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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
外伝 〜次世代編〜
407/408

05:キース、邪悪な部分を純粋に受け継いだ存在。


王都だ。

そこは、デリアフィールドなんかの田舎とは違う。

全ての集まる、この国の中心だ。


別に、デリアフィールドが悪かった訳ではない。

あの場所は広いし、ちょっと麦畑を抉ったり、橋をぶっ壊しても、母様に激しくどつかれ父様にガミガミ言われるくらいだったし、土地が広い分、大きな魔導要塞を作りやすかった。


でも僕はひたすら待った。

毎年聖教祭で訪れる王都に、長い間居座って暮らせる日を。



かつて、僕の父と母が英雄として語られた大戦争は、このルスキア王国の王都、ミラドリードが最後の舞台となったらしい。


それがなぜなのか、巨大な敵はどうしてここへ来たのか。

僕はずっと疑問だった。


聖地があるからだと、両親は言っていた。

ならば聖地に何があったと言うのだろう。

だって、今の聖地には何も無いじゃないか……


数多くの本をこそこそと読み漁っても、それを知る事など出来なかった。


だから僕は、ずっとここへ来たかった。








僕の名は、キース・オディリール。

今年、ミラドリードのイヴェリス魔導学校へと入学する。


「……げ、サリアちゃん、僕をさがしているな。生意気な妹め」


サーチされている感覚がある。

魔導学校は王宮のすぐ隣にあるが、サリアちゃんに見つかったとあれば、捕まらない場所まで逃げなければならない。

海岸沿いの公園。あと少しで魔導学校の入り口だって言うのに……


「……ん?」


何だろう。

波の音の合間に、妙な音が聞こえる。


魔力を研ぎすませ、その音に耳を傾ける。

聞こえてくる音は、まるで静かな湖に雫が零れ落ちるがごとく、僕の心に囁いた。



ここだよ…………



僕を呼ぶ声。上からだ。

確かな確証は無くとも、そんな気がした。


こういう声を聞くのは初めてではない。

この世界は、幼い頃から僕たちに語りかけ、他愛もない話をしてくれた。

それは精霊だったり……何だか訳のわからないものだったり……


だから僕は、その声に呼ばれるがまま、王宮を覆う魔導回路の結界をすり抜けて、最上階まで向かったのだった。






「………」


王宮の最上階の庭園に、不思議な若木を見つけた。

その若木は水をそのまま形にした様な雫型の実を実らせていた。


神聖で新鮮な空気。

厳かな魔力に満ちた場所。

見た事も無い神秘的な樹の果実。


……まあでもそんな事はどうでも良いよ。


「あの実……食べたら美味しいかな」


果実は所詮食べ物だ。

こんな場所にこっそり植えられている樹なのだから何かしら重要なものなんだろうけれど、ならばいっそう、果実は食べてみないとね……


僕はこう見えてグルメだからね!!


「と言う訳で一つ」


僕は樹から実を一つもいで齧ってみた。

青い果実なんて味も想像できなかったが、思っていた以上に水分を沢山含んでいる。

上品な甘酸っぱさのある果実だ。何より強い香りに驚く。


「うん……美味い美味い。梨っぽい味だな。しかし凄いな〜……濁りない魔力の塊だ。まだ若木のくせに、随分と古い魔法を内蔵している…………いったい何なのかさっぱりわからない魔法だ。あ、種噛んだ」


樹の幹に背をつけ、しゃりしゃりと果実を頬張っていると、バタバタ騒がしい足音が聞こえて、良く知る者たちが僕の前に現れた。


「キース君!」


教国のスズマさんと、王宮顧問魔術師のノアさんだ。

まあ、来ると思ってたけど。


僕はペッと種を吐き出した。

そして、ニコリと笑顔を作って、何も知らない少年っぽい声音でこう言う。


「あ! スズマさんにノアさんじゃないですかー。お久しぶりでーーっす」


「…………」


「あれ? どうしたんですか〜〜? 二人とも怖い顔して〜〜」


ま、僕だって馬鹿じゃない。

きっとこの樹は、前の戦争を知る者たちがどうしても隠したい何かなんだろうと言うのは分かっている。


現代の魔法が一つも関与していない古の魔法の実。

それをしゃりしゃり食べちゃったんだからさ。


もうなんか、スズマさんなんて笑顔が引きつってるし、ノアさんは青ざめて瞬きも出来ないみたいだ。


「キース君、ここ一応立ち入り禁止なんだけど」


「え〜〜、そうなんですか〜〜?」


「アホっぽい答え方してもダメだから! 君は食べちゃいけないものを食べたんだ。何が起こるか分からないのに!」


「でももう胃の中っていうか」


「吐き出せ!! いいから吐き出せ!!」


スズマさんの顔はマジだ。

その白い司教服の上着の中には大量の銃器が隠されているし、もうすでに手にはナイフを持っているし、彼の背後には三体の精霊が控えている。


「吐き出さないって言うのならその腹をかっさばくぞ!」


そして時々、口が悪くなる。

誰の教育の賜物だろうね。


でも、この人は相当強い白魔術師だ。

そんな事はずっと昔から知っている。


父様や母様とは少し違うけれど、この世でたった一人の準魔王クラスという不思議な立ち位置。

僕よりずっと魔力数値も高い。


うーん、興味深い。

それに、強い人が相手じゃないと、僕だって思い切り魔導要塞を試せない……!


「ははっ。もしかしてスズマさん、僕と遊んでくれるんですかぁ!?」


本気になったスズマさんの様子を見て、僕は歓喜した。

腹をかっさばかれる前に、小さな頃から遊んでくれた“尊敬”すべきお兄さんに、今一度遊んでもらわないとね!


すでに足下には、幻想空間への入り口である空間の歪みが生じている。

さあ、僕の自慢の魔導要塞のお出ましだ!


「魔導要塞……カラクリのま……っ」


しかしタイトルを言う前に、真横に転移して現れた者の激しい蹴りを脇腹に受けて、僕は少し吹っ飛んだ。


「魔導要塞、“キース捕獲用の檻”」


淡々とした声の後、僕はその面白くもないネーミングの、造り込みだけは半端なく精巧な檻に捕われてしまったのだ。


僕を捕らえられる要塞を作れるのは、この世でただ二人。

父様と、サリアちゃんだけ……!


「あったたたた………なんだよサリアちゃん! 僕はこれから、スズマさんと遊ぶつもりだったのに!」


僕を捕らえた檻の向こう側には、いまいち光の灯っていない目をして僕を見下ろしている双子の妹、サリアちゃんが居た。


「うるさい。キーキー叫ばないで」


サリアちゃんは今まさに誰かを殺っちまおうと言わんばかりの殺気を帯びている。

その誰かが僕であることはいうまでもないが……


「いつもいつもいつも……いつも面倒ごとばかり起こすアホの兄のせいで、私がどれだけ胃痛に悩まされているか、あなたは知らないでしょうねキース」


ガシャン、と音を立てて檻の柵を掴むサリアちゃん。

前髪の隙間から覗く視線が怖い。


「こんな……絶対に入っちゃダメそうなところに入って……魔導要塞を展開しようとして……」


「だってだって、サリアちゃん、僕を呼ぶ声が聞こえたんだ。サリアちゃんにだって聞こえただろう? 小さな頃だって何度かそういうことがあったじゃんか。僕はそういうのを無視できないんだ。好奇心が旺盛なんだから!」


「好奇心が旺盛って、小さな頃ならまだしも、あなた今何歳? 子供じゃないんだから、もう少し落ち着いてちょうだい。言い訳ばかり言うならここに“母様”を召喚してやるから!」


「……わ、わかった……それだけは、母様だけはやめて。魔導要塞も展開しないから!」


「ほんと?」


「うんうん。だからここから出して」


最終兵器“母様”を召喚すると言われ、僕は檻の中で小さくなって、サリアちゃんの言うことに逆らえずにいた。

サリアちゃんはじっと僕の顔を見つめた後、小さくため息をついて僕を捕らえていた檻の要塞を解除する。


ふう……流石は僕の妹。

頑丈すぎる檻だった……


しかし僕がハッとしたのは、サリアちゃんの後ろに金髪の“あの男”がいたからだ。


「ああああああ! お前カノン将軍!!」


僕が小さな頃から大嫌いな、いけすかないカノン将軍だ。

カノン将軍は両親の旧友であり、僕も度々会うことがあったが、僕はずっとこいつが気に入らない。


なぜかというと……


「……キース、久しぶりだな。相変わらず落ち着きがないようだ。誰かにそっくりだな……」


ぽん。と頭に手を置いてぐりぐり。

これを小さなころからやる。僕とサリアちゃんに。


可愛がっているつもりなのだろうが、いまだに子供扱いしてくるので腹がたつのだ。

サリアちゃんはこいつに憧れがあるのか、会うといつも嬉しそうにしているのが、また腹たつっていうか……


「カノン将軍、どうしましょう。キース君がこの大樹の子の実を食べちゃったんです」


「……何?」


スズマさんが告げ口したことに、カノン将軍の表情が少し変わった。ざまあ……


「やっぱり……マキアにそっくりだな……」


しかしそれをぼやくに留まる。

僕を怒るわけでもなく、焦るわけでもない。


なんかちょっと納得しているっていうか、むしろ喜んで見えるし……期待はずれの反応だ!


「まあ問題は無いだろう。キースのことだ、妙なものを食べても体内で分析して、悪質な魔力を分解するだけの空間を構築できるだろうし、少し様子を見るといいだろう」


「はあ〜。カノン将軍、あなたって人はほんとこの双子に甘いんですから。なんなんですか? おじいちゃんポジションですか? あなたそんな人じゃなかったですよねえ。僕はねえ、キース君にはもう少ししっかり言って聞かせたほうがいいと思ってるんです。完全に僕らを舐めきってますよこのクソガキ」


「スズマさーん、聞こえてますよー」


スズマさんとカノン将軍がぶっちゃけた話をしている合間に口を挟むも、二人は僕を無視して続ける。


「あんなのまだ可愛げがある方だ。三大魔王に比べたらあんなの……」


「何言ってるんですか将軍。やっぱりあなたちょっと気が抜けすぎですよ?」


「……そうだろうか」


「そうですよ。あなたまだ若い見た目をしているのに、なんかもう全てをやりきった余生を過ごす老人みたいな丸さが出ちゃって……うちの師匠を見習ってください。まだまだ元気一杯に『死ね』とか『バカ』とか子供みたいな暴言を吐きまくって、バズーカ砲を撃ちまくってますよ」


「……そうか。元気だな」


「そもそも魔王たちはまだ前世の記憶とかそういうものがストッパーとして働いてましたけど、キース君はそういうのが無い、魔王たちの、特にマキア姉さんの邪悪な部分だけを純粋に受け継いでしまった存在です。気をつけなくっちゃ……」


「確かに」


「ていうかあなた本当に丸くなっちゃいましたね。昔はもっとこう、威圧感があるっていうか、怖い感じでしたよ? 僕結構憧れてたのに……」


二人はまだ何かを言い合っている。

スズマさんに至ってはお叱りモードの対象がカノン将軍になっているし、カノン将軍に至っては言われるがまま。


しかも人のことを邪悪だとかなんだとか。

特に母様に似てるなんて失礼も甚だしい……


「……ん? あ、父様からだわ」


そんな時、サリアちゃんが腕にくっつけていた通信時計をコツンと小突いた。

これは魔導回路が組み込まれた最先端の魔導機器だ。


サリアちゃんの目の前に薄っぺらい光のモニターが現れ、父様からのメールが開かれる。



父さま》

キースは見つかったか? 何なら父様が探そうか?

サリアちゃんが帰ってこないので父様は心配です……



「うわ」


サリアちゃんの隣から覗き込んで、なんか声が出た。そしてサリアちゃんと横目に見合う。

父様は娘のサリアちゃんが可愛くて仕方がない典型的な男親だ。


「父様はいつもサリアちゃんには甘いんだから……」


「それは私がいい子で、父の日にもちゃんとプレゼントを用意したり、父様が西の大陸から帰ってきた時に肩を揉んであげたりするからよ。あなたがやっていることといえば、小さな頃から父様に小型の魔導要塞“どんぐり爆弾”を投げつけたり、問題を起こして疲れ切った父様に後始末をさせてばかりだもの。……父様に今回のことがばれたら、キース、あなた今夜の晩御飯抜きにされるわよ」


「えっ! やだよ、僕食べ盛りなのに!!」


「じゃあおとなしく一緒に帰るのよ」


サリアちゃんはギロリと僕を睨むと、通信時計を二度つついた。

返信をするつもりだ。



サリア》

大丈夫よ。キースはもう捕獲したから。

今から戻るわね。



サリアちゃんの返信は速い上に淡白。

僕の腕をガシッと掴んで、引っ張って連れて行く。


まだなんか言い合っているスズマさんとカノン将軍をこの場に置いて、この庭園の出入り口ですでに待機していたノアさんの元まで行って、「私たち帰るんで」と、早口。


このまま家に戻らないと、父様が僕とサリアちゃんの居場所をサーチしはじめるので、サリアちゃんとしてはそれを避けたいのだ。

年頃の娘としては、父親に常に居場所を知られるのは我慢ならないらしく、父様に自分の居場所をサーチすることを禁じている。

ただいざという時、父様は心配が上回ってサーチしちゃうので、サリアちゃんはその前に手を打つつもりだ。

いつもの抜かり無い我が妹。


「キースがご迷惑をおかけしました」


ノアさんを前に、サリアちゃんが僕の頭をガッと掴んで下げさせ、自らもまた謝った。


「……も、もう来ちゃダメだからね」


「えーー! ノアさんそこは『またおいで』でしょう!? まだここを調査したかったのに!! あの木の根元とか掘り返したかったのに!!」


わがままを言うと、サリアちゃんはすかさず僕に腹パン5連打をお見舞いする。

そして倒れこんだ僕を乱暴に引きずって、そのままこの不思議な屋上庭園から連れ出したのだった。


うーん、恐るべき妹だ。




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