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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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45:マキア、トールと共に扉を見つける。



私はマキア・オディリール。

ここは教国の大聖堂。





「あああああり得ないわ。王家は高みの見物ってわけ」


「落ち着けよマキア」


「大声出してでも引き止めるべきだったかしら」


「そんな事してみろ。俺や御館様の受賞がパーになるから」


私とトールは今、教国の大聖堂を出て行く所です。

実を言えば先ほど緑宝賞の授賞式が行われました。

それはもう静かで厳かで、大司教の長々とした意味の分からない神話やヴァビロフォスの加護が何たらと言う話から始まり、大げさに頭を上げる事すら出来ないと言う空気の中、王家にいたっては上階の席で高みの見物を決め込んでいる。


その中に、“ユリシス”が居たのに、まともにコンタクトもとれませんでした。


しかも、表彰式が終わるや否や、王家の連中はそそくさと退散してしまった訳です。

きっと他の予定があってスケジュールがつめつめなんでしょう。


「追うわよ」


「……マジで?」


「せっかくここまで来たんだもの、由利を追わずしてどうするの」


「でももう教国には居ないかもしれないぞ」


「分からないわ。でも、あんたなら確かめられるわよね」


「……」


「由利……いえ、ユリシスの情報は私がちゃんと確保したから」


自分の目を指差して、私はニヤリと笑いました。










式典が終わった後の教国でも、開放されている敷地内には人が多く、目のある所で魔術を使うのは得策ではありません。

私たちは他の貴族の者たちと会話をしている両親に“教国を見て回る”と言って、その場を離れました。

基本的に両親は、トールが共に居るならと私を自由にさせてくれます。


「それにしても、やっぱり聖域ってだけあるわね……凄い変な感じ……」


私たちは教国の大聖堂、その向こう側に連なる建物に侵入し、人けの無い所を選びました。

表の大聖堂付近の賑わいとは違い、一転して静寂の中。

天井に連なる天窓から、光が同じ方向へ伸びています。


「じゃあ、調べるぞ」


トールは右手を前にかざし、手の甲に四角いキューブの立体魔法陣を作り出しました。

彼の黒魔術は主に空間を操るものです。

私には難しくて良く分からないのですが、これは使い方しだいで結構危ない魔法。


立体魔法陣にここら一帯の位置情報が書き込まれていきます。

私は自分の指を噛み切って、自らの血をそのキューブに垂らし、先ほど記録したユリシスの情報を登録しました。


「……?」


しかし、キューブ上に示された、ユリシスの位置情報は、主に二つありました。

これは奇怪な事です。


「お前……ミスったな?」


「そんな訳無いでしょう。確かにユリシスの情報だけって命令したはずなのに」


二つの光の点は、一つはとても強い光で、この場所からどんどん遠ざかっています。

もう一つは微弱な光ですが、この教国の中に居る様です。


「……」


私とトールはお互い顔を見合わせました。


「まあ、正直言って、この遠ざかっているのがユリシスだとは思うんだよね」


「……そうね。でも、限りなくユリシスの情報に近い存在がここに居るってことでしょう? どういう事かしら」


「……少し、気になるな」


私たちはトールの立体魔法陣を元に、この教国に存在するもう一つの光を目指しました。






教国の中は、表の開放地区と裏の侵入禁止地区では、空気が全く違います。


長い廊下を歩き、いくつもの角を曲がり、随分と奥へ来たと思います。

正直トールの力が無ければここまで辿り着けなかったでしょう。


「……扉だ」


開けた丸い天井の空間に出たと思ったら、そこには見上げるほど大きな“黒い扉”があったのです。

そして、この扉の奥から微弱なユリシスの反応があります。


「……行くか?」


「当たり前でしょう。何の為にここへ来たって言うのよ」


胡散臭いと思いながらも、トールがその扉に手をかけようとした時です。


「駄目だよ。その奥に行っちゃ」


「!!?」


背後から、可愛らしい少女の声が聞こえたものだから、私たちは振り返り、目を見開きました。


緑の薄い布の幾重にも重なった衣装を揺らし、その少女はニコリと笑っています。

若葉色の髪をした、とても不思議な空気を持った女の子。

多分、私とそう変わらない年頃でしょう。

私たちが彼女に気がつかなかったのは、この聖域の魔力に限りなく同化した存在だったからです。


「あ、さっき受賞していたお兄さんだ」


「……?」


「私、端からずっと見てたんだ」


彼女はトールを指差して、クスクス笑っています。

そして身軽に近寄り、拳を腰にあて口を尖らせます。


「駄目だよう、ここから先に行っちゃ」


「……えっと、私たちユリシス王子に用があるのだけど、この先には居ないのかしら」


「ユリシス? 居ないよ、だってユリシス、さっき行っちゃったもん、港の方に」


「港……?」


「そうだよ。またなんかの式典があるって、東の国のフレジールのお姫様とー」


彼女は何だかぷくっと膨れっ面で、気の乗らないような言い草。

私とトールは顔を合わせ、首を傾げました。


「それに、その扉の先には私と大司教くらいしか入れないんだもん。ユリシスが居るわけないよ」


「だったらこれは……」


いったい、この反応は何なのでしょう。

私たちは再び、動く事の無い光の点を覗きました。




「…………お前たちがその扉の向こう側に行くのは、まだ早い………」




脳天から一直線に、体を貫かれたような感覚。

衝撃的な、衝動的な、身を以て感じる事の出来る緊迫感。


私たちはその声を聞いた後、足音の一つ一つを、聞き逃す事が出来ませんでした。


天井の丸い部分に描かれた神々が、私たちを見下ろしています。

暗がりに差し込む天窓の光の手前で、奴は立ち止まりました。


「お前」


トールのこんな顔を久々に見た気がします。

ジワジワとこみ上げるものがあったか、表情が険しいものになっていきます。


「勇者……っ!!」


そう、あまりにも突然の再会。

黒に近い紺色の軍服を着て、軍帽を深く被っていたにも関わらず、私たちはその声、体の感じ取る危険信号によって、奴が天敵である事が分かっていました。


奴が顔を上げた時の、その目。

冷たい青い瞳は、私たちが長年憎く思っていたもの。

そしてずっと恐れてきたものです。


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