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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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78:『 1 』マキア、赤毛の怪人と白い軍服。

私の名前はマキア。

だけど、今は男の姿で、赤毛の怪人として巷を騒がせている。


さっきまで中央広場で目立った行動をとっていたけれど、今は逃げている。

誰から逃げているのかと言うと、連邦の中央政府の連中だ。

奴らは、突発的に現れ存在感を示し、颯爽と逃げる私を捕えようとしている。

なぜなら、奴らは私を、ガイリア旧王家と関係のある人物だと思っているからだ……


ガイリア王家には言い伝えがある。

元々、ガイリア王家は北の大陸に住む人々の特徴を受け継ぎ、淡い金髪や銀髪が多く居るのだが、ある時代の皇帝が西の大陸の移民であった少女と恋をして、無理矢理お妃とした事で、生まれてきた子供たちは皆、茶を帯びた淡い赤毛になったのだとか。


それから、ガイリア帝国は不作続き不況続き不幸続きで、最終的にはエルメデス連邦に侵略されてしまうのだから、赤毛のお妃様は今では不吉の存在として語り継がれている。


私が表立って活動をしているのは、この言い伝えがあるからだ。

赤毛をちらつかせる事で、赤毛の怪人はもしかしたら旧ガイリア王家の人間なのでは……遥か昔の言い伝えを知っている者は思うかもしれない。

それだけで、赤毛の怪人には影響力があると言える。

中央政府は、すでにそう考えていて、必死に私を捕らえようとしているのだろう。




「撒いたかしら」


キルトレーデンの西側に回り、建造物の入り組んだ路地裏で小さくなっていた。

敵からの追尾を感じなくなったと思うまでじっとしていた。

元々その場の木箱に用意していたローブを纏い、ぼそぼそと、一人ごと。


「ああ、寒い寒い。早くあったかい家に戻って、暖かいスープでも飲みたいわ。トールはもう戻って来ているかしら」


そろっと、路地から顔を出す。

あ、中央政府の兵士がまだ居る。

もう少しここに留まっていた方が良いかしら。それとも移動しようかしら……


「赤毛の怪人は居たか」


「ガド大尉」


私が頭を悩ませて、その場で息を潜めていた時だ。

通る声が聞こえ、気になった。またそろっと、路地から頭を出して確認する。

すると、いつの間にかそこに、白い連邦の軍服を着た眼帯の男が居た。


「あ……」


はっとしたのは、そいつが黒髪で、実にどこぞの一族を彷彿させる見た目だったからだ。


「あいつ、ぜったいトワイライトの奴だわ」


すぐに分かるレベルで、そんな感じだった。

またしてもトールみたいなのが増えちゃった。


年齢は、トールと変わらない程だろうか。トールよりガタイが良く、短めに刈り込んだ髪で、眼帯がお似合いの神経質そうな面をした男だ。

ソロモンのような柔らかい物腰も感じられず、ノアのような愛らしさも無い。

言ってしまえば少し硬派な感じ。


見た目の特徴はみんな似ていても、皆ちょっとずつ違うのよねえ。

面白いわよねえ。

トールが一匹、トールが二匹、トールが三匹、トールが四匹……って、寝れない時に数えてみようかしら。最近女体化トールも増えた事だし。

あ、そんな事ばかり考えていたら寝れなくなっちゃうかしら。


「ガド大尉! 怪しい、赤毛の男を捕まえました。おそらく赤毛の怪人です!」


様子を見てお気楽な事を考えていたら、ガドという男の前に、兵士がある男を引っ張ってきた。

北の大陸も、長い歴史の中で西の大陸の住人を受け入れたりして、様々な人種が存在してる。

故に、この国にも赤毛は存在するのだが、兵士が連れてきたのは、くすんだ人参色の赤毛で、顔はそばかすだらけの、ちょっと痩せた若い男。


さすがにそいつが赤毛の怪人だったら、巷の女の子たちはみんながっかりよ、と言いたくなる頼り無さげな顔をしていた。


「……」


ガドという男は、じっとその痩せた男を見下ろしていた。


「な、何なんですか、何なんですかぁっ、軍人様。僕は何もしていませんよ……っ」


震える声で、無実を訴える男。だが、ガドは下げていた剣を鞘から抜いた。


ヤバい……!

私はその、迷い無い動きに、とっさにそう思った。


ガドの剣は、痩せた男を切り捨てようとする動きをしていた。

目の前の男が赤毛の怪人であろうが無かろうが、そんな事はどうでも良いと言う様に。


私は路地から飛び出して、「やめろ!」と叫んだ。


その一声が、ガドの剣に戸惑いの一瞬を作る。

隙を見逃す事なく、私は痩せた男に体当たりして、彼をガドの間合いから弾いた。


ガドの剣が、勢い良く私の肩をかすめた。ゴロゴロと、レンガの地面を転がる。

転がり終わった所で、ローブのフードが外れて、私の赤毛が覗いた。


「赤毛の怪人だ!」


兵士の一人が叫んだ。私はすぐに立ち上がったが、何にしろ敵の中。

ああ、体が痛い。肩の傷は大した事無いが、ひりひりする。寒いから余計に。


私は堂々と宣言する。


「そうとも。赤毛の怪人は私だ。どう見ても私だろう。こいつは関係ない!」


こそっと、肩から流れてきた血を、握りしめた。自ら体を傷つける手間が省けた。


「……赤毛の怪人」


ガドはその名を呟き、私を見据えた。

持っていた剣を構える。彼の周囲に、見覚えのある空間の歪みが出来た。


あれは……魔導要塞。


「魔導要塞“白の……”」


「要塞クラッシュ!!」


奴が何かしらの魔導要塞を構築するため、名を唱えようとしていたのは分かっていた。

私は指輪にしていた神器を細身の剣に変え、迷い無く奴の懐に入り込むと、その周囲の空間の歪みを斬る。


私には、空間破壊が可能だ。

魔導要塞の構築の為に、微妙な時間がかかる事も知っている。構築はさせない。


「な……っ、なに」


ただ、ガドはこのような事態になると思っていなかったのだろう。驚いた瞳をしていた。

そのままガドの胴を狙ったが、流石に剣は受け止められる。


「お前……何者だ。空間魔法を破壊するなんて」


「……」


何度か剣を交わした。剣技については、相当なやり手の様で、私は間合いを取り直した。


「さっさと逃げなさい」

 

まだその場に居た、赤毛の怪人に間違えられた男を逃がす。


「追え。仲間かもしれない」


ガドは周囲の兵士に指示を出した。


「違う。あんな奴は仲間でもなんでもない!」


「ならばなぜ助けた」


「なぜって……私に間違えられて、殺されそうになっていたからだ。いとも簡単に人を殺そうとする。そう言う所が、連邦の嫌な所だ。お前たちの国の、か弱い平民だぞ!」


「……」


ガドは目を細めた。

私はというと、色々と憤りもあったが、こんな大事になってしまってそろそろ焦りが芽生えてくる。

勝手な事をしてしまったかしら。

本当は、多少の犠牲には目をつぶってでも、奴らとの接触は避けるべきだったのだろう。


「赤毛の怪人。お前には、ガイリア旧王家との繋がりが囁かれている。もしくは、旧王家の生き残りか? 何にしろ、捕えてしまえば関係ない」


くぐもった声で、ガドは言った。

見慣れない、気泡の様な、球体の立体空間が、彼の周囲に連なり、輪を描いた。

瞬間、彼は転移魔法を使って、私の背後に回るが、私は彼の攻撃を血の茨で防ぐ。


「!?」


驚いたのは、彼の攻撃が輪を描き広がる、衝撃波を生んだからだ。

それは薄い、円盤形の空間。勢いをつけて発生した事で、鋭い刃物にも似た衝撃が周囲の建造物を真横から斬り倒した。


オートで守ってくれる血の茨のおかげで、私はその円盤に体を触れられる事無く、破壊して回避した。

危ない危ない。下手したら、一瞬で胴体真っ二つだわ……


「その魔法は何だ。見た事が無い……厄介だな」


ガドは、私の血の茨が気になる様だった。

そりゃあ、見た事は無いでしょうね。この魔法は私以外に使える者は居ない訳だし。

だけど、これ以上こいつと戦うのはまずい。まだ、計画に支障が出ては困る。

紅魔女である事を悟られてはいけない。


私を囲む兵士たちがにじり寄って来る。ぽたぽたと、地面に血が垂れた。


「……」


こう言うときは……逃げる!


私はガドに背を向けるより、向かって行くつもりで剣を振り上げた。

ガドはそれを受ける構えを見せ、周囲に空間魔法を展開。

無数の透明の刃が私を襲ったが、彼の攻撃を剣で受け流し、いくつかは体に受けながらも、ガドの前で思いきり足に力を込め、跳躍した。


飛び乗ったのは、民家の屋根だ。


ガドは振り返り、「逃がすな!」と声を上げていたが、先ほど私が留まっていた場所に出来ていた血だまりが、小規模な爆発を繰り返し始め、彼らはそれに巻き込まれ、周囲は煙に包まれる。

その騒動に乗じて、私は逃げたのだった。


「ガド……トワイライト、か」


あいつは、ナタン・トワイライトと同じ様に、連邦に従っているトワイライトの者なのだろうか。

そもそも、なぜあいつらは連邦に従っているのだろう。

トワイライトの者たちは、連邦にひどい仕打ちを受けていると、レピスに聞いた事がある。


逃げたくとも、逃げられない。

従わなくてはならない理由があるのだろうか。





 

「マキア」


「あ、トール」


待ち合わせの場所として約束していた、背の高い建物の屋上の一角で小さくなっていたら、女姿のトールが迎えにきた。

肩から血をたらたらと流す私を見て、彼は眉間にしわを寄せている。


「どうしたんだ、それは。ヘマをしたのか」


「ちょっとね。厄介そうな奴に出会ったのよ」


トールは私の手を取って、立ち上がらせた。

瞬間に、トールの変化が解ける。少女の姿だったのに、いかつい男になってしまう。


彼の変化の時間にはリミットがあるため、その時間が来てしまったのだった。

少しして、私もまた男性の姿からいつものマキアとなった。いつもの、華奢で可憐な美少女の姿に。


「間に合って良かった。ガイリア旧王家の連中と居る時に解けたら、大事だからな」


「私だってそうよ。あんたの変身が解けて、連邦の奴らの前で女の姿を晒しちゃったら、きっと紅魔女だってバレてしまったわ。……それにしても疲れた」


先ほどのちょっとした戦いの事を、私はトールに話さなければと思っていた。

だけど、何故だかとてつもない疲労に襲われる。お腹が空いているのかしら。


「さあ、隠れ家に帰ろう。お前も疲れているのだろうし。怪我の手当もしないとな」


トールは、ふらふらしている私を、自分の腕に掴まらせた。

私は丸太にでも縋る様に、トールにしがみついた。


「転移。教会隠れ家」


トールが転移先を口にした瞬間、私たちの足下に魔法陣が展開した。

光に包まれ、私たちは拠点としている教会に転移したのだった。






「ほら、マキア、傷口をみせてみろ」


トールが、暖炉前の椅子に私を座らせて、部屋の暖炉をつけてくれた。

私はと言うと「すぐに治るわよ」と可愛げの無い事を言う。


「バカを言え。血を垂れ流したままにするなよ」


「うーん……」


曖昧に答えながら、私は男物の外套を脱いで、シャツのボタンを外して肩を晒した。

トールは神妙な面持ちで傷口を見た。


「けっこうばっさりといったな」


「そう? 浅い方だと思っているんだけど。おかげで魔法は使いやすかったわ」


「お前は傷口に対して無頓着すぎるんだよ」


ため息をつくトール。傷口を清潔な布で優しくふいた。

なんか、嫌な薬品の匂いが鼻につく。

見るからに染みそうな傷薬を綿につけて、トールはそれをピンセットで摘んでから、私の傷口にちょんちょんと当てるのだ。


「あいたたたたた。染みるーーっ」


「痛みには慣れているとか言うくせにな」


容赦ないトール。私が喚いても手当の手を緩めない。


「だってだって、こう言う痛みとは違うわよ」


悶える私。

このひりひり染みる痛みが嫌だから、私は傷の手当があまり好きじゃない。

体内の自動治癒があるのだから、そもそも手当はいらないのだから。


だけど、トールは、そうは思っていないみたい。

私が怪我をすると、いつも手当てしたがるもの。


「ねえ、トール。ちょっと面倒そうな奴に出会ったわ」


「中央政府の奴か?」


「きっとそうよ。ナタンとか、イスタルテのような白い軍服を着ていたから、ただの一般兵じゃないくて軍人だと思うの。ガド大尉って呼ばれていたわ。あいつ、あんたと似た印象だったし、魔導要塞を使おうとしたの。絶対トワイライトの一族よ」


「また……俺みたいなのが」


オリジナリティを失いつつあるトールの、何とも言えない顔。

傷口にガーゼを当て、包帯でぐるぐる巻いてくれたが、低く唸っていた。


「いいじゃないのよ。あんた、子孫の血が色濃いってことなんだから」


「うるさい。普通二千年も経っていたら、血は薄れているんだよ」


「それだけトワイライトが、血統を守って魔法を受け継いでいたってことじゃない。素晴らしい事よ」


「……」


じとっと、私を見上げながら、トールは傷の手当を終えた。

終えた頃には、傷口が塞ぎ始めているのだから、本当に手当のかいが無いわよね。


「ああ、やっぱり長時間の変化の魔法って、体にくるわね。無責任に他人をかえるに変えていた時代が懐かしいわ。自分だと結構キツいものね」


「基本的に変化系の魔法って奴は、魔法の持続を考えると魔力を食うからな。持続系の魔法はリスクも高く、誓約も多い。特に魔法をかける対象が自分自身って言う、魔王クラスなわけだから、魔力もかかる。お前の場合、俺も含まれるし、疲労も頷けるな」


「それを考えると、ユリシスは凄かったわよねえ。こういうの、得意だったもの」


「俺だって、ずっとレイラインで魔導要塞を維持し続けている。こういうのは慣れだ。お前の場合、持続系の魔法が、体内の自動治癒くらいしかないしな」


「そうねえ……無意識にやっているのはあるのかもしれないけれど、慣れない魔法を意識して持続させなければならないのは、結構大変よねえ」


ぶるっと、身震いした。

トールは甲斐甲斐しく、着替えの緩いネグリジェと、もこもこの上着を持って来てくれる。

女の子のトール子ちゃんも可愛いけれど、やっぱり本物のトールは安心するものがある。


「お前、その白い軍服の奴らに、あまり近づくんじゃないぞ。今の段階では、お前はお騒がせな変人程度で十分だ。革命家の連中は、今は武器と人材をこの首都に集めている段階。機会を待たなければならない」


「分かっているわよ」


着替えながら、答える。

だからこそ、私はあの時逃げたのだから。


もこもこの上着を着てしまってから、私は何となく、トールの腕にしがみついた。


「トール〜」


「何だよ」


「寒い」


「暖炉の前で丸まってろよ」


トールはあからさまに迷惑そうな表情をした。

でも内心嬉しいと思っている事を、私は知っている。


「お腹が空いたわ、トール。温かいスープが食べたい」


「今日も魚の缶詰だ」


「嫌よ! グラタンが食べたい!」


「おい、食べたいものが変わってるぞ」


「お肉が食べたいお肉が食べたい! 牛フィレ肉のステーキが食べたい! ビーフシチューも食べたい〜〜!」


エスカレートする私の要望に、トールは「じゃあ温かいスープだ!」と言い切る。

これは私の常套手段で、スープを食べたいと言っても魚の缶詰しか出してくれないけれど、どんどん高級な要望をすることで、最初の要望が通りやすかったりするのだ。


ぶつぶつ言いながらも、トールは厨房へ向かった。

しめしめ。


とは言え、疲れていた私は暖炉の前の椅子に座って、落ち着く。

今は何時かしら。時計を見る限り、もう夕方だ。


ぼんやりとしていたら、いつの間にか眠ってしまった様だ。

トールが私を揺り起こした時には、美味しそうなベーコンと根菜のスープが出来上がり、良い匂いが漂っていた。


最近トールも、少しだけ料理の腕を上げたみたい。

素敵な目覚めと言って良い。



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