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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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55:シャトマ姫、ヴァルキュリア艦隊の攻防。


妾はフレジール王国の第一王女シャトマ。

前世は、1000年前を生きた“藤姫”と名高い。




「な、何だあれは!!!」


「化け物だ!! 黒い化け物がこっちに向かっているぞ!!!」


港に集められた我らフレジールを嫌う反逆者どもが騒いでおる。

櫓の上に居る正妃や、第一王子も、ここから逃げようとしているのを、妾は見逃さなかった。


「おや、なぜ逃げるのだ。この国は緑の加護……そう、魔導防御幕“緑の幕”によって守られておる。あのような化け物が来た所で、平和は揺るぎないものであろうに」


「そ、それは……」


正妃アダルジーザは顔色を変え、妾に反論する余裕すら無い。

もとより反東派閥がこうも簡単に粛清され、すでに気力も無いか。

ルスキア国王はただじっと装飾の施された椅子に座って、どっしりとかまえ海の向こう側からやってくる巨大な化け物を見据えていた。


「急いで教国へ!! 緑の幕を完全防御壁型オールバリアへと!! 切り替えを申請しろ!!」


側に控えている側近が王宮魔術師へ指示している。

完全防御壁型とは、敵だけでなく、海や風、空気の流れも全てシャットダウンするモードである。


緑の幕には、状況に応じたモードがいくつかあると言う。

教国がそれを管理し、操作している。


「シャトマ姫!! あれはいったい何なのです!!」


ルスキアの第五王子ユリシス殿下である。

彼の前世は、2000年前の白賢者。


彼はとても驚いているようであった。無理も無い。

妾も初めてあれを見た時、この世の終焉でも近づいているのだと思ったものだ。


「賢者様、あれはエルメデス連邦の最新兵器“超魔導遊撃巨兵ギガス”。約二月前に初めて、中央海の北と東の国境に現れたものだ」


「……ギ、ギガス?」


「メイデーア神話にも登場する巨人から名をつけられている。あれは、生きた内蔵魔導兵器。我々が得た情報では、黒魔術の空間魔法、そして創造魔法によって構築されている事だけ分かっている。……詳しい話は全て終わった後、こやつがしてくれるだろう」


妾は横に控えるカノンを扇子で指した。

カノンは相も変わらず。ただ海の向こう側の黒い巨兵を見ている。



ギィイイイ……グィギイイイ………



軋む機械音が巨人から発せられ、奴らはいよいよこの大陸を守る緑の幕に到達した。

それを長い腕で叩いたり、引っ掻いたり、噛み付いたりしている。


地上の民は恐れ故に、悲鳴を上げていた。

無理も無い。戦争を忘れていたこの国の、いつぶりの危機だと言うのだろうか。


「姫……右から三つ目の巨兵の主砲が起動しています」


「!?」


カノンが妾の隣にやって来て、ポツリと告げる。

その場にいた者は、急いでその巨兵を確認した。


巨兵の頭上にある土星のような輪と球体が光り、こちらに向かって巨大な魔法陣を形成している。あれが巨兵の主砲だ。

やつらはその存在だけで、内蔵魔力によるいくつもの魔術の起動装置となっている。


「くるか……っ」


妾は扇子をパチンと閉じた。


この国の緑の幕は、まるで鳥かごのよう。

妾はずっとそのように思って来た。


絶対に、鳥かごが壊される事は無いと思っている。外の世界を知らずにいる。


さあ、見るが良い南の大陸に住まう、平和を信じきった愚かな民たちよ。

自らが信じきっていた“緑の幕”がどれほど通用するのか、その目で確認するがよい。



「発射されます!!」



誰もが息を飲んだ。

その目映い光が一度大きく広がって、一点集中する様に集約され鋭い光線となり南の大陸に向け発射された。


バリバリと、ガラスの割れるような音がこの大陸中に響く。

その音を、平和を砕く音だと分かっていたものは、どれほど居ただろう。


「第一幕、突破されました!!」


鋭く弾けるような音の後、王の側に居た側近が叫ぶ。

レイモンドは恐怖の笑みを浮かべ、王の隣でこのように言っていた。


「確か緑の幕は全部で第八幕まで展開可能ですが、“第八幕目”は、この2000年間ずっと降りてはいない。……よって、最大でも第七幕までの防御。……どうなることやら」


光は少し威力を失ったが、第二幕に到達すると、バリバリと割って第二幕を破壊した。

我々は皆息を飲んで、歯を食いしばって見ている。


そして、第三幕に辿り着いた。


「第三幕……突破……」


第三幕が突破された所で、光線は急激に力を無くし、第四幕に防がれ完全に収まった。

誰もが大きく息を吐き、ホッとしている。

まあ、このくらいだと妾とカノンは予測していた。もし全て突破されるような事になりそうだったら、妾が精霊を第八戒で召喚し、“守護宝壁“を発動する予定だったが……


しかし穴のあいた所から、巨兵たちが幕を食い破り、侵入しようとしている。


「ここまでだな」


妾は指を鳴らし、カノンに魔導水晶ラクリマを用意させた。

そこには我がフレジールの第六艦隊をまかされているバジヤード将軍が映り、映像が中継で繋がっている。


『……シャトマ姫、こちらの準備は整っております。ご指示を!!』


「うむ。妾が号令をかけたら、あとはそなたに任せるぞ」


『了解です!!』


ラクリマの向こう側の、雄々しく顔の濃いバジヤード将軍は、妾に向かって敬礼する。

妾は一度髪を払って、扇子を海の向こう側の巨兵に向かって突きつけた。


「我がフレジールの第六ヴァルキュリア艦隊!! 擬態モードを解除し、砲撃用意!!!」


妾の号令の僅か後、低い遠雷のような音が響き、空が割れて行く。

ここに居た者たちにはそう見えただろう。


空に擬態していた我がフレジールの誇る正義と勝利の女神が、今まさに空から降りてくる。

圧巻だ。我ながら惚れ惚れする。


「あれは………フレジールの戦艦ヴァルキュリア!! 第六バジヤード艦隊です!!」


「おお……」と感嘆の声があちこちから漏れる。

黒紫色のメタリックな外装の美しさは、見る者を圧倒するだろう。

駒状に下が尖り、上部に設置されている三つのラクリマがこの機体を支える動力源の一部となっている。


「シャトマ姫、これは……」


「おお、賢者様。あれが我がフレジールの誇る戦艦ヴァルキュリアだ。あの巨兵たちとの戦い方を見ておれ」


賢者様も妾の隣にやって来た。

目の前で次々と起こる事態に戸惑いながらも、自分がどうすれば良いか考えている顔だ。


ラクリマの向こう側の将軍が、「撃ち方初め!!」と号令をかける。


戦艦から真下への砲撃が、遊撃巨兵たちを襲った。

その時の、悲鳴にも似た金属音のきしむ音の、なんとおぞましい事。


しかしその砲撃がいくら巨兵に直撃しても、破壊されたところからすぐに再生魔法が働く。


「賢者様、奴らを唯一破壊出来る方法は、脳天のあの核から、背中を一直線にぶち抜く事だ。あの巨兵を支えている一本の長い動力源が、背骨の様に連なっている。それを八割以上破壊して初めて動きを止める。横から貫いたり、腕、頭だけを斬り落としても再生魔法が働き意味が無いのだ」


「……なるほど」


賢者様は歯を食いしばり、戦場の様子を睨む様に見ている。

ちょうどその時、我が艦隊が一体の巨兵の破壊に成功した。

空の上より、あの化け物の頭上へ降り注ぐ様に砲撃するのが、今の所最も有効な攻撃だ。そう上手く行くものではないが、数撃てば当たる、それに限る。


とその時、巨兵の一体が禍々しい羽を伸ばし、空を飛び、長い無数の腕を伸ばし我が艦隊の一機を掴み海に落とした。

激しい爆音が響く。

その様子を見ていた人々は唖然としたり、目を覆ったり。悲鳴も聞こえる。


妾は歯を食いしばり、海の藻屑となった同胞に敬礼をした。


「勇敢な兵士たちよ。仇は必ずとろう」


「シャトマ姫」


「心配するな……戦艦の半分が落ちる事を、もとより覚悟している」


初めて奴らと戦った時、出て行った第二艦隊はほぼ全て撃沈された。

カノンが居なかったらあの化け物共に国を焼かれていただろう。


だがこれがフレジールでは日常。現実。


「シャトマ姫……僕はもう見てられません。僕が戦います」


「……ほお。いいのか、白賢者様。その力を使えば、もうお前はただの気楽な王子では居られないぞ」


「分かっています。しかし僕はこの国の王子……国を守る義務があります」


賢者様の瞳は強い光を持っていた。

妾はフッと微笑み、彼を見据える。





「待って!! 私たちも共に戦わせてもらうわよ!!」


突然櫓の向こう側から、一人の少女の大きな声が響いた。

我々は皆振り返る。

そこには真っ赤なドレスを着た赤毛の少女と、黒髪の青年が、気丈に立っていた。


紅魔女と、黒魔王だ。


「お、おいこら、子供たちはここに来ちゃいけない!! 避難しろ!!」


ルスキアの兵士たちが二人をこの場から立ち去らせようとするが、レイモンドが櫓の上から指示する。


「おい、その二人は良い。殿下のお友達だ」


「は、はい……? ならなおさら……」


「いいからいいから」


奴は期待の眼差しである。

この者たちがいったい何なのか、はっきりと分かっていないにしろ、異常な存在である事は理解している様だ。


紅魔女と黒魔王は賢者様の元に走ってやって来た。


「おい、俺たちも戦うぞ」


「……だ、駄目だ。こんな所で……君たちは目をつけられる」


「もういいのよ。さっきトールと決めたの。それでもあんたを一人で戦わせる訳にはいかないわ。三人で、圧倒的に、あの化け物を排除するのよ」


「マキちゃん……トール君……」


賢者様は一度ゆっくりと頷いた。

妾はその三人の会話を黙って見守った後、隣のカノンの様子を確かめる。

この男は相変わらず表情を変えない。


「とうとう魔王たちが、表に出てくるか……」


妾はぽつりと呟き、そして瞳を上げた。


「シャトマ姫、こちらが合図したら、艦隊を出来るだけ空高い位置に引き上げてもらえますか」


「よかろう。まあ、ヴァルキュリア艦隊だけでも事足りただろうが、こちらとしてももう被害は出したくないからな。そなたたちが戦ってくれると言うなら、我が艦隊は敬意をもって撤退させてもらおうぞ」


「ありがとうございます」


誰もが、この子供たちをポカンとした瞳で見ている。何が始まるのだろうと。

しかしこれから、もっともっと目を疑う光景を目の当たりにするだろう。


そして彼らが出て来た事で、世界の情勢は一気に変わっていくのだ。





「姫、あなたは戦わないのですか?」


カノンの問いに、妾はクスクス、扇子で顔を隠しながら笑う。


「ふふ、私が出て行くのは、我がフレジールを守る時だけ。この国は、あやつらのものだ。……そう言うお前は、三大魔王と共に戦わなくていいのか? カノン」


「……ご冗談を」


そう言いながらも、カノンの視線の先には、三人の少年少女が居た。


扇子の隙間から、妾も三大魔王の生まれ変わりの三人を見据える。

この戦いが終わった時、彼らはある真理に辿り着くだろう。


カノン、それはお前にとって、吉と出るか凶と出るか。妾には分からない。


ただ一つ分かっている事は、そこから始まる妾たちの、長い長い世界を巡る戦い、記憶を巡る旅路があると言う事だけだ。


歴史は響き合う。

かつて妾たちが創ったものが、僅かな痕跡を残し世界に残留し、ただの小さなきっかけで表に出て来たりするから。



さあ、始めよう。

魔王たちの帰還を、これ以上無いと言うくらい盛大に祝おう。


世界がそれを待っている。



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