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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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61:メディテ卿、記録の話。



俺はウルバヌス・メディテ。

ここ数日の記録を語ろう。



あの巨兵を撃退した規格外な魔導戦の後、世間は例の三人を魔導の申し子と呼び、恐れながらも賞賛していた。

三大魔王の生まれ変わりである事は一般に公表されてはいないが、それに例えている記事もあった。


あの日以来のルスキアは、ちょっと普通ではない。

無理も無い。おめでたいはずの聖教祭は、最悪のフィナーレを、あの遊撃巨兵によって迎えさせられた。


聖教祭が終わってすぐ、ルスキア国王はフレジールとの協定に応じ、今後移民の受け入れを拡大し、軍事協力、物資の提供を惜しまない姿勢を示した。

そのかわり、この国をフレジールの艦隊が守る事になる。


全てフレジールとレイモンド卿の思うがままに進んだと、この事件に関して物申す者も居た様だが、実際あの巨兵の侵攻を許したフレジールに、ルスキアを守る義務など無かったのだから、そこを責める事も出来ずやがて揉み消された。

確かにフレジールの彼らは計画の上で、巨兵を南の大陸に促したのかもしれないが、どのみちいずれ我が国にたどり着いていた脅威だ。


フレジールの防衛が約束された茶番劇の中で、我々があの化け物を拝む事が出来たのは本当に幸いな事だ。

むしろ感謝すべきだと思う。


あの茶番劇の中で、シャトマ姫の目的はいくつかあった様だ。


一つ目は、やはりフレジールとルスキアの協定を確かなものとして結ぶ事。

二つ目は、エルメデス連邦によって放たれた“遊撃巨兵ギガス”の侵攻が、何者にも邪魔されなかった場合どこへ向かうのか確認したかった事。

三つ目は、試作品の巨兵で緑の幕がどれほど耐えられるのかと言う事。

四つ目は、三大魔王の生まれ変わりである子供たちが、どう動くか確かめたかった事。彼らを表に引きずり出す事。



凄いお姫様だ。

きっと、全ての目的は達成出来たのだろう。


荒療治に思えるこの事件のせいで、フレジールに対する評価はぱっくりと別れた。

ほとんどの国民は、目の当たりにした恐怖からこの協定に賛成だが、一部が強く反発している。

今までの様に曖昧に嫌う者こそ少なくなったかもしれないが、反東勢力が全て居なくなった訳ではない。ここの動向も気にすべき点だ。


フレジールの客人は協定を結ぶと、速やかに残った戦艦を率い、巨兵の死骸をもってフレジールへと帰っていった。





さて、この混乱のせいで、予測されていた次期国王の決定は先延ばしにされた。

レイモンド卿を強く支持する声も上がっているし、ユリシス殿下の力を目の当たりにして彼を推す声も聞こえ始めた。


しかしレイモンド卿への反発意見も同時に強まり、ユリシス殿下は自分が国王になる事は100%あり得ないと明言し、国王は頭を悩ませている。


とりあえずレイモンド卿は副王という立場に落ち着き、今までより幅広い権力を行使出来る様になった。







噂の紅魔女と、黒魔王、白賢者の三人は、ルスキア王国の最高顧問魔術師としての地位を得た。


これは王宮魔術師の組織から独立した個別の立場でありながら、彼らの上に立つ存在。

メディテの魔術研究機関にも自由に出入りする事になるようだから、これから彼らと関わるのが楽しみである。なんて言ったら、傍観者の立場としてどうなのかとも思うが。




あと、そうそう。あの黒ローブの連中。

北の大陸では、遥か昔から名高かった黒魔術の一族トワイライト。

黒魔王の血を継ぐ末裔たち。


彼らはフレジールとルスキアを行き来しながら、二つの国家の魔導兵器開発に関わっていくらしい。

相当な魔導エンジニアらしいから、その技術に興味を示さずにはいられないってものだ。


数人は常にルスキアの王宮に留まって、レイモンド卿や三大魔王のサポートをするそうだ。



王宮は我がメディテ家ににも全面的に協力を求めて来た。

教国の側に並ぶ魔術研究機関を通じて、魔導開発を行う設備を整えたいらしい。

相当の金が投資される事となるだろうから、ビジネスの一端としてありがたく承諾した。










「ばあ様、いますか。ばあ様〜」


王都の華やかな通りに、一際怪しい妖気を放つ、暗い魔導雑貨屋がある。“魔法雑貨ミッドカルド”だ。

そこには、我がメディテ家の先々代である、“蛇の女帝”と言われたご隠居が居る。俺の祖母だ。


彼女は引退した後、この店で気楽に隠居生活をしている。


「………おや、馬鹿孫がやってきたわい……」


ばあ様は暗がりから音も無く現れた。ああ、おそろしやおそろしや。

俺がダントツで頭の上がらない、苦手な人。


幼い頃からこのばあ様に厳しくメディテの教えを叩き込まれてきた。


「ばあ様、ここ数日の騒ぎは知っていますか。というか、あの巨兵は見ましたか?」


「ヒヒッ。勿論……屋根裏までのぼったね」


「まだまだお元気そうで。親父と違って長生きしそうだ……はあ」


俺はカウンターの側にある木製の椅子を引き寄せ、どうせ誰も来ないこの店で、堂々と身内話をし始めた。


「あと、報告が遅くなりましたが、あなたのひ孫ができました。妻が妊娠したので」


「ほおお。それはそれは良い知らせだ。跡継ぎの生まれにくい我が家では珍しく早いのお……お前には過ぎた嫁じゃわい。女は大切にしろ……お前の父は多く女を囲み過ぎたせいで早死にしたからな」


「それ関係あるんですかねえ」


ばあ様はどこからとも無く煙管を取り出し、ふかし始めた。

俺も何かの焦燥感にかられ、自分の煙管を取り出す。

ばあ様のタバコの匂いは、過去の言葉にできないトラウマをフラッシュバックさせる。恐ろしい!!


お互いのタバコの煙が交わって、この埃っぽい店を満たしていく。

その匂いは何かよからぬ化学反応でも起こしているかの様に最悪だ。


多分一般人が嗅いだら即死レベルの毒に違いない。


「で……何の用じゃウルバヌス。全てはお前に任せているはずだが……」


「いえね、ばあ様の意見も聞きたいと思って……魔王クラスの者たちの記録に付いて。どうにも彼らは、メイデーア神話の神々らしいですよ。凄い情報でしょう!!」


「やっとそこまで辿り着いたか、愚かな孫よ」


「へ? ばあ様知ってたんですか? なら何で教えてくれなかったんですかあ!! 俺がこの情報を得る為に、どれほど違法的なストーキングを繰り返したと思っているんです」


「ヒヒッ……お前もメディテの端くれなら、そのくらい簡単に思いつけ馬鹿孫が。1000年ごとに生まれ変わるなら、最初まで遡れば良いだけの事……お前の魔力数値マギベクトルはどれほどだったかね」


「およそ6800mgですけど」


「それでも、この国の一般魔術師では最高値と言っていいだろう。魔法を知らない平民の平均値は、僅か200〜300mgの間。ミリオン越えをしている魔王クラスとはそれほどに別次元だ。神だと言われても、なんらおかしくはない。むしろ神でなければあの数値はあり得ない」


「……まあ、そうですね」


俺はふうと煙を吐いて、横目にばあ様を見た。

彼女は片目に眼帯をしている。メディテの魔女は成人したらその右目をえぐり、一族に捧げる。名前魔女としての能力を凝縮し、内蔵させ作り上げたのが、俺の魔導片眼鏡だ。


「しかしまあ、神様って言ったって、何にも上手く行ってない様ですよ。ミスがミスを生んでいる有り様に見える」


「それは当然じゃ。彼らを神々と定めたのは所詮その後の人間。彼ら自身はもとよりただの、力を得た人の子じゃ。それを魔王と言うなら魔王。英雄というなら英雄……万能なんかじゃない」


「……それなら、とても残酷な事ですね。彼ら自身でつくったシステムとは言え、彼らは何度も転生し、その記憶を曖昧に塗り替え、大きすぎる力故に世界を動かす。ただそれが正しいとは限らない。ある時代の魔王たちが大業が、1000年後の魔王の大業に響く様に……そして、やがてあの“回収者”に殺され、自分の遺体を緑の幕を展開する為の燃料として聖地に捧げる。この世界がある限り、彼らはこれを繰り返すのでしょう。神と言うより、まるで奴隷ですね。この世界に鎖で繋がれた、永遠に世界に奉仕し続ける奴隷だ」


「それがこの世界の神だ、ウルバヌスよ……彼らはメイデーアをつくった責任を果たしているのじゃよ」


ばあ様は、このメイデーアで最も有名な、神話の壁画を模写した紙を持って来た。

そこにはやはり、見慣れた壁画の図が描かれている。


「神々の……帰還……」


「ヒヒ……そうじゃ。その題の意味が、お前にも理解出来つつあるだろう……魔王たちは集いつつある」


「……」


俺は煙管を口から外し、その絵を魅入った。


「これは、神話上どの話の一部なんですかね。最も有名な壁画ですけれど、どの資料もその事に触れていませんよね」


「どの話でもない。これは未来を描いたもの……予言のようなものじゃ」


「未来を……古代の時代に……?」


「ヒヒ……9人が揃う周期は、星々が縦に並ぶ様にやがて訪れる。それを意味しているのじゃよ」


「……それって……」


ばあ様は片目をぱっくりと見開いて、その老いたしわしわの恐ろしい顔を勢い良く俺に近づける。

俺は思わず息を飲んだ。


「知っているか? 全ての魔王クラスが揃う時は、世界を始める時か、世界を終わらせる時だけじゃ。全ては聖地ヴァビロフォスに眠る“世界の理”の御心のままに……」


「……」


「記録せよ、我が孫。全てを見逃すでないぞ? ヒヒ……」



ヴァビロフォスの大聖堂の鐘の音が、どこか遠くから響いてくる。

夕暮れの、魔力のザワザワと蠢く時間帯。



どうにも俺は、とんでもない時代を記録する事になりそうだ。



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