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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
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13:マキア、ありがた迷惑な謎の親切。




「ペルセリスはいったいどこへ行こうとしてるんだ?」


町の中を駆けながら、トールは顔をしかめていました。

だってペルセリスを示す光があっちこっちへ移動するものだから。


「ふらふらしてるわね」


「これ、迷ってるとかそんなのじゃないのか」


それならそれで、ある意味安心なのですが。

緑の巫女だなんて十分誘拐する価値のある存在ですから、てっきり反東派閥とかそこら辺に拉致されたのかと思ってました。


人の多い商店回廊を下っていきながら、曲がり角で人けの無い道を選び、人ごみを避けます。


「レピス!! 居るでしょう!! あなた足が速いから先に行ってペルセリスを探してちょうだい!!」


私がレピスの居そうな上の方を向いて叫ぶと、トールが手の甲のキューブをもう片方の手の甲にコピーして、それを上空に投げました。

すると、ヒュンと流れる様な黒い影が高い屋根と屋根の間に見え、レピスがキューブを受け取った様でした。


「了解いたしました」


彼女は相変わらず無表情でそう言うと、足下に作った四角い半透明の足場を渡って、またヒュンと黒い影になって遠ざかっていきました。


「トール、あんたも先に行っても良いのよ」


「いや……どうせレピスの方が早いさ」


「そうなの?」


「ああ、あいつの空間魔法は俺のとは少し違う。………と言うか、今のトワイライトの魔法と言った方が良いか。当然俺の方が魔力も大きいし魔導要塞のレパートリーも多いが、トワイライトの連中の魔法は俺の時代より進化している部分もある。今度教わるかな……」


「そういうものなの」


青灰色の地面を蹴って走りながら、所々ペルセリスの居場所をチェックする。

そんな時、どこからか悲鳴が聞こえ私たちは足を止めました。


「……?」


商店回廊を下った所にある眼鏡橋に、人だかりができていました。

王宮の魔導騎士団のメンバーもちらほら居る様です。


「まさか、また“エスカ”の奴が……」


私たちは橋を見下ろしました。


「……うわ」


まず鼻についたのが異臭。私は思わずドレスの袖で鼻を抑えました。

どうやら橋の下で遺体が発見された様子。王宮の兵たちが布で包まれた遺体を引き上げています。


「やあトール……マキア嬢も」


「メルビスさん」


短い髪をして、鎧を着た魔女騎士メルビスさんが私たちに気がついたようでした。


「また奴か」


「いや……今回はあのカードは置かれていない。なんとも奇妙なんだ。今朝早くに爆発音で目が覚めた住人が、ここで焼死体を発見した様だ。今までの手口とは異なっているから、エスカの事件とは別物かもしれないな。それに……」


「どうかしたの、メルビス?」


「その……どうにも人のものとは思えないと言うか……。全身黒こげでいまいち分からないのですが、遺体の体は大きくて、足なんて獣のものの様だったので」


「…………」


トールはここ最近の事件に敏感で、この話を聞いてさらに眉間にしわを寄せています。

しかし、私たちはここで止まっている訳にはいきませんので、私はトールの腕の服を引っ張ります。


「ちょっと、私たちは今ペルセリスを探してるんだから……ここは魔導騎士団の人たちに任せておきましょうよ」


「………そうだな。ペルセリスがもしエスカ関連の事件に巻き込まれたら大変だ」




私たちが橋の人だかりに背を向け、またペルセリスを追って路地裏に入った時でした。


私はどこかから視線を感じたのです。

息を潜め、まるで気配を隠す様にじっと。でも確実に私たちを見ている。


「…………」


振り返って、視線をあたりに流してみましたが、人通りの少ない路地裏ですから誰一人居ない。向こう側に小さく見える、表通りの人の流れが少し見えるだけ。


「誰か見てるな」


「……ええ」


トールとそう確認し合った瞬間、視線を感じた方向とはまったく別の方から一直線に突いてくるような接近を感じ、私は振り返りました。


「マキア!!」


トールが私を壁の方へ押し、剣を抜きそれを弾く。

カランと金属音をたて地面に落ちたのは、鈍い銀色のナイフでした。


「……っつ〜」


思いっきり壁にぶつかった私は左腕をさすって体制を整えました。

まあナイフに体を貫かれるよりよっぽどマシか。


「エスカだな!!」


トールは声を上げ斜め上の方を睨んでいたので、私も同じ方を見上げます。

すると、そこには黒い防弾チョッキを着て謎のフードを被った男が、民家の屋根の上に立っていたのです。


仁王立ちで。


「……わあ」


なぜでしょう。声が出てしまいました。


「よお顧問魔術師……一足も二足も遅すぎるぜ」


「お前……あの焼死体はお前がやったものか!!」


「ああそうだ。お前たちが無能だからな。しっかり働けよ税金泥棒め」


顔は見えませんが、低い不安定な声と口調から、いかにもと言うか何と言うか。

確かな名前が分からないので情報を得る事はできませんが、トールが妙にこの“エスカ”という存在を気にするのも分かる。


どこか小物クサいくせに、簡単に倒せる気もしないのです。

何と言うかとても気になる。奴の魔力がそうさせるのでしょうか。


エスカは屋根の上から飛び降り、「10.00」と言って乱れなく着地する。


「今までだって、散々“あいつら”はこの王都の人間を食いものにしてたぜ。なのにお前らと来たら、いつも俺より発見が遅い。やる気あんのかコラ」


「………?」


「お前……何言ってやがる」


「は? 何って……お前ら今までの事件を探ってたんじゃないのか? 俺様がいつもカードを置いてたじゃないか」


「…………」


あれ…何だか会話が噛み合っていません。

トールは剣を構えたまま、瞳を細めました。


「そうだ。お前が散々殺してきた者たちの遺体を調べ、事件を追っていた。それなのにお前と来たら、いつも自分から現れてくれる。バカなのかコラ?」


先ほどのエスカの言葉になぞって切り返した様ですが、エスカは何だか妙な反応です。


「…………は?」


「…なんだ、その反応は」


奴はあからさまに首を傾げました。

顔は見えませんが、口元はぽかんとしています。


私は「ひょっとして」の思いから、少し尋ねてみました。


「………まさか、今までの殺人事件ってあんたが起こした訳じゃないの?」


「マキア!? お前何を……」


「はああああああ!? 当たり前だろうが!! 俺は罪人以外は殺せねえっつーの!!」


「………」


「…………」


はい。


やっとお互いの会話の噛み合ない部分が見えてきました。


「ふざけんな!!」


トールは剣を前に振って、もの凄く憤慨しています。

無理もありませんけれど。


「なら今までのカードはいったい何なんだ!! どう見ても犯行声明じゃねーか!!」


「誰が“俺がやりました”って描いたよ!! ああ!?」


「まぎらわしい事すんじゃねーよタコッ!!」


「心外だ!! 危うく無実の罪をなすり付けられる所だった訴えてやる」


二人はまるで中学生のやり取りのような意味の無い罵倒を繰り返しています。

私だけが第三者で居られる。


ちょっと整理してみます。


ここ最近王都で多発していた奇妙な殺人事件。その現場にはいつも“カメのファンシーなカード”が残されていた。

決まって中二病的な恥ずかしいメッセージが書かれていて、それを調査していたトール含む魔導騎士団は、事件の犯人がカードの主である“エスカ”だと思い込んでいた。


トールとエスカの言い分はこうである。


どう見ても犯行声明である、と言うのがトールの言い分。分かります。

俺がやりましたとは書いていない、と言うのがエスカの言い分。まあ、確かにそうでした。意味の無いような中二病的メッセージしか書かれていなかったから。


ではなぜ、エスカはあんなカードを残したと言うのでしょう。

本人がやったのではないなら、あんなカードを残す意味とはどこにあったのでしょうか。


「なら何で、あんなカードを現場に残したの?」


私はいまだに罵倒し合っている大の男たちに若干あきれ顔を向けつつ、例のエスカに聞いてみた。

エスカは私の方を見ると、また少しぽかんとして、何やら考え込んでいる。


「それは………えーと……」


彼が、らしくない様子で言葉を濁していると、どこからか声がしました。

とても可愛らしい少女の、笑い声。


「“エスカ”はただ、あの場に自分の方が早く来ましたよって、自慢したかっただけさ。この獲物は俺のものだってね。一応ヒントも与えていたつもりだったらしいけどさ……かまってちゃんなんだヨ。だから黄昏時に目立つ行動に出てあんた達にちょっかい出してたわけ」


私がキョロキョロしていたのも意味は無く、その少女は私の隣にひっそりと立っていました。

幼い容姿で、背中に大きな黒い箱を背負った少女。東風の飾り帽子を被っています。


「タータ!! お前出てくるなって……てか、かまってちゃんじゃねーよ!!」


「そう思ってるのはあんただけヨ。あんたはいつも言葉足らずで誤解されやすいんだから。しかも結果犯人をあんただと思わせてしまって完全にありがた迷惑だし」


タータと言うらしい少女は、嫌みを言いながらもとても不思議な雰囲気と瞳をしていて、どこかその存在に違和感を感じます。

なんとも言葉にしにくく、私ですら良く分からない。子供の姿をしているのに、例えるならば母のような威圧感がある。


「あなたは……」


「はじめまして、真っ赤な魔女さん」


彼女は重そうな大きな箱を背負った姿のまま、身軽にエスカの隣まで走っていって、くるりと回る。


「私は大四方精霊だいしほうせいれいの一人、黒海亀の“ブラクタータ”。この男と契約しているのさ」


「大四方……精霊ですって……」


その単語に、私とトールは驚き、顔を見合わせました。


聞いた事があります。

白賢者の100精霊とはまったく別物の、四体の“神獣”と呼ばれる精霊が居ると。

2000年前、その存在は伝説のようなもので、大四方精霊はどこかに封印されているとされていました。


白賢者はその存在を気にかけていましたが、最後までその封印の場所を知る事はありませんでした。


「まさか……なんでそんな……白賢者ですら手を出す事ができなかった精霊をお前なんかが……」


信じられないと言う様に、トールが剣を構え相手の精霊に警戒を怠りません。

彼が以前戦った際感じた違和感と言うものが、これで分かった気がします。


私たちは色々な精霊を知っているつもりですが、大四方精霊に関しては初めて感じた存在であり、力です。


ユリシスの持つ精霊たちとは、また別物だと分かる魔力の流れ。存在感。

それらが私たちの神経を、魔力を、否応無しに刺激するのです。


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