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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
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24:メディテ卿、いまここ。


俺はウルバヌス・メディテ。

皆様おなつかしや。


さあて、困った事と言うのはなぜか重なって起こるもので、午前の授業中せっかくマキア嬢とトール君が新種の毒を作ってくれたかもしれないやほー状態だった時に、緑の巫女が教国を脱走したという前代未聞の一大事が耳に入ってきた。それに関しては婆様が無事保護したという連絡があったので安心していたら、次はこれだ。魔導回路だ。研究機関に試験的に敷かれた魔導回路を試運転すると副王が言い出し、俺にも来て欲しいと言われた。


全くレイモンド卿……いや、副王は本当に無茶を言う。

さっきまで緑の巫女が居なかったんですけど!!


って文句を言うと、


「でも見つかったんだろう? 教国の次に安全な君の婆様の所で」


って何か半笑いで言ってきた。事実なので、否定はしない。






「大丈夫ですよ、婆様の所に居るらしいですから、巫女様」


「……メディテ卿」


きっと緑の巫女が脱走したと言う事を聞いて、気が気でなかったのだろうユリシス殿下と共に、研究機関の魔導回路の調整を指示していた時に、横に行ってさりげなく呟いた。

彼は今までらしくない表情をしていたが、それを聞いて驚いた様に俺を見る。


「なんか、今お昼寝しているらしいです。まあどんな夢を見ているのかは知りませんがね」


「……そうですか。安心しました」


ホッとしたのか、むしろ不安なのか、複雑そうな笑みが何ともおいたわしい。



さて……

問題は魔導回路である。これは東のフレジールの最新魔導技術であり、これを敷いた場所では魔力の共有が可能になるとか。

ここ半年は研究機関も魔導回路の事ばかりで、俺にとっても効果の気になる技術だ。


分国の王たちも、なんだかんだケチをつけてくるもののその技術には興味がある様で、先日何度かこの実験が成功していて順調と言う事もあり、試運転の現場を王たちに見学してもらおうと言う事らしい。


外装がまだ中途半端だが、大事な部分は出来ている魔導波塔の最下層にて、試運転は行われる。

何事も順調に、それは始まったかの様に見えた。


レア・メイダのラクリマの表面に刻まれた術式に魔導派が流れていく。


お……


何となく、本当に何となくであるが、新感覚の魔力が体を通リ抜けていった気がした。嫌な感じではないが、これが魔導回路システムの中にいると言う事なのだろう。


ほおと感心していた時、側にいたユリシス殿下が呟いた。


「……なんだこれ……」


様子を伺うと、それはもう驚いた表情で、宙の一点を見つめている。

心ここにあらずと言う感じで「どうかしましたか?」と聞いた時には、スッと意識を失って倒れてしまった。


「!? 殿下!!」


それは本当に、いきなり眠る様に。

周囲に居た者たちは青ざめ「殿下!! おお殿下!!」とパニック状態である。


「殿下ああああああ!!!!」


緑の巫女の時はあんなにあっさりしていたくせに、ユリシス殿下が倒れられた時のレイモンド卿の嘆きときたら。


「大丈夫ですか!! ここ最近ろくに睡眠も取れなかったのしょうおおおう……」


「いや、過労とかそう言うのではないかと思いますが」


ザワザワ落ち着きの無い現場から、殿下が運ばれていく様子を追いかけるレイモンド卿の襟を掴んで、引き戻す。


「ちょっと、あなたが居なくなってどうするんです。試運転自体は上手く行っているのですから、ユリシス殿下なき今あなたが取乱しては、ルスキアという王国が舐められてしまいます」


「殿下なき今とか言うな」


「言葉のあやですよ」


ほらほら、他国の王様たちめっちゃ見てるから。

特にギルチェとか、ニヤニヤして鼻で笑っているって。


「殿下はきっと魔導回路から何かを感じ取ってしまったのです。後はトワイライトのエンジニアたちに任せて、私はちょっと失礼します」


「え……ちょ、ウルちゃん!!」


「副王頑張って」


俺はあっさりとその場をさって、さも殿下が心配でならないと言うように彼の元へ行った。

しかし本音はこうである。


魔王クラスが何か影響受けた!!←いまここ


自分の脳内の“今日の魔王様”メモにガリガリ書き込む。

ユリシス殿下は色々な意味で真っ白であるが、そのまま研究機関の簡素で真っ白のベッドに横たえられ、沢山の医者たちに囲まれた。


側で様子を見ている俺は胡散臭がられたが「副王に見守るよう頼まれているので」と嘘を言ってその場に居座る。

さて、殿下は本当にどうしてしまったのだろう。いっそう儚くなってしまって……。


“魔導回路”って、そう言えば、フレジールの藤姫と勇者、そしてトワイライトの連中で開発したんだったな。

魔王クラスの力と何か関係があるのだろうか。


殿下が倒れられたと言うのに、ワクワクが止められない俺ってなんて人でなし!!







「……お」


さっきまで窓の無い魔導回路システムの塔に居たから分からなかったが、今は小雨が降っている様だ。

夕立であろう。窓からは、さっきまでかなりどしゃ降りだったのだというのが分かる、大きな水たまりが見える。


暢気に婆様の家はあっちかなとか考えていたとき、丁度婆様から魔導文書が届いた。

オルガムが持って来たのだ。


「ほらよウル坊。エグレーサから」


「あっちこっち行かせてすまないねえ。で、向こうの様子はどうだった?」


「紅魔女と黒魔王も合流したようだったぜ、ええ? それと、ここ最近の魔族の動きについて。さっきトワイライトの小娘と魔族がやり合ったとか。あと緑の巫女が目覚めたぜ」


「……ほお」


なかなか興味深い話だ。

緑の巫女は、退行催眠により前世の記憶の中で彷徨っていたらしいが、とうとう目を覚ましたか。今、俺が面識のある魔王クラスの者たちの中で、彼女だけが本当の自分の事を知らずに居た。記憶を失っていた。


その記憶がいよいよ目覚めたと言うのだ。


「もう……あの可愛らしい巫女様には会えないかもなあ……」


なんて呟きながらも、口の端を上げクックッと笑う。

その度に医者たちが怪訝そうな顔をするので「失敬」と咳をする。



さあ王子様……あなたはどう出るのでしょう?

お姫様はとっくに、長い長い眠りから覚めてしまいましたよ。



雨が止んで、色の濃い夕暮れが見える。

雨上がりの明るい空は、いっそう清々しい。




医者たちが殿下が倒れられた理由が分からずあれこれしているが、まあ俺たちただの凡人に彼らの眠りをどうこう出来たら苦労しない。

もし殿下の眠りに意味があるなら、それの目を覚ます事が出来る者は、同じ魔王クラスだけだろう。




「ユリ!!!!」



いきなり、部屋のドアが開かれた。

研究機関の人間が「お待ち下さい顧問魔術師様」と言って、彼女を引き止めようとしていたが、


「ええい私はユリシスに用があるのよ!!」


そう言って、豪快に入って来た。

マキア嬢だ。


「おやおや慌ただしいですな」


「先生、ユリが倒れたって本当?」


「ええまあ。魔導回路の魔導波を直で受け、何か影響されたのでしょう」


魔導片眼鏡の奥でほくそ笑む俺に、探るような視線を投げるマキア嬢だったが、彼女は戸惑う医者たちの間を割っていって、眠る殿下を見た。



「ユリシス!! 何寝てんのよこのたわけが!! 今あんたがペルセリスの所に行ってあげないで、どうするのよ!!!」



耳に痛い程の大声で。

わあお。男前。



マキア嬢は眠る殿下の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶっていた所を医者たちに取り押さえられていたが、ある瞬間、彼女もまた動かなくなった。


「……?」


そうだ。


彼女も、眠ってしまったのだ。

きっとユリシス殿下の魔力と共鳴して、引き込まれていった。


彼の世界に。



お、面白れえええええ事になった!!!←いまここ


たまらんたまらん、これだから魔王様たちは。


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