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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
最終章 〜ゼロ・メイデーア〜
370/408

01:神話大系9 〜黄金の林檎〜


*神話体系の続きになります。

*視点・ハデフィス(カノン)



(主な登場人物)

名前など確認の必要がある際お使いください。


《創世神》


◯パラ・ハデフィス(現カノン・神話大系の主人公)

◯パラ・アクロメイア(現イスタルテ)

◯パラ・クロンドール(現トール)

◯パラ・マギリーヴァ(現マキア)

◯パラ・ユティス(現ユリシス)

◯パラ・デメテリス(現ペルセリス)

◯パラ・トリタニア(現エスカ)

◯パラ・プシマ(現シャトマ)

◯パラ・エリス(現???・青の将軍)


《元始神》

◯パラ・α・へレネイア(現レナ)

◯パラ・α・ケイオス(エリスの正体)






(メイデーア神話歴より)




神話の時代、アクロメイアが引き起こしたログ・ヴェーダ戦争という大きな戦争があった。

沢山の人間が死に、沢山の戦争兵器が生まれた。


ログ・ヴェーダ戦争の間に生み出された、神話的に重要な産物と言えば、それこそ現代にも引き継がれている神々の“神器”である。

これを創ったのは、“パラ・エリス”だった。

奴は武具を生み出すのが得意だったからだ。


始めてエリスがこの死の国へやってきて、俺の力を神器に反映した時の事は、良く覚えている。

エリスはすかした紳士面して、俺に神器を手渡した。

俺は戦争に参加はしていなかったため、手に取った神器がどのような力を持っているのか、はっきりとは分からなかった。


エリスは俺に意味不明な事を言った。


「その神器は災厄であり、最後の希望です」


それは、立派な鞘に収められた剣だった。


ただ、これはログ・ヴェーダが終わった後の事だが、創ってもらった神器に特別興味の無い俺の元に、突然アクロメイアがやってきて、エリスに創ってもらった剣を引き渡せと言ったのだった。


俺は別にどうでも良かったが、アクロメイアがこの剣をどう扱うのかが気になり、また面倒な事になるもの嫌で、拒否した。

すると奴は、俺から剣の“形”だけを奪って、この死の国から逃げたのだった。

なぜ、剣の形だけが奪われたのかは分からないが、俺の神器は形の無い霧状となり、俺はそれを鞘に収めて持ち歩く事にしたのだった。


しかし、これこそが、エリスが言っていた災厄に他ならなかったのかもしれない。









ある日、アクロメイアが突然、神々を宴に招いた。


地上と、またアクロメイアと関わりたく無かった俺は招待を無視し宴に行く事は無かったが、この宴の翌日、マギリーヴァが憤慨した様子で俺の元へやってきた。

大量の食料を持って。


俺は相変わらず、ザクロの木の下で、死の国を見守っていた。


「ハデフィス、なんで昨日来なかったのよ!」


「……アクロメイアの催した宴なんて、嫌な予感しかしないからな。それに俺は、地上と関わる事を止めた身だ」


「ログ・ヴェーダの時も、何にもしなかったもんね、あんた」


「戦争の時は、むしろこの死の国が忙しいんだ。お前たち神々が暴れた後処理をしていたと言うのに、何もしてないとは酷いな」


「……良い意味で、“何もしてない”って事よ」


マギリーヴァはつんとして嫌みを言った後、背中に背負っていた籠から、大きなハムやベーコン、ソーセージの塊を取り出した。


「これあげる。最近薫製にはまってるの」


「……」


「あとこれも。果物の砂糖漬け」


また、次々と食べ物を取り出すマギリーヴァ。

俺はそれを呆れた表情で見やりながら、なんだかんだと、今でも彼女がここへ食べ物を持ってきてくれる事を嬉しく思っていた。

ログ・ヴェーダの間はここへ来る事はあまり無かったが、落ち着いてきたからか、また食べ物を持ってきたり、地上の報告をしに来るようになっていた。


だがマギリーヴァはさっきから何だか気が立っている様だ。

どこか膨れっ面だし、眉間にしわが寄っているし……


「何かあったのか?」


俺は一応、尋ねてみた。


「どうせ、昨日の宴で、アクロメイアに嫌な思いでもさせられたのだろう。ほら見ろ。自分の国で大人しくしておいた方がマシだ」


「あんたもすっかり引きこもり体質ね」


マギリーヴァは長い髪をはらって、一度ため息をついた。


「アクロメイアが、新しく生み出したもの……何だか、知ってる?」


「……なんだ?」


「聞いて驚くんじゃないわよ。……あいつ、私たちと同列の、新しい女神を創り出しちゃったの」


「……」


マギリーヴァは真剣な顔をして言ったが、俺には何の事だかさっぱり分からなかった。

だが彼女が言うに、アクロメイアは第十の神を、自分の創造の魔法で創り出したらしい。

この時代多々存在していたゴーレムと同じ要領で作り上げたのだと言う事は、何となく察しがついたが、それがなぜ“女神”であったのか、俺には理解できなかった。

そもそも、女神って何をもってしてそう言うのだろう……ただの人間の女とは、何が違うと言うのか。


同様に、マギリーヴァにも理解できていなかったらしい。

マギリーヴァのご立腹の理由は、その女神にあった。


「確かに、とても美しい女神だったわ。淡い金髪で、白や桃色が似合いそうな、清楚で愛らしい女神よ。でも、だからって男共がこぞって見とれてしまうのはどうかと思うわよ。アクロメイアは、大層自慢にしていたわ。他の神に羨ましがられる女神を手に入れたんだからね」


地面の黒い草をぶちぶち引きちぎりながら、マギリーヴァは膨れっ面してそう言った。

その場を見ていないので理解できない状況であったが、どうやら彼女は、その新しい女神に腹を立てているらしい。


「俺以外の神は、皆揃っていたのか?」


「……いいえ。ユティスとデメテリスは来ていないわ。何しろ、デメテリスが身籠っていて、出産までもう少しだし、ユティスはそんなデメテリスの側から離れようとはしないからね。羨ましい夫婦だわ、全く」


「……」


「だけど、来ていなかったユティスとあんた以外の男たちは全滅よ。みんな、あの女神に見とれちゃって」


マギリーヴァは文句を言いつつも、どこか不安げだ。

引きちぎった黒い草を、今度は目の前で並べるという意味不明な作業をしている。

手遊びしていないと、気が気で無いと言う事か……


「クロンドールの奴、その女神を見た時、すっごく驚いた顔をしていたの。尋常じゃない驚き方だったのに、理由も教えてくれないのよ。それからはもう、ずっとぼんやりしているわよ。私、宴のご飯を全然食べられなかったんだから……いや、少しは食べたけれどね。少しは」


「……」


「そうそう。その女神も、クロンドールの顔を見るなり『初めて会った気がしない』って言って、頬を赤らめちゃってさ。クロンドールもクロンドールよ。何だか泣きそうになってるのよ」


「……とどのつまり、嫉妬しているのか?」


直球で問いかけると、マギリーヴァはぎっと俺を睨んだ後、唇を突き出して言った。


「とどのつまりそういうことよ」


「……」


マギリーヴァを怒らせるとは、クロンドールもこれから大変だな……

この時の俺は、この状況を楽観視していて、その程度にしか思っていなかった。


ただ、当然ではあるがマギリーヴァにとっては、重大な事だったらしい。


「クロンドール、どうしちゃったのかしら……。どうしよう……クロンドールが、あの子を好きになっちゃったら」


マギリーヴァは地面の黒い土を指でなぞりながら、らしくもなくシュンとして、膝を抱えていた。


「そんな訳があるか。そりゃあクロンドールは元々あちこちで噂の絶えない色男だったが、ログ・ヴェーダ戦争の時も、お前の国を守る為に必死に戦ったんだろう。結婚はまだなのか?」


「……まだよ。なんだかんだと言って、地上はまだ不安定だしね」


マギリーヴァはじとっとした目で、俺を見た。

俺もまた、似たような視線を彼女に向けた。


「あんたは良いわね。落ち着き払って、達観していて」


「……外界と関わらなければ、気持ちが荒れる事は無いからな」


「悟っているわね」


マギリーヴァはため息をついて立ち上がり、ドレスを叩いた。


「また、何か持ってくるわ。あんた、隠居生活も良いけど、たまには外に出なさいよ」


「俺が外に出ると、死の穢れを持って行く事になる」


「馬鹿ね。地上はあんたが思っている程、お綺麗な場所じゃないのよ。死の国は争いも無くて、ただただ静かで……私から見たらこっちのほうがずっと平和だわ」


マギリーヴァは鼻で笑った。

彼女の言わんとしてた事が、俺には分からなかったが、地上への争いの皮肉なんだろうなと思った。


マギリーヴァはその後、ユティスとデメテリスの所にもお裾分けをしに行くと言って、この死の国を出て行った。

マギリーヴァの帰る背を横目に見送りながら、俺は、誰もが見とれたと言う新しい女神について考えた。


アクロメイアは、一体どうやって、女神を創りだしたのだろう。


その女神を見てみたいと思う一方で、マギリーヴァが心配でもあった。

早く、クロンドールと仲直りすると良い。







しばらくして、クロンドールがこの場所にやってきた。

いつもの、定期的な空間メンテナンスであった。


この国を点々と見て回りながら、俺は先日マギリーヴァが来た事を話した。


「マギリーヴァが嫉妬していたぞ。お前が、別の女神に気移りしているってな」


「……マギリーヴァの奴」


クロンドールは側の枯れ木に手を置いて、はあとため息をついていた。


「どおりで最近、当たりがキツい訳だ」


彼にも、色々と覚えがあるようだ。

まだ仲直りしていないのか……


「いったいどういう事だ。アクロメイアが女神を創りだしたとは聞いたが……そんな事、可能なのか」


「……俺にだって驚いたさ。アクロメイアが女神をどのように創り出したのかは分からない。だが、あれは確かに、俺たちと同列の女神に違いない。……しかし、俺が一番驚いたのは……」


「どうした?」


クロンドールは俯き、難しい顔をしていた。

マギリーヴァが言っていたのは、こういう表情の彼の事なのだろうか。


「あの女神……前の世界で、俺がずっとお守りしていた姫様に、凄く似ていたんだ。だから、ただただ驚いた」


「……何だって?」


そう言えば、クロンドールがこのメイデーアへ召喚される前の世界は、災害が頻発する終末の世界だったとか。

最後の最後に、自らが仕えていた姫を守る事が出来なかったと、彼は昔話していた事がある。


どうやらアクロメイアが生み出した女神が、その時の姫君にそっくりだったらしい。

それは実に妙な話だ。


クロンドールは戸惑っている様だった。

空間のほつれを修復しながらも、吐き出すマギリーヴァと違い、一人悶々と考え込んでいるような。


「なあ、ハデフィス。考えた事はあるか? どういった基準で、俺たちが、この世界に召喚されたのか」


「……さあな」


「俺は、もしかしたら、他にもこの世界に召喚された奴がいるんじゃないのかって、考えているよ。もしかしたら、あの女神は、俺が一生お守りすると誓った、あの方……“ヘレーナ”様なんじゃないかってな……」


「クロンドール」


「すまない。そんなはずは無いのにな。あれはアクロメイアが創り出した女神だ。……きっと、俺への嫌がらせの一つに違いない」


前の世界での事は、皆それぞれが抱える厄介な記憶ではある。

だがそれは、それぞれがすでに捨て去ったものだと思っていた。

現に俺は、前の世界の事など、もう露程も覚えていない。

いや、思い出そうとすれば簡単に思い出せるのだろうが、その必要がないと、俺は思っていた。


しかし、クロンドールはそうではないようだ。

今でも忘れられない後悔がある。思いがある。覚え続けなければならない人がいる。

それを、彼の苦しそうな表情から、見て取れる。


「おい、クロンドール。前の世界への思いは仕方が無いと思うが、他の女の事を考えていると、マギリーヴァに大目玉を食らうぞ。あいつを怒らせると怖い」


俺は真顔で言った。本気でそう思っていたからだ。

すると、クロンドールはぷっと吹き出して、頷いた。


「そりゃそうだ。俺はマギリーヴァを愛している。それは、変わらない事実だ。……マギリーヴァにも心配かけちまったな」


「そう思っているのなら、早くマギリーヴァに弁明してこい。……何だか嫌な気がする」


「嫌な気って……マギリーヴァが暴れだすとか?」


「それもある。あ、いや、そうじゃない。……アクロメイアが女神を生み出すなんて、恐ろしい企み事に違いないって事だ。また死者が増えるような事は、よしてくれよ」


「そうだな。そしたら、この国もさらに増築しなければならない。俺の仕事も増えるしなあ」


クロンドールはふっと笑って、濁った死の国の空を見上げた。

俺はまた念を押す。


「あまりマギリーヴァの気を煩わせるなよ。お前の恋人だろう……」


「分かっているさ。ただ……」


クロンドールは真面目な顔をして、何かを言いかけて止め、ただ頷いた。

そして、俺の顔を見て言う。


「何だか、お前と話していると、マギリーヴァの兄と話しているかのようだ。……まあ、そうだよな。俺たちはみんな、兄弟みたいに育った仲だ。アクロメイアもそうだ。今はすれ違ってばかりだけど……」


「……」


「この前の宴だって、あいつが俺たちと歩み寄りたいから開いたのだと、俺は思いたいよ」


「相変わらず、甘いな、クロンドールは」


「……そうかもしれないな」


自分でも分かっているよ、と言うように、彼は苦笑した。





後から分かった事ではあるが、アクロメイアの生み出した女神は、俺たちがそれぞれの象徴となる概念があるように『愛』を司る女神であった。


それは、このメイデーアという世界の基盤に、最初から存在していた概念だ。

愛を司る元始の女神、パラ・α・ヘレネイア。

後のメイデーア神話では、何故かこの女神の存在は隠され、愛の果実である『黄金の林檎』と例えられている。


アクロメイアはどこかで『愛』の概念と出会い、これに肉体を与えたのだ。

なぜ、クロンドールが前の世界で仕えていた姫“ヘレーナ”とそっくりだったのかは、後々に分かる事である。




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