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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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26:マキア、ドングリで遊ぶ。


お久しぶりです、マキアです。

先ほどトールと取っ組み合いをした所です。



彼が出て行った部屋で、私は一時期じっとしていました。

奴が完全に遠くへ行ってしまうまで。


「ふふふ、うふふふ」


左の手のひらをぎゅっと握ったまま木づくりの机へ向かっていき、そしてもう片方の手で、机の引き出しの中から白いハンカチを取り出しました。


その上に、先ほどトールから引き抜いた髪の毛を落とします。


「トールめ、まんまと騙されおって………」


私は笑いが止まりませんでしたが、あまり大きな声で笑うと気がつかれるかもしれません。

ここは息を潜めて、小さな声でね。


「髪の毛ゲット………血は………と」


引っ掻いた時についたトールの血の一滴を、柔らかい紙の端にしみ込ませます。

血は少しあれば十分です。


さあて、ここからが慎重になる所です。

ここ数日コツコツ集めてきたドングリを、机の中の木箱ごと取り出します。


ドングリの形や大きさで小分けにし、その帽子を取り外していく簡単なお仕事。


ここでドングリは少し置いておいて、私は先ほどのトールの髪の毛を取り出しました。

平たい皿の上にその一本を乗せ、私は自分自身の指の先を噛み切り、流れる血を皿に受け止めさせます。


すると、彼の髪の毛は私の血によって溶かされました。


「………ふふ」


これが、紅魔女たる所以です。




はい、私はいったい何をしているのでしょう。

さっきまでのラブコメはいったいなんだったのでしょう。


全てをお話しするには、まず私の研究から語らなければなりません。


私はここ数日、裏の森でドングリを集めていました。

何と言うか、これを使って“おもちゃ”が作れないかなと思ったものですから。


最近魔力を無駄に垂れ流しているので、昔を思い出し、少しは魔法を使って何かしてみよう。そう考えたのはいいのですが、何しろこんな平和な田舎でしょう?


私の作ったおもちゃで実験出来る場所も対象もなかなかありません。

本来の力を試すなら、無人島一つ貸してほしいくらいです。


「でも一人、いたんだな〜。私の実験に耐えられる人材が………」


平皿の中身を人差し指で掻きませながら、きらきらと真っ赤に発光していくそれを満足そうに見つめました。

ああ、今の顔は他人に見せられたものじゃないわね。


指についた液体は、既にただの血ではありません。

これは私の魔法の基礎になるものです。


トールの髪の毛を血の中に溶かす事で、対象を術式として組み込むのです。


この血を、ドングリの帽子を取り外した部分に少しずつ塗っていきます。

全部塗ってしまって、帽子をかぶせて蓋をすると、完成です。このドングリは私の意志を含みます。


「トール………本当にお前は女に甘いねえ」


なんてぶつぶつ言いながら、怪しい作業に没頭する13歳女子。


私がああやって怒ったふりをすれば、これから私が奴に行う全ての暴行を、拗ねた女の子の可愛い嫌がらせ程度に思ってくれるでしょう。

私には彼を攻撃する理由が必要だったのです。


どうだ、可愛かったろう!!

でも私は西の紅魔女なのよ!!

ふははははは!!



とは言え、奴のあの態度には少々イラッときましたね。

あいつ絶対、自分の事「めっちゃ愛されてるわ、俺」って思っている態度でしたよね。まあそう促した自分も自分ですが、何だろうな。この変な敗北感は。


「まあ良いわ、これも一つの愛の形よね」


トール、あんたはずっと昔からそうだったわね。

私のこの有り余った力を生身で受け止められるのは、あんたくらいなものよ。


そう、私はトールのカルテッド行きを、正直心の中で喜んでいました。

これは良い実験期間になると思い、話を聞いた瞬間にひらめいたのです。

喧嘩する理由を。


完成したドングリおもちゃの前で、私は皮肉な笑みを浮かべていたでしょうね。






さて、実験の始まりはまず一つのドングリから始まりました。

トールがカルテッドへ行く、その初日に靴の中にドングリを仕掛けます。

これはまあ、たいしたものではありません。

踏むと少しばかり痛い(毬栗を踏んだ)程度です。


きっと何の警戒もしていない彼ですから、これで少し、私が攻撃してくる事を予想するでしょう。

多いに警戒していて下さい。でないと、死にますからね。




私は一枚のメモを、自室のドアの前に貼っておきました。



(◯月1日:マキア)


死ねええええええええええええええ!!!!


もう二度と帰ってくんなボケカスなすび黒豆




こうメモに残して、私の部屋の扉の前に貼っておきます。

奴は絶対、私の部屋の前を気にします。そう言う奴ですからね。

他の人には絶対にバレない日本語で、トールにだけ分かるようにしています。

自分に対し限定的な事、お互いにしか出来ない事をしてくると、それをお返ししたくなるのが人であり、トールです。




(◯月2日:トール)


 俺の靴にドングリを入れたのはお前ですか?




案の定、トールはドングリトラップに引っかかり、痛い目を見たらしい。

その事について日本語で返事をしてきました。やはりと言うか、期待を裏切らないと言うか、トールはトールです。



(◯月3日:マキア)


 しっていますか?

 ねる時間を削ると死にます。

 かなり危ないですよね。

 すぐにやめましょうね。



ただの悪口でも良かったのですが、ここは少し心配している風、を装った酷い罵倒を。

立て読みにしてみて下さいね。




(◯月4日:トール)


 言っている事が矛盾しています。

 あと、俺の靴にドングリを入れたのはお前ですか?



奴はまだ靴の中のドングリを根に持っているようです。

今朝仕掛けたのは気がついたのでしょうね。



(◯月5日:マキア)


 カルテッドは楽しいですか?

 そのまま永住してしまえばいいんじゃないですか?



(◯月6日:トール)


 窓からドングリで爆撃してきたのはお前ですか?

 死んだかと思いました。




さあて、ここから本格的に実験開始です。

私は朝早く起きて、トールがカルテッドへ出発する頃、窓から特製のドングリで攻撃しました。

わざわざ作ったパチンコと、双眼鏡を用意して、トールめがけてドングリ爆弾をお見舞いします。

まあ、たいした事の無いレベルの魔法です。少し火傷する程度かな。


これはお父様が家から出てくる数分の間が勝負なので、短時間でいかに命中させるか、それに集中します。

一発目はもろに食らって少々痛そうでしたが、二発目からは、彼も自分の魔力でガードしようとします。


バッと振り返って、私の部屋の窓をまじまじと見ている様です。

私は窓の端に隠れています。


「ふふ、楽しいわねえ、トール」


私は遥か昔の事を思い出していました。

2000年前、私たちはこうやって喧嘩をしていた。


お互いの力が大きすぎて、その喧嘩がどんどんエスカレートしてしまっていたけれど。

とばっちりを受けた人々には、本当に迷惑な話だったと思います。

あの頃の私はこうやって喧嘩するのが楽しくて仕方が無かったのです。


今もそれは変わらないわね。



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