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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
最終章 〜ゼロ・メイデーア〜
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07:神話大系15 〜世界再生〜



3話連続で更新しております。(2話目)

ご注意ください。




黄昏戦争の終焉は、実にあっけないものだった。



ユティスの国を包んでいた、緑の幕が割れそうだったのを、マギリーヴァが阻止した結果となるのだろう。


神器を持たないマギリーヴァが使った魔法は、この時はまだ誰も知らない、未知なる魔法。

0を1にする魔法。全能の魔法。


それは奇跡に相当する。

本来魔法ではどうにもならない事象を、可能とするからだ。


マギリーヴァがその魔法をどこで知り、どうやって発動し、何を祈ったのかは分からない。

何がそれを聞き入れたのかは知らない。


だが、彼女が展開した魔法は、破壊不可能と言われていたオリジナルの巨兵の機能を停止させ、ただの残骸と化し、燃え腐る世界に癒しと恵の雨を降らせた。


濁った赤黒い空は、澄み切った白と青の空に戻り、巨兵が唸り、軋む音も聞こえなくなった。

静寂の中、壊れたおもちゃみたいな巨兵と、佇む二人の神と、倒れた一人の女神が居ただけだ。


俺は、マギリーヴァの黄金の剣によって、守られていたみたいだ。

倒れ込んでいたが、一つも、怪我は無い。


「…………」


だが、胸は張り裂けんばかりに痛かった。

巨兵が討ち倒され、戦争が終わったのだと言う理解にはほど遠く、俺は、視線の先で血にまみれて倒れているマギリーヴァだけを見ていた。


嫌な情報が、死の神である俺の元に、まるでお告げの様に届く。


「マギリーヴァ!!!」


降り止む事の無い雨の中、俺は立ち上がり、その水たまりを蹴りながら、マギリーヴァに駆け寄った。

マギリーヴァは真っ白な顔をして、眠ったように、瓦礫に埋もれていた。

俺は彼女に覆い被さっていた鉄くずをどかし、マギリーヴァの側に伏し、彼女を揺さぶる。


しかし、マギリーヴァは目を覚まさない。

息もしていない。


何もかもを信じたく無くて、俺は何度もマギリーヴァの名を呼んだが、返事は無い。


奥歯を噛んで、涙を流しながら、俺はマギリーヴァの小さな手を握った。


「…………マギリーヴァ?」


俺の背後で、マギリーヴァの名を呼んだ男が居た。

クロンドールだった。


右腕には剣を持ち、左腕はすでに失われ、血が水たまりにぼたぼたと流れていた。


ただ、自分の深手よりずっと、マギリーヴァが“死んでいる”のだという事が、クロンドールにもまた、衝撃的な事だったようだ。


ガランと剣を落とし、足を引きずりながらも、ゆっくりとマギリーヴァに近づく。

クロンドールはその瞳に、マギリーヴァだけを映していた。


目の前の情報と、現状と、全ての結末に、誰もがついて行けていない。

ただ、マギリーヴァが死んでいるのだと言う事だけが、今の俺とクロンドールにとって全てだった。


「クロンドール!! クロンドール!!!」


錯乱したような叫び声が聞こえた。


「貴様……っ、まだ終わってないぞ!! 巨兵が無くなったって、まだ戦える!! 剣を取れクロンドール!!」


アクロメイアだった。アクロメイアもまた、片目を潰して顔面の半分を血に染めていたが、それでも、クロンドールと決着を付けようとしていた。


だが、クロンドールはアクロメイアを見ようとはしない。

マギリーヴァの側に座り込み、彼女の真っ白な頬を撫でただけで、言葉すら無い。


「クロンドール!! 戦え!! 何の為に、ここまでやってきたと思っているんだ!!」


「……」


「貴様、ふざけるなよ……ふざけるなよクロンドール!!!」


アクロメイアの叫びが、虚しく蒼穹に響いた。


だが、クロンドールが再び剣を取る事は無かった。

ただただ、マギリーヴァの亡骸に寄り添い、ぼんやりと彼女を見つめ、力ない姿で居る。


何を考えているのだろうか。

ちゃんと、マギリーヴァの事を考えているのだろうか。


遅すぎる。遅すぎるんだよ、クロンドール……


クロンドールへの憤りが、激しく胸を渦巻いていたが、俺もまた、ここでクロンドールを責めたてる力は無かった。

クロンドールは自身をなんとか繋いでいた糸が、ぷつんと切れたように、その場に崩れてしまったからだ。





マギリーヴァが、その奇跡の魔法で願った事は、ただの巨兵の破壊ではない。

彼女が自分の命を使って願った事は、二人の神の力を、神器を、権利や司る概念までも、一時的に封じる事。

この時、アクロメイアとクロンドールは、神々の序列を最下位にまで落とされたのだった。


黄金の林檎を巡った争いは、こんな風に、あっけなく、ただ一人の女の願いによって幕を閉じたのだった。


残されたのは、ボロボロになった世界と、唯一無事であった聖地周辺と、大樹。

まるで、俺たちがこの世界に来た時のように、何も無い世界になってしまっていた。


クロンドールによって匿われていた黄金の林檎パラ・α・へレネイアもまた、二大神が力を失った事で、女神の地位から、ただの人間にまで落ちた。

女神ではなく、ただの人間となったヘレネイアは、女神としての象徴であった愛の概念を剥がされたのである。


一方、クロンドールはマギリーヴァを失い、自責の念に捕われ、全てを放棄したのだった。

ヘレネイアの事も、自分自身の処分も、もうどうでも良いと言うように、その他の神々に委ねた。


アクロメイアはそんなクロンドールに対し、怒り、憤った。

だが決着を付けたいアクロメイアに対し、クロンドールはもう応えない。

そんなクロンドールに失望し、ただの人となったヘレネイアに絶望し、アクロメイアもまた何もかもがどうでもよくなった様だった。






メイデーアは救われた。

いや、結果として滅んだと言っても良いのだが、やり直すチャンスは得られた。 


全ての神々が、冷静に、冷淡に、今後の事を考え、力を尽くした。

マギリーヴァがかろうじて繋いでくれた世界を、俺たちの絆を、次の世界に継ぐ為に。


マギリーヴァを失い悲しくて仕方が無かったのに、俺たちはただひたすらに、メイデーアの今後を考えた。

いや、悲しかったからこそ、他の事に没頭したかったのかもしれない。

他の神々と共に、焼けてしまった世界の再構築を決定し、神々の転生のシステム、世界の法則を定めた。


また、戦争を引き起こした原因であるヘレネイアをメイデーアから追放した。

すでにただの人ではあったが、そう出なければ愛の概念が、再び肉体に戻りたがるという恐れがあったからだ。

世界の境界線は数多く存在し、それらは戦争によって空間をねじ曲げられたメイデーアのあちこちに、露となっていた。

それを利用してヘレネイアを異世界へと追放することにしたのだ。

アクロメイアとクロンドールに、これらの否定権は無かった。



世界を再構築する際、俺たちは千年事にランダムで生まれ変わる仕組みを作り上げた。

ただ、神々の転生のシステムを作る上で、誰かが一人、転生した先での神々の遺体を回収する役割を担わなくてはならなかった。

そうでなければ、神々はまた、長く君臨し、誤った世界を作り上げ、争いを生む。

次は、神であってはならないのだ。


“回収者”として抜擢されたのは、俺だった。


俺には、まるでこの時の為と言わんばかりに、記憶を管理し続け、神を殺す事が出来る力が備わっていたからだ。



「なぜだ……俺に全てを押し付け、お前たちだけ何もかも忘れようというのか。出来る訳が無い……出来る訳が無い……っ。俺に狂えと言うのか!!!」



最初こそ、俺はこの決定に納得ができず、嘆き苦しんだ。

それは、この先また出会えるかもしれない、彼女をも手にかけなければならないと言う事だったからだ。

悲しい事も、苦しい事も、全て覚え続けて、それでもなお殺すために出会わなければならない。


しかし、今度こそという思いでいる神々の冷徹な判断は、俺にも正しいと思えた。

彼らもまた、自らが殺される運命を、俺に委ねているのだから。


俺は、マギリーヴァの言葉を思い出していた。


『ごめんなさい、ハデフィス。あなたに全てを任せてしまって。だけどどうか、絶望しないで。ずっとずっと先の事になるかもしれないけれど、遠い道の先に終わりがあるのなら……私たちはまた、巡り会えるわ』


マギリーヴァはどこまで見据えていたのだろう。

遠い道の先の終わりとは、いったいどこなのだろう。


結局俺は、それを受け入れた。

回収者として、これから幾度となく転生を繰り返す神々の“人生”を見守り、記録し、最後には殺す為に……






その後の為の全てを定めたメイデーアは、今一度リセットし、再構築、再創造を始めた。

大陸は四つに分かれ、中央に大きな海を設けた。

やがて現代に繋がる国々が生まれ、死の国に居た魂は、新しい世界で転生を果たした。


俺たちもまた、全てをやり直すため、安らかなる転生のための床についた。


再構築してしまえば、転生後の俺たちは、随分と法則に縛られる事となる。

それは、力を暴走させないための法則だ。


誰もが、これで大丈夫だと思っていた。

メイデーアは、棺のシステム、また世界の法則によって正しく導かれ、決して俺たちに滅ぼされたりしない。


神々は神ではなくなる。

回収者である俺が居る限り、彼らは神になる前の、かろうじて人である段階で、殺される。


それは、後に“魔王”と呼ばれる存在だ。







だが、新たなメイデーアで転生を果たした俺は、知る事になる。

悲劇的な終焉から、メイデーアの為を思って再構築に至ったはずなのに、俺たちは結局、自分たちの作った数多くの法則によって、苦しめられるのである。



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