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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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80:『 1 』トール、マキアとデートする。(上)

俺の名前はトール・サガラーム。


最近、性別を変更しての隠密行動に徹しているのだが、マキアが少し疲れているようだった。

最初こそ楽しんでいた男装も、なにやら不満があるらしい。


「トールが何か冷たい」


そんな事を言うのだった。

今でこそ、早朝の隠れ家の中なので、お互いに本来の姿ではあるが。


「嘘言え。俺はいつも、お前の世話ばかりしているぞ。ふざけるなよ」


俺は憤慨して言いかえす。

マキアは暖炉の前の、よくおばあちゃんとかが編み物をしているような、揺れる椅子をガンガンに揺らしながら、文句を続けた。


「冷たいわよ。絶対、女のときの方が優しい!」


「そりゃあ、俺は男だからな。お前の男の姿なんぞ、別に嬉しくも何ともない。むしろ何か怖い。お前が男じゃなくて、心底良かったと思い知らされる」


「何よそれ何よそれ」


「例えば、美少女であれば許される数々のわがまま、迷惑な言動、ひどい仕打ち、暴力も、男になったとたんに許されざる行動に変わる。正直イラッとする」


「何よそれ何よそれ何よそれ〜」


「おい、その椅子を揺らすな。公園にある遊具じゃないんだから」


俺は自分の剣を磨いていた最中ではあったが、それを中止して、さっきからうだうだ言うマキアの側に寄る。


「女の子の姿で、外に出たい。トールにちやほやされたい」


「そんなに堂々と願望を言われるとは思わなかったな」


椅子の上で膝を抱いて、膨れっ面のマキア。

その膨れた部分をつぶす。


「俺はまだ良い。似た様な特徴の男なんて山ほど居るからな。だがお前は女の姿だと目立つんだよ。それで無くても、連邦は赤毛の人物を手当り次第に捕えているってのに」


「じゃあ、かつらをかぶるから。外で遊ぶ」


「そこまでして女として遊びたいのか……」


マキアはこの自由の無い生活に、そろそろ限界が来ている様だった。

外に出られるときは、男の姿で、噂の赤毛の怪人となった時だけだ。

それもまた自由ではなく、危険と隣り合わせのお仕事と言える。


時には、本来の女として、自由に外へ出て行きたいのだろう。

気持ちは分かる。


「まあなあ……最近はお前を働かせ過ぎたしな」


「そうよ。危ない目にも合ったわ。それなのに毎日毎日魚の缶詰ばかり……寒いし辛い。足に霜焼けが出来るし、動き過ぎて筋肉痛になるし、トールは冷たい。これじゃあ、やりがいが無いってものよ」


「……」


マキアはピョンと椅子から降りて、俺の胸元に指を突きつけて言う。


「トール、私はあんたの婚約者よ。それなのに、こんな仕打ちって無いと思うわよ」


「また訳の分からない我が侭を言って」


「……だって……ご褒美が欲しいだけよ」


うりうりと胸元に指を突きつけて、しゅんとして言うマキア。


なんだこいつ。

可愛い事いってりゃ、俺が言う事を聞くと思っているんだろう。

思っているんだろう……


「ふん。……まあ、お前にやる気が無くなられても困るしな。今日俺たちには何の予定も無いし、まあ、かつらをかぶってりゃあ、大丈夫だろう」


「ほんと!?」


「今日だけだぞ……」


俺は負けた。

嬉しそうにしているマキアに、よりとどめを刺された。


まあ良い。

こういう時の為に、俺たちは事前にカツラを用意していた。

マキアはその赤毛を結い上げ、金髪さらさらロングストレートなカツラに収める。

なんかもう別人になった。


「このかつら……どうせあんたの趣味でしょう?」


「は? なぜそうだと言い切れる」


「だってあんた、昔っからブロンドが好きじゃない」


「……」


じとっとした視線のマキア。


いやいやマキアさん。違うんですってば。

さらさらブロンドは男のロマンなんです。


「ま、良いわ。ブロンドはこの国に多いから、目立たないしさ」


マキアはサラッと、ブロンドを払って、不敵な笑みを浮かべた。


「服は、俺の女装時ので良いな」


「あれかあ。あれ地味なんだけど、まあ良いわ」


いそいそと、俺から服を受け取って、着替え始めるマキア。

ただ、背中のファスナーを上げる所で、彼女が俺に言った。


「ねえ、これ以上あがらないんだけど」


「はあ? お前、太ったんじゃないのか?」


「そんな訳無いでしょう! あんなひもじい食生活で! 違うわよ……胸が、苦しいのよ」


少々の恥じらいを見せつつも、俺のワンピースに対する不満を的確に言ったマキア。

思わず、その部分に視線を落とす。


ああ……ああああ。

俺の女姿の服。マキアが着ると、豊かな胸元がぱっつんぱっつんな訳ですね……

分かります!!!


「新しいのを買ってちょうだい」


「なぜ敵国で、お前の服を買ってやらなくちゃならん」


「だって……」


ねだった後に、ごにょごにょと言葉を濁すマキア。

何だ、はっきりと言ってみろと言うと、マキアはこう言った。


「だって、せっかくのトールとのデートなのに。もうちょっと可愛い格好がしたかったわ!」


「……」


まあいいや。服の一着くらい、自腹で買ってやろう……

遠い所を見ながら、そう思った。

俺もつくづく、マキアには甘い男になってしまったものだ。







「でもな、マキア。なぜ俺たちが自らの性別を偽り、変化してまで行動していたのかって言うのを、しっかりと考えろよ?」


「分かっているわよ」


「目立った行動はよせよ?」


「分かっているってば」


マキアは、さっき買ってやった、焼きたてのピロシキみたいなのを頬張りながら、頷いた。

キルトレーデンの外区は比較的貧困層が住んでいるとは言え、賑わった繁華街というものもある。要するに中階層が住んでいる付近に。


派手なブティックは無いが、町娘の為の服を売る店は並んでおり、マキアはさっきから、ショーウィンドウを見て回っている。


「私ってば、いつも赤い服を着ているでしょう? だから、たまには別の色の服も良いかなって思うのよ」


「例えば?」


「……白とか?」


「……」


「水色とか!」


「うーん、どうかな〜」


想像してみた。

そんな清楚な色合いの服なんて、マキアの強烈な個性に負けちゃうんじゃなかろうか、と。


でも今のマキアは金髪だし、いけるかな。


「着てみれば良いじゃないか。外から見てるだけじゃなくて」


「うーん、でも。似合わなかったら恥ずかしいし」


マキアはもごもごと口ごもる。

らちがあかないので、俺は彼女の背を押して、服屋へと突入した。

店員が愛想良く俺たちを迎えた。


「どのようなお品物を用意しましょうか?」


店員の派手なお姉さんが、さっそく俺たちに尋ねた。


「えーと、こいつに似合う服を見繕ってくれ。値段は特に気にしないが、これくらいで」


指を三本立てて、予算を伝えた。

お姉さんは眉をぴくりと動かして、いっそうにこやかになる。


「ええ、ええ。ここではキルトレーデンでの流行の衣装を取り揃えております。お色などのご希望はありますか?」


お姉さんが尋ねると、マキアが「赤色以外ので」と端的に伝えた。


「そんなのじゃあ、分からないだろ。もっと的確な色を言えよ」


「だって、似合わないかもしれないでしょう? こういうのは、プロのお姉さんにお任せした方が良いのよ」


「……そういうもんかよ」


「そういうもんなの」


マキアは全面的に、お店のお姉さんにお任せするつもりらしい。

すると、お姉さんはマキアをじろじろと見た後に、思い当たる商品でもあったのか、奥の棚へと向かった。


「こちらなんていかがでしょう? 白地で、襟元に紺色のリボンがあしらわれており、シンプルさと愛らしさを兼ね備えた、トレンドの商品でございます。奥様のようなスタイルの良い方には、うってつけかと」


「……奥様?」


俺とマキアは顔を見合わせた。

俺はてっきり、マキアの従者に間違えられたのかと思った。何となく、経験上。


「ほほ。お若い素敵なご夫婦ですね。羨ましいですわ」


「……」


しかし、どうやらこのお姉さんは、俺たちを若い夫婦だと思ったらしい。

まあ、確かに態度が慣れきっていて、初々しい若いカップルのデートとは思えないよな。


「でも、とても可愛いわね、このワンピース。私、あんまり襟付きの服って着ないんだけど、ちょっと着てみても良いかも」


「……谷間が」


「え? 何?」


「いや何でも」


基本的にマキアが着てきた服って、谷間が覗く赤いドレスだったからか、俺はほんの少しだけ寂しい気持ちになった。

しかし襟付きの服も新鮮かもしれない。


「試着するわ。気に入ったら、そのまま買う」


マキアは意気揚々として、試着室へと向かった。


「……」


マキアの服を一緒に買いに来たのは、始めての事では無い。

かつては、共に水着を買いに行ったこともあったし、それこそ地球では、マキアは友人が少なかった事もあり、基本的に買い物に付き合わされるのは俺だったな。


マキアが試着をしている間は、ブティック店の女たちにざわざわされたり、無駄に視線を向けられるが、俺は飄々としてお姉さんとの世間話を楽しんでいた。


お姉さんは商売上手で、さっきから「奥様にお靴はいかがですか?」「ブローチはいかがですか」とすすめてくる。

俺はなんとなく聞き流しながら、マキアが試着室から出てくるのを待っていた。


「着たわ」


ガラッとカーテンを開けて出てきたマキアは、甘すぎず辛すぎない襟付きの白いワンピースを着ていて、いつもよりずっと娘らしい。

俺は、おおと思ったものだ。


「良いじゃないか。いつもより大人しそうに見えるぞ」


「それどういう事かしら」


俺の褒め言葉にも、マキアはじーと疑わし気な視線を向けて来るが、「分かった。これにするわ」と、結局このワンピースを買う模様。


「上着はいかがですか? こちらのロングコートは今年のトレンドですよ」


「じゃあ、それももらうわ」


マキアは俺の財布事情も構わず、コートとブーツを購入。

とは言え、全体的にいつものマキアと違うコーディネートで、新鮮な気分になる。


金髪姿と言うのもあるかもしれないが、きっとこの格好は、赤毛のいつものマキアでも似合うんだろうなと妄想した。



慣れきった関係だからこそ、時にこういうのも悪く無い。



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