで悪魔が殺した人間は、内臓を徹底的に破壊されていた。


 だが、今回は爪跡一つだけしかない。


 それにその遺体が運び出されてきた家も、損壊らしい損壊はなく、窓もちゃんと塞がっていた。


 それらの違いは、どういうことなのか。



「さてな」



 興味なさそうにクロトが適当な返事をする。



「ちょっと……気にならないの?」

「それより、あっちからも出てくるぞ」



 クロトの視線の先、人混みが出来ているもう一軒の民家から、同じように遺体が運び出される。


 かぶせた布から、遺体の手が少しだけ覗いていた。



「――っ!」



 それを見た途端、アリシャの表情が一変する。


 一気に血の気が失せた。


 遺体の手には、無数の紫色の斑点が出来ていた。


 さらにかぶせられた布にはところどころ血が滲んでいる。



「あれ、は……」



 アリシャの声はまともに聞き取れないほどに震えていた。



「……どうした?」



 アリシャの異変に気づいて、クロトが声をかける。



「どうして、あれが……」

「なんだ? なにか知ってるのか?」

「……病気よ」

「ああ、みたいだな。見たこと無い症状だが……」

「違う。あれは、病気なのよ」

「だから俺だってそう言ってるだろう」

「そうじゃなくて!」



 大きく、髪を振り乱すようにアリシャは首を振るう。



「あれは……私の故郷で流行った病気なのよ……」



 半ば呆然としながら、アリシャが告げた。

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