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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
358/408

87:『 1 』マキア、華麗なるお家芸。

2話連続で更新しております。ご注意ください。(一話目)


私はマキア。


だけど今はタチアナ様を装っているの。

何だかもう、自分でも良くわからないけれど、公女であるタチアナ様のふりをして自ら敵に捕まりに行き、牢屋に入れられている。


なぜ私がトールたちを先に逃がして、こいつらの手に落ちたかと言うと、理由は二つある。

一つは、敵がトワイライトであり、トールと同じ転移魔法が使える事。

これのせいで、足止めでもしていない限り、トールが追尾される可能性もある。

今のトワイライトの空間魔法は、転移魔法に関してはトールの魔法より進歩している部分もあると前にトールが言っていた。


もう一つは、とっさに、公女タチアナとして捕まれば王宮へ忍び込めるかもと考えた。

もう、革命家たちが勝手にやっちゃったのだから、私が勝手にやっちゃっても良いと言う事よね?

だから、王宮に忍び込める機会があるのならと思って、自ら飛び来んだ。


だいたい自分から捕まりにいくのは私のお家芸みたいなものなんだけど……


さあ今回はどう中からぐちゃぐちゃにしてやって、暴れて壊して、目的を達成してやろうかと、すでに考えている。


「……へっくち」


しかし寒い。

ここは地下の、個別の牢屋みたいで、他の囚人たちは居ない。

ここに居るのは、私と、一人の看守と、白い軍服を着たガド・トワイライトだけだ。


「ちょっと、私はこれでも旧王家の公女なのよ。毛布一枚も無いってどういう事よ!」


「……」


牢屋の前でガドが怖い形相をしていたけれど、私はかまわず鉄格子を掴んでガシャンガシャンと揺らしながら文句を言っていた。

ガドは怪訝そうにしている。


「お前……本当に公女か? 公女にしては育ちが悪そうだな」


「ちょっと、それどういう事よ。頭をかち割るわよ!」


「それ以前に、あの赤毛の怪人か? 前に会った時は、確かに男だと確信していたのだが……」


「馬鹿を言わないでちょうだい。こんな美少女を前に男だとかなんだとか! あああ、もうもう寒いのよ! お腹も空いたし最悪だわ。連邦の中央政府ってほんと国だけ大きくてドケチなのね」


「……その態度のでかさ、確かに赤毛の怪人並だな」


諦めと呆れのため息をついて、ガドは牢屋に毛布を一枚投げ入れた。

ついでに固いパンとチーズと水を、小さな開き口から牢屋の中へと入れてくれる。


要望は言ってみるものだ。


「最後の晩餐だと思え」


「わーい、食べ物〜」


固くて冷たいものばかりだけど、お腹が空いていれば何でも美味しい。

むしゃむしゃ食べる。


「……」


ガドは黙って、私を見下ろしていた。

何だか檻に入れられ、餌を与えられた猛獣のような気持ちになってくる……


「分かっている。お前はどちらでもない。ただの身代わりだ」


ガドは鉄格子越しに、そう言った。


「へえ……なんでそう思うの?」


「赤毛の怪人は男だ。俺が一番良くわかっている。それに、お前はその衣服を着こなしていない」


「……」


じっと自分の服装を見下ろす。

確かに、男物のシャツや上着がだらんとなっていて、袖なんてとても長い。

ズボンも引きずっている感じ。


そりゃあ、誰が見てもあの赤毛の怪人とは思えないわよね。


あ、でもちょっと待って!

私が女に戻っていると言う事は、トールも男になっていると言う事よ。

あいつ、男でワンピース姿になっちゃったんじゃないの!!


「くっそ〜〜、見たかったなあ〜〜〜〜〜絶対面白かったのに」


「……は?」


ひとり勝手にじたばたしはじめた私に、ガドは得体の知れないものでも見るかのような表情だった。


「お前は、赤毛の怪人とは声も違う。明らかにお前は男の声ではない」


「そりゃそうだわ」


真面目に言われるとちょっと面白い。


「だが、お前は赤毛の怪人と似た空気をしている」


「何よ曖昧なんだから。あんた、結局私を何だと思っている訳!」


「……」


ガドはしばらく考えてから、真面目に答えた。


「分からない。お前は何者だ……」


「公女説はどこへ?」


「……お前はタチアナ公女ではない」


「あら? それは分からないわよ。だって私、タチアナ公女と特徴はほぼ一緒ですもの」


ぺろっとチーズを食べてしまって、口をもごもごさせながら、私はすっとぼけたような顔をした。

ガドは目を細めた。


「ねえ、私はこれからどうなるの?」


「処刑に決まっている。賊は皆、明朝に処刑される。公女であろうと無かろうと、その決定に変わりはない」


「本当? どうやって殺されるの?」


「……暢気なものだな。殺されると分かっていてその余裕、怪しいな」


「だって私は赤毛の怪人。不可能を可能にする特別な力を持っているもの。魔法の力よ」


唇に人差し指を添え、ふっと微笑む。

ガドは鼻で笑った。


「残念だったな。その檻は特別な魔導牢だ。いくらお前が奇天烈な魔法を使おうが、その檻から出る事は出来ないだろう。お前は明日にでも、斬首の刑だ」


「斬首かー」


「……」


ガドはこれ以上話す事も無いと言うように、それだけ言い捨てて、こちらに背を向けた。

私はというと、牢屋の味気ない天井を見上げながら、ため息まじりに文句を言う。


「はああ〜……公女も賊と同じ扱いな訳ね。普通、旧王家の公女の処刑だったら裁判くらいあるでしょうに。この国にはまだガイリアの文化も血も色濃く残っているし、国民感情だってあるわよ。それを賊と同じていで処刑って……あんたたち、そんな傲慢な事をしているから、革命家なんかが生まれるのよ。そこんところ分かっているの?」


「……」


ガドはピクリと眉を動かした。

ものすごい剣幕で振り返り、私を睨みつける。


「そんな事は、俺たちが一番良く分かっている」


そして続けた。


「しかし、それもあと少しだ。あの方が総帥の座に座れば……」


「……あの方?」


ガドがぽそっと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。

まずい事を言ってしまったと思ったのだろうか。ガドはさっと口元に手を当て、またキツい目つきで私を睨みつけ、そのままスタスタと遠ざかっていった。


「……」


最後のパンの一欠片を食べた後、私はしばらくぼんやりと考えた。


「ああ寒い。早くトールを湯たんぽ代わりにしてふかふかのベッドで寝たいもんだわ」


しかし、今すぐにトールに迎えにこられても困る。

せっかく王宮へ忍び込んだのだし、私は探したい人が居る。


レナだ。


彼女を助け出せるのなら、この機会に見つけて、つれて帰りたい。

出来る事ならば、イスタルテに私の事を悟られる前に。


レナは私たちを待っているに違いない。

きっと無事で居るに違いない。

彼女は、元の世界に戻ると言う願いを抱いているのだから。


「さて……」


目の前の鉄格子には、複雑な術式が描き込まれている。空間魔術による結界だ。

触れても特別痛みは無いが、術式を読み取るに、破壊してもすぐに再生するよう施されている。

流石に、こちらが赤毛の怪人である可能性をはっきりと否定してないだけあって、周到な事。

相手は私が空間を破壊できると知っている。


まずは立ち上がって、準備体操をした。


「おい、お前、妙な動きはするな」


看守が私に向かって注意する。


「あら体操をしているだけじゃないの。ここ、とても寒いんだもの」


「大人しくしていろと言っているんだ」


「大人しくって言ってもねえ」


口元に人差し指を押しあて、可愛らしいポーズをして悩む振りをしながら、私は指をがりっと噛んで、血を流した。


ぽたぽたと零れ落ちる血。

それは、何もかもを破壊できる血だ。


例え、空間魔法が再構築を命じるよう術式に込められていても、私の血の破壊は、ただ空間を破壊するだけではなく、その奥にある術式をも蝕む。


流れた血は牢屋の鉄格子に辿り着き、表面に描かれていた術式を粉々にして、食っていった。


それは音も無い破壊だ。


ニヤリと微笑み、指を鳴らすと、小規模な爆発によって鉄格子が砂糖のように真っ白の粉となって崩れた。


「え?」


流石の看守もビビる。私はその白い粉にもう一滴血を撒いて、爆発を命じた。


はい、ドーン。

看守が悲鳴を上げながら吹っ飛んだ。


「あいたっ」


私もまた、その勢いで思い切り後ろに転がる。我ながらアホな事に、防衛体勢を取るのを忘れていた。

しかしすぐに起き上がって、目を回している看守に掴み掛かり、上着を剥ぎ取って着込んだ。

ああ、寒い寒い。


しかし看守の服は分厚くて結構温かい。でかいけど、腰のベルトをぎゅっと締めればなんとかいける。


「さあて……革命家たちとはひと味違う暴れ方をして、連邦の奴らの度肝を抜いてやるわ」


ぽきぽきと手をならした。

傷口はすでに塞がり始めている。


「おい! どうした!」


地上へと続く階段を上っていたら、爆音を聞きつけた複数の兵士の降りてくる足音が聞こえてきた。

私は上りながら、足を止める事無くぶんぶんと剣を振り回して、降りてきた敵に向かう。


「うわあっ、賊が牢を抜け出している!」


「はいはい、おやすみ」


そんな風に、叫ぶ敵に向かって血の茨を鞭のようにしてしならせ、敵を地面に叩きつけた。










私が脱走した事は、すぐに王宮内の兵士たちに伝わったようで、あちこちに警戒のサイレンが鳴っている。

捜索のライトもあちこち照らされている。

私は倒した兵士の服を適当に着替えながら、王宮へと侵入しようと中庭の影に隠れていた。


しかし、巨大な王宮の本殿のあちこちには兵士たちがずらりと並び、どこからも侵入を許す隙はないように思える。


「はあ……これは確かに、革命家たちも失敗するはずだわ」


正面から堂々と、敵を蹴散らしながら入ってもいいけれど、そしたらイスタルテの奴がすぐに出てくるのではないかと考えた。

イスタルテとの直接対決はまずい。

まずいと思う……


どうしようか、と周囲を見回した時、気になった造りの別棟があった。


「……?」


高い場所に渡り廊下があり、それが本殿の上階と繋がっている。

なぜかあの別棟には人が居る様子が無い。


あの渡り廊下からならば、王宮の中へと侵入できるかもしれないと思って、私はこそこそとそちらへ向かったのだった。






こういう時に、精霊魔法が使えればと思った。

私には破壊の力はあっても、空を飛ぶ魔法も知らないし、目的の場所まで運んでくれる精霊も居ない。

転移魔法も使えない。


長い柱が、空中の渡り廊下を支えている。

その柱の下で、私は血の茨を編み込んだはしごを作って、一歩一歩上る。


血の茨が下から支えながら、私が落ちないよう押し上げてくれるが、白魔術さえあればもっと簡単に上へ行けたのだろうと思うとやるせない。


本殿から見えない柱の裏側を上りながら、冷たい風に始終震え、なんとか兵隊に見つからずに上りきる。


「寒い寒い寒いっ」


急いで本殿へ向かおうと、渡り廊下を走ったが、私は途中旧ブレーキを踏んで立ち止まる。



『こっちだよ』



声がした気がした。

それが誰の声なのかは判断できないが、私の耳は、ちゃんとその“言葉”を捉えている。


「……?」


吹雪の中振り返ると、渡り廊下によって繋がった細長い別棟が、ぽつんと浮かび上がっている。


「寄り道になっちゃうかしら……まあ良いか」


おそらく、先ほどの声は、魔力を通じて伝えられたものだ。

罠かもしれないが、気にならない訳ではない。


取るに足らないものだとは思わなかった。

なぜなら、その声は少しだけ、懐かしさを帯びていたからだ。




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