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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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70:神話大系3〜ヴァベル〜

5話連続で更新しております。ご注意ください。(4話目)

時間や暦の概念が当初こそ無かったが、各々の異世界の知識や、歴史、物語や、情報をアイディアとして出して行くうちに、気がつけば昼と夜が出来上がり、一日のサイクルが生まれた。

それが出来れば、毎日を計算する事ができ、俺たちはその段階から、365日を一年とする事にした。



暦が始まってからを創世暦とするならば、それから半年後の事だっただろうか。

この世界で生きていく事にも随分と慣れ、生活も安定し、余裕が出てきた頃だ。

大樹を中心に、居住区を作っていたが、増築を重ね、今では一人一人が部屋を持っている。


畑にも様々な野菜が実っており、皆が共通して知っていた麦という穀物を、主に広範囲に渡って育てている。

マギリーヴァが石釜を所望し、クロンドールがそれを作り、女子たちがパンを焼いている間に、男子たちは森で生息し始めていた様々な動物を狩っていた。発見できた動物は、野うさぎや鹿、鳥といった比較的大人しい動物で、俺たちがそれらの生命により被害を受ける事はほとんど無かった。


少人数ではあったが、俺たちの間ではそれなりの規則が出来始め、コミュニティーが形成される。

エリスの事など問題はあったが、それなりに上手くやっていたと思う。

何より、皆それぞれの世界で辛い過去を持っていたからこそ、自由に何もかもを作り出し、楽しく生きる生活が、愛おしかったのだ。





それぞれが違う異世界からやってきたのだから、当然言語も違って良いはずだ。


だが、なぜかこのメイデーアでは、俺たちは皆同じ言語を話していた。

それが不思議だよね、と食事中にユティスが話題を出した。


「何だか、バベルの塔の逸話みたいだな……」


俺は勝手にそう思って、誰に理解されなくとも良かったがぼそっと呟いた。

俺は元の世界での学はあまり無かったが、その逸話はどこかで聞いた事があったのだ。自分たちは、バベルの塔の基盤から宝を掘り出しているのだ、と教えられた事があった。

だが、これに反応したのはマギリーヴァだった。


「バベルの塔、知ってる!」


「……」


誰もが、この話題に興味を示す。

マギリーヴァは続けた。


「人類はみんな、同じ言語を話して町を作っていたけれど、人間がバベルの塔を作って神様に挑戦したせいで、最終的に人々が協力しないように言語がばらばらになっちゃうって……なんかそんな感じの言い伝えよ。世界の創世記の話よ。多分」


マギリーヴァは少々曖昧な答え方をしていたが、俺の知っている“バベルの塔”の逸話も、似たものだった。

驚いた事に、マギリーヴァと俺とは、生まれた世界や国こそ違うが、同じ逸話を知っていた。

同じような逸話と言うのは、世界ごとに存在したりしなかったりするんだろうか。

クロンドールが「へえ」と、面白そうにしている。


「ヴァベル……か。カッコイイ響きだな」


「バベル、よ」


「どっちも同じだ」


「そーかしら。あんたってそう言う所、結構適当よね」


マギリーヴァはじとっとクロンドールを見ながら、ライ麦のパンをかじった。

彼女はよく食べる。


「創世記と言うのが僕らの状況に近いね」


ユティスがパンをちぎって食べながら。トリタニアは「そうか?」と疑問系。

エリスはこの席に居ない。一人でまたどこかへ行ってしまっていた。


「ねえ、じゃあこの辺りをヴァベルって名前にしましょうよ! 大樹の名前でも、土地の名前でも、国の名前でも良いけれど。なんかこう……名前が欲しいじゃない?」


マギリーヴァが、何かしっくりきたような、ピンと来たような表情で提案する。


「わあ、素敵だね。あの大樹にもぴったりな気がする……っ」


「でしょう、デメテリス」


デメテリスがマギリーヴァの案にのった。確かに、俺たちの拠点に名があるのは便利ではあった。

異世界に来たばかりの俺たちにとっては、今の所は大樹の付近だけが全てだったが、アクロメイアやクロンドールは、すでにその外の事を知ろうとしていたようだったし、地図を作ろうとしていたから。


「ならば、大樹の周辺……そうだな、森の広がる辺りまでを、ヴァベルとしよう。命名のマギリーヴァがそう言うのなら、間違いないだろう」


銀髪を優雅に払って、アクロメイアは一枚の地図を食卓の手前において、大樹の印の下にヴァベルと書き込む。


皆がなにかと食べながら、その地図を覗き込んでいた。


「あ、そうだ。この前、森の端を散策したんだが、変わった洞窟が出来ていたな」


トリタニアが地図上のある場所を指でさし、知らせる。


「俺たちの知らない所で、世界はどんどん要素を増やしているな……」


クロンドールが顎を撫でながら唸る。


「でも、どんなに広くて沢山の土地があっても、9人ではあまり意味は無いわね」


「土地が勿体ないな」


「もっと人がやってくればいいのに……」


「もしかしたら、あちこちに居るかもしれないよ。まだ出会ってないだけで、遠くの場所に」


「それならそれで、コミュニティーごとの領地の争いになりそうだ」


それぞれがそれぞれの思う事を語りながら、最後には、現状、自分たちで出来る事をするしか無いのだと思い至る。


「そう言えば、エリスはまた居なくなったわね。もう一週間も帰ってきていないわ」


プシマがエリスの事を心配していた。

無意味にきょろきょろとして、奴が帰ってきていない事を確かめる。


「あんな奴、放っておけよ。どうせ、無断で持って行った食料がなくなったらまた戻ってくる」


「トリタニアったらまたそんな事を言って。エリスは人と関わるのが少し不器用なだけよ」


「……いや、だってあいつ、いつも自分勝手で……」


プシマに少したしなめられ、トリタニアは少々ばつの悪そうな顔をしていた。

トリタニアはプシマに弱い所があった。

と言うか、トリタニアは女子全般が少し苦手だったようだ。

所属していた軍には女性は少なく、語らう機会もあまり無かったのだろうか。

それは俺も同じだが。


それに比べてクロンドールの女子との打ち解けやすさや、ユティスのフェミニストっぷりや、アクロメイアの女も男も皆自分の領地の守るべき人民と言う態度は、学ばされる所があるな……

俺は素直にそう思っていた。








「ねえ、ハデフィス」


「……なんだ」


「あんたの身長を計りたいのよ。新しいシャツを縫ってあげるから」


「……」


「プシマったら凄いの。最近あちこちでみる羽虫の繭から糸を紡いで、布を織ったのよ。だから私がそれで、全員分の服を繕うの」


マギリーヴァが、屋根を修繕していた俺を見上げて、声をかけてきた。

俺は面倒だなと思いながら、はしごに足をかけて降りる。

マギリーヴァに連れて行かれたのは、女子たちが機織りをして、裁縫をしている小屋だった。

そこには垂直に延びる定規があり、俺たちはそこで身長を測られるのだ。


「あら、ハデフィスったら少しだけ身長が伸びているわね。もうすぐクロンドールに追いつくわ」


「……」


マギリーヴァはくすくす笑いながら、身長を測った定規を地面から抜き取り、今度は肩幅を調べて、何やらぶつぶつと呟いていた。

機織りをしていたプシマが、いそいそと寄ってくる。


「ハデフィス、髪が少し伸びたわね。切って上げましょうか」


「ああ、それが良いわよ。プシマは髪を切るのも上手よね」


「そんな事無いわよ。ほら、この前トリタニアの髪の毛ばっさりやってしまったし」


「あははは。そうだったわ! あいつ、変な後ろ髪になってしまったのよね」


「……」


若干の悪寒が走る。別に髪型なんてこだわりがある訳じゃないが……

しかし女子たちはおしゃべりだ。俺が何を言わなくても勝手に喋っている。

華やかな笑い声は何だかこそばゆい。


「……あ」


後から、機織り小屋にやってきたデメテリスが、俺を見て少しだけビクッとしていた。

彼女は籠にたくさんの藍色の花を持ってきていた。

これは、布を染める為の花だ。


「あ……あう……」


「ちょっとハデフィス、デメテリスを怖がらせないで」


マギリーヴァに理不尽な事を言われ、顔をしかめた。


「……何もしてないだろ」


「あんたしかめっ面だから怖いのよ。もっと笑顔になった方がいいわ」


「……」


マギリーヴァは、ニッと口元に孤を描き、その猫目を細めた。

しかし俺の表情は変わらない。

だけど内心、何だか可愛いなと思っていた。


「まあまあ、マギリーヴァ。いきなりハデフィスが笑うようになっても、デメテリスは泣いちゃうかもよ」


小さなデメテリスにくっつかれながら、プシマは顔を背けてクスクスと笑った。

マギリーヴァよりは優しい子と思っていたのに、時に辛辣なのがプシマだった。

俺はため息。


「もう行っても良いか?」


「あ、どうぞ。ごめんなさいね、お仕事中だったのに。あ、でも今度髪の毛を切らせてね」


「今度な」


プシマに適当に答えて、背を向ける。


「今日のご飯はきのこのスープと、パンプキンパイよ!」


聞いても無いのに、マギリーヴァは夕食のメニューを、俺の背に向かって大声で暴露。

俺は無視してスタスタと機織り小屋を出て行く。


「そうだわ。サラダのドレッシングをつくらなきゃ」


「パンは昨日焼いたので足りるわよね」


「……あっちに新しい果物がなっていたよ」


その間も女子達は夕食のメニューについて語っていた。

さっきまで俺が底に居た事なんて、もはや忘れているように。

女の子たちって本当に分からないな。





機織り小屋を出て行くと、その側の樹林の影に、ひっそりとエリスが立っているのが見えた。


「……あいつ」


あいつ、確かどこかへ行ってしまっていたんじゃなかったか?

元々失踪癖があり、当初は皆で、何度も探したが、こいつはいつの間にかフラッと戻ってくるもんだから、そのうちに好きにさせるようになったのだ。


戻ってきていたのか。

しかし、機織り小屋をじっと見て、何をしているのか。


俺の存在に気がつくと、エリスはふいとそっぽ向いて、どこかへ行ってしまった。



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