93:『 1 』イスタルテ、賽は投げられた。
6話連続で更新しております。(1話目)
ご注意ください。
*カウントダウンが出そろったので、『神話大系』と個別にしていた『1』を第六章にまとめております。ご注意ください。
僕の名前はイスタルテ。
だが、その名に特別な思い入れがある訳ではない。
僕の事を銀の王と呼ぶ者も居るし、神話名はパラ・アクロメイアと言う。
翌日の朝から始まった議会は混乱していた。
先日の、革命家たちによる奇襲の混乱も冷めやらぬ中、ユロフスク議長の子息がフレジールに囚われ、また旧ガイリア帝国の公女タチアナの存在が確認された。
この事実は、どこからか国民に流されつつある。
中央政府への不満を募らせていた多くの者たちが、この状況を待ち望んでいたのだろうし、議員たちの中にも今後の生き残りをかけて一分一秒も現状から目を逸らせないでいる様だった。
しかし、そんなものはもう関係のない駆け引きだ。
全てはもうすぐ、無に帰す。
「イスタルテ殿下……」
まだ深手を負った姿で、僕は議事堂に入った。
総帥は高い場所から僕を見下ろし、議会に出席できる議員の地位にある貴族たちは、僕の様子にざわついた。
「イスタルテ殿下、そのお姿は……賊によるものでしょうか」
「ふふ、そう言う事だね」
心配する様子で僕に声をかけたのは、議長のユロフスクだった。
「イスタルテ」
議会席より高い場所に居る総帥が、嫌に低い声で僕の名を呼んだ。
随分とご立腹な様子だ。
「これ以上、敵国に時間を与えてはならぬ。イスタルテ、今までの遊びとは違うぞ。巨兵をもって、全ての大陸の大国への進軍を開始する」
「……」
「オリジナルを解放しろ」
議会はざわついた。
今の状況で全戦力を用いての進軍は、危ういのではと誰もが思っていた。
「総帥。恐れながら、現状では少々無謀なのではないでしょうか。現状はかつてとは違います。フレジールは魔導回路システムを用い、同盟国家との共闘の準備が進んでいる状態ですし……いくら巨兵があるとは言え、敵国も巨兵への対策が整っている状態です」
勇敢な、若い議員が物申した。
あれは、ユロフスク議長の長男だ。
おそらく、賊に囚われたとされている弟の事が気がかりなのだろう。
ここで開戦となれば、囚われた弟の命は無いと思ったのか。
「この私に口答えするのか……」
しかし総帥は、発言をした若い議員に冷たい視線を投げると、懐に入れていた小型の魔導銃を取り出し、躊躇も無くその者を撃った。
複数の発砲音の後、若い議員は体に複数の穴を開け、血を吹き出しながら倒れた。
流れ弾を食らった、無関係の議員も居る。
一瞬の沈黙の後、議会はドッと悲鳴に包まれる。
「ヨ、ヨシフ……ッ!!」
議長が蒼白な表情で悲痛な声を上げ、息子の名を呼んだ。
しかし、総帥は淡々とした口調で、議長に「採決を」と、促す。
議長はただただ自らの息子の亡骸を見つめながら、震える声で、この場の議員にこの案件の賛否を求めた。
他国への同時的、大規模進軍。
それを否定できる者は、この場には居ない。
誰もが、恐怖に支配され、賛成の意を唱えた。
過半数の賛成を得れば、この議会で提案された案件は通る。
しかし、僕だけはそれに賛成も否定もせず、ただ総帥を、哀れみの冷めた瞳で見ていた。
「……どういう事だ、イスタルテ」
そんな僕に、総帥は当然気がつく。
僕の態度が気にいらないと言ったような、いつもの嫌悪に満ちた顔だ。
決定は下されたのに、僕が自分に従わない事が、この上なく腹立たしいのだ。
「お前が私に逆らうとは、いったいどういうつもりだ」
「……」
僕は、倒れたヨシフ・ユロフスク議員の脇を通り過ぎ、しんと静まり返った議会を横切った。
この場の者たちは、頼むから総帥を怒らせるなと言いたげな視線だ。
ちょうど、総帥の真下にまで歩みを進め、顔を上げた。
「ふふ」
目を細め、口元には僅かに笑みを浮かべる。
「何を笑っている、イスタルテ。私を馬鹿にしているのか。……いいか、開戦は決定だ。今すぐ、オリジナルを幻想空間から出し、フレジールに差し向けろ」
「……僕に命令するな、クズめ」
僕は生まれて初めて、自分の父である総帥に逆らう発言をした。
自分の中で、じわりと、魔導回路が良く無い動きをしているのが分かる。
だが、もう良いのだ。
「僕を誰だと思っている。ただの人間が、僕に指図するな」
「……イスタルテ……貴様」
「僕はイスタルテではない。僕は……パラ・アクロメイア。メイデーアの創造を司る創世神である」
総帥の表情が、酷く歪んだ。
まさか僕が、この局面で逆らうとは思っていなかったのだろう。
この男は、国の王としても、父としても、人道から外れた男だった。
しかし決して無能ではない。ただの人間の中では、王として各国の魔王たちと渡り合う力があったのだから。
狂わせたのは、僕だ。
僕がこの男に、絶対に越えられない存在への、激しい嫉妬の炎を生み出した。
「総帥。もう良いだろう……お前は決して、神を越える事は出来ない」
「……貴様」
「苦しめた者たちの、裁きを受けると良い」
僕が片手を上げると、議事堂の高い場所に連なるステンドグラスが、一斉に割れた。
響き渡る高らかな音と共に、飛び込んできたのは、黒いローブを纏った魔術師たちだ。
そのローブの隙間から、体の半分を鉄製の魔導器具に変えた者たちの姿が垣間見える。
彼らは自らの魔法で生み出した、空間魔法を展開し、この場の空間を歪めた。
悲鳴と、血が、無惨に飛び交った。
この場に居た議員たちは、空間のねじれにより体にあり得ない付加をかけられ、悲鳴の後に事切れ、倒れた。
逃げ場など無い。ここは隔離された場所。
「トワイライト……? 貴様ら……っ、何を」
総帥も、らしくない焦りを見せた。
目の前で起こる残虐な光景から、目を逸らせずにいる。
総帥の背後にナタンが降り立った。
音も無く、背後から総帥を守る結界を破壊する。
「き、貴様……っ! やめろ!!」
総帥がそれに気がつく前に、彼の護衛が動いたが、その他のトワイライトの魔術師たちが一斉に護衛を攻撃し、総帥の防御を崩した。
「ラスジーン!!」
総帥の最後の切り札である、顧問魔術師ラスジーンは、ニヤニヤとした表情で総帥を見ていた。
今まで総帥に忠実だった彼は、今回ばかりは、総帥の言う事を無視した。
「申し訳ありません総帥。私、“青の将軍”でして」
「……は?」
「申し訳ありません、我が王」
ラスジーンはニヤリと、人とは思えぬ冷めた笑みを浮かべると、自ら首を掻き切って自害した。
その光景を見て、総帥は、今既に自分の味方は一人も居ないと理解する。
とっさに、自らの銃をナタンに向けた。
「ま、待て! お前たちだって知っているはずだ。私が死ねば、トワイライトの人質も皆死に至るよう仕組まれている。お前たちだってそうだ。体にそういう邪毒を植え付けたはずだ!! イスタルテ、お前の母だってそうだぞ!!」
「……」
「イスタルテ!! 貴様、私を裏切るのか!!」
「……」
「私の“娘”の分際で!! そんな事をしたら、貴様もただではすまないぞ!!」
総帥は、声を上げた。しかし、僕らに迷いは無かった。
僕は平静な声音で言う。
「やると良いよ、ナタン。お前の娘や妻の敵だ。……随分と、我慢させたね」
「……」
「ま、待て……っ! 待て、やめろ!!」
総帥は足場を崩して、その場に倒れた。
ナタンはそんな情けない総帥を前に、今までの屈辱と、苦悩と、待ちに待ったこの時への喜びを絞り出すように告げる。
「我が一族の全ての者の苦痛と屈辱を、地獄でも忘れるな」
そして、手に持つ剣を持ち直し、ナタンは迷い無く振りきった。
ぼとんと、頭の落ちる音が、血だまりの中に響く。
その頭に刻まれた、総帥の恐れ戦いた表情を、僕はなんの感慨も無く見ていた。
ああ、奴が……父がやっと死んだのだ。この事実だけが、脳裏によぎる。
嬉しさと悲しさが同時に沸き起こり、相殺しあって、無の感情を生む。
自分の知らないどこかで、きっと同時に、母が死んだ。
途端に、ナタンも、トワイライトの魔術師たちも、皆倒れ込む。
僕は、血を踏みながら、階段を上り、死体ばかりの中を進んだ。
「……ナタン、ご苦労だったな」
「……」
「すまないな、最後の最後まで、お前たちを犠牲にして」
そして、倒れたナタンを見下ろして、声をかけた。
ナタンは口から血を吐き出し、いつもの仏頂面を少しだけ緩めて、首を振った。
「復讐の機会をいただき、ありがとうございました……我が王」
彼らに施されていた邪毒は、顧問魔術師であるラスジーンによるものだった。
彼は総帥の命令のまま、トワイライトの一族や僕の母に、死の毒を植え付けていたのだった。
総帥に逆らう事の出来ない僕にはこれをどうする事も出来ず、またどうするつもりも無かった。
トワイライトの者たちもまた、巨兵研究という罪を全部背負い、総帥と共に死ぬ覚悟だった。
ナタンは苦しみに表情を歪ませつつも、最後の言葉を言った。
「娘を……よろしくお願いします」
「分かっている。お前の体だけは、娘の元へ辿り着けるだろう。安心しろ」
「……」
ナタンは、スッと目を閉じた。
やっと解放されたと言うような、安堵の息を吐いて。
ここにいたトワイライトも、結局は僕の手駒に過ぎなかった。彼らは十分働いた。
だからこそ、死を伴うが総帥への復讐の場を与えた。
しんと静まり返った、真っ赤な血に染まった議会の高みから、僕はぼんやりと、死んだ人間たちを見据える。
何にも感じない。
今までも、数多くの人間を、当たり前のように殺してきた。
人間など、死んでもすぐに生まれてくる。
まるで、買い替える事ができる消費物のように。
「ふふ、やっちゃいましたねえ」
「……青の将軍、か」
ナタンの体が、もう一度、ゆっくりと起き上がった。
死の直前に、ラスジーンを乗っ取っていた“青の将軍”の分魂が入り込んだのだった。
計画通りの状況だと言える。
「しかし、銀の王……あなたも残酷な事をする。トワイライトを巨兵開発に酷使したあげく、自ら死を選ばせるとは」
「……」
「結果、巨兵開発に携わった者たちを、全て処分した訳だ。自らの母をも見殺しにして。はは、流石ですよ、我が王」
「我が王、だと……白々しい。お前の王はいったい何人居るんだ」
僕は鼻で笑った。
青の将軍が、世界のあちこちに散っている事は知っている。
こいつは誰の味方でも無い。
皮肉な笑みがこぼれてくる。
「なあ、青の将軍……いや、パラ・エリス。世界は、お前の望む通りになっているのかい?
「と、言うと?」
「“混沌”だよ。僕らを裏で動かして、世界を惑わし、混沌を生み出す。それがお前の役割だ。お前が居る限り、世界に平和など訪れない。どんなに魔王クラスが世界の歴史の軌道を修正しようと、お前が乱す。お前だけは、逆走して最悪を求める。そうだろうエリス……いや、パラ・α・ケイオスと言った方が良いか。メイデーアの原初神の一人、“混沌”の概念を持つケイオスよ」
青の将軍は、ナタンの顔を借りて、ニヤリと笑みを作った。
ナタンの顔では、初めて見たような、冷たい嫌みな微笑みだ。
メイデーアには、最初の子供たちが召喚される前から存在した、四つの元素概念がある。
天と地と、混沌と、愛。
それらはまさしく、創世神の更に上位に存在するものだ。
姿形は無くただの概念として、九人の神にメイデーアという世界創造を促したのだ。
僕には、いつ、どこで、パラ・エリスに“混沌”が乗り移ったのかは分からない。
だが、僕の神話時代の記憶の中では、最初からパラ・エリスは“こいつ”だった。
おそらく、僕の記憶には欠陥がある。
記憶のある時代よりもっと前に、忘れられた時間軸があるのだ。
それを遡った時間の淀んだ場所に、本当のパラ・エリスが存在し、何かをきっかけにこの“混沌”が肉体を奪い、創世神に成り代わったのだと思われる。
いったい、いつ?
分からない。
奴が別の何かであった事など、気がついたのは、今世になってからだ。
青の将軍の正体は、“混沌”。そうであるのなら、決して、我々と同列の存在ではない。
奴は上位概念だ。
この事は、回収者ですら知らない事実だと思う。
僕ですら分かっていないのは、こいつの本体が、いったいどこにあるのか、と言う事だけだ。
だがそれが分からないが故に、恐ろしい。
「あれえ〜、いったいいつから、その事を知ってたのですか? 私はてっきり、その事だけはバレていないと思っていたのですが」
青の将軍は、相変わらず嫌みな口調で、首を傾げた。
ナタンの姿で、腹立たしい。
「僕を誰だと思っている。僕は一度、お前と同列の元素概念“愛”に肉体を与えた事がある。お前に気がつくのは、僕が最初であるに決まっている」
「そう言えば、そうでしたねえ」
青の将軍は血だまりを蹴り、死体を踏みながら、そこらをぶらぶらと歩いた。
「これからどうするんですか?」
「……トワイライトは皆死んだ。じきに、幻想空間は壊れ、オリジナルが解き放たれる。僕は、世界の法則を封じている彼の地へと赴く。再構築の主導権を握る為に」
「メイデーアを再構築するのですか?」
青の将軍の問いかけに、僕は自分の拳を見つめた。
どこでもない一点を見つめ、低い声で言う。
「父に逆らった。もう時間が残されていない。最後の力で、もう一度世界を生み直す」
顔を上げ、割れたステンドグラスから入り込む、冷たい空気を吸った。
午前の陽光が刺し込み、足下まで伸びる。
「この世は熟しすぎたし、人が増えすぎた。メイデーアもそれを望んでいる。魔王クラスが全員揃っている事が、その証……再構築こそが今世の、僕の役目だ」
「なんですか、せっかくせっかく、待ち望んだ大戦だというのに……なんかテンション低く無いですか?」
「うるさい。お前は人を苛つかせるんだよ」
吐き捨てるように言って、僕はこの大会議室を出ようとした。
これから、連邦は大騒ぎになる。
革命どころではない。開戦どころでもない。
世界は、再構築がしやすいように、オリジナルによって無慈悲に破壊され尽くされる。
ただそれだけだ。
大会議室を出た所で、僕は立ち止まった。
なぜなら、目の前に、引きつった表情のヘレネイアが居たからだ。
「……僕をつけてきたのかい?」
「……」
ヘレネイアは、今の惨劇を見ていたのだろうか。
呼吸が乱れている。
「ダメじゃないか。部屋で休んでいろと言っただろう」
「だって……だって、あなたが気になったから……」
「僕が?」
「あなた…………なんて事を……っ」
ヘレネイアは口元を押さえ、上ずった声で言葉を紡ぎ、何かを否定したいように首を振る。
「だって、あなたのお父さんだったのでしょう? ナタンさんだって……あなたの、大事な」
「誰一人大事じゃない。君以外は」
「……」
彼女の言葉を遮るように声を張った。
一度、目の前のヘレネイアが肩を上げ、徐々に体を震わせた。
また怖がらせてしまった……いつも僕は、彼女を怖がらせるばかりだ。
視線を、横に流して、皮肉めいた事を考えていた。
しかし、直後に僕は、強い力で頬を叩かれる。
ヘレネイアの仕業だった。
「馬鹿を言わないで! じゃあ、なんであなた、そんな顔をしているのよ!!」
「……」
「今にも泣きそうじゃない。悲しくて、仕方が無いって顔をしているじゃない。倒れそうじゃ無い! どうしてこんな事をするの。私には、何も分からないわ。……イスタルテ、あなたはなぜ、そこまで自分を傷つけるのよ……っ」
彼女は、自分より小さな僕を、包み込むように抱きしめた。
あまりに驚愕して、僕は体を強ばらせる。
今まで、ヘレネイアを抱きしめた事はあっても、彼女に抱きしめられた事は無かった。
神話の時代も……
「なぜいつも、一人になろうとするの。本当は誰かに助けてもらいたいくせに、なぜ」
「……へレネイア、お前」
涙をぼろぼろ零しながら、彼女は力一杯、僕を抱きしめた。
この温もりは、何だろう。
僕は焦りにかられ、無理矢理ヘレネイアを引き離した。
「やめてくれ。これ以上は……ダメだ、僕は」
「イスタルテ……?」
「僕は行かなくちゃいけない」
「いったい、どこへ行くと言うの?」
「……聖地ヴァベル……全てが眠っている場所だよ」
「……ヴァベル? それってまさか、ヴァベル教国? ルスキア王国の……?」
「……」
不安な表情を僕に見せるヘレネイア。
僕は何も答える事は無く、そっとつま先立ちをして、彼女の額に口づけた。
「君は、あいつの元に戻ると良いよ」
「……え?」
ふっと、力が抜けたように、ヘレネイアがその場に座り込んだ。
彼女は体が動かない事に気がつく。そう言う魔法をかけた。
「な、なぜ」
「だって君は、僕よりもクロンドールが好きだろう? あの男の元へ戻り、そして、元の世界へと帰ると良い。そしたら、君だけは巻き込まれないから……」
「……イスタルテ」
僕は、どんな顔で、彼女にそう言ったのだろう。
ヘレネイアは酷く傷ついたような表情で、ただ涙を流し、僕を見つめていた。
僕はそんな彼女から顔を背け、後はもう、絶対に彼女を見ないようにしてそのまま通り過ぎた。
カツカツとブーツの音を鳴らして、早歩きで長い廊下を進む。
「待って、待って……待って、イスタルテ!!」
「……」
彼女が何度も名を呼んで叫ぶのも無視して、僕はただ、前を向いて歩いた。
こんな場所に彼女を置いていくなんて、ダメな親だな、僕は。
いつもいつも傷つけて。
こんな事だから、簡単に奪われたのだ……
そう思いながらも、彼女から離れて行く事を、僕にはどうにも出来ない。
「ふふ……おかしいなあ。なぜ彼女を置いていくのですか?」
いつの間にやら、ナタンの姿をした青の将軍が僕の側に控えていた。
「……なぜって。黄金の林檎は、奴らの手元にあってこそ、ギガント・マギリーヴァが成り立つからさ」
「じゃあ、なぜ攫ってきたりしたのです」
青の将軍の疑問は、全くその通りだと、自分でも笑えたものだ。
「……さあ。少しの間でもいいから、一緒に居たかったのかな……へレネイアと」
神話時代の、かつての僕は、誰にも分かってもらえないその孤独を癒す為に、パラ・α・ヘレネイアという女神を創った。
愛の概念と、自らの体の一部、そして、神々に殺されぬよう、パラ・ハデフィスの神器の一部を奪い、素材として。
誰からも愛され、羨ましがられる、愛の女神を生み出したのだ。
僕はただ、絶対的な、自らの味方が欲しかった。
僕と同じ時を生きられる、同列の存在。愛し合える存在が。
僕は彼女に、親のような感情を抱き、大事に大事にしていた。
だけど、彼女は女として、別の男を愛した。
パラ・クロンドールだ。
奴は神の序列では僕に劣るくせに、僕の持っていないものを、全部持っていた。
周囲の信頼、豊かな国、愛する者、愛してくれる者……
またか。
また、あの男が求められるのか。
僕は一人だった。
メイデーアが僕を主神と認めても、同列の神々が認めなかった。
誰も僕を、愛さなかった。必要としなかった。
愛され、必要とされるのは、いつもクロンドールだ……
本当は、奴が主神であればと、誰もが思っていたのだろう。
ヘレネイアを奪われた事で、クロンドールへの嫉妬は押さえる事が出来ず、僕は世界を全て創り変えようと、“巨人族との戦い”を引き起こした。
ヘレネイアを取り戻す為に。
今回は、何なんだろう。
僕は何の為に、世界を再構築するのだろう。
全てが達成されても、僕が欲しいものを手に入れる事は無いのに。