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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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59:マキア、馬鹿でも出来る新世界の作り方。



「おおっ、藤姫の遺体があるぞ!! カノン、お前も見てみよ!!」


場の空気をぶちこわすような明るい声。


シャトマ姫は、今まで何の口出しもしなかったくせに、いつの間にか自分の遺体の収められた棺の元まで行って、そのかつての姿に驚きの声を上げました。


「やはり妾はいつの時代も美しいのお……。おいカノン、こっちへこい!! 見てみよ、妾の首が縫ってあるぞ!!」


勇者は一時沈黙していましたが、言われるがまま彼女の方へ行ってしまって、それは私たちにとってかなり違和感のある事でした。


「おい、見てみろ。綺麗に縫い付けられておる。ギロチンの切れ味が良かったのだろうな」


「……藤姫、今は話の途中だ」


「まあ良いではないか、辛気くさい」


彼女はコロコロと笑った後、スッと真面目な表情になり、言いました。


「神だとはいえ、我々はただの、無知で愚かな子供だった。最初の9人なんて、出来て間もない混沌の、世界の土台に召喚された、異世界の子供たちであっただけだ」


「……は?」


トールは顔をしかめる。


「世界の境界線を飛び越え、類稀な力を得た9人の子供が、この世界をつくったと言う話だ。無知で馬鹿で愚かな子供でも、あの場合簡単に、自分たちの世界をつくれた」


私たちは何も言葉が出ませんでした。

自分たちの考えられる範囲を超えた、意味不明の話だったから。


会話に加われないペルセリスは、ずっときょとんとしていたけれど、メイデーア神話の神々の話になると一つ思いついた様に声をかけてくる。


「大樹の手前の碑文に、神様たちの名前が書いてあるよ」


「!?」


私たちは急いで碑文の前に行き、その名を確かめました。




想像と創造の神 パラ・アクロメイア


戦争と破壊の女神 パラ・マギリーヴァ


空間と時間の神 パラ・クロンドール


精霊の神 パラ・ユティス


大地と豊穣の女神 パラ・デメテリス


運命と生命の女神  パラ・プシマ


災いの神 パラ・エリス


空と海の神 パラ・トリタニア



魂と死と記憶の神 パラ・ハデフィス





「……これが、九柱?」


私は、確かにこの国で良く聞くメイデーア神話の神々の名を、上から順に見て行きました。


「最初から、そのような司とされる役割があった訳ではない。……異世界から召喚された始まりの子供たちは、世界の基盤しか無いこの土地で生きていくために、まず九人の中でリーダーを決めた。それが、今では主神と言われているパラ・アクロメイアだ。彼を筆頭に、世界を構築する様々なものを、長い時間をかけ創造した。そのうち土地を九つに分け、彼らは国家を持つ様になる……しかし、それが間違いであった」


「……」


「国を持てば、争いが生まれた。争いはそれぞれの国の文明を加速させ、ついには世界の最終兵器を生み出し、神話の最終章となる大戦争を迎える」


「それって」


私たちは先ほど見た、あの遊撃巨兵、そして石盤の巨人を脳裏にちらつかせていました。


「巨人族との戦い……“ギガント・マギリーヴァ”だ」


シャトマ姫の言う、重要なキーワードを強調するような、雫が大地に落ちる。


「神話の時代を超古代文明と位置づけるなら、あの巨兵はその産物だ。神話は都合よく、巨人族と神々の戦いなどと英雄伝として語り継いでいるが、もともと巨兵は神々が戦争のために作り出した兵器………神話の時代、あの巨兵を用いた大戦争で、世界は一度滅び、大地は四つに分かれた。神々は自分たちの存在を反省し、その後世界を再構築する。……それが今の“メイデーア”だ」


シャトマ姫はまるで、物語でも言って聞かせる様に、つらつらと言葉を並べる。

私たちはその情報を理解しようと、脳内で整理していました。


「なんか、ぶっ飛んだ話だな」


私たちが若干首を捻り出したので、シャトマ姫は一度咳払いをして、扇子をポンと手のひらに打つ。


「別に、全てを信用しろとは言わん。これは、この世界に残されたオーパーツや遺跡から、推察出来る一つの見解だと思っていれば良い。ただの情報の羅列だ」


「……」


「まあ、カノンは全て覚えているのであろうが、こやつは口が堅くてな。ヒントしかくれない」


シャトマは「のお」と言って、勇敢にも勇者のわき腹を扇子でつつく。

本当に、この二人の関係は良く分かりません。


私は彼女がさらりと言った、一つの言葉が引っかかりました。


「あんた、全部覚えているの? その話を信じるなら、そんな遥か昔の事を……?」


思わず勇者に聞いてしまいました。

その時彼は、ぴくりと僅かに反応した気がします。


「そんな大昔の話はどうでもいい」


彼の声が僅かに低くなったせいで、私たちは少し緩んだ気を引き締めました。


「問題は、メイデーアが再構築された後の事だ。神々は自分たちが、既にただの人の子ではなく、世界に多大な影響を与える存在だと自覚していた……故に、この聖地に“世界の理”を封印し、それを永久的に守るシステムを作り上げたのだ」


「システム?」


「ランダムに1000年ごと世界に転成し、歴史を動かす大業を行い、そして遺体に留まる膨大な魔力を、聖地を守るための燃料とする……そういったシステムだ。ただ、転生を繰り返せば繰り返すほど、かつての“約束”など忘れ、思うがままに有り余る力を使い“世界に関与しすぎる”事を、神々は恐れていた」


勇者はスッと、私たちに瞳を向けました。


「三大魔王、お前たちは分かっていると思うが、それだけの魔力があれば寿命なんて関係ない。下手をすれば人間を超越した存在として、再び長く世界に君臨する事になる。そうなれば、やがて九人は再び集い、同じ事をするだろう。ギガント・マギリーヴァは繰り返される……故に神々は、神の一人を“神を殺せる者”……遺体の“回収者”と定め、彼らと同列の転生の輪から外したのだ」


「……それが……」


それが、あんただと言うの?


神が九人居るのに、棺が八つしか無い事。

私たちが何もかも忘れているのに、この男だけが何もかも覚えている。


「だったら……だったらあれはいったい何なんだ!! 巨兵はすでにいるじゃないか!!」


「あれは試作品だ。完成したらあのようなレベルではない」


勇者はトールの意見に対し、鼻で笑う。


「長い時間をかけ大地の下に隠した、超古代戦争の傷跡を、掘り返す惨事があっただろう。西の大陸の大爆発……あれのせいで大地はえぐられ、その下に眠っていた古代遺産が露見した。紅魔女……あのマギ粒子はお前の魔法によるものではなく、大昔の戦争の兵器の名残だ」


気がかりだった西の大陸のマギ粒子について、今一つの答えを提示された。

勇者は続けます。


「しかし、その汚染地帯を研究する者も現れた。それを進んで行っていたのが1000年前の魔王クラス……北の大陸の“青の将軍”だ。奴は西の大陸に逃げ延びていた魔族の討伐で、度々あの地に訪れ、露になった大地の下から出て来た、古代の遺産や遺物を発見し調べ研究した。奴は好奇心を抑えられなかった様だ……その時の資料が、今のエルメデス連邦にあるとしたなら、あの国が巨兵の開発に乗り出たのも納得出来るだろう」


「青の将軍……そいつも魔王クラスって事は、そこの棺に並んでいる者なのか?」


「そうだ………そうなる前に俺が殺さなくてはならなかった。これが良い“世界に関与し過ぎた”事例と言ってもいいだろう……だが、奴は非常に冷酷で、優秀な男だった。殺すのにかなり手間取ったからな」


勇者は拳を握りしめて、どこか遠くの記憶に映る者を睨んでいるようでした。

1000年前の時代の事は私たちには分から無いけれど、藤姫の複雑な表情からして、その時代もそれなりの何かがあったという事でしょう。


「勇者……いや、勇者と言うのは、結局僕らの時代に、僕らを討つためのていの良い立場と言った所か。お前は今回も、僕らを殺す為にここに居るのか。ならばなぜ、こんな話を言って聞かせた。今までの様に、どんな手を使っても殺しにかかれば良かったものを」


「……」


「賢者様、そなたの疑問はもっともだな」


一瞬の間の後、シャトマ姫がポツリと呟く。


「しかし言ったであろう。我々は転生したからには、何かしら“大業”を成し遂げねばならぬ。カノンは回収者として、大業を成し遂げた魔王しか殺せないのだ」


「……大業」


「妾は今世の大業を、エルメデス連邦の侵略阻止と決めた。カノンもそれを了解してくれている」


「あ、あなたはそれで、それを成し遂げた後、この男に殺されることを受け入れているのですか!?」


ユリシスはすかさず聞き返しました。

しかし、シャトマ姫は軽く扇子で弾く様に断言します。


「ああ、それで良い。妾は運命の女神という位置づけらしいからな。ふふ……その運命を受け入れよう」


「………」


「ならばこの時代に生まれたお前たちは、何を成し遂げるべき“大業”と定める」


シャトマ姫は逆に問いました。

多分、これから私たちが見つけていかなければならない、まだ答えの出ない事を。





「ウウッ………ゴホン」


聖地の清らかで静かな空気は、大きな咳払いでかき消されました。

私たちがこの場所にやって来た、その入口の境に、誰かが立っています。


「こんな所に居たんですね、いきなり消えたからびっくりしたよ、殿下、シャトマ姫……トワイライトの魔術師の力ですか?」


「お、叔父上」


ユリシスはハッとして、その男を驚きの瞳で見ています。

それはレイモンド卿でした。


「なぜ叔父上がここに……」


「なぜって……入れてもらったんです。多分ここだろうって……まあ予測はついていたので」


レイモンド卿の後ろから、教国の大司教とメディテ卿が現れました。

しかし、彼らはそれ以上近寄っては来ません。


「ほお……レイモンド。お迎えと言う事か? 何が目的だ?」


「別に何も。ただ、話は全て聞かせてもらいました。いえ、何か口を挟むつもりはありません。目の前であれだけの力を見せつけられたのですから……疑うなんて恐れ多い」


彼は私たち三人を見て、そしてグッと顔を引き締めました。


「殿下……そしてそのご友人……あなたたちは、三大魔王の生まれ変わりだったんですね。やっと、全てがしっくり来ましたよ」


「……」


ユリシスは眉を寄せ、探る様に彼に問います。


「だったら、どうするおつもりですか。叔父上」


「ぜひ、彼らには王宮に留まっていただきたい」


「駄目です」


一歩前に出て、ユリシスははっきりと言いました。


「僕らを兵器として、手中に入れておくつもりでしょう。僕はまだ良い、この国の王子なのだから当然それでも。しかし、この二人は別です。例え三大魔王の前世を持っていても、今は既に新しい人生を歩み、両親が居て故郷がある。あなたは僕らを、連邦の脅威に対する抑止力にしたいだけだ!!」


「それの何が悪いと言うのです、殿下」


「!?」


「陛下は今回の事態を重く受け止め、フレジールとの協力関係をより強固なものとするおつもりです。国民は他国の脅威を目の当たりにし、混乱しています。今日、この日から、この国は今までと違った道を歩んで行く事でしょう。そんな時に、兵器と言っても過言ではない力を野放しにしておく事はできません」


彼の言葉は最もでした。

ユリシスは「しかし」と、反論しようとしましたが、トールは彼の肩に手を置き、首を振ります。


「ユリ、もういいから……そこのおっさんの言う通りだ。それに俺もマキアも、最初からそのつもりだった。でなければ、あんなだだっ広い人前で魔術をお披露目なんかしない」


トールはちらりと私を見ます。

私もこくりと頷きました。


「そうよ……ここまで来たら、もう三人が別れている意味が無いもの……お父様とお母様を、悲しませる事になる……けど」


ふと、脳裏によぎったのは両親の事でした。

私はずっと、あの二人の前で偽りの姿で過ごして来た。

彼らは私たちの事を見ていただろうか。それとも知らずに、今の混乱の中探しているのだろうか。


私の正体を知ったら、きっと酷く傷つくでしょうね。


「あなた方の存在は抑止力だ。そのおつもりで王宮に留まっていただきたい。そのかわり、あなた方が求めるものなら何だって用意しましょう。……殿下……この方々を、決して無下に扱ったりはいたしません。どうか」


「……」


ユリシスは小さくため息をついて私とトールを見た後、「分かりました」と、とりあえず納得の姿勢を示します。


シャトマ姫が咳払いをした。


「では、そろそろここから出て行くとしよう。ここは神聖な場所。政治の話をするような場所ではない。レイモンド……お前の相手は私がしてやるから、ここは黙って出て行け。心配しなくても、あやつらは逃げも隠れもしない」


そうだろう、と言うような彼女の挑発的な視線。

その後、レイモンド卿を促すようにして、この“真理の墓”を出て行った。


やがて勇者も、藤姫について行くようにして、この聖地を出て行く。

私たちに背を向け、決して振り返る事無く。


メディテ卿が何も言わずにその場に留まって居ますが、本当に何も言わず、ただ私たちを見ているだけなので、私たちは特に気にしませんでした。



私はゆっくりと膝をつきました。

この土地のひんやりとした冷たさが、じわりと膝に伝わってきます。火照った体を、また一瞬で、どん底まで冷やし尽くしてくれる。


ユリシスも再び、彼のかつての息子を静かに見つめていました。

そしてやはりこみ上げてくるものがあった様で、口に手を抑えている。

ペルセリスはきっと、私たちの話をほとんど理解していないだろうけれど、何も言わずにユリシスの側にいる。


トールはただ一人しっかりと立って、黒魔王の棺を黙って見据えていました。



サワサワと、囁くような大樹の葉の擦れる音。

ここは地下で、葉を揺らす風なんて無いのに、その音は確かに聞こえてきます。

どこか、遠く彼方から。


否応無しに、告げているのです。

水の棺と、私たちの今の体の間にある、見えない鎖。


それは決して、切れるものではないと。



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