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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
359/408

88:『 1 』マキア、再会する。

2話連続で更新しております。ご注意ください。(2話目)

その別棟は異様に静かで、人なんて一人も居ないのではと思わされた。

長い廊下には無数のろうそくが灯され、視界は淡く確保できるものの、本当に連邦の王宮の一部であるのかすら疑わしい程、何も無い。


ただ、どこからかとても良い匂いがした。

長い廊下を進んで曲がり角を曲がった所に、明かりの灯った部屋があって、そこから漂ってくるようだ。

驚いた事に小型のゴーレムが二体、扉の前で待機している。やばい。


慌てて、曲がり角を戻って身を隠す。

ゴーレムが居ると言う事は、案外ヤバい場所へ来てしまったと言う事かもしれない。


どうしようか。

ゴーレムをぶっ倒して、灯りのついた部屋に入ってみようか……



『こっちへおいで』



まただ。

また声がした。

いったいどこから聞こえてくるのだろう。あの灯りのついた部屋からだろうか。

それにしても良い匂いがする……


「侵入者確認」


「捕獲」


ゴーレムが私の存在を察知し、動いたようだった。

仕方が無い。あのゴーレムを倒して、前へ進むしかない。


指輪にしていた神器を槍に変え、足下に魔法陣を描き二体のゴーレムの前に飛び出す。

ゴーレムは赤い殺人用のレーザービームを放ってきたが、ギリギリの所で交わした。頬をかすって血が流れた。

ただ迷わず一つ目に槍を突き刺す。

もう一体のゴーレムを壁のようにして蹴飛ばしながら、槍を抜いた勢いで頭部を破壊する。


「もう一体……」


蹴飛ばしたせいで転がったゴーレムの中心に、思い切り槍を突き刺した所で、頬から血がぽたりと落ちた。

破壊された所から血が入り込み、ガタガタと震えたかと思うと、ゴーレムは静止する。


私はふうと息を吐いた。


「……マキア?」


その時、聞き覚えのある声がして、私は声のする方を見た。

明かりの灯っていた部屋から、懐かしい人物が出てきて、驚いた様子で私を見ていたのだった。


「……レナ?」


「マキア? マキアなの? いったい、どうしてここに……っ」


その人は、紛れも無く私の探していたレナだった。

レナは慌てて、駆け寄ってきた。

私もレナに駆け寄る。


レナは何だか痩せて見えた。私は目を潤ませて、一度思い切りレナを抱きしめると、そのままあちこちを触りまくる。


「わあ、レナだ。レナだわ。良かった、無事だったのね。私、あなたが攫われたって聞いて、ずっと心配だったのよ」


「それはこっちの台詞よ。マキア、ここがどこだか分かっているの? ほっぺた、怪我しているわ」


レナもまた涙声で、私の怪我にオロオロとしていたが、たまらないという様子で私を抱きしめ返した。


「マキア、とても冷たいわ」


「さっきまで、外にいたんだもの。ここは極寒だもの、そりゃあそうだわ」


「風邪をひいてしまうわ。どうしましょう……とりあえず、部屋に」


彼女は私から体を離すと、自らが出てきた部屋に、私を招いた。

キョロキョロと外を見てから、パタンと扉を閉める。鍵も閉める。


部屋の中は外とは打って変わって温かく、急激な気温の変化に、何だか体がかゆくなる。


「ここは、あまり人が来ないの。来るとしても、あの子くらいだから、まだ時間があるわ……」


「あの子……?」


「外が騒がしいと思ったわ。さっきからずっと、窓の外を見ていたのよ。眩しいライトがあちこちに向かって伸びていて、誰かを探しているようだと思っていたの。革命家たちの仕業かと思っていたのだけど」


「あながち間違っちゃいないわ。実は、私は革命家の一味なのよ」


「何ですって?」


温かい暖炉の前で、私はしばらく温まりながら、ニヤリと笑う。

あ、テーブルの上に美味しそうな焼き菓子が沢山並んでいる。さっきから漂っていた匂いはこれか。

私はそれをぽいぽいと摘んで食べた。


「ちょうど、甘いものでも食べようかと思ってお茶をいれていたの。マキアもどうぞ。あまり悠長にしている時間もないでしょうけれど。でも良かった、マキアがここに来てくれて」


レナは温かいお茶を入れてくれた。それをごくごくと飲んでから、私はふと思い出して、レナに問う。


「あ、もしかして、さっきの声って、レナだったりするの?」


「へ?」


「さっきから、私を呼ぶ声がしていたのだけれど」


レナが白魔術で、助けを求めていたのかと思ったが、レナは知らないと言うように首を振った。


だが、探していたレナにやっと出会えた。

私はティーカップを側のテーブルに置く。


「レナ、私、あなたを助けに来たのよ。一緒にここから逃げましょう?」


「……え?」


レナは驚きの表情をして、目を丸く見開いた。

その反応に、私は違和感を抱く。


「どうしたの? 何か、困った事でもあるの?」


「い、いえ……でも」


「もうすぐ戦争が終わる。今月末の舞踏会で、革命は起きるの。連邦の総帥は討ち倒されるわ。イスタルテの事も、私たちがどうにかする。そのための準備を、もうずっとやってきたのよ」


「……イスタルテを?」


レナは小さく震えていた。

私は、彼女自身がイスタルテに、酷く怯えているものと思っていた。


「そうよ。あなたはここで一緒に逃げるの。三つのタワーは完成したわ。あなたは、元の世界に戻れるのよ」


「……」


レナは何も答えない。

何かに混乱しているのか、冷汗が頬を伝っている。


「あなた……どうしちゃったの? 何か、怖い事でもあるの?」


「いや……そうじゃない。そうじゃないの、マキア。でも私……あの子を……」


「……?」


レナはぐっと、唇を噛み締めた。

苦しそうにして、私から手を放し、自らの手を押さえ込むようにして、その場に倒れ込む。


「レナ……!」


彼女の手は、黒い霧に覆われていた。霧は徐々に、短剣の形を成していく。

私が側にいるから、彼女は殺人の衝動を抑える事が出来ずに苦しんでいるのだ。


「マキア……っ、私は良いから、あなたは逃げて。早くしなければ、あの子が来る」


「な、何を。レナも一緒に逃げるのよ」


「ダメよ。私は行けない」


「……レナ?」


「今の私が戻っても、みんなを殺そうとするだけよ。それに私、あの子を置いては行けないわ……」


レナが、何を言っているのかが、私には分からなかった。

当然、レナも一緒に来てくれるものだと思っていたから、一瞬頭の中が真っ白になる。



「ほお……賊が逃げたと聞いていたが、何だ。こんな所に居たのか」



その時、扉付近から、怖気のするような冷たい声が聞こえた。

閉められた鍵は音も無くこじ開けられており、少女が佇んでいる。

子供の声なのに、口調は大人っぽく、それがまた、その少女を特殊な何かに思わせた。


「……銀の王……イスタルテ」


銀髪を二つに結い、連邦の白い軍服を纏ったその少女は、私の顔を見て少しだけ表情を強ばらせた。


「…………マギリーヴァ、か?」


逃げた賊と言うのが、私だった事に酷く驚いた様子だった。


だが、状況をすぐに理解したのか、クスクスと笑いだす。

その笑い声は、徐々に大きく、抑揚のあるものになった。


「あっはははははは。まさかまさか、ガドの奴は、お前を公女タチアナだと思ってつれて帰ったのかい? どうしたらそんな状況になると言うんだい。ああ、まさか、お前、革命家たちと手を組んでいるんだな? そりゃあ、いくら高性能の魔導牢でも脱走を防げるはずがあるまい!」


「……」


「マギリーヴァだぞ! 僕と同じ、魔王クラスだ! ただの人間が太刀打ちできる存在じゃあ無いんだよ!!」


イスタルテは感情的に叫ぶ。嬉しそうだったし、腹立たしそうだった。

いかにも憎らしいと言う様子で、私を睨む。


私もまた、真面目な表情になった。

会いたく無かったが、接触は避けられなかったのかもしれない、その人物を前に。


「全く。相変わらずの精神不安定ちゃんね。いくらお子様だからと言っても、もうちょっと落ち着きがないと、あんた一応、かつての主神だったのでしょう?」


「うるさい!!」


イスタルテは怒鳴り、壁を叩いた。叩いた所から、パラパラと壁の砕けた破片が落ちる。

倒れているレナが、不安そうにして状況を見守っていた。


「マギリーヴァ……お前が生きていること自体が、まず不可解なんだよ」


「あら、前にも一度会ったじゃない? シャンバルラで」


以前も、怒り爆発というように、激しく名を叫ばれたのを覚えている。

青の将軍を一人捕まえてやったわ。

私が蘇っている事に、二人とも驚愕していたっけ。


「ははっ。そうだったね。だけど、僕には不思議でたまらなかったよ。緑の幕は巨兵の侵攻を絶対的に許さぬ程の完成系となっている。それは、以前のマキア・オディリールの肉体が“棺”に埋め込まれたと言う事だ。なのに、いったいどういう訳だか……お前はやっぱり生きているんだね」


イスタルテの物言いは、残念で仕方が無いと言うようでもあったし、やはりという、諦めを帯びた、憂いに満ちたものだった。

私もまた、小首を傾げて微笑む。


「不思議でしょう? 私も、今でも不思議なのよ。だけど、とある神様が、あらかじめあちこちにトリックを仕掛けていたみたい」


「とある神様、か。奴は本当に、ずっとずっと昔から、何かを一人で悟り、抱えて、様々な事を事前に仕掛けるような、得体の知れない奴だったよ」


「……」


イスタルテには、私の言った“とある神様”の正体が、すぐに分かっていたようだった。


ふっと笑って、私は神器を構えた。

イスタルテもまた、腰の剣を抜く。


「だ、だめよ……マキアを傷つけてはだめ。イスタルテ、ダメよ」


レナは、沸き起こる殺意を抑えつつ、イスタルテに向かって懇願した。

イスタルテはレナに顔を向けると、少しだけ表情を和らげた。

私が少し驚かされたのは、その表情は、今までに見た事も無いような、優しいものだったからだ。


「大丈夫。僕がこいつを葬れば、君は楽になれるよヘレネイア」


そして、剣を掲げて、イスタルテは再び少女らしからぬ悪意に満ちた表情をする。


「さあマギリーヴァ。お前を墓場まで連れて行こう。お前にはもう一度死んでもらわなければ、こちらの計画も全て台無しだ」


「……」


「……シェム・ハ・クレイドル……開け、古の黒い箱」


私が周囲に警戒したのも束の間、彼女の唱えた呪文に呼応するように、世界は色を変えた。

一瞬、無音となったかと思ったら、遠く、どこまでも響くような、硝子を砕いたような高い音が耳をつんざく。


「これ……空間魔法?」


その感覚は、私の知っている空間魔法とは少し違っているような気がする。

イスタルテの側には、いつの間にやらナタン・トワイライトが佇んでいて、彼はすっと、イスタルテに銀色の盾を捧げた。



盾には、もうこの世界が歴史として記憶していない、遥か昔の王国の紋章が刻まれていた。




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