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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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28:トール、グルメリポーターになる。

(◯月7日:マキア)


 そのまま帰ってこなくて結構です。

 せいせいします。

 もっとイケメンで言う事を聞いてくれる人を雇います。





「…………」


疲れきった俺がオディリールの館に帰ると、マキアの部屋の扉にはこう書かれたメモが貼ってあった。


大喧嘩してすでに7日が経過しているが、あいつは相変わらず俺の前に姿を現そうとしない。

それでも俺が、朝この館を出る頃には、どこからとも無くドングリ爆弾を投げつけてくる。最近はいたる所にトラップを仕掛け、普通ならかなり危ない攻撃までしてくるのだから容赦ない。


しかしあいつは対象を俺に絞って術式を組み込んでいる様で、他の者に当たってもただのドングリでしかないようにしている。

あいつのドングリ爆弾を一つ確保して慎重に確かめた所、ドングリの帽子の内側に魔力を凝縮した血を塗って、それに命令を書き込んでいるらしい。多分俺の髪の毛でも利用したのだろう。


血を媒体とした命令魔法は、あいつの得意とする所だ。

この世に具現する物質には、それが生物であろうと静物であろうと、固体を維持する“情報”と言うものが存在する。生き物ならば名称や種、また質量だったり、潜在能力だったり、抽象的な事で言えば記憶であったり運命であったり。造形物ならまた名称や質量、使用法や存在意義、特別なものには歴史的付加価値であったり、貴重性であったり。その他エトセトラに及ぶ固体を取り巻く膨大な情報。

マキアの血はその情報をえぐり出し、情報量をエネルギーとし暴走させる恐ろしい力を秘めている。名前がある事で人の情報を見る事の出来る名前魔女としての最終形態的力だ。あいつはこれを、“しがらみ”を暴く力だと言っていた。


ただのドングリという物質は、クヌギやカシの実で一つ3〜4グラムほどの重さ、というほどの情報しか無い。後の運命を考えるなら動物の餌になる、または将来の木になる、子供に拾われる、位のものだろう。一粒のドングリの主立った“情報”はこんなところだ。


たかがドングリに命令魔法をかけた所で、ちょっと悪質な子供のおもちゃ、爆竹レベルのものにしかならないが、それでもたかがドングリが爆竹になるのだ。


これが、歴史的にも重要で、この世に一つしか無くて、世界の運命を変えたどこぞの王国の遺産なんかに命令魔法をかけた場合、マキアの力は恐ろしいものになるだろう。情報量が多く、その情報が希少、また貴重、重要であるほど、マキアの魔法は強い力を発揮する。


まあ、マキアの能力には他に色々と複雑なリスクなどがあるが、ここではこのくらいの説明に留めておこう。



ん?

俺の能力?


そうだな、今はただ圧倒的黒魔法とだけ言っておこう。

マキアの魔法とは全くの別物だが、“自分”というものを媒体とする事でリスクを負う黒魔術としては、共通しているだろう。


逆に、外界に力を貸してもらい、精霊と契約する事で力を得る白魔術は、自身へのリスクの少ない分、下準備や手間がかかる。

俺は器用貧乏魔法と言っているけど、出来る事の範囲はとても広く役に立つ。






(◯月8日:トール)


 館の門に罠を仕掛けていたのはお前ですか?

 御館様が捕獲されてしまいました。

 あと、俺よりイケメンなんているんですか?(驚愕)





とりあえず疲れていたのでこう返事をした。

門の所にマキアが仕掛けた落とし穴に御館様が落ちたのは、つい先日の事だ。


きっと俺を罠にはめ、隙ができた所で集中攻撃したかったに違いない。


あと別に、俺よりイケメンは居ない事も無いと思うよ、うん。







(◯月9日:マキア)


 うるさい禿。

 働き過ぎて禿げ上がれ。

 禿。





「…………」


子供か。

でも少し頭部が気になる。






(◯月10日:トール)


 今日初めてパールサーモンと

 桃エビのフルコースをいただきました。

 とんでもなくおいしかったです。




俺は知っている。

あいつにとって食べ物の話題がどんな威力を持っているのか。


先日食堂のメニューとして試食した、あまりに豪華すぎる海鮮のフルコースの話題をふってみた。

まあこのメニューは主に、ヴァベル教国建国日であり、ヴァビロフォスの聖なる祭りの日“聖教祭”の祝いのメニューとして考案された一年に一度しか食べられない限定メニューだ。これを学生のみとんでもない安さで食堂に出すらしい。一般人も僅かな限定数のみ学生に近い価格で食べる事ができ、それ以外はそれなりのお金を払っていただく。話題となる事を狙っているのだろう。


まあ実際めちゃくちゃおいしかった。

カルテッドで獲れた、新鮮で油の乗ったパールサーモンを表面だけあぶって、デリアフィールドのレモンで作ったソースをかけたサーモンステーキ。サーモンの脂の甘さと、レモンの爽やかさが絶妙だ。

名前の通り薄いピンク色の、引き締まった身の桃エビは、歯ごたえがあり噛めばかむほど旨味を味わう事が出来る。

これはもう、生でも、ただ焼いただけでも美味いだろうに、ホタテの入ったトマトクリームソースが絡むとたまらない。


あれ、俺グルメリポーター?

味覚のIT革命??



他にも半熟卵のイクラ乗せや、イカのパスタ、キャビアトースト、デザートにレモンシャーベットなどあったが、どれもこれもおいしくて、こんな贅沢をして罰が当たらないかと思ったほどだ。ずっと貧困街の子供たちを見ていた時だったから。


しかし彼らに、努力すればこう言ったものに手の届く教育やチャンスを与える為に、今のプロジェクトはある。

妥協は出来ない。



と言う訳で、マキアはこの話題をどう切り返すだろう。







(◯月11日:マキア)


 そこの所をもうちょっと詳しく教えて下さい。





ほらね。


ほらね、普通に喧嘩の事なんか忘れて聞いてきたでしょう?

あいつほど食い意地の張った女は見た事が無いよ。


いくら伯爵家の娘とは言え、カルテッドでしか食べられない新鮮な魚介もの、その料理は、まだそれほど口にした事が無いだろう。

いつかあいつにも食べさせてやりたいものだ。

食べている時のあいつは本当に幸せそうだから。







(◯月12日:トール)


 わははは、教えないよーん。笑

 お子様はレモンケーキを食っときなさい。












マキアは怒っただろうか。


でも、どうせならいつか“3人”で食べに行きたいじゃないか。



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