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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
最終章 〜ゼロ・メイデーア〜
378/408

09:シャトマ、カノンの帰りを待っている。

2話連続で更新しております。ご注意ください。(1話目)


妾の名前はシャトマ・ミレイヤ・フレジール。

フレジール王国の王女であり、藤姫とも呼ばれている。

神話名はパラ・プシマ。


妾は今、オーバーツリーに停泊するヴァルキュリア第1艦隊のコックピットで、目前に迫る戦いを前に、脇のモニターに集められる情報を確認している。


連邦が元々用意していた軍事用の地下防空壕が、キルトレーデンにはある。

そこへの、住民の非難が開始されていた。

連邦の軍幹部に我々と通じている者がいた事もあり、この段階で、連邦軍はフレジールに白旗を上げたのだった。


畳み掛けるような状況で、連邦の運命を担う事になってしまったが、今は敵国を攻略した事など関係ない。

むしろ、今後の状況次第では、大変なものを背負う事となる。


空に開いた穴は、もう誰の目でも見える程だった。

そこから覗く巨大な化け物の片目を前に、国同士の争いなどしていられない。


あれが出てくる前に、出来るだけ多くの者たちを避難させなければならない。

限界時間、残り10時間と言った所か。


そろそろあいつらも、南の大陸側に出現した幻想の島へと出発する。






カノンが、1時間だけ時間が欲しいと言って、異世界である地球へと戻った。

この状況で、将軍であるカノンが抜けるのは本来あり得ないが、妾は許した。



「……おかえり、カノン」


「……」


カノンは約束の時間の5分前に、ちゃんと戻ってきた。

いつもながらに無表情で、我がフレジールの軍服と軍帽をきっちり着こなしたスタイルで、音も無く妾の側に立つ。


妾は少しだけコックピットから離れ、隣の部屋にてカノンと二人きりの時間を作る。

それでも妾たちは、席に着く事も無く、ただ壁に背をつけて並んで立っていた。


「あちらの世界にお別れをしてきたのか?」


「……情報を消してきただけの事だ。あれが地球で発見され、騒ぎになっても面倒だからな」


「ふふ。相変わらず、律儀で生真面目な奴だな」


もう関わる事の無い世界で騒ぎになろうが、どうでも良いだろうに。

妾は横に立つカノンの顔を見上げた。


「お疲れだったな、カノン」


「……」


そう声をかけると、カノンは僅かに妾に視線を向け「何の事だ」と問う。


「俺はまだ、やる事がある」


「そうだ。そなたには今から、あの紅魔女と黒魔王と共に、幻想の島へと行ってもらう。かつてのヴァベルへな」


「……」


「あの場所で、最後の決着を付けてくると良い」


ぽんと肩を叩いた。

カノンの肩の位置は高いし、カノンの肩は硬い。妾が叩いてもびくともしない。


そうだ。

カノンは少し叩かれたくらいでは揺れる事も倒れる事もない。

それが出来ないくらい、ずっとずっと、安らぐ事の無い緊張感の中にいた。


「姫……今度ばかりは、あなたの側にいる事は出来ない」


カノンはやっと妾を正面に捉え、まともな言葉を吐いた。


「……ん? それは分かっている。最初から分かっていたさ」


「……」


「だけど、安心すると良い。妾はきっと、そなたの期待に応えてみせよう。紅魔女が世界の法則を壊すまで、このメイデーアを守ってみせる。“藤姫”はそなたの最高傑作だからな」


妾は自信に満ちた口調で言って、もう一度、カノンの肩をばしっと叩いた。

やはり、びくともしない。妾の言葉では揺れもしない。


カノンの目的は、最初から一貫していた。

千年前に妾を見つけ、守り、育ててくれたのも、彼の中にあった本当の願いの為だ。


だが、それで良い。

それでも妾が、カノンに助けられた事に変わりはない。

育んでもらった事に変わりはない。


むしろ、彼を一番側で支える役目を、妾に与えてくれた事を嬉しく思う。


今の藤姫はカノンに与えられた偶像。

それが世界と妾を、導いてくれる。


「シャトマ姫様……」


カノンは妾の前にスッと跪き、妾の手を取って、そっと口づけた。


「健闘をお祈りします……我が王」


「ふふ……珍しい事をしてくれる」


「……」


「妾も……そなたの願いが叶う事を心から祈っているぞ、カノン」


この言葉で、妾たちの会話は終わった。

カノンは迷う事無く、この部屋を出て行く。振り返る事も無く、いつものようなしっかりとした足取りで。


「……カノン、か」


これは、妾が千年前に与えた名だ。

本当は少しだけ素の自分に戻って、カノンをまたお父様と呼びたかった。

小さな女の子だったかつてのサティマのように。


カノンは二人きりの時、そう呼ぶのを許してくれる。だけど、今回はダメだ。

カノンは妾に、王である事を求めた。


ぐっと拳を握りしめ、真っ白な天井を見上げる。その白い壁の向こう側、遠くの地で血に飢える、討つべき敵を睨むように。


「シャトマ姫様、そろそろ出発のお時間です」


すとんと側に降り立ち、妾に告げたのは、ソロモン・トワイライトだった。


「ああ。……すまないな、ソロモン。そなたもまだ、落ち着いていないだろうに」


「……いいえ。不思議なものでして、私の心は存外に晴れやかなのですよ」


「……」


ソロモンは多くを語る事は無かったが、表情はいつものように、穏やかでいる。

こんな状況で、感情を隠しているだけなのかもしれないが。


「行くか」


妾はこの部屋を出て、この戦いギガント・マギリーヴァの中枢を担うコックピットへと足を進めた。

ブーツの音は軽快だった。


妾の乗っている第一艦隊の向かい側に、カノンが乗る第七艦隊が停まっている。

カノンがそちらに歩いて向っているのが、コックピットのメインモニターから見えた。


「……」


この先、どのような結末になろうとも、これが妾たちの最後の戦いになる。

オリジナル相手では、楽勝とはいくまい。


妾にもカノンにも、何があるかは分からない。


だけど、戻ってこい。

戻ってこいカノン。


カノンが帰るべき場所は、確かにまだ、この世界に残っている。


それをちゃんと、覚えておいて欲しい。



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