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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
外伝 〜次世代編〜
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02:サリア、父と母と双子の兄キースについて。

王都ミラドリード。

そこは、私たちが生まれ育った故郷を離れやってきた、この国の中心。


世界でも、第二位を誇る大魔導都市だ。






「もうっ! もうもうっ、あの子ったら!!」


母様の甲高い声が、ミラドリードの駅の構内で響いた。


「ほんと、すぐどっかに行くんだから!!」


「一瞬だったね」


「一瞬も一瞬よ。わーと汽車を出てすーぐ見えなくなったわ! あー、もうもうっ、ベルトに縄でもつけとくんだった」


「……まあ、キースがまる一日汽車で大人しくできただけでも上出来よ」


私、サリア・オディリールは、淡々と我が双子の兄について語った。

母親に、縄でもつけとけば良かったと言われるほど落ち着きの無い兄。

キース・オディリール君。15歳……


隣で母様がぷんすか怒っていたので、よしよしと頭を撫でる。


「ああ、サリア……っ、あんたは本当に、しっかりした子に育ってくれて嬉しいわ。それに私と父様に似てほんっと美人。ったくキースってば、いったい誰に似たんだか……」


「母様よ」


私は嘘などつかなかった。


こんな人ごみの駅の中、私に抱きついて離れない母様。

母様は抱きつき魔だ。小さな頃から、母様は私たち双子を抱きしめて離さない。

暑苦しいし、母様は子どもみたいに落ち着きが無い時もあるけれど、いざという時はとても強くて、何と言っても愛情深い。


でも周囲には、私たちは姉妹のように写っているかもしれないわね。

だって母様はとても若々しいんだもの。


娘の私から見ても、母様は凄く若くて綺麗な人だ。

母様の名はマキアと言う。

昔は凄い魔術師だったと周囲からは聞くが、今は魔法が使えないみたい。

私が生まれる前に使った大きな魔法の対価を、今でも払い続けているんだとか。


だけど、20代前半かそこらの見た目を保ち続けているその肉体は異常で、この特徴を持つ人たちを、魔王クラスと言うらしい。

私はそう言う人たちを、何人か知っている。


私の赤毛は母様譲りだけど、母様の波打つ赤毛の色は、私の赤毛よりもずっと鮮やかだ。


「おいおい、こんな所で何してるんだお前たち……」


「あ、父様」


一足先に王都へとやってきていた父様が、私たちを迎えに来た。

駅の構内で抱き合っている私たちに、やれやれと言う感じで居る。

私は「はい」と、母様を父様に押し付ける。まるで大きな荷物でも預けるみたいに。

母様は転がされるまま、今度は父様にしがみついた。


「トール〜〜っ、またあの子がどっか行っちゃったーー!」


「キースか。あいつ本当に自由気ままな奴だな……まあ、あいつももう子どもじゃないし、腹が減ったら戻ってくるだろう。王都にある家の場所は分かっている訳だし」


「子どもじゃないって、まだ子どもよ! 何かあったらどうするのよ!」


母様は父様の胸ぐらを掴む。


「何かって……あいつが誰かを半殺しにするとか? それはあるかもしれないが、あいつ自身が危ない目に会うことはまず無いだろうがな……」


母様の勢いに押されながらも、父様は私を見た。


「サリア、長旅で疲れただろう」


「ううん、そんなに疲れてないわ。私、汽車って好きなの。隣のキースが激しくうるさかったけど、景色を見ながら本を読むのが楽しかったわ」


「そうか。お前は本当に、すっかり落ち着いたな。立派なレディーだ。俺にそっくりだ!」


「……だってもう15歳だもの」


父様にそっくりとか言われると微妙な気分だが、確かに、母様よりかは父様に似てるのかな。性格は。


父様の名はトールと言う。母様の家に婿入りした、この国の魔導騎士だ。

元々はオディリール家の使用人だったらしいのだけど。


父様もまた、20代後半程の見た目を保っている、魔王クラスの一人だ。

周囲を行き来する女性たちが、チラチラと父様を見ているのは、父様が黒髪で珍しいのと、立派な魔導騎士団の制服を纏った見目麗しい青年だからだ。


私の女友達も、父様を見るといつも興奮する。

まあ、実年齢はおじさんなんだけどね。


さっきまで父様の胸ぐらを掴んでいた母様が、いつのまにか父様の腰に抱きついている。

ここ一週間、父様が先に王都へ行ってしまっていたから、会えなくて寂しかったのだろう。


「トール〜〜、トール〜〜」


「マキア、なんだ、寂しかったのか?」


「当たり前でしょう! 一週間も、あんた居なかったんだから。トール不足で死にそうよ」


「……マキア」


父様もなんだかんだ嬉しそうだ。いつもの調子で、母様をぎゅっと。

ここ駅の構内なんですけど。人のこと言えないんですけど、父様。


周囲から見たら、まだまだ若い夫婦って感じなんだろうな。

ラブラブだからなー………………


私はいつもと変わらない景色をみているかのごとく、ぼけーと二人のいちゃつきを視界の端っこに映す。

やっぱり駅って人が多いなー、めっちゃ邪魔になってるなーこの人たち。


「ねえ、私、キースを捜してくるから、行っていい?」


「ん?」


「あいつ、絶対何か問題を起こすに違いないもの。そしたら面倒な事になるでしょう? 私、もうあいつの面倒ごとに巻き込まれるの、まっぴらだから」


「何言ってるサリア。お前は家でゆっくりするといい。世界の大建築百選の写真集でも見ながらだらだらして、美味しいものを食べて、何事も無く平穏無事がお前のモットーだろ。捜すんだったら父様が捜す」


「いいわよ。だって、キースを捜す事に関しては、私の方が父様のナビよりずっと高性能だもの」


「そ……そりゃあ、そうかもしれないが……」


「父様と母様は、家でいちゃいちゃしてたらいいわ」


「あ、おい」


私は肩掛けの、小さなポシェット一つの身軽な姿で、スタスタと親二人から離れた。

父様は心配性で、娘の私にはとことん甘いので「変な男にはついていくなよ!」と。

ついてかないわよ、変な男なんて。


「あ、サリアー! 舞踏会に着ていくドレス、仕上がっていると思うから帰ったら試着するわよ!」


「はいはい」


母様の言う事に適当に返事をして、私はもう駆け出していた。

人の多い駅を出て、賑やかな王都へとくりだす。


活気のある王都の大通りに出ると、まっすぐ進んだ先にそびえる、尖った塔がいくつも積み上がったような巨大な王宮が見えた。


空の色を映し込む透明の魔導鉱石によって表面を覆われ、いくつもの魔導回路が組み込まれた、最先端の建造物。

あれは、ここルスキア王国の中心、“大水晶宮”だ。

前の戦争で古い王宮は破壊され、ルーベルタワーを囲むように再建されたものらしい。


「はああ……きれー」


何とも言えない、うっとりとした気持ちになる。

所々、魔導回路の水色の光りが走るあの王宮は、父様が設計したものだと聞いた。


私はあの建物が凄く好きで、これから王宮のすぐ側の魔導学校へと通う事ができるのだと思うと、王都へ来たかいがあると思える。


「本当に、最先端の技術とデザインの、素晴らしい建造物だわ……父様ってばほんと天才」


これに感して言えば、私は父様を深く尊敬している。

父様は空間魔法を得意とする魔術師で、その才能が、私やキースには受け継がれている。


私は何と言っても、建物が好きなのだ。

女の子なのに変わってるねってよく言われる。

小さな頃からこの趣味は健在で、小さな女の子がクマのぬいぐるみでおままごとをしている傍らで、私は積み木と魔法を駆使して、大きなお城を造ろうとしていたっけ。


気がつけばおままごとに役立つ小さなお城が出来ていたり……


「だけど、それをぶっ壊してくれるのが、あのキースだったのよね……嫌な事を思い出しちゃった」


キースは小さな頃から、何かを造っては壊す、とんでもない破壊神だった。

あいつは壊す事が好きなのだ。魔道要塞も、破壊に特化したものばかり。

そんな魔法、父様も好んで使わないのに、いったいどこで覚えたんだか……

性格的に母様似なとこあるし、もしかしたら母様の魔法がそっち系だったのかな。


我が兄ながら、危ない奴だわ。


「って、そうだわ。キースよ。キースを捜しているんだったわ」


私は本来の目的を思い出して、大通りから脇の小道に入り、人目につかない路地裏で手の甲をかざして、キューブ状の立体魔法陣を展開する。


「キースを検索。……ええ、いつもの通りよ」


それだけで、キースの居場所と言うのは立体魔法陣に示される。

情報はすでに登録されているし、この空間ナビ自体、キースを捜す事に関してはかなり学習している。

何と言っても、彼は私の双子の兄。


自分自身と近い血と魔力を肉体に抱いているのだから、情報量が多いのだ。


「……いた」


キースはどうやら、王宮の方へと向かっている。

きっと、自分が入学する、イヴェリス魔導学校が気になっているに違いない。


イヴェリス魔導学校とは、ここルスキア王国に昔から存在した魔導学校を、約12年前に大改革して創られた魔導学校だ。

元々は白魔術のみを教える魔導学校だったが、大改革する少し前から黒魔術を輸入し、今では白と黒の両方の魔術師を教育する大魔導学校となっている。


フレジールにあるグランロータス魔導学校の仕組みを取り込んで創られたため、この二つの大魔導学校はしばしば姉妹校と呼ばれる事もあり、交換留学の制度も存在するとか。


そうね。

キースはずっと、魔導学校へと行きたがっていた。

自分の力を試したくて仕方が無いのだ。


だって、あいつは魔法の申し子。

私より、ずっと魔法の才能があるのだから……


「ちょろちょろ動き回っているあたり、これは相当なはしゃぎっぷりと見たわ。早く連れ戻さないと……こういう時、あいつは絶対、何かやらかすのよ」


立体魔法陣を見ているだけでも分かる、キースの落ち着きの無さ。

ため息ものだ。


私は一度、履いていた黒い靴で地面を強く踏み、足下に魔法陣を展開する。


「転移―――そう、いつもの通りよ」


そして、私は転移魔法を使ってこの場から消え去り、“いつもの通り”、キースの元へと急いだのだった。




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