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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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56:マキア、名のもとに命令する。



私はマキア。


レピス・トワイライトに連れられ、丘の上で見た巨兵の存在に呆気にとられていたら、巨兵はその頭部にある光の球体からこちらに向け、大陸に向かって主砲を発射してきました。

私は思わず目を塞ぎましたが、その攻撃は、海の途中で見えない壁にでもぶつかった様に、いきなり威力を失いました。

レピスは淡々と語ります。


「………緑の幕を第三幕まで突破したもよう……今の遊撃巨兵ではあれが限度と言う事ですね。だいたい計算通りです」


「緑の幕……?」


私はトールと顔を見合わせました。

トールは難しそうな顔をして、レピスに質問をします。


「緑の幕と言うのは、“緑の加護”の事か。この国の平和を守っている聖地の聖なる力と言う……」


「ええ……あなたたちはご存知かと思っていましたが。この国民が“緑の加護”と呼ぶ聖地の聖なる力の正体は、この国を覆う薄い魔導防御壁の事です。これを知っている者は、“緑の幕”と呼んでいます。主に、王家の者や教国の者、国のトップの者ですね……緑の幕は全部で八幕まで展開可能で、永久的な鉄壁の絶対防御と言われています」


「鉄壁って……でも三幕まで破られたんだろう。絶対防御なんかじゃないじゃないか!!」


「それは当然です。遥か昔から絶対防御と言われ続け、誰もがそれを疑わなかっただけの話で、今の時代はそれを三幕まで突破する力が開発されたと言う事ですから」


トールはすっかり言いくるめられてしまいました。

私は再び海の向こう側を確認します。


「な、なにあれ……」


今まで空に無かった、大きな戦艦がいくつも浮いている。

黒紫色の、美しいフォルムをした駒状の戦艦。


「あれはフレジールの戦艦ヴァルキュリア。第六バジヤード艦隊でしょう。今この世界で、唯一あの化け物に対抗出来る戦艦と言っていいです。見て下さい」


戦艦は巨兵に向かって砲撃を開始し、レピスはその激しい戦場を指差しました。

私たちは、まるでスクリーンの向こう側の映画の世界を見せられている様。


「頭上から砲撃しているのが分かりますか。あの巨兵には、頭の核から体を一直線に貫く事が最も有効的な攻撃です」


確かに、頭から一直線にぶち抜かれた巨兵が、今まさに海に倒れました。それ以外の、腕や腹や、頭だけを破壊された巨兵は、すぐに再生しています。


「厄介だな……」


「黒魔王様、あの遊撃巨兵の開発には、我がトワイライトの一族も関わっております。しかし誤解の無き様。先代たちはそれを強いられ、今でも奴隷の様に働かされているのです」


「……な」


「何ですって!!?」


トールより先に、私が反応していまいました。

彼は私の声の大きさに若干驚いていましたが、すぐに巨兵を睨む様に確認し、頭を抑える。


「いや……確かに少し、似た臭いを感じるよ。空間構築によって創られているのか」


「それだけではありません。今は失われし創造魔法も……」


「創造魔法?」


聞き覚えの無い魔法ですが、レピスはこれ以上この事について言う気は無さそうでした。


激しい爆音が次々に響き、今戦艦が一つ、あの巨兵によってつかみ取られ、落とされました。

大地は僅かに震えています。


「マキア、俺は港へ行く。あの戦艦だけじゃどうなるか分からない」


「な、なら私も行くわよ。ユリと合流するのでしょう」


「お前は駄目だ!! ここで魔法を使ったら、お前はもう、デリアフィールドに帰れないかもしれないぞ!! あの男たちが、俺たちを帰すものか……それにあれが、俺の魔法から創られているなら、俺が……」


「……あ、あんた」


私は彼の口ぶりに歯を食いしばり、トールの胸ぐらを掴みそのまま頭突きしました。

かなり思いっきり頭突いたので、お互い痛みでその場にうずくまります。


「………大丈夫でしょうか」


流石のレピスも、この時ばかりは少々瞳を見開き、瞬きをしていました。


「いって……おま……お前」


「あんたバカなの!? あの舞踏会の時、あんた言ったわよねえ。私の問題を三人の問題だって。だったら今回だって、三人で戦うべきだわ!!」


「……マキア」


「だからあんたは格好つけのバカなのよ!!」


トールより早くに立ち上がり、トールの前に仁王立ちして、見下ろし、思いきりバカだと言ってやります。


彼は額に手をあてたまま、ポカンとしていました。

しかし、フッと笑うと、ゆっくり立ち上がります。


「ああ、分かった。俺が馬鹿だった。三人で戦えば、あんな化け物、一瞬で倒せるもんな」


「そうよ。私たちの間に、気遣いは無用。これから何があったって、三人で戦ってくの」


「……もう、帰れないかもしれないぞ」


「分かってる……でも、どうせそろそろだったのよ。私たちは、いつまでもあの田舎に隠れている訳にはいかない」


いつも、いつも、私は自分に言い聞かせてきました。

まだ早い、まだ早いと。


自分の力を使うのは、私が表に出て行くのは、まだ早いと。


だから早く大人にならないかなって、こちらに生まれたばかりのころは思っていた。


私とトールはお互い目配せして、頷きます。

レピス・トワイライトは「お決まりですか?」と私たちに問い、私たちはまた彼女に向かっても頷く。


「でしたら、行ってらっしゃいませ」


彼女が優雅に手を掲げ、手の甲に四角いキューブをつくった時、私たち自身も四角いキューブに囲まれ、一瞬でその場から消える。


目を開けた時、私たちは港の入口に居ました。

そして私は、一人で戦おうとしていたユリシスに向かって、迷い無く叫んだのです。


私たちも戦う、と。









「奴らは緑の幕を三幕まで突破出来るし、再生力も厄介だ。やはり一気に弱点を狙った方が良いと思う。俺が“魔導要塞”を発動する」


「なら、僕が精霊を使い、奴らを縛り固定しよう」


トールとユリシスがお互いを見て頷く。


「マキア、お前は火力を担当してくれ。俺が自分で補うより、俺の魔術を経由したお前の力の方が威力を高める事になるだろう」


「………分かったわ」


私たちは瞬時に作戦を考えました。


トールは手の甲を目の前に掲げ、いつもの小さな立体魔法陣ではなく彼自身を包む程のキューブ型の立体魔法陣を形勢します。

その魔法陣には、あらゆる情報が書き込まれていました。


「出た!! トールの不動産!!」


「おい、なんだそれ」


私はこれを、“トールの不動産案内所”と呼んでいますが、彼はそれが気に入らない様。

そこは黒魔王の魔法“魔導要塞”のモデルが多くファイルディングされた空間です。

この空間には使い魔が一匹、暢気にいびきをかいて寝ていました。


「おいグリミンド!! 起きろ!!」


トールは、その小さなグレムリンみたいな使い魔の首根っこを掴んで大声を出しました。


「はれ……あ、黒魔王様2000年ぶりでございますね!! いやはや、もうこの空間にはおいで下さらないのかと!!」


使い魔グリミンドは手をこねこねしながらも、嬉しがっているような、若干嫌がっているような。

こいつはこの空間の案内人兼サポーターのようなものです。


「今は再会を喜んでいる暇はないぞ。おい、あれを見ろ。あの巨人を頭上から攻撃出来る“魔導要塞”が必要だ」


「なるほど……あれには精神攻撃の空間は通用しませんね。でしたら物理90%の“空中逆転都市マチュラピオン”はいかがでしょう? 黒魔王様、いつもこれが使えない使えないとか言ってましたけれど、今はこれが最適かと」


グリミンドは巨兵を見て分析し、一つの“魔導要塞”を提案しました。

トールは目の前に表示された一つの提案内容を確認し、頷く。


「物理90%か、少し重いが……分かった。支払いは」


「いつもの様に……キシシ」


主人の承認を得たグリミンドは嫌な笑いを見せた後、さっそくこの要塞の発動の為の準備に取りかかりました。

トールも立体魔法陣の中で、座標をいじったり図面を動かしたりして、何やら良く分からない構築を行っています。



その間にユリシスが、光の精霊シルヴィエを、第四戒で呼び出しました。

第四戒は“精霊具”としての召喚。要するに、精霊を武器のようなものにして召喚します。


四つの魔法陣を割る様に出て来たシルヴィエは、美しい白銀の小刀になっていました。


「これを、マキちゃん」


「やだ、良いのに。適当に傷を作って血を流そうと思っていたの。わざわざあんたの魔法陣を四つ消費してまで……」


「駄目だよ。君の体を傷つけ、その血を使うんだ。僕の魔法陣なんて、いくら使っても良いと思っている」


「ユリ……」


私はこくりと頷き、その小刀を受け取りました。

ユリシスはこう言った形式をとても大事にしている。だからこそ、彼はとても清らかなのです。


彼はニコリと笑った後、すぐに真面目な顔になり、周囲に数えきれない程の魔法陣を形勢していきました。

この国の白魔導士たちは、一度にこれほどの魔法陣を形成出来る魔術師を知らないでしょう。


そして、背後でじっと様子を見ているシャトマ姫に、「戦艦を撤退させて下さい」と。

彼女は「了解」と言って、ラクリマに映る戦艦内の将軍に「撤退しろ!!」と命令しています。




「残りの巨兵は9体……ぎりぎり僕の精霊で足りる。タイミングは、トール君の要塞が全て出来上がってからか」


ユリシスはタイミングを見極めようとしています。

そして、戦艦が全て空の上まで撤退するのを確認すると、トールに向かって叫びました。


「トール君、魔導要塞を!!」


トールはユリシスのタイミングのまま、発動を命じました。

一度瞳を閉じ、魔力を高め、そして見開き開放します。

目の前に表示されている“要塞”の文字に触れ、目的の座標位置に移動させました。


「魔導要塞“空中逆転都市マチュラピオン”発動!!!」


幕の外側の、巨兵たちが群がる、その頭上に、巨大な魔法陣が現れました。

そこから降りてくる巨大な逆さの要塞。

これがトールの魔法“魔導要塞”。


「……久々に見たわ」


かつて、この魔法にどれほど手こずったか、私は覚えています。

魔導要塞は幻影と物理で構築され、そのタイプで割合が決まっています。

この物理的な大きさなら、威力は先ほどの戦艦を遥かに越えて行くでしょう。



「第七戒召喚……精霊たちよ、その身を以て楔となれ……」


ユリシスが両手を掲げ重ね、7つの魔法陣を筒状に連ね幕の外に転送します。

合計63の魔法陣の消費は脅威的です。


第七戒は“精霊の楔”の姿。縛りや捕獲、封印なんかに精霊の力を借りる場合の召喚方法。


化け物の背後をとる様に現れたユリシスの魔法陣を、割る様にして出て来たのは白い光柱。

その柱の頂点には、それぞれの精霊の像があり、化け物を逃すまいと睨んでいる。


「……捕えた!!」


ユリシスが掲げる手の平を、思いきり力強く握った時、巨人たちは柱から伸びる光のいばらによって体を捕えられ、手や足に楔を打ち付けられます。

宙を飛んでいた巨人たちも、その柱にくくり付けられ、突き刺さる様に海に落ちました。これでそう簡単に動く事は出来ない。


まるで、十字架に掲げられている様。



「さあ、マキア!! ぶっ放せ!!」


トールが叫んだ時、私の目の前にはキューブ型の立体魔法陣が出現し、光を帯びクルクル回っていました。これが全ての発射装置スイッチです。


私はユリシスに借りた小刀で自分の手の平を切り裂き、溢れ出る新血の温かみを感じとり、拳を握りしめキューブの上に掲げました。血がポタポタと、キューブに吸い込まれて行く。


「さあ、終わりにしましょう、化け物。全ては一瞬で終わるわ」


そして、その拳を高々と掲げ、名前と共にトールの要塞に命令する。



「遊撃巨兵の破壊を、マキア・オディリールの名のもとに命令する!!」



私が振り下ろした血の滴る拳が、そのキューブを砕いた時、トールの魔導要塞を発動している巨大な魔法陣は広がる様に真っ赤に染まっていき、下を向いていた要塞の無数の砲台から、まるで血の雨の様に爆撃が開始されました。


その威力は、先ほどの戦艦の砲撃とは比べ物になりません。

誰もがこの連続的な爆音を聞き、光景を刮目して見ている。


ユリシスがとっさに精霊の楔を解除し、周囲への爆撃の影響を半減させる為に第八戒の“精霊宝壁”を発動し、要塞の攻撃範囲の周りを光の壁で囲みます。

これは第三戒の“精霊壁”の上位召喚で、コストの多い分より強力な守護壁となります。


爆撃は途切れる事無く行われていましたが、やがて宝壁によってその衝撃を吸収され、沈静化していきました。






「……やったか」


緑の幕の向こう側は、凄まじい水蒸気の柱で何も見えません。

海を割り、水が渦を巻いています。


徐々に見えてきたのは、精霊の抜け殻のような真っ白な柱によって固定された、もう動かない真っ黒な巨兵たちの亡骸。


さすがに身震いする光景。


「た、倒したのか」


「……そうらしいね」


全ての終わった爆音の余韻と、緑の幕の外側に打ち付ける波の音がここまで伝わってきますが、様子を見ていても遊撃巨兵たちはもう動きません。


「や、やったわ!!」


私はトールとユリシスの腕を引き寄せ、何度も何度も「やったわ!!」と言って飛び跳ねます。

彼らもホッとした様に息を吐き、拳をぶつけ合っていました。


背後からは雄叫びのような歓喜の声が聞こえます。

反東派閥の反逆者たちは、既に自分たちの身がどうなっているのか忘れ、この恐怖から逃れた事を喜んでいる様でした。全く調子の良い奴らです。


王室の櫓の上では、へなへなと座り込む大臣たちや、私たちを見据えている国王やレイモンド卿がいます。


「それにしても……結構えげつない終幕に……」


ユリシスの、巨兵の死体への引き気味な感想の途中、いきなりトールが膝をつき、血を吐きました。

ゲホゲホと咽せ、胸下を抑えています。


「トール!!」


私は彼に駆け寄りました。

トールは「心配するな」と、拳で口の血を拭い私に苦笑い。


「大丈夫だ。これが俺のリスクだから。多分、内蔵を若干かじられたな」


「な、なにそれ……全然大丈夫じゃないでしょう!!」


「いや、既に体内で組み立てている治癒魔法が働いている。いつものことだ」


オロオロしている私の肩に、ユリシスが優しく手を置きます。


「トール君の魔法は、その治癒に使う魔力込みで、燃費が悪いよね……」


ユリシスはトールの前に膝をつけると、白魔術による治癒を施す。トールは苦しそうだった顔を一瞬強く歪めた後、すぐにゆっくりと息を吐きました。


「はあ、流石だな。もう痛くない」


「あ、あんた……あんたの魔法って本当に……」


私はすっかり忘れていたのです。

トールの魔法があれほどの威力と現実感を持っているのは、それだけのリスクを身に背負っているからだと言う事を。

少し涙目になりましたが、ユリシスに手を取られ、今度は自分の傷を思い出します。


「さあ、マキちゃんも……」


「ユリ……あんたこそ大丈夫なの? 一体いくつの魔法陣を消費したと……」


「大丈夫。白魔術は、君たち程リスクを背負わないから……」


と、笑って私の傷を治癒しているものの、この三人の中で間違いなく最も多くの魔術を応用して使ったのがユリシスです。

彼も大分疲れている様でした。


破壊するだけの私たちと違い、守る事まで徹底した彼ですから。








ドクン……



一度心臓が跳ねたような、大きな鼓動。

私たちはいきなり、体から力が抜けて行くのを感じ、その場に倒れ込みました。


どこからか遠く、私たちを呼ぶような声が聞こえる気がします。


意識が朦朧として行く中、私は少し離れた所で、私たちを睨む奴の姿をしっかりと見たのです。


「……ゆ、勇者……」


彼は今までの無表情を、嫌みな笑みに変えました。

それが分かっていたのに、私は襲いかかる連続的な目眩にどうしても抗えず、そのまま意識を失いました。



聞こえる。

子供の笑い声。


明るい木漏れ日。

巨大な樹の、ざわめき。



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