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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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73:神話大系6〜リセットの時〜

4話連続で更新しております。ご注意ください。(2話目)


一周目は、分からない事も多い。

結局、エリスが機織り小屋を燃やした犯人だったのか。

なぜエリスが牢屋から逃げる事が出来たのか。


だが、俺は覚えていた方であったと言えるだろう。

残虐な、血と、悲鳴と、恐怖に、突然襲われ、訳も分からないまま、エリスの連れてきた影の化け物たちに飲み込まれた事を。










「……?」


暗闇から反転して、俺は目前の景色に唖然とした。

そこは、メイデーアに初めて来た時の、何も無い荒野だったのだから。


見渡せば、皆が居る。

同じように倒れていた。


「ここ、どこ……?」


誰かがそう言うのと同時に、俺は「メイデーア」とこの世界の名を呟いていた。


「……お前、ここがどこだか知っているのか?」


一番側に居た黒髪の少年、そう、クロンドールが尋ねてきた。

俺は、「は?」と思ったものだ。


その時の俺は、誰もが皆、先ほどの事を覚えていると思っていた。

だって、さっきまで俺たちは、エリスを捜しに行こうとしていて、それで……


「影の化け物が、襲ってきたじゃないか……まさか覚えていないのか、クロンドール」


「……クロンドール? 俺は……そんな名前だったか?」


クロンドールは顔をしかめ、眉を潜めた。

誰もが俺に注目している。誰もがさっきの事を覚えていない。


そして、メイデーアで貰った名を覚えていない。


慌てて周囲を見渡す。

そうだ。エリスは……


「妙な事になっていますねえ。我々はこの妙な世界に連れてこられたようです。名も忘れている」


「……」


そう、言葉を発したのは、青い髪をした少年だった。

しかし、エリスではない。確実に今までのエリスではない。

口調も違うし、何しろ顔が違う。なんか凄いさわやかな感じになっている。

出で立ちも貴族風で、俺は瞬きも出来なかった。


「誰だよ……」


思わず言葉を零す。

だが、奴は「うーん、名前は覚えていませんねえ」と、この場で当たり前のように言う。

いや、そう言う意味では無い。

今までのエリスはどこへ、と言う意味だったが、この疑問を持っていた者もそもそも俺だけだった。


俺がぽかんとしている間に、トリタニアが大樹を見つけ、アクロメイアとクロンドールが、そこへ向かおうと指示する。

どこかで見た光景だ。


「大丈夫? ぼんやりしているわよ」


その場に座り込んでいた俺に、手を差し伸ばした少女が居た。

赤毛で、猫目の少女だ。


「……マギリーヴァ」


「え?」


「お前も、名を覚えていないのか?」


「……名前は、忘れちゃったわ。なぜかしら。嫌な記憶は残っているのに、名前は全然思い出せないの」


「……」


ごくりと息を呑み、俺はこの状況を察する。


もう一度、メイデーアに召喚された時に時間が戻っている。

やり直しだ。何もかもが、最初からだ。


だけど、違う事があった。

それはエリスが別人のようになっている事だ。


見た目も性格も違う。同じなのは髪の色くらいのもの。


いったいなぜ。


「気分でも悪いの? 顔色が優れないわ」


「……いや」


「でも、無理も無いわね。私たち、なぜこんな所に居るのかしら……」


「……」


マギリーヴァは突然この世界へやってきたというように、動揺しているようだった。

俺は彼女の手を借りて立ち上がると、空を見上げる。


曇ってどんよりとした空は、最初の時も見上げたものだ。







俺はこれを創世前の《リセット》、と呼ぶようにしている。

俺たちは再びメイデーアに召喚された“最初”に戻った訳だが、何かが少しずつ変わっている事に気がついたのは、俺だけであった。

それこそが、俺の“記憶を記録”するの能力の目覚めの形だったのかもしれない。


その後、俺たちは一周目と同じように、アクロメイア、クロンドールを中心にメイデーアの創造をしていく。

食材となる生物を生み、植物を生み、また家を建てた。


何もかもは“生きる”ためのものばかりだった。


そこに至る過程や、順序は少しずつ違ったが、ほぼほぼ同じ様子で、俺たち九人はここで生活し、コミュニティーを形成して行く。


大きく違った事と言えば、問題児エリスが、優等生エリスになったことだった。

二週目以降のエリスは実に優秀だった。品行方正で、何かと知的で、紳士的。

見目麗しく、親しみやすく、文句のつけ様が無い奴だった。


当初のエリスと同じように、金属を利用した小型造形物を作り出すのが上手で、だが生み出すものは芸術性を持った洗練されたものばかりだった。

特にプシマは、このエリスにどことなく惹かれているようで、一周目では見る事の出来なかった、恋する乙女なプシマの様子を観察する事が出来た。


それ以外の関係性は変わらない。

相変わらずアクロメイアはリーダーシップを取ろうとするし、クロンドールはサブリーダー的な立場だし、マギリーヴァはおせっかいだし、デメテリスはユティスにべったりだし、トリタニアはそんなユティスを恨めしそうに見ている。


一周目の時のようなエリスに関する問題が起きる事は無く、俺たちは非常に上手くいった、穏やかな日々を送る事になる。


俺はそれが不思議で仕方が無かったが、このエリスであれば、機織り小屋の事件のような事は起きないと思っていた。





しかしそれは、起きるべくして起きたのだった。

機織り小屋は燃えるべくして燃えたし、プシマやデメテリスが先に小屋から逃げていて、取り残されたマギリーヴァをクロンドールが助ける事も変わらない。

最初はエリスを疑ったが、今回はエリスにもアリバイがあり、結局火事の原因がなんだったのかは全く分からなかった。



影の化け物の存在を知っていた俺は、それが現れ始めた事にいち早く気がつき、気をつけるよう皆に言った。

今回はそれらを遠くから観察し、策を練り戦う事もした。

分かった事と言えば、こいつらは切っても切れず、潰しても潰れず、捕らえる事も出来ないし、消える事は無い。


俺たちの力の要であったアクロメイアとクロンドールは、生み出す事しか出来なかったし、破壊の力のあったマギリーヴァでも、実体の無いこいつらを破壊する事は出来なかった。


そうして、やがて俺たちはそれらに襲われ、飲み込まれ、暗転しては、またメイデーアの最初の荒野に戻っている。

誰もに記憶は無く、初めてメイデーアにやってきたかのような反応をする。


だが俺は覚え続けていた。

それこそが、無能だと思われていた俺の力だったからだ。


繰り返しリセットされる理由は何だろうか。


第三周目以降、変わった事は特にない。

問題児エリスは、第一周目のみの存在で、それ以降は優等生なエリスだった。

だがエリスが変わっても運命は変わらない。


要するに、第一周の時の、機織り小屋の事件は、エリスのせいでは無かったのだと、俺は思っている。

俺がいかに、皆を救おうと躍起になっても、「なぜそんな事を知っているんだ」「お前は何者だ」と疑われるばかりで、最後はやはり、影の化け物に殺される。




殺される……?




繰り返しなど無く、死ねるならまだ救いがあるのに。


そう思って、ハッとした。

もう、終わりの無いこのループに、半分狂い始めていた頃、俺はやっと気がついたのだった。

今までのメイデーアに無かったもの。


「……死だ」


メイデーアに最初からあった概念は、天と地と、愛と混沌。

そこに俺たちが作り出して行ったものは、全て“生き抜く”ための要素ばかりで、俺たちは、正反対の要素である“死”を作らなかった。


故に、増えて行った生物を、捕らえ食べても、そこに“死”は発生せず、生命というものが形を失っただけで、曖昧な黒い何か、となったものがあの“影の化け物”である。


俺たちもまた、死など無かった。

リセットされて、始まりの荒野という同じ所から繰り返すだけで、これは死ではない。


「生にとらわれていたんだ。俺たちは生きていたかったから、死を恐れ、作らなかった……」


だが、本当の不死は、死が前提にあってこそ成立する概念だ。


なので、死の無いメイデーアでは、俺たち九人のうち過半数が死に相当する事情に出会った時、やり直しと言うものが発生したのだった。


後に世界に残る、教国の海岸沿いの“残留魔導空間”というものは、実質繰り返した《リセット》の跡でもあったと、俺は推察している。

メイデーアから消えたはずの世界だが、完全消滅など難しい。

どこかにバグがあり、もしくは意図的に、それまで繰り返された世界の構築の跡というものは、見えない場所に小さな入り口を開いて、メイデーアに残されたのだ。



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