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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
最終章 〜ゼロ・メイデーア〜
399/408

fin2:ユリシス、ペルセリスの見る夢。

5話連続で更新しております。ご注意ください。(2話目)




僕の名は、ユリシス。

ルスキア王国の王子であり、緑の巫女の花婿だ。




オリジナルがルスキア王国を襲ったあの事件から、3ヶ月は経っただろうか。


マキちゃんが世界の法則を壊した旧ヴァベル……幻想の島は、役目を終えて消えた。


またルスキア王国の王宮は大打撃を受け、また教国もすっかり更地となってしまい、今ルスキア王国の本部は、奇跡的に無事であったルーベルタワーとなっている。


奇跡的と言うよりは、ルーベルタワー自体が三つのタワーの魔力的恩恵を受けていたせいでもあるのだろう。

ルスキア王国ではダントツで最先端なこのタワーは、今でも問題なく起動している。





「ところで、殿下。先日トール君とマキア嬢が、デリアフィールドの役場で、めでたく婚姻届を提出したそうで」


「……やっとですか」


「やっとですねえ」


叔父であるレイモンド王と、様々な復旧作業の資料等に囲まれながら、トール君とマキちゃんの話をしていた。


ルーベルタワーのに設けられた臨時の王宮では、多くの重役や役人たちが死にそうになりながら、日々様々な案件に追われていた。

王都の復興も、フレジールからの持ってこられた最新機器のおかげで、随分と進んでいる。

これからミラドリードは、全都に魔導回路を敷いた、新しい魔導技術をふんだんに取り込んだ王都となる。

この国は復興をきっかけに先進国となっていくのだろう。


「マキちゃんとトール君、結婚式は挙げるんでしょうか。僕、二人をお祝いしたいのに」


「式はまだ先になる様ですよ。まあ、仕方が無いですね。ルスキアがこの状態ですから」


「……早く落ち着くと良いなあ」


徹夜明けの眼をギンギンに光らせ何かと作業をしながらも、僕らは会話した。


「ユリシス殿下。ユリシス殿下はおられますか」


「……え? あ、はい」


資料にまみれた机から、顔を上げた。

名を呼んだのはノア君だった。


この資料の山を見て、彼は少しぎょっとしていた。


「少し良いでしょうか。リリスについて、少し……」


「分かった。今行くよ」


僕は立ち上がり、その資料たちをぴょんぴょんと飛び越えながら、レイモンド王の部屋を出て行った。






トワイライトの一族について語るなら、彼らはソロモンという指導者やレピスを失い、また連邦に捕われていた仲間たちを救う事も出来ず、この惨事の後も、しばらく失意の中にいた。


しかし、いち早く立ち上がったのは、最年少のノア君だった。

彼は、薄々仲間内に“エリス”が居るのではと感じていた事もあり、この結果に、早々に見切りをつけたのだった。


トワイライトの一族の者たちは、もう自由だ。

このような状況であっても、彼らを束縛するものは、もう何も無い。


それでもノア君は、このルスキアに残って、復興の為に力を尽くしたいと言ってくれた。

彼は個人で見れば優秀な魔術師で、何より若く未来のある人物だ。

ルスキア王宮はその要望を受け、彼を魔術師として雇う契約をした。


ルーベルタワーの管理人であるノア君は、今後ルスキア王国でも相当な立場の魔術師となると予想されている。


「きゃははっ、殿下が来たわ! こんにちは!」


ルーベルタワーの管理室に入ると、キキルナが賑やかな様子で挨拶をしてきた。


「こんにちは、キキルナ」


このキキルナは、本物のキキルナだ。

青の将軍に乗っ取られた肉体を眠らせ、教国の奥深くに隠していたキキルナであったが、巨兵襲来の直前にエスカ義兄さんとノア君が、彼女の肉体を安全な場所へと移動させていたらしい。


不思議な事に、あの惨事のあと彼女は目を覚ましたのだった。

“エリス”としてではなく、本物のキキルナとして。


キキルナは今もここに残り、ノアをサポートする魔導回路のエンジニアとして、働いている。

自分が青の将軍に乗っ取られていた事など、覚えていないらしい。


いったい誰が彼女に近づき、呪いの種を植え込んだのか。

それももう、分かる日は来ないのだろう。


「で……何だっけ。リリスがどうかしたの?」


「ええ。三つのタワーに同期されていた魔導要塞“黒の幕”の跡地を、リリスが行ったり来たりして遊んでいるのはご存知でしたよね」


「うん。彼女は巨兵だし、魔道要塞のようなものでもあるし、言ってしまえば空間魔術師だから、可能だろうと思っていたんだけど……何か問題が起こったの?」


「それが……彼女、たまに外に出てしまっているようで」


「……今までも、タワーの中を遊んでいる事はあったじゃないか」


「いえ……。外って言うのは、もっと外で……野外でして」


「野外?」


「ええ。きっと、時々マキア様やトール様の所へ行っているんだと思うんですけどね」


「……」


「今も、どっかへ行っちゃってて……流石に、一度ご報告しておこうと思って……」


良くわからなかったが、巨兵としての力を暴走させがちな彼女が、タワーの外に出かけてしまうと言うのは、確かに問題のような気がした。

だけど、トール君やマキちゃんに会いにいくリリスを止めるのも、何だかかわいそうだ。


「ただ……最近のリリスはとにかく安定していて、暴走の兆しはありません。トール様曰く、ナタン様の肉体を彼女が吸収してから、彼女の中にあった巨兵としての凶悪な性質が無くなってしまった、と。……ナタン様、何かを体内に仕込んでいたみたいで」


「……」


「きっと、自分が最後に、リリスに吸収されるって分かっていたんですね。……もしくは、そうなるように仕掛けがあったのか……」


ノア君は、あまりナタン・トワイライトの事は覚えていないと言っていたが、諸々な思いがこみ上げてきたのか、そっと目元を押さえていた。


キキルナがぽんと彼の肩に手を置く。


「まあでも、暴走しないリリスなら、ただの小さな女の子じゃない。……いつか、私たちがリリスを元の人間に戻せる様、頑張って研究するって決めたでしょう?」


「うん……キキルナ姉さん」


年上らしくノア君を励ますキキルナ。

この二人は、僕より数歳年下だが、何だかとても頼りになる。


「ノア、キキルナ。……君たちは強いね」


一族のほとんど居なくなって、トワイライトの技術を、公と言う形では今後受け継いでゆく子たちだ。

不安は無いのだろうか。


「そりゃあ……本当は、レピス姉さんやソロモン様が居てくれたらって思うけれど……」


キキルナは困ったように、微笑んだ。


「でも、マキア様が言っていました。あの二人は、やっと自由になったんだって。……僕は、二人の幸せを願っています。たとえ彼らが、“エリス”であっても」


ノアもまた、キキルナの言葉に繋げる。

若い二人の魔術師は、その生い立ちや過去故に、レピスやソロモンを信じているようだ。

辛い過去があっても、キラキラとした純粋な魔力を纏っている。


「なら、リリスの事は二人に任せるよ。どこに居るのか捜して……見守っていてくれ」


「はい」


二人は力強く返事をした。


本当は、もっとリリスにも、ここに残ったトワイライトの一族たちにも、警戒しなくてはならないことは、まだあるのかもしれない。

だけど、用心深い僕でも今ばかりは、彼らを信じたいと思った。










「おかえり、ユリシス」


「……ただいま、ペリセリス」


様々な仕事を終えた僕は、タワーの中腹部に設けられている臨時教国にある、ペルセリスの部屋へと帰った。

ペルセリスはちょうどオペリアを寝かしつけた所の様で、ベッドに腰掛けている。


「今日、スズマと通信してみたのよ。スズマ、今はフレジールに居るけれど、あちらでも元気にしてるって」


「……へえ。エスカ義兄さんにはこき使われてないかい? 僕は心配だ」


「あはは。お兄ちゃんはむしろ、頑張りすぎで夜更かしなスズマを、よく叱っているみたいよ。もう立派な師弟関係ね」


スズマはここには居らず、エスカ義兄さんについてフレジールへと行っている。

エスカ義兄さんはしばらくフレジールとルスキアを行き来する事になっているから、それについて行って、サポートをしているのだ。

好奇心旺盛なスズマは、あちこちに行ってみたかっただけかもしれないが……


すっかりエスカ義兄さんに鍛えられ、立派な白魔術師になっているスズマ。

彼はその好奇心を、今後世界のあらゆる事に向けていくのかもしれない。


たぐいまれな力を持った子供だ。

その力を使って、大いに世界で活躍して欲しい。


「あ、そうだ。ペリセリス……マキちゃんとトール君が、結婚したんだって」


「まあ! やっとなのね!!」


この知らせに、ペルセリスはとても喜んだ。

ベッドからぴょんと飛び降りて、僕の前までやってくる。


「式は? 私、やっと教国から出られるようになったんだもの。式があるのなら、行って二人をお祝いしたい!!」


「……はは。式はまだ先になるだろうって、レイモンド王は言っていたよ」


「そうなの? それは残念……」


しょぼんとするペリセリス。

僕はそんな妻の肩を引き寄せ、長くなったオリーブ色の髪を撫でた。


「でも、ミラドリードが王都として復興したら、しばらくお休みでも貰って、一緒にデリアフィールドへ行ってみよう。ペルセリス……君はもう、どこへだって行けるからね」


「……うん。うん!!」


ペルセリスは僕の胸に顔を埋めて、ごろごろと甘えた。

最近ではすっかり逞しいお母さんになっていたけれど、時々見せてくれる甘えん坊な彼女に、僕は思わず笑みをこぼした。


教国がどうなったのかと言えば、あの国は大樹を失い、実質的な力を失ったこととなり、大司教やエスカ義兄さんを中心に、今後について協議されている。


ペルセリスに対する強制的な“緑の巫女”としての立場も曖昧となり、彼女は今、自由の身だ。


とは言え、その行動は何もかもが無制限と言う訳ではないが、療養もかねてデリアフィールドへ赴くのなら、誰も反対はしないだろう。

あの土地は、誰もが認める癒しの地だから。








家族が側にいるのは、とても素晴らしい事だ。

側には居なくとも、逞しく成長する我が子を見守るのもとても良い。


僕はそんな、温かな家庭の中に居る。

マキちゃんやトール君が、全力でこの世界を守ってくれたから。



あの二人は、これからどんな幸せな家庭を作っていくのだろうか。

夫婦として、どんな道を歩んで行くのだろう。


僕はそれがとても気になるし、彼らに何かあったなら、全力で支えたいと思っている。


彼らが僕に与えてくれたものを、今度は僕がお返ししなければならない。



「私……時々夢を見るの、ユリシス」


「どんな夢だい?」


「私たちの子供たちの夢。……まだ、この世界には生まれていないのに、私、マキアとトールの子供たちの夢も見るのよ?」


「……へえ。どんな子供たちだった?」


「赤毛の男の子と、赤毛の女の子の、双子だったわ」


「へえ……マキちゃんの色が濃いね」


「そうなの。二人ともマキアみたいに元気いっぱいだったの!」


「……」


僕は思わず、地球での園児時代のマキちゃんを思い出していた。

元気と言うか、横暴と言うか、悪ガキで有名だったマキちゃんの姿を……


あのような双子が生まれたら最強だろうな……


「でね、お姉ちゃんのはずのオペリアが、二人に引っ張られて、一緒に浜辺で遊んでいるの。双子は空間の魔法が使えて、立派な砂のお城を造っていたわ」


「へえ……そこにトール君の要素があるのかあ」


これはペルセリスの夢だと言うのに、僕はまるで本当の事のように聞き入っていた。


でも、もしかしたらこれは、そのうち本当の事になるのかもしれない。

多少の違いはあっても、似た光景は、そう遠く無い未来に拝めるのかもしれない……


「ふふっ、楽しみだね、ユリシス」


「……そうだね。楽しみだね」


僕の妻、緑の巫女であったペルセリスの夢に、意味が無いとは思わない。


僕のかけがえの無い友人であるあの二人が、もう二度と寂しい思いをしない居場所を作って、家族に囲まれている……

そんな姿を見る事ができるのなら、それは本当に望ましい未来である。

長く抱き続けた孤独を、彼らは癒していけるだろう。


時々、その中に僕ら家族も混ざって、楽しい時間を共有できたのなら……





僕は、この先の未来が、とても楽しみだ。



僕たちの物語は、これからだ。







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