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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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34:マキア、かつて由利に問われた言葉を思い出す。




(◯月20日:トール)


解決しました。

イジメでした。




マキアです。

何がどう解決したのかは知らないけれど、あいつが私を疑った“ザリガニ事件”は無事解決したそうです。


「……まあ、なかなか調子良さそうじゃない」


私はというと、一度カルテッドへ行きトールの哀れな姿を見てから、もうドングリ爆弾を投げつけるのはやめようと思い、今は大人しくしています。

トールが先生なんかしてるって聞いたから影で笑ってやろうと思ったけれど、疲れて海で黄昏れたりしてたから、見てるこっちも居たたまれなくなるってものです。




(◯月21日:マキア)


もう頑張らなくていいからうちへ帰っておいで。

お父様には私から言ってあげるから。




(◯月22日:トール)


お前は実家のお母さん?

俺は上京した息子ですか。でもUターンする気はないです。




まるで息子を心配する母親のように、彼に「帰っておいで」と言うものの、まあ奴がそのくらいでへこたれる訳も無いと分かっているのです。

トールが諦めない事に少しホッとする気持ちもありますが、実際つまらない気持ちの方が大きい。

私は退屈です。


正直に言います。

もう限界です。



「うがあああああ、つまらんつまらんつまらん」



私は自室のベットの上で、ただ一人バタバタと暴れ、そしてそれに疲れ沈黙するのです。

虚しい事この上ない。


最初は自分のドングリ爆弾を試す良いチャンスと思っていましたが、やはり一ヶ月は長い。


いやもう、いいから。私の負けで良いから。

トールさん、早く帰って来て下さい。






(◯月23日:マキア)


あーもーつまらないよー。早く帰ってきてよー。

寂しいよー寂しいよー。






(◯月24日:トール)


素直な所はよろしい。





(◯月25日:マキア)


お前は寂しがりやのくせに素直じゃ無いとか可愛くないです。

何かもう退屈すぎて死にそうです。

毎夜涙で枕を濡らす日々です。

こんなに女を待たせる男は最悪ですよ。

天罰が下ります。










「…………はあ」



ここ一週間の私はただの屍。

やる事も無くやる気も無く、ただ机に付いて本を読んだり、ベットでゴロゴロしたりするだけ。


まるでトールがうちにくる前の私に戻っちゃったみたいです。

やっぱり人って、良き理解者が居ないと駄目ね。


こちらが素直な気持ちを暴露したと言うのに、ツッコミだけ冴えた、いまいちな反応のトール。

彼へ恨み言を書いたメモを扉の前に貼った後、私はベットに仰向けになって、もう一度大きく息を吐きました。


なんだろうな、この敗北感。

まるで私だけが寂しがっている子供みたい。


寂しがりやはトールのはずじゃないのよ。

それなのにあいつと来たら、私よりずっと平気そう。カルテッドで子供たちに囲まれてるからって、調子に乗ってるんだわ。


「……」


少しだけ目をつむって、私は地球にいた頃の事を思い出していました。


あの頃の私たちは、今よりずっと頑なだったと思います。

理不尽に勇者に殺された直後の転生で、生まれた時から魔王だった前世の記憶があったものですから、その複雑な感情は私たちに年相応の幼さを許しませんでした。

一度大人を経験した記憶を持ったまま子供扱いされる事への不満、同年代への圧倒的な違和感、全く毛色の違う世界への戸惑いを隠す事も出来ず、どこか浮いた存在であった私たち。

そんな焦りにも似たどうしようもないむず痒さを分かち合えるのは“真紀子”、“透”、“由利”の私たち三人だけでした。

当初はただの人になってしまった事に随分落胆したものです。



中学二年生の時、私は地球での両親を事故で亡くしました。

特にどうと言う事もない、普通の家庭でした。

あまりお金のない家でしたが、両親は私に良くしてくれていたと思います。


それなのに、私は両親が死んだと聞いた時、泣く事も無くただ平気そうにしていました。

本当に親不孝な娘。誰もが私を、あまりのショックで泣く事すら出来ないと思っていたでしょう。


違います。

人の死の感覚に、慣れてしまっていただけです。

私自身、とても多くの人を殺してきていましたから。

鏡で見た私の表情は、可笑しいくらいいつもと全然変わりませんでした。


私は両親が死んだ事に悲しめない自分自身に、少なからず落胆したものの、それは仕方の無い事だとどこか諦めてもいたのです。

両親が嫌いだった訳ではなく、ただ、どうしようもなく平気だった。


目の前にいた透と由利だけが、きっと私の残酷で非情な部分を理解してくれていて、それを責める事無く、ただ側にいてくれた。


彼らは私を慰めもしなかったし、私もそんな必要無かったけれど、私が私に抱くこの冷めた気持ちを、ただただ理解してくれる彼らは必要だったのです。



「…………ねえ、由利…………あんた今、どこに居るのよ」


天井の壁紙の小さな花を数えるのに飽きて、私は目をつむります。

私たち三人の中で、きっと一番家族思いで、きっと一番懐が大きかったあんたは、いまだに私たちの前に姿を見せないわね。


確かにあんたは、私やトールよりずっと環境に馴染む事が得意だった。

正直ただのとばっちりで殺されたくせに、前世への文句も恨み言も、一番言わない奴だったわ。

だからこそ、あんたが一番何を考えているのか分からなかった。


今も変わらず、上手い事やってるのかしら。

もしかしたら、あんたは私たちが居なくても、意外と平気だったりするのかもね……



『……ねえマキちゃん、もしもだよ。もしまた、メイデーアに戻れたら、何がしたい……?』



目をつむったまま物思いにふけっていたら、随分と気が遠のいてしまったようです。

そのフワフワとした意識の狭間で、私はかつて地球で、由利に問われた言葉を思い出していました。



『僕はね、“約束”した場所に行きたい………』



彼の言葉は曖昧で意味深で、それがいったいどこなのか誰との約束なのか、それすら言わなかったけれど、いつもニコニコとしていて平静を失う事の無い彼が、この問いを投げかけて来た瞬間だけ辛そうにしていた気がします。


ああ、思い出した。

忘れていた訳ではないのよ。

ただ、あんたは私やトールと違って、とても分かりにくいから。


いつかきっと、三人でまた会えると思っていても、あんただけが今でも一人でいるのなら、私たちはあんたを見つけなければいけない。

私は確かにあの時、彼の問いにこう答えたもの。



『もしまたメイデーアに戻っても、また三人でいたいわ』



たった一ヶ月、トールに会えないだけでこんな風になる私なのに、膨大な記憶を抱えたまま、ただ一人でいるかもしれない由利を、どうして平気かもしれないと思ったの。


ずっと待ってたじゃない。

子供時代はスキップしたいって、思ってたじゃない。

それは、彼らを見つけたかったからでしょう。


「ねえトール、あんたが帰って来たら、由利を探してみましょうよ」


あと少し、数えるほど寝たらやっと会えるトールを、私は待ちます。

トールが帰って来たら、彼と共に由利を探しましょう。私たちは、三人側にいるべきだから。


私には他に、メイデーアに残っている絆も未練も無いのだから。



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