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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
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14:マキア、人を殺せるカミングアウト。

エスカの方もいよいよ臨戦態勢を取り、トールと睨み合っていました。


「ちょ……ちょっと待ちなさいよ。まだ話は終わってないわよ!!」


このまま戦いが始まっては困ると思って、私は手を振りながら二人の間に割って入りました。


「ちょっとエスカ!! あんた、今までの事件は当事者じゃないって言っていたけれど、なら“三大魔王”に関するメッセージや、顧問魔術師に審判が何たら! みたいな言動はどう説明してくれるの!? それに、さっき橋の下で見つかった焼死体は、結局あんたが殺ったものな訳でしょう? 今までといったい何が違うの?」


「………」


「おいマキア、どけ!! そいつは俺たちの知らない力をもっている!! 危険だ!!」


「いいからトールは黙ってて!!」


まったく、これだから男は。


エスカは舌打ちし、攻撃態勢を解いて私の方をじっと見た後「口を挟むのが好きな女だな」と呟く。

聞こえてますが。


「三大魔王の歌で、お前たちにヒントを与えたまでの話だ。優しい俺様が、ありがたい助言をしてやったと言うのにお前らと来たら」


「ヒント? なら……あんたが犯人じゃないと言うなら、他に犯人が居て、“あの歌”の様に殺人を繰り返していたと言う訳ね」


「そうだ。“奴ら”はこの国に潜入して、獲物を狙ってやがる。ただ、“奴ら”の残酷な性質的に、人を殺す衝動は抑えられないらしいからな。生き血を吸って、人肉を食わなければやっていけないときてる。三大魔王の歌も、どこかで“奴ら”の残虐性とクロスしていってああなったとも言われているからな」


「………奴ら?」


こいつはいったい何を言っているんだと、私は疑問に思いましたがトールは違う様でした。

彼をちらりと垣間見た時のその表情は、何とも言えない。驚きと言うか、呆気にとられていると言うか。


「まさか……まさか、“魔族”か……?」


「あれ、てっめえ、魔族の事知ってんのか? 流石顧問魔術師!!」


エスカは指をパチンと鳴らし、ふんぞり返りました。となりのブラクタータがジトッとした目で彼を見ている。


「でもあり得ない!! 魔族は……魔族は確か、1000年前に“青の将軍”によって殲滅されたはずだ。現に、今魔族の存在を確認する情報も報告も無い。あれは絶滅したんだ!!」


「そうかな〜。そうだったら、ま、俺だって苦労しねーっつーか? さっき橋の下にあった遺体、お前見なかったのか?」


「……!!」


そう言えば、メルビスさんが言っていた。

遺体は人間の者とは思えない大きなもので、足は獣のもののようだったと。


「魔族は今、完全にエルメデス連邦の下僕と化している。1000年前に殲滅したと見せかけ、あの“青のクソ将軍”の奴によって囚われ、今やある地帯で完全家畜状態にあるんだからな」


青のクソ将軍、の所がやけに力が入っていました。


「奴らは擬態能力もあるもんだから、国を開きつつあるこの不安定な国に侵入する事も簡単だし、今じゃ何匹もこの王都に潜入している。奴らは魔力の高い人間や、女子供を好んで食す本能を持っているから、ここ最近ミラドリードでは人間業とは思えないスプラッタな死体がいくつも見つかっただろう?」


「魔族が……この国に……」


トールはやはり無視出来ない様でした。当然、彼と魔族の縁はとても大きなものですから。

それは私だって知っている所です。


「この事態を察して、教国が俺をルスキアに呼び戻した訳だ。無能な王都の魔導騎士団じゃ手に負えないみたいだし? 英雄である顧問魔術師様は今やっと事態を知ったらしいしな。傑作だぜ」


「………教国がお前を……? お前、いったい何者なんだ?」


「ふん。聞いて驚くな、タコ」


その台詞を待ってましたと言う様に、エスカの反応が早い。

奴は今まで被っていた鉄壁のフードを勢い良く取ったのです。


「!?」


灰色の短い髪の、どこか顔色の悪い青年。ちなみに三白眼で目つきも悪く、まったく予想通りの風貌と言っても良いかもしれません。

ドヤ顔の口元の、ギザギザした歯が印象的です。


あれ!? しかもよく見たら青と緑のオッドアイだ!!

うわああああああ!!


「俺は“魔族殺し”の二つ名を持つビビッド・エスカ!!」


「…………」


もう勘弁して下さい。

お前は中二病の権化か。


「いや、自称だけどね。誰にもそんな恥ずかしい二つ名なんて呼ばれてないヨ」


ブラクタータの冷静なつっこみ。しかしエスカは自慢げに続けました。


「ちなみに、今の緑の巫女の実の兄でもある」


「えええええええええ!!!?」


二つ名なんかより、よっぽどインパクトのある事実でした。このカミングアウトは人を殺せる。

いや、いやいやいや。無い無い無い!!


あの可愛らしいペルセリスと同じ血が通っている顔ではないわ。


「あ……あり得ない。嘘よ嘘。真実だったら罪よ……」


「嘘じゃないよ。こいつはこう見えて、聖域で生まれた前緑の巫女の息子さ。ちなみに今の大司教の孫でもある。神童ヨ」


「どうしてこうなった……」


ブラクタータの言う事に私は青ざめ、思わず頭を抱えました。トールは一気に戦闘の意欲を失った様で、げんなりしています。


「ちなみに、次の教国の大司教候補の一人だ!! あれ、俺超肩書き多くね!? かけええええ!!」


「………」


一人で悦に浸るエスカを尻目に、私たちはあちこち視点を震わせ、真実を受け入れられないでいます。


「もう何が何だか……」


「俺はいったい何と戦ってきたんだ?」


私たちにここまで精神的ダメージを与えるこいつは、確かにただ者ではないかもしれない。


しかし私はハッとして首をふり、彼の名を条件に情報を得ようとしました。情報を見る事ができれば、嘘か真かはっきりする。

じっと彼を見ました。だけど驚いた事に、何も見えてこないのです。


「あんた……もしかして偽名?」


「あ? もしかしててめえ、名前魔女か? だったら残念だったなあ。俺の本名は今の大司教しか知らねえよ!! これは“コードネーム”だから!! ひゃははは!!」


「………」


ダメだ。こいつの存在はやる気を損なわせる。

コードネームって何ですか?


「それに、“今の時代”いくら名前魔女が減ったからと言っても、一応まだ存在するんだからむやみやたらに名を告げるのはよくねえなあ。ま、俺は相手の情報なんざ興味ねえし、知られたからってバトって負けるなんてあり得ないけど」


「……はあ、さようで」


「最初から相手のポテンシャル知って何が楽しい訳? 戦いながら分かっていく方が、断然楽しいし裁きがいもあるってもんじゃねえ? だから俺は、大司教にも何も聞いてないし、俺の気の向くままに魔族を追ったり殺したり、お前たちにちょっかい出したり審判を下したり……」


「次代の大司教の言う台詞じゃねえよなおい」


「俺は戦える司教を目指す」


どうだと言わんばかりのムカつく満足顔。

この男とこのまま会話してたら、なんだか何も進まない気がしてきました。


こいつが真実を言っているかどうかは別として。


「あんた、私たち顧問魔術師に審判を待てとかって言ってたじゃない? あれはいったいどういう事かしら。この国を守った私たちに向かって」


「………別に間違っちゃいないぜ。天国か地獄か、俺の審判を下すつもりだ。……それにどうにも、魔族の奴らもお前たちを狙ってるみたいだし。奴らに殺される前に俺がお前たちを味見するのだ」


断言して一度足踏みをする。

謎の行動です。


要するに、私たちと喧嘩してみたかったと言う事でしょうか。なんてお騒がせな。


「まあいいや。二人でかかってこいや。まとめて審判を下してやる……ビビるんじゃねえぞ」


「戦う理由なんかあるのか?」


「あるだろう。楽しいじゃねえか……」


「………」


エスカとトールは再び構えます。

なんだかんだトールもやる気があるのが分かる。前の戦いの雪辱戦という事でしょうか。


しかしそんな事は関係ないのです。


「いくぞ!!」


「ちょ、ちょあんたたち!!」


私の声も無視して、二人の男は睨み合いのあと、魔力を解放します。

とっさに、私はまずトールを見ました。彼が魔導要塞を発動したら、もうこの戦いを止める事はできない。


だからってちょっと酷かったかもしれないけれど、私はトールとエスカの間に居たものですから、こちらに向かってきたトールに思いきりラリアットを御見舞いしたのです。

仕方が無い仕方が無いシカタガナイ!!


「グハッ」


鈍い痛々しい音と主に、トールがそのまま仰向けになって倒れました。


「!?」


流石のエスカも突然の事に驚いていましたが、魔力によって勢いを付けた足下が急に止まる訳も無く、そのままこちらへ突進してきます。

そのスピードのまま、狙いを定めこの男の足を払いました。


「うわあああああ!!!!」


エスカは転がったトールを越え、悲惨なほど勢い良く転がっていき、路地裏に積まれた木箱に突っ込んでいきました。ガラガラガシャンと、その木箱の壊れる音が予想通り過ぎて泣けるわ。


「ありゃま」


ブラクタータが目をぱちくりさせています。


「あんたたちいい加減にしなさいよね!!」


流石に魔力で強化してみたとは言え、筋肉の固い大の男二人に、少女の体で危害を加えるのはいささか無謀だったか。

腕と足がじんじん痛いけれど、惨めに転がった二人を見下ろし、大きな態度で物申しました。


「今は意味の無い喧嘩なんてやってる場合じゃないでしょう!! ペルセリスよペルセリス!! 彼女を捜すのが先決よ!!」


「………マキア……おま…」


首、顎辺りを強打して、いまだに立てずに居るトール。何かがやたら恥ずかしかった様で「うわああ……」と顔を手で覆う。

エスカは「てめえぶっ殺す!!」と叫びながら、木屑の中から飛び出してきました。こちらも恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして、ずんずんと向かってやってきて、私に指を突きつけました。


「………」


しかし私はフッと皮肉の笑みを浮かべると、その指を掴んで折り曲げる。

めきょって言う音がしました。めきょって。


「ぎゃああああ!!」


「……あんたね。信じたくないけど、あんたの言う事が本当ならあんたはペルセリスのお兄さんなんでしょ。だったら、居なくなったあの子を探さなくてはいけないわ」


「……? 巫女様、聖域に居るんじゃないのか」


「居なくなったのよ。聞いてない訳!? まったく……ダメダメじゃない」


「な、何だとてめえ!! ぜって殺す!!」


殺す殺すと、よくもまあ聖職者の身でありながら気軽に言うものだわ。


「トール、いい加減起き上がって。……悪かったわね、あんたから落ち着かせないと、魔導要塞発動されたら厄介だったし」


「だからって……なんでラリアット……」


「だって魔法は極力使うなって言ってたから」


ため息をついて、トールに手を差し伸べます。彼は手で目を覆ってぶつぶつ呟いていましたが、私の手を複雑そうにちらりと見て、その手を取る。

立ち上がって、どこか危なげに飛んでいった剣を探し、また腰の鞘に納めました。


エスカはさっきから後ろで喚いています。


「おい、ふざけんな!! 俺はお前たちと戦って、判断しなければならないんだ!! 俺が裁くべきかそうでないか」


「は? 私たち別に罪に相当する事なんかしてないつもりだけど」


この時代ではね。


「バカか。力をもつものはみんな罪人だ。それに……」


「………?」


エスカはその目つきの悪い瞳で私を下から上まで探る様に見て、ニヤリと笑います。

とても悪そうな顔で。


「何よ」


「別に……“真っ赤だな”と思っただけだぜ」


「……?」


妙なやり取りの後、急に風向きが変わって肌寒くなりました。

太陽が雲に隠れ、どこか湿った香りがします。


「………まずい、これ夕立降るんじゃない?」


「チッ、道草食い過ぎたか」


トールは手のひらの上の立体ナビを再び確認する。顎に手をあて、ペルセリスを探します。


「おい……ペルセリス、今あの店に居るみたいだぞ」


「ん?」


「ミッドガルドだ。メディテ卿のばあさんのやってる」


「うそ」


ぽつぽつ、降り始めた雨。

エスカは急に大人しくなって、どこか真面目そうに空を見ています。


「………まずいな」


そう呟くと、私たちに背を向け、足下に貯めた魔力を弾く様に側の民家の屋根に乗ってそのまま行ってしまいました。後ろからブラクタータが「待ってよビビ」と付いていきます。


なんというかまあ、嵐のような男でした。


「何だったのよ」


「もうあんなお騒がせ中二野郎の事なんざ無視だ無視。好きにさせとけ全く」


「………あんたが言うんじゃないわよ。思いきりやる気満々だったくせに」


「………」




私たちは次第に強くなってきた雨を、よりいっそう強くなるだろうと予想しつつ、それでも道草を食った分を取り戻すため灰色の路地裏を駆けていきました。


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