プロローグ4「お前たちの戦いはこれからだ」
真紀子です。
長い前世の記憶を持って生まれていた私たちですが、現世にてこんなに驚いた日はありません。
そして、こんなにも生きた心地がしない日もありませんでした。
「前世懺悔同好会とか、痛々しいな……」
狩野先生は美術準備室前に来るや否や、鼻で笑いやがりました。
本当ムカつく男です。誰のせいで前世の苦い記憶の懺悔や反省をしていると思っているのか。
「最も反省をしてほしいのは、あんたなんですけどね」
「俺は世の中の人々を苦しめる諸悪の根源を退治したまでじゃないか……」
殴りたい、この笑顔。
誰か釘バットを持って来て下さい。
ただの生徒と先生がこうやって話をする分はいいけれど、決してそこに先生と生徒と言う関係が成り立ってはいないのです。
「知っているか、西の紅魔女。お前と俺の戦いの後の話を」
「……あんたは知っているって言うの?」
一限目のチャイムが鳴っています。
完全にサボリですね。こりゃあ絶対怒られますね。
というか、先生あんたはいいんですか?
「元魔王様が、いちいちチャイムくらいでビビるなよ」
「ビビってねえよ」
「まあ一応、今はただの学生ですから…」
透はさっきから機嫌が悪そうです。
由利にいたっては、先生と言うだけで敬語。
「前世懺悔同好会なんてやってるくらいだから、前世には相当な未練があるんだろう。まあ、基本的に俺のせいだろうが………」
「そうですね」
私たち3人は声を揃えて頷く。
「異世界メイデーアが今どうなっているのか。面白いものを見せてやろう」
先生は三人の生徒たちの胡散臭そうな反応に大層ご満悦。
スーツの内ポケットから取り出したのは、一枚の地図でした。
四つの大陸が四葉のクローバーみたいに並んでいる世界。
それは確かに異世界メイデーアの地形でしたが、私たちの居た頃よりも色々な事が変わっていました。主に国の情勢です。
「西の紅魔女。お前が俺と一緒に死んでくれた西の大陸は、約2000年たった今でも悪質なマギ粒子が飛散している不毛の大地だ。お前は罪深い事をしたな。生き残った西の民たちは難民として他の大陸に移り住まざるを得なかったわけだ。しかも西の大陸は、気候が良く食物の多くとれる大地があったから、それを失ったメイデーアの損害は大きい。さて、そうなったらいったい何が起こると思う?」
「……え?」
私は少々焦りました。
色々とつっこみどころはありますが、まずは一つ。
「向こうの世界、もう2000年も経っているの?」
私たちは、あれから16年しか経っていないと言う感覚です。
勿論、透も由利もそうだと思います。
「ああ、俺たちの戦いはもう歴史上の伝説だ。古の三大魔王と勇者の戦い。しかし悲しい事に、それが原因でメイデーアはいまだに解決しない戦争の時代に入ってしまった。土地を巡った、侵略と奪還の繰り返し。深刻な食料不足。お前たちが居た頃の方が、土地のありようもシンプルで統率もとれていたよ。要するに、人間たちの戦争の抑止力になっていたんだろうな」
「……」
この男はいったい何を言ってるんだろう。
私は少々顔をしかめていました。だって、既に別の場所で転生している私たちには関係の無い話です。それ以前に、干渉しようも無いですし、そもそもこいつはどこからその情報を入手したのでしょう。
「言いたい事は色々あるが、そもそもお前はその情報をどこから手に入れたんだ」
単純な透はすぐに問いました。
「俺は異世界メイデーアへ行く方法を知っている」
簡単に答えてくれるはずが無いと思っていたけれど、先生もすぐに答えた。
しかも結構、予想外の答えを。
私たちは、ぽかんと。
「そもそも、お前たちと戦った勇者の時だって、元々はこの世界から召喚された少年だったんだぞ。賢者様、お前は知っていただろう」
「はあ…まあ異世界からの少年が伝説の勇者だと言う言い伝えがあったからこそ、あなたを勇者にした訳ですから」
「そうだ。そもそも、なんでこんな言い伝えがあると思う? 異世界からの召喚に何のメリットがあると」
「………」
全く分かりません。
元魔王と言ったって、転生や異世界召喚に関する経験もこれが初めてだから。
私たちは顔を見合わせました。
「世界の境界線を越える事だけが、魔力数値を跳ね上げる唯一の方法だからだ」
狩野先生はそう言うと、すっと地図を懐にしまい、そのまま銀色の銃を取り出しました。
「知っているか? お前たちの戦いはこれからだ」
そして私たちに向けます。
え……それ、ある業界じゃ、デッドエンドフラグですから。
でも、これは本当に嫌な打ち切りってやつですよ。だって、私たちはこちらの世界を、たった16年しか生きていないのに、こんなにきりの悪い所で無理矢理終わらせられるんですからね。
銃声が三つ響いて、私たちは再び、この男に殺されました。