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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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54:マキア、トワイライトの末裔と共に巨人を。


私はマキア。


港でのセレモニーは、最終日と言う事もあり大きな賑わいを見せています。


「トール、カルテッドの海と違って大人しいわね、中央海って」


「……昔からそうだったじゃないか。あと、知ってるか。もともと四つの大陸は一つだったって言う説があるんだぞ。その中心にあったのが聖地ヴァビロフォスの場所で、遥か昔に大陸が四つに別れた際、たまたま南の大陸にくっついて来たとか」


「へえ〜。だから聖地ってこんな他大陸に晒された場所にあるのね…」


「ミラドリードが敵に攻められそうな中央海沿いにあるのは、ここに聖地があるからだって。まあ、大陸が一つだった説は、本当の事か分からないけどな」


海沿いから静かな波間を見渡し、遥か遠くにぽつりと浮かぶ黒い船を見つけます。


「あれが移民船? あんたもあれに乗って来たの?」


「俺のはもうちょっとぼろっちい船だったぞ。今日は祭りだから、良い船用意してもらえたんだろ」


「……ふーん」


もう少しこちらにこなければ、あの船の本当の大きさや形は良く分かりません。

私は海で身を乗り出し、その船をじっと見ていたものですから、張られた柵から落ちそうになってトールに襟を引っ張られました。









パアアアアン!!!


「!?」


銃声は本当にいきなり、会場に響き渡りました。

賑やかな人々の声は、一気に恐怖の混じった悲鳴に変わっていきます。


「王家の櫓の方に発砲されたぞ!」


「ユ、ユリは……っ」


私たちは櫓の方に目を向けましたが、再び何発かの発砲音がしたと思ったら、精霊の壁が櫓を守っているようでした。


「精霊壁だ。第三戒召喚か。久々に見たぜ」


「なに見せ物でも見てるような事を………わっ」


人々が大きな波を作って私たちを押して行きます。

混乱する人々の力は、身の小さな私なんてすぐに連れ去ってしまいます。


トールが私の腕を取って、人の流れから引っ張り出してくれました。


「おい、大丈夫か」


「……あ、圧死寸前だったわ」


トールが息の荒い私を掴み、人の流れに巻き込まれない様長い柱につかまる。

そして、辺りを見渡し、王室の者たちの櫓を確かめました。

私も彼と同じ方を見ます。


そこには王弟レイモンド卿が目立つ所に立って、手を広げ何やら叫んだりしています。


一斉射撃の激しい銃声が、四方八方から響き、逃げ惑う人々は更に悲鳴を高めしゃがみ込みました。

私たちは息を飲んで櫓を見ていましたが、放たれた光の銃弾はレイモンド卿を避け上へと曲がり、そして、いつの間にか、前触れも無く宙に現れた黒いローブの者たちによって回収されたのです。


「な……」


「あれはいったい……誰」


私たちは目を見開き、その揺れる黒いローブを見つめます。


数えると6人程いる。

彼らは四角い立体魔法陣を手の甲に作り、足下にもキューブ状の空間を作って足場にしています。


「ねえ、あの魔法、あんたのに似てない?」


「ああ、あれは空間魔法だ。なら奴らは黒魔術師……異国の者だ」


黒ローブたちは一斉に四方八方に散って行きました。

トールはそのうちの一人を目で追って、自分自身も立体魔法陣をつくります。


「少し気になるな。あいつを追ってみる」


「なら私も行くわ」


王室の櫓も気がかりでしたが、ユリがこの程度でどうにかなるほどやわだとは思っていないので、私たちはあの黒ローブの一人を追ってみる事にしました。







「確か、反東派閥の者が王都には多く居るって、カルテッドで会った新聞記者が言っていたな」


「ならこれは、セレモニーを妨害したい反東派閥の仕業ってこと?」


「それもあるだろうし、あの王弟レイモンド卿が王位に就くのを反対する、ある種の反乱でもあるだろうな。あわよくば、レイモンド卿を騒ぎに乗じて殺したかったって所だろう。ただ、それらをひっくるめて、もしかしたらあのレイモンドって男のパフォーマンスだったのかもしれないがな」


「……反東派閥は踊らされたって事?」


「さあ、そこまでは分からないが」


私たちがトールの立体魔法陣の示す場所にたどり着いた時、そこにはすでに倒れている武装した人々と、破壊された一帯の瓦礫の山がありました。


私たちは瓦礫の山を見上げ、そして息を飲みます。


その天辺に佇んでいた黒いローブの、風に揺らめくその異常な空気感を、目の当たりにしたからです。

手には大きな鎌を持っていて、姿はまるで死神のよう。


黒ローブは私たちに気がつき、そしてゆっくり振り返りました。

一瞬の強い風が、その深くかぶるフードを払う。


「……」


長いまっすぐな黒髪。

切れ長で、どこか淡々とした黒い瞳。淡く赤い唇。

真っ白な肌が、全身の黒さをより対照的に引き立たせる。


「……女の子……?」


そこに居た黒いローブの正体は、どこか憂いを帯びた美しい少女でした。

そして私は彼女から、あるとても身近な人物を連想したものです。


彼女は私たちを見つけ、眉をぴくりとも、瞳をハッともさせないで、ただ流れる様に優雅にローブをつまんで腰を折り、挨拶をしてきました。


「ごきげんよう、魔王様方」


「!?」


「この女……俺たちの事を知ってやがるのか……」


私とトールはお互いを横目に見て、身構えました。

瓦礫の上で佇む彼女の瞳は、相変わらず淡々としていて、何を考えているのか全く分かりません。

彼女はふわりと、その瓦礫から降り、血の付いた鎌を光の粒に変え、その光をイヤリングの中にしまいました。


「物理圧縮空間か……」


「ええ……流石ですね黒魔王様」


彼女は再び頭を下げました。


「私は、レピス・トワイライト」


「………トワイライト?」


「トワイライトは北の大陸の、黒魔術の一族。黒魔王様、あなたの子孫にあたる一族でございます」


「!?」


私もトールも、彼女の言葉に驚きを持ちつつ、どこかそれを無条件で受け入れられる気もしました。

魔法がとても似ているのもその要因でしたが、なによりその黒髪、その黒い瞳から与えられる印象は、トールにとても近いと思ったから。


「あんた、末裔が凄い事になっているわね」


「……」


「あんたが女だったら、こんな感じだったんでしょうね」


「ええい黙れマキア。俺は今混乱しているんだ」


トールは一応、混乱していた様です。

私たちのやり取りを、レピス・トワイライトは何て事無く見据え、そして再びフードを深く被ってしまいました。


「黒魔王様、紅魔女様、こちらへ来て下さい」


「……?」


「あとはレイモンド様の兵が処理して下さるでしょう」


言われるがまま彼女について行った私たちは、住宅街を抜け、もっと開けた場所に出ました。

そこからは港の向こう側、中央海を一望出来る良いスポットになっています。


「ここで良いと思います」


「……何がだ」


「これから起こる事を一望するのが、です」


彼女はその囁くような籠った声で、私たちに意味深な事を告げます。


「これから何か起こるの? 既に反東派閥はあんた達によって粛清されたのではないの? ほら、港を見てちょうだい。哀れなテロリストがあんなに捕まっている」


「………それはそうです。これは、反逆者たちを集め、そして見せつけるための“イベント”ですから」


「……」


「そろそろ聞こえてきませんか。天を裂き、海を割って、聖地を目指しやってくる……“巨人”たちのうなり声が………」


「……は?」


ふいに風向きが変わりました。

さっきまで、青く柔らかい日差しを降り注いでいた空が、何となく濁った色をしている気がします。


海鳥たちの様子が、どこか変。

落ち着きが無く、海から遠ざかろうとしている。


私は背筋に感じ取った、その嫌な気、妙な予感、悪寒を、無視出来ませんでした。

一筋汗を流し、海を振り返ります。


それは聞いた事の無いような、だけど知っているような、聞き心地の悪い機械音。

まるでうなり声のような音。


海の向こう側からやってくるのは、黒く大きな、大きな……


「……な、なに……あれ……」


「でけえ……」


空を飛んでやってくるもの、海を割いてやってくるものもいます。

長い腕や羽をいくつも持ち体の半分が機械で出来た、様々な形態を持った化け物。

頭部に大きな頭が一つあって、それぞれ様々な表情をしています。

頭上の窪みに光の輪を掲げていて、それが少し天使の輪の様にも見えるのです。


例えるなら、不気味な仮面を付けた巨大なマリオネットのような、どこか聖なるもののような、しかし圧倒的に化け物のような、そんな巨人。

もう、例えられるものでもない気がして、私たちは息を飲み、ただ言葉を失いました。


その数、10体。


「お、おい……あれはいったい何だ。何なんだ!!」


「魔王様方もとくとご覧ください。あれこそが、エルメデス連邦の最新兵器、“超魔導遊撃巨兵ギガス”………いわゆる内蔵魔力ゴーレムですよ」


流石のトールも、汗を滲ませ、笑っちゃうしか無いと言った所。


「はは、知らないぞ、こんなの……」


私たちは、まるで特撮映画でも見せられているのではないかと思ったものです。


正直に言いましょう。

大変恐ろしく、不気味に思っていました。


私たちですらそうなのですから、この光景を目の当たりにしている南の国の民たちは、生きた心地がしないでしょう。


きっとこの日の恐怖を、ずっと忘れられないのでしょう。


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