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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
最終章 〜ゼロ・メイデーア〜
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02:神話大系10 〜クウィンリードの密談〜




アクロメイアが催した宴の後、愛の女神へレネイアにまんまと骨抜きにされた神々に対する、女神たちの機嫌の悪さは見て取れる程であった。


特に、マギリーヴァとプシマはお互いに婚約者の居る身だ。


『探さないでください』


何がきっかけであったのか、この手の置き手紙をして自国を去り、産後間もないデメテリスとユティスの居る聖地ヴァベルに押し掛け、ずっと居座っているらしい。彼女たち曰く、お祝いのため、である。


大樹の近くには、デメテリスの豊穣の力により、多くの果実のなる果樹園があった。

その林檎の木の下で、赤子を抱くデメテリスを囲んで、マギリーヴァがその赤子に名を与え、プシマが栄えある未来を与えた。


三女神が一同に揃い、林檎の木の下で開いたこの会談を、後に神話用語で『クウィンリードの密談』と呼ぶ。

クウィンリードとは三女神の総称である。


ここまでは良い。未来ある赤子に加護を与えたのだから、女神として全うな働きをしたと言える。

だが、そのままヴァベルに居座った事が問題だ。

なかなか自国へ帰らないマギリーヴァとプシマの心配をして、また妻と子がこの女神たちに横取りされて若干のジェラシーを感じていたユティスは、唯一この騒動の部外者である俺を、死の国まで呼びにきた。


あの女神たちをどうにかしてくれ、という切実なお願いだった。

俺はユティスを冷めた目で見て言い放った。


「無茶言うな。俺に“あの”奔放な女神たちをどうにか出来るはずも無かろう」


「そう言わないでよ。そう言わないでよ。ほんとに……ほんとに!」


「……」


「もう僕じゃ手に負えないよ!」


わざわざ死の国までやってきたユティスの焦り様は凄まじく、流石に不憫だと思った。

また、ログ・ヴェーダ戦争の時はまったく気にならなかった地上の様子が、今回ばかりは気になっていたのも事実だ。

俺は久方ぶりに身なりを整え、死の国の穢れを洗い流し、地上へと出て行った。

ユティスと共に大樹のある聖地ヴァベルへと向ったのだった。




大樹は変わらず、神聖な空気の中にあった。

この場所だけは、ずっと昔から変わらない。

ログ・ヴェーダの際、アクロメイアはこの土地を狙っての進軍を進めていたが、その目的が果たされる事は無かった。元々、デメテリスにしか治める事の出来ない土地だ。


俺はマギリーヴァとプシマの居座る場所へ赴き、自国へ帰るよう説得を試みたが、彼女たちは、頑にここに居たがった。


「聞いてよハデフィス! クロンドールの奴、あれからもう一度、アクロメイアの国へ行ったのよ。きっとあの新しい女神に会いに行ったんだわ! もう私、絶対に帰ってやらないんだから」


マギリーヴァは林檎の実を食べ、地面を拳で打ち付けながら文句を言っていたが、しまいにはわんわん泣いてしまっていた。

俺には何が何だか分からない。

まるで酔っぱらいのようだと思ったが、どうやら林檎以外にもここの葡萄酒を大量に飲んでいたらしい。


「ねえ聞いて、ハデフィス。エリスがいきなり、婚約を破棄しようと言いだしたの。何でだか分かる? あの新しい女神の方が私より美しくて上位の女神だから、だなんて言うの。酷いと思わない?」


プシマは俺の袖を引っ張りながら、さめざめ泣いていた。

マギリーヴァとは違う反応だが、プシマもまた、葡萄酒の瓶を手放せずに居た。


これは、夫婦仲も良く子供にも恵まれたデメテリスやユティスには、何にも言えない状態だろう。

言った所で、この二人の女神にとっては、憎らしいだけの言葉に違いない。


何だか前の戦争よりずっと厄介な事件になっている気がしてきた……

これでは、アクロメイアが孤立しているだけでなく、神々がバラバラじゃないか。


「……しっかりしろ。女神がそんなていたらくでは、人間たちに示しがつかないだろう」


「うるさいうるさ〜い。もう良いのよ、飲んでないとやってられないのよ!」


マギリーヴァは酔っぱらって暴れた。

ここは聖地だと言うのに、罰当たりな。


「クロンドールの奴、軽く気がかりになる〜、くらいなら、別に今までも何度もあったから良いのよ」


「何度もあったのか」


「あいつはか弱い存在を無視できない質なのよ! 無意識なたらしなのよ!!」


マギリーヴァは大きな声を上げた。

相当な鬱憤が溜まっているようだ。


「でも、今回は何だか違うわよ。ずっと、思い詰めたような顔をしているの。私が居る時は、いつも通りに振る舞おうとしているんだけど、私が居なくなると、ずっと窓から外を見て、ぼんやりしているんだもの。絶対、あの女神の事を考えているんだわ……って思っていたら……」


ごくごくと葡萄酒を飲んで、口を拭ってから、マギリーヴァは続けた。


「いきなり、アクロメイアの所へ行くって言いだして。私も行くって言ったのに、お前は危険だから残ってろって……! きっと私に来られると面倒な事になるって分かっているんだわ」


あまりに言うので、俺は不思議に思って、尋ねた。


「お前、クロンドールから、事情を聞いていないのか?」


「……何の事情よ。前に仕えていたお姫様に似ているって話?」


「なんだ、聞いているんじゃないか」


「そんなのは分かっているのよ。だけど、それとこれとは話が別でしょう!」


マギリーヴァは、その事情こそ相まって、不安に思っている様だった。

そう言うものなんだろうか……女心に関しては、クロンドールの方がよほど詳しいだろうに。


その場にごろんと転がって、涙を垂れ流すマギリーヴァは実に不憫だと思った。

同時にクロンドールの事情も、大変だなと思う。


「クロンドールの事を……信じてやれ」


とにかくそれだけ、マギリーヴァに言った。

マギリーヴァは俺の顔を見て、うっと表情を歪ませ、まためそめそとしていたけれど。


男女の事なんて、俺にとっちゃ知った事ではない。

こういう面倒な場面に遭遇すると、やっぱり一人身が良いのだなと思って、遠い場所を見た。


「じゃあ、私はどうしたら良いのよハデフィス! 私だって、私だって」


「プシマ、落ち着け」


だが、プシマもまた、酷く混乱していた。

俺がマギリーヴァばかり慰めるのが気に入らなかったのか、人の黒いローブを引っ張って、背中を叩く。

プシマは思慮深く可憐な、落ち着いた女の子だったのに、神々とは歳を重ねる程にわがままで奔放になってしまうのだな。


俺もユティスも、顔を見合わせて肩を落とした。

どうしようこいつら……と言いたげな顔だ。俺も等しく。

デメテリスは我が子をあやしながらも「二人とも可愛そう」と、女神たちに同情して涙を流している。


「ユティスも、その新しい女神様を見たら、私よりそっちを好きになっちゃうのかなあ」


「えっ!? そんなはず無いだろう、デメテリス……っ、僕は君だけだよ」


「ほんとう?」


不安そうにして、我が子をぎゅっと抱いて、ぽろぽろ泣いているデメテリス。

マギリーヴァとプシマの様子から、ユティスもそうなってしまうのではと想像してしまった様だった。

そんなデメテリスが愛おしくて仕方が無いのか、ユティスは「誓って無いよ!」と豪語し、彼女を抱きしめていた。


「僕だけは絶対に、そんな事にはならない! あの優柔不断男共とは違うんだ!」


「ゆうじゅうふだん?」


「マギリーヴァやプシマを泣かせている酷い男たちの事さ」


ユティスは得意げな笑顔で、辛らつな言葉を吐いた。

デメテリスはユティスに肩を抱かれながら、妙な安心感を得ている様だった。

ここは安心して見ていられる夫婦だが、あまりに眩しくて、直視は出来ない……


お互いが一途に思い合えれば、ここの夫婦のようになるのだろうが、実際それは難しいのだろうか。

いや、この夫婦が異常なんだろうか……?


分からない。

俺には、そこまで思える人が居る訳でもないのに。


「どうしようか、ハデフィス」


ちょっと引き気味の俺に気がついたのか、ユティスがゴホンと咳払いをして、本題に触れる。


「どうしようと言われても、俺たちに何が出来ると言うんだ」


「僕、その新しい女神に、何らかの特別な力があって、こんな事態になっていると思うんだ」


「……どういう事だ?」


「単純なトリタニア義兄さんならともかく、クロンドールやエリスが、そう簡単にアクロメイアの創り出した女神に惹かれると思うかい?」


「……そういうのは、お前の方が詳しいんじゃないのか」


長年、地下の死の国に引きこもっていた俺に、そのような他人の事情や色恋沙汰に深くつっこんでいける道理は無い。

そもそも、良くわからない。そういう感覚が無い。


しかしユティスにとっても、今回の騒動の方が、訳が分からない様だった。


「おそらく、その新しい女神が、女神である所以に、何かしら力があるんだよ。あのアクロメイアが神々を呼んで、お披露目したくらいなんだ。何か意図があったに違いないんだよ」


「……それもそうだな」


「順番に、神々を回っていこう。最後はアクロメイアの所に行かなくちゃいけないかもしれない。いったいどうやって、何の為の、第十の神を生み出したのか、問いたださなくては。このままじゃ、神々はその新しい女神に引っ掻き回されて、また戦争になってしまう」


ユティスは随分心配していた。

正直な所、たかだか色恋沙汰でそこまでになるのかとアホらしく感じていた俺だが、賢人ユティスの言う事は侮りがたいと知っていたので、俺はユティスの言う通りにしようと思った。


酒浸りなマギリーヴァ、プシマを連れて、神々を尋ねて回る事となったのだった。




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