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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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30:マキア、教会より覗きをする。



カルテッドの中心にある教会は、この賑やかな町とは裏腹にとても静かな場所です。

ステンドグラスの美しい絵が、ただ静かに光を集め、我々を見おろしています。


この世界のメイデーア神話になぞらえたステンドグラスの有名な絵には、9人の神様がそれぞれ横向きに描かれていますが、私はいつもこの絵を見る度に思うのです。


9人目の神様だけが前を向いているのです。他の神様は皆横を向いているのに。

何ででしょうね。


緑と青の多いグラスの、どこか冷たい静かな色が、教会の暗がりのあちこちに落ちています。



「って、そんな事はどうでもいいのよ」


私は教会の右側の窓から、隣の空き地を観察しようと思ってここへ来たのです。


トールは空き地で、なにやら貧しそうな身なりの子供たちを集め話を聞かせていました。

いったい何の話をしているのでしょう。




「お前たち、文字を読めるだけで人生は変わる。本を読む事が出来るからな」


「先生〜でも本を買うお金がありませ〜ん」


「まあな。あ、学校に通えば本は沢山あるぞ。図書館があるからな」


「……ふーん」


どこかポカンとした子供たちの顔が面白いです。


「知識は武器になる。お前たち、煙突掃除夫で居られるのはあと数年なのだから、その後の事を考えないとな。カルテッドは商人としてチャンスをつかめる良い場所だ。商人として、この大陸中を相手取った商売をしたい時、知識は役に立つぞ」


トールは先生を気取っています。

言っている事は最もなのだが、果たして子供たちが理解しているのかは定かではない。

簡単な言葉を使って、子供に分かりやすく説明する事がとても難しい様です。


続いて袋に入ったお菓子を並べて、計算の勉強を教え始めましたが、文字の読めない子供たちでもこれは出来たりするから驚きです。


「うわ、さすが商人の町!!」


トールですら驚いています。

お金の計算が日常的な働く子供たちにとって、お菓子の数を足したり引いたり、掛けたり割ったりは朝飯前らしい。

お金を稼いだり、ものを売ったりするのは、彼らが生きる上で必要な事ですからね。


「……」


あんな一生懸命なトールは初めて見ました。

子供たちの質問に答えながら、わかりやすい言葉を絞り出しては悩んで、それでも投げ出したりしません。


自分が貧しい生活を知っているからこそ、親身になれると言った所でしょうか。

少し暑苦しいくらい。



しばらくは穏便に授業が進んでいましたが、途中で勉強に飽きてしまう子供が出て来ました。いきなり立ち上がってそこら辺で駆け巡っている子もいます。


「おいこら、アントニオに、ブルーノ!! ちょっと落ち着きなさい!!」


「ヤーダね。じゃ、トール先生、鬼ね」


と、アントニオと言う少々大柄の少年が合図すると、いきなり鬼ごっこが始まったりするのです。

子供たちは計算に使っていたお菓子を持ったまま、キャーキャー言いながら逃げて行きます。


「またかおい!! こら持ち逃げするな!!」


トールはそれを全力で追いかけ始めるのです。


「やーいやーい」


「トール先生のすけこまし」


「変態!」


結構な言われ様ですね。

子供たちに完全に遊ばれています。すけこましとか知ってるんですね。

そして何より、すばしっこい。

ちょろちょろ分散する子供たちに、トールはほとほと手を焼いているようです。


ああ、そっか。さっきのはこれだったのね。

私は納得しました。


騒がしかった広場は、一気に静かになりましたが、私は誰もいない広場から目を逸らす事は出来ませんでした。

本当はここで、私もトールたちを追いかけないといけないのに。


何だろうな、私はトールがカルテッドでしている事を、少々勘違いしていた様です。



「……何を見ている、少女よ」


「!?」



それは、本当に突然でした。

教会には誰もいなかったはずなのに、いきなり鼻につく煙と匂いが背後から漂ってきたのです。


ただ単純に私が物思いにふけっていたせいで、人が近づいて来ている事に気がつかなかったのでしょうか。

振り返ると、身なりの良い若い男が、煙管を吹きながらすぐ後ろに立っていました。



誰?

静かに漂う煙の中、僅かに魔力のぴりっとした空気が感じられました。


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