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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
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11:ペルセリス、生臭司教に出会う。

ピチョン……


みずみずしい雫を、大樹がこぼす。



そんな大樹の幹に、堂々と座りこんだ男は、司教のくせにピアスを付けていたり、なんだか顔色が悪かったり三白眼だったり。

人を見た目で判断したらいけないけれど、まああまり見る事の無い風貌をしている。


「はじめまして、巫女様。………俺は……そうだなあ、ビビと御呼び下さい。コードネーム……えー、皆そう呼ぶから」


「………ビビ? 新しい司教の人?」


「ははは、新しい……いやいやそうだけど。でも……最初の司教でもあるんだよね」


「………?」


ビビという司教は木の枝から身軽に降り立つと、「10.00」と華麗に着地。

良く意味が分からない。


私は目元に残る大きな涙の粒を拭って、ビビという新米司教に質問してみた。


「その笛……あなただったのね」


「ふふん、カッコいいだろう。笛を吹く司教な俺様……ふふ」


「………」


良く分からない人でした。


彼は面倒になったのか、「ダサいし蒸れるわー」と言いつつ帽子を取って投げる。

そして、ずるずるした司教服の中に笛をしまう。よく見たら、彼の瞳は薄い青と緑の二つの色を持っていました。


「はあ〜やっぱ聖地はいいわ〜。ここで酒盛りしたら楽しいだろうな〜」


「それはやめて」


「わーかってるって。そんな事したら禿の司教どもに吊るし上げられるっつーの。聖地で問題行為は、ダメ、ぜったい!!」


と言いつつ、ビビはどこからとも無く大きな石を見つけてきて、例の少年の墓の前でその石を投げつけようとする。


「わあああああああ!!!!」


私は目をグルグルさせ飛び上がり、彼の前に立ち両手をぶんぶん振りました。


「なにするのよ!! ダメだよう!!!」


「何って……そのクソガキまだいたんだ〜と思って。だって2000年前から居るんだろ? 1000年前も目障りだったけど、何しろ紅魔女見つかんなかったし。……とにかく早く紅魔女に取り替えないと」


「や、やめてよおおお!!!」


半泣き状態でビビにすがりつく。

このビビが何をしようとしていたのか分かりたくもないけれど、この子の墓を壊すのなら私はそれを阻止しなければならないと。


直感的に思ったものだ。


「…………はあ? このガキがここに居る事の方がおかしいんだぞ」


「……?」


ビビは少々不可解な表情で薄い眉を寄せ、石を持ち上げたまま私を見下ろしている。


でも私があまりにわーわー泣くものだから、とうとう「チッ」と舌打ちして、ゴロンと石を投げ捨てた。

額に筋を作って。


「はいはい、どうせまだ紅魔女見つかってないし。奴が見つかったらそっこーぶっ殺して、クソガキ退けてお花と一緒にこの墓に埋め込んでしまうのに。はい、それで万々歳。俺天才」


「………司教が殺すとか、言っちゃ駄目だよ」


「ざんねーん。俺は生臭坊主でした〜」


「………」


「お金大好きだしー殺すの楽しいしーお酒もタバコもやめられないしー」


「………な」


なんでこんな人が司教になっているんだろう。大司教はなぜそれを許したんだろう。

私はドン引き気味で、それでも少年の墓の前で踏ん張って、ビビを睨む。

この男は変な奴だけど、若干危ない奴だ。


ビビはその様子を見て、片口を上げて笑う。


「へえ……一応守ろうとするんだ、その墓。何で?」


「……だ、だって……ユリシスが……」


「ユリシス〜? ああ、さっきの……」


ビビは視線を横に流し、どこか冷たく細める。


「あいつ、白賢者だったんだな……」


ポツリと呟くビビの声が低く小さく、それはそれは冷たかったけれど、私は聞き逃さなかった。


「……ユリシスの事、知ってるの?」


って、聞こうと思ったのに、ビビは何を思ったか猛ダッシュで聖地を横切って行ってしまった。


嵐みたいな人だった。

いったい何だったんだろう。



「………白賢者……」


そう言えば、前にも誰かが、ユリシスの事をそう呼んでいた気がする。

あの時は例えているのかもと思っていたけれど。


「………」


先ほど夢の中に出てきた白い髪の男と、緑の髪の女を、私は見覚えがある気がした。

この聖地の中に、その面影を持った者たちが居る。


私は木の根をグルリと囲む墓を確かめながら、その一つの水棺の前で立ち止まる。


「……同じだ」


そして、確認した。

水の中で、変わらず若い姿で居るその男性は、先ほど夢で見た人だった。

そして、あの水の棺の少年は、この人の子供。


「………」


もう一つ、緑の髪をした女性の墓を確かめ、また少年の墓の前に行く。


「………なんで」


なんで、夢で見た時と変わらない姿のまま、ここに居るのか。

思わずまた、涙が出てくる。


でも、もう少し。あと少し、そこまで来ている気がする。

胸につかえて苦しい、何か。


あなたたちは誰?

私は、私はいったい誰なの?


「………約束……」



約束の場所……。


ふと、先ほどの夢の中に出てきた単語を思い出した。

確か、約束の場所というのが、彼ら家族にとってとても大切だと言っていた。


いったいどこだろう。


「………」


私は拳を握って、自分自身に頷いてみせると、ユリシスに貰ったローブを再びしっかり被って聖地を横切っていった。

そして、暗い階段を上っていき、まだ朝の早い、静かな大聖堂を飛び出していく。

すでにシスターや司教たちが活動を始めているけれど、決して気づかれない様に。






知りにいこう。

もしかしたら、それはとても恐いものかもしれないけれど。

全てを理解する事で、失うものもあるのかもしれないけれど。


私に目隠しした、“あの人”の警告を無視する事になるけれど。



でも、知らなければ、私はユリシスと同じ目線に、同じ土俵に立つ事はないだろう。

彼に辿り着く事はできない。


きっと一生、欲しいものは手に入らない。



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