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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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84:『 1 』エスカ、干涸びた果実。

俺の名前はエスカ。

ルスキア王国の保護する、ヴァベル教国の司教である。





南の大陸は八幕の緑の幕によって守られている。

数え方は、外側から第一幕、第二幕……という具合だ。


その第四幕と第五幕の間に、以前白賢者が気にしていた、幻想の島があった。


幻想の島は確かに俺の目でも確認する事ができ、また、スズマにも可能だった。

だが、俺たち以外には見えはしない。

要するに、魔王クラスとスズマにしか見えないのだった。


赤鳥フェニキシスの背中に乗って、二人でその島を見下ろしている。

以前までは、その幻想の島というのは名前の通り、見えてみても辿り着けない場所だった。

近づけは消えて、降り立つ事は出来ない。


しかし、俺は緑の巫女様に“豊女王の殻”を操作してもらい、幻想の島の場所を特定。

元々は第三幕と第四幕の間にあったのだが、緑の幕の間隔を操作したりして、幻想の島をその第一幕と第二幕の間に設置すると、その島は途端に姿を鮮明にしたのだった。


俺たちが近寄っても、消えたりはしない。


第一幕と、第二幕。

それが何の意味を示すのか、俺はすぐに察した。



第一幕は、銀の王の棺により展開されている“パラ・アクロメイアの幕”。

第二幕は、黒魔王の棺により展開されている“パラ・クロンドールの幕”。


要するに、創造と空間の魔法により出来ている“残留魔導空間”であるが故の、現象であった。

緑の幕にそれらの魔法がある訳ではないが、創造と空間という二つの概念を司る歴代の棺より漏れ出る魔力が、三つのタワーの魔導波の重なる部分で、より強調された形と言えるのかもしれない。


何にしろ、調査が必要だ。


「でけー」


「でっかいねえ」


上空から四方精霊のフェニキシスに乗り、その島を見下ろす。


「さあ、スズマ。降りるぞ」


「師匠。怖く無いの?」


「はあ? なぜ俺が怖がらりゃならん。俺に怖いものはない。ああ〜そっか〜お前が怖いんだろ? 何だったら、フェニキシスと上から見てたっていいんだぜ」


「え? なんで?」


「……」


「僕楽しみだよ」


スズマは真顔で、ただそれだけ反応した。

強がりは微塵も見えない純粋な反応で、やはりこいつは大物だと思ったり……


俺たちはすぐに島に降り立った。

そこに何があるのかは分からなかったが、残留魔導空間にしては意味不明な点が多すぎる。


残留魔導空間は、一般的にはかつての空間魔術師たちの消し忘れの空間と言われているが、教国周りの残留魔導空間は、神話時代の名残とも記録されている。


名残とは何だろう。

その時代に何があったのかは、教国にすら、詳しい記録は無い。

あるのは、神話時代の有名なエピソードを淡々と残したものだけ。


神話時代も、創世記と神話記ではエピソードの料も異なる。

残留魔導空間は、創世記に多く残ったとされている。


その理由は、俺にも思い出せない。





「わあ」


まずスズマが、島の森の開けた場所にぴょんと降り立った。


「見て、師匠。銀色の花だ」


そして、スズマはすぐに、生い茂る花を見つめた。


「キラキラしている。まるで硝子みたいだね」


「おい、あんまり勝手に触るなよ。刺や毒があったらどうするんだ」


「大丈夫だよ。僕の精霊みんな毒とか針とかそんなのばっかりだし」


ぼんやりと、スズマの周りに浮かんで現れた毒サソリやハチドリやハリネズミの精霊たち。

こいつ物騒な精霊ばかり連れてんな……


「まあ良い。俺についてこい、スズマ」


「えー……うん。分かった」


何故かしぶしぶのスズマ。


まあ良い。

生物の気配も全くない島を見て回る事にする。


降り立った場所は森であったが、道はちゃんとあるし、木々や花々は手入れされているように美しく、また作り物のように乱れ無い。


残留魔導空間にありがちな景色だ。


「あ、見て、師匠」


スズマが何かを見つけ、勝手に走り始めた。

俺は「おい、危ないぞ!」と声をあげつつ、スズマを追う。


生い茂る木々をかき分け進むと、立ちすくむスズマが居た。

スズマの見上げるものは、巨大な四体の像だった。


遺跡の跡だろうか。

舗装された道が続き、文明の跡があちこちに見られる。

その手前に、見た事も無いような、でも古の空気を懐かしく思えるような、そんな黒い像が四つ並んでいたのだった。


「……なんだこれ」


人か、化け物か、何なのか。

頭部を失った状態で存在しているのが二体と、頭部があるのが二体。


何を意味する像なのだろう。

九体ある訳ではないから、魔王クラスの最初である、創世神ですら無い。


四体。

その数字が意味するものは何だろう。



考えすぎても訳が分からなくなるだけだ。

とりあえず俺たちは、その像が守る裏の道へと回り込んだ。


「ぎゃあっ」


ただ、道の真ん中に足を踏み入れたとき、俺は隠されていた穴に落ちた。

スズマが目を丸くして、穴をのぞく。


「わっ、師匠。大丈夫? 師匠死んじゃった?」


「死ぬか! ただの落とし穴だ!」


普通、こういった所の落とし穴には、針地獄なんかがありそうなものを、それは本当にただの穴だった。

単純に道を作る空間が劣化しており、欠落した魔術情報に穴が出来ただけだ。

落ちた場所を撫でると、土の感触はある。


「……ん?」


思いがけない感触があり、俺はそれを持ち上げた。

何だろうかと目を細めたが、それは干涸びた果実の様だった。


「……?」


流石の俺にも、これが何なのかは分からない。


じゅわじゅわと、魔術が修正されている音が聞こえた。

やばい、穴が塞がる、と思って慌てて這い出る。


「それ、何?」


スズマが俺の持つものに興味を示した。


「さあな……真っ黒な果実の干涸びたやつだな」


「何だろう、それ」


変なものを拾ってしまったと思って、それをそこらに捨てようと思ったが、どうにも気になり、止めた。

これはただの勘でしか無かったが、持っておいた方がいいような気がしたからだ。


「……」


目を凝らし、魔力の歪みがある落とし穴を避けながら、俺たちは進んだ。


「師匠、何だか怖い顔がよりいっそう怖くなってるよ?」


「うるさい。お前もやってみろ」


「僕もそれできるの?」


「目を凝らしてみろ。嫌な感じがする所を避けていればだいたい大丈夫だ」


「分かった」


スズマは俺の指示に従い、同じように目を凝らした。

これも修行の一環だ。

空間がぼろくなっている場所をお互いに避けながら進む。道があると言う事は、何かしらこの先にあると言う事だ。


そう思っていた。


「……って、何もねーじゃん!」


しかし、道の先にあったのは、ただの断崖絶壁だ。


「僕、神殿でもあると思っていた」


「いかにもそう言う雰囲気だったよなあ」


スズマとがっかりと肩を落としながら、崖から先、果てしのない海を恨めしそうに見つめる。


くそ。本当にただの残留魔導空間じゃねえか。

神話時代の何かが分かるかも、重要な空間かもと、深読みした俺が馬鹿だったのかもしれない。


得たものは、ただの乾いた果実だけだ。


「ねえ、師匠。お腹が空いたよ」


「アホか。男なら多少の空腹には耐えろ」


「無理だよ。なぜかとても疲れたんだ」


スズマは、いつもは弱音を吐かない子供だ。

だが、本当に少し疲れて見えた。


「おい聖灰。スズマが疲れたって言ってるだろう。休憩させろ」


「そうよそうよ! 可愛いあたしたちのスズマが! あんた、白賢者様に言いつけるわよ!」


「……食べるものが無いのなら僕を食べて、スズマ」


三匹の精霊たちがそれぞれ強烈な愛情を表現しながら、俺に憤慨したり、ヒステリックな声を上げたり、自らを差し出そうとしたりしている。

スズマは三匹の精霊を引き寄せて、抱きしめていた。


何だろう。俺、凄い悪者みたいな……


「ああ、もう! 分かったよ! ここで昼飯だ」


俺は自分の精霊であるタータを呼び出した。

タータは昼寝中だったみたいで、すこぶる機嫌が悪い顔をしている。


「何」


「飯を出せ。お前のその背中の薬箱に入れといただろ」


タータの背負っている四角い薬箱は俺の物入れでもある。

見た目の大きさよりずっとものが入る四次元な収納ボックスなのだ。


「取り出したるは、巫女様が俺に持たせた、何か形のいびつな野菜ばっかりサンド〜」


「わーいわーい」


スズマが、わざとらしい喜び方をしている。

教国には、食材と言えば基本まずいものしか揃っていない。

質素倹約を旨としている訳だが、巫女様はそんな中でも、育ち盛りなスズマに美味いものを食べさせたいと、必死に料理を作り……俺に、お昼に食べてと持たせたものだった。


「巫女様の手作り野菜サンドだ。心して食え」


「分かった」


「……」


「……」


とは言え、お互いが黙り込んだのは、巫女様の手料理の味がどのようなものか知っていたからだ。

正直な所を口になど出来ないが。


「……うーん、野菜ばかり」


「スズマ、これはヘルシーと言うんだ」


「三角のサンドウィッチじゃないよ。なぜか五角形だよ。こっちは丸」


「スズマ、これはアーティスティックなだけだ」


「美味しいけどね」


「そうだな。母の手料理の味は何よりも特別だ」


悟った事をお互いに言いながらも、俺たちはその味も何も無い野菜のみサンドを頬張りながら、いい天気だなあと暢気な心地になった。


「ママと師匠は兄妹なんでしょう? 師匠たちは同じ人からうまれたの?」


「あ? 当たり前だろ」


「……」


あ、スズマが微妙な顔をしている……


「これでも俺は、この世に誕生したばかりの頃は、それはもう愛くるしい神童だったのだ」


「寝言は寝て言おうね師匠」


「あっ、てめえ、どこでそんな汚ねえ言葉覚えやがった!」


「……師匠だよ」


もさもさ野菜サンドを食べながら、真顔なスズマにごもっともな事を言われた。

これだから子供は嫌いだ……どうでも良い事ばかり覚えが早いのだから……


「師匠、お母さんの事って覚えてるの?」


「はあ? そりゃあまあ、前巫女様だからな。若くしてお亡くなりになったが、慈愛に満ちた美しい人であった……」


遠く母の事を思い出す。母と言うより、俺にとっては前巫女様としての意識が強いが。

体の弱い人で、こんな俺でも愛くるしい我が子と思って、慈しんでくれた。

魔王クラスを二人も生んだ偉大な巫女様だった。

今の巫女様であるペリセリス様をお産みになって、すぐに亡くなってしまったが、今でも時々思い出す。


「ねえ、じゃあママと師匠のお父さんは?」


「え」


せっかく良い思い出に浸っていた時に、スズマが嫌な質問をしてきた。

俺は無性にイライラとし始める。


「親父は教国の調査員だった男だ。今も世界をうろうろふらふらしては、情報を集めている。前巫女様には不釣り合いな無精者だったぜ」


「なるほどねえ。師匠はお父さん似なんだね」


「馬鹿を言え! 俺は俺だ! 他の何者でもない!」


俺は拳を地面に叩き付けながら憤慨したが、スズマは笑っていた。精霊たちも笑っていた。

何がそんなに面白い。



「あ、師匠」


スズマが突然、ある方向に目を向け、逸らす事無く指を指した。

ん、と思ってそちらに目を向ける。


「巨兵だ」


「あー……巨兵だな」


反応はお互い鈍かったが、これでもそこそこ驚いていた。

だって、ここは、緑の幕の第一幕と第二幕の間。第一幕の向こう側で、少し古いタイプの巨兵がぴったりを体を幕に張り付け、じーとこちらを見ていたのだから。


徐々に、やべーやべーという感じになる。

完全型の緑の幕の一幕でも、巨兵が突破できる訳が無いと分かっているのだが、以前不完全型の時は三幕まで破られたしなあ。


「すげー見てるな」


「巨兵にも、この島が見えているのかな」


ふいに、スズマが口にしたその言葉に、俺はハッとする。


そうか。

俺たちは当たり前のようにこの島に降り立っているが、そもそもここは、俺たち以外には見えない島だった。


巨兵がわざわざこの島の側にやってきて、俺たちの居る辺りを見ていると言う事は、この島が見えていると言う事なのかもしれない。

見えていて、特別に意識しているのかもしれない。


今までこんな事は無かったのに。

いったいどういう事なんだろうか。


「まあいいや。この島にはそれだけ意味不明な要素が多いってことだろ。そのうちに俺が暴いてやる」


お気楽なランチタイムは終わりだ。

俺は立ち上がり、巨兵を睨む。

スズマはというと、ぺろぺろと指を舐めていた。


「師匠、巨兵を倒すの?」


「勿論だ。あんな雑魚は俺が一瞬で片付けてやる」


どこからとも無く取り出した手榴弾を片手に格好つけて言う。

スズマはと言うと「じゃあ僕は見てるね」と、手助けする気は無し!



まあいい。


巨兵はこの世に現れた、一番良く無い形の生命体だ。

奴らへの救いは、全てを跡形も無く消し去り、それを創る事の出来る奴をもメイデーアから排除する事だ。

容赦など必要ない。


自慢の四方精霊たちを召喚し、俺は高笑いをしながら巨兵につっこんでいった。

これでもかと言うくらい巨兵の上から火力をぶちかまし、粉々になるまでぶっ放し、巨兵を介した連邦を馬鹿にする勢いでオーバーキル。


まあ、俺がとてつもなく強かったと言うだけの話だ。




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