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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
338/408

67:狩野圭介、地球にて。

5話連続で更新しております。ご注意ください。(1話目)

世界の境界線を越え、何度この地球とメイデーアを行き来しただろうか。

あと何度行き来するだろうか。


永遠にも思えたそれは、長い年月と転生を繰り返し。

ただ、後はもう、数えきれる程になったと言っても良い。






この地球と言う世界は、マキア・オディリールが死んで、織田真紀子として蘇り、再びメイデーアに戻って行った日から、ほんの二週間程しか経っていない。


奥多摩の、人の居る場所から離れた山の中に、俺の一つの居場所がある。

外から見れば、ただの家だ。だが地下には膨大なメイデーアの記録、また“俺自身の記録”が残されている。肉体のストックも豊富に保管されている。



地球での俺は、狩野圭介と呼ばれている。

異世界メイデーアでは、回収者と呼ばれたり、金の王と呼ばれたりするが、基本的にはフレジール王国のカノン・イスケイルを名乗り、将軍の座に居る。


俺は定期的に地球へ戻ってきては、メイデーアの事を記録する。

一日二日程度であれば、メイデーアと地球の時間差を縮める裏技があるため、それを利用し、出来るだけメイデーアへの干渉に影響が出ないようにするのだ。


だが基本的には、この地球での時間の流れはメイデーアの時間の流れより遅い。

そのため千年周期で生まれ変わる魔王クラスの、その時代になるまでは、この地球を拠点として過ごし、次の時代の為に策を練り、舞台を整える為に時々メイデーアに赴いた。


地球にいた間の過ごし方は、時代時代により様々だ。


あまりに長い時間があるから、この地球での“怪奇な現象”を研究したり、“地球で言う魔法”があるのかを知ろうとしたり、またメイデーア以外の異世界を訪ねたりしてみた。

故に、俺は時代時代の様々な歴史、言い伝えに登場したりする。

全く別の異世界の物語にも登場する事がある。


面白い事に、地球に居た頃の斉賀透、織田真紀子、由利静は遭遇する事の無かったようだが、この世界にも魔法は存在し、それは“異能”とも呼ばれる。

また、この世界独特の“妖”や“幽霊”と呼ばれる存在もあり、またそれが見える者たちも居る。

あの三人は、メイデーアでは凶悪な魔王だったかもしれないが、こちらでは本当にただの子供だった。

そういった、地球特有の、また日本という国特有の異端には気がつかなかったのだから。


ああ、いや違うな。由利静は気がついていたのかもしれない。

俺にも見えていたのだが、この世界に居た人ならざるものの存在に。


俺は、あの三大魔王にとっては、地球で言う“狩野圭介”という役割を演じた存在に過ぎなかったが、あの三人の前に現れる以前は、別の学校で教師をしていた。

その学校には“日本特有の異端”な力を持つ少年少女がおり、この世界特有の神や妖に干渉する力を持っていた。

彼らを付け回し観察し、その事象に介入する事で、俺はメイデーアで言う魔法と、この日本で言う異能の違い、妖の存在意義、神話のルーツなどを調べていた。そこでの俺は「なんでお前ストーキングしてくるんだよ」と言われる物好きな教師だったに違いない。

だがこれはまた、別の物語。


それ以外にも、俺はメイデーアではない異世界にトリップする方法、転生する方法などを調べていた。

肉体のストックの一つを利用し、全く別の異世界転生を試みた事もある。

トリップ先でまた勇者をやらされたこともあるし、女に転生して一生をやり直す事もあった。

メイデーアとは違う中華系の異世界や、妖たちの住む和風の異世界に訪れた事もある。

別世界の知識を持ち込み産業革命を起こした事もあれば、冷徹に一つの異世界を滅ぼしてみた事もある。

全ては必要なデータの為だ。


世界の境界線とは、あらゆる異世界に繋がる為の場所であったのだと知った。

別の次元の世界、物語への干渉は、いつの世もどの世界も、この“世界の境界線”を経由するのである。

これを管理している存在とは何なのだろう。

それは最後まで分からなかったが、分からなくても良いのかもしれない。俺は何度も利用させてもらった。



しかしこれらもまた別の物語だ。

全てはメイデーアでの“約束”を果たす為に、やってきた事。






振り返るべきは、メイデーアでの最初の記録だ。


俺の魔法は、何よりその“記憶能力”にある。

転生を繰り返しても忘れる事も無く、何もかもを覚え続ける。

記憶を司るがばかりに、他人の記憶すら、時に拾い上げてしまうのだから。


だが、記憶は強い思念を含んでいる。それらを忘れる事の出来ない人間など、そのうちに気が狂ってしまう事も分かっていた。

だから、俺は必要最低限の記憶以外は、この地球に保管する事にして、出来るだけ忘れるようにしている。


だが、今こそ思い出すべきだ。

曖昧な記憶を、鮮明な文字と映像で。


地下の研究所の、多くの肉体のストックが集められる部屋を抜け、奥の隠し扉を開けた。

そこには、多くの書物が、こちらに背表紙を向けて本棚にきちんと並べられていた。

これらはただの本ではない。

中を開いてみた所で、真っ白なだけの記録帳だ。


「……創世の書、解読……」


俺がそう唱える事で、本棚からずらずらと俺の前に飛び出してきた書こそ、記憶の記録。

創世の書は数が多い。

一つ一つ、覗いていかなければ。


まずルールを確認してから、覗く。

必要な事だ。






*元々メイデーアにあったのは、天と地、愛と混沌のみとされ、それらを繋ぐものが大地よりのびる大樹であったとされている。

*そこにメイデーアという世界があったのか、子供たちが来た事で生まれたのかは不明。

*大樹の根元には石碑があり、石碑は九人の子供の名を刻んでいた。石碑の文字は予言書としての役割を果たしており、九人の子供たちがメイデーアで生きていく為の助言を更新していた。

*暦の概念は一日のサイクルが整った後、子供たちの常識をまとめあげ、一年を365日としている。暦が出来る前を“創世前”として、暦確立後を“創世暦”“神話歴”“再歴”とし、時代を三つに分ける事にする。




【創世前】


00:9人の子供たちが、メイデーアに召喚される。

00:大樹を発見する。

00:大樹の下で暮らし始める。

00:魔法を発見する。

00:他生命(主に食料になる)を生み出し、住処を作り、営みが整う。

00:デメテリスとトリタニアが兄妹であったと判明。

00:大樹付近を、異世界の“バベルの塔”の逸話をモチーフに“ヴァベル”と名付ける。

00:それまで不規則だった朝と夜のサイクルが整う。

00:暦を生む。メイデーアに召喚され、およそ半年後とされているが、確かな事は不明。



【創世歴】


01:ヴァベル以外の外部調査を開始する。

01:機織り小屋の火事

01:“影の化け物”出現

01:エリス事件

《《リセット》》

00:創世前のやり直し

01:ゴーレムの出現(一周目と違う所)

01:人類の誕生(一周目と違う所)

01:死の概念と冥界の誕生(一周目と違う所。以降、別の歴史)

20:国家形成、文明の発達

50:ユティス、デメテリス結婚

……

……



【神話歴】

……

……

???:『ログ・ヴェーダ戦争』*神話的事件。増えすぎた生命を減らす為にアクロメイアが起こした戦争。

???:アクロメイア、“愛”の概念と出会う(もっと前かもしれない)

???:『黄金の林檎の誕生』*神話的事件。第十の女神、“愛のパラ・アルファ・へレネイア”誕生。

???:『神々の宴』*神話的事件。この宴に参加していたのは九柱の中で、ユティスとデメテリス、ハデフィス以外の者。黄金の林檎が投げ込まれる。

???:『クウィンリードの密談』*神話的事件。三女神が黄金の林檎の木の下で会議する絵が有名。

???:『エリスの審判』*神話的事件。詳細不明だが、単語だけ残っている。

???:『ギガント・マギリーヴァ』*神話的事件。前回のログ・ヴェーダ戦争より大きな争いが勃発。

???:『ギガスの終焉』*神話的事件。戦争の終わりを意味する。

???:世界の境界線を開き、ヘレネイアを追放。

???:『世界再生』*神話的最終事件。メイデーアの再構築(実は再々構築)。棺システムの開始

***:『神々の帰還』*神話的未来論。九人の神々が再び揃う時、世界はまた滅び、生まれ変わると言われている。



【再歴】


……

……






「……っ」


俺は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。

額に筋が走り、血が流れている。


これ以上の鮮明な記憶を体が拒否しているのだ。俺がこの肉体で抱え込めるのは、今の所ここまでという事か……

まあ良い。再暦以降は、ある程度記憶にある。

三千年前の金の王と銀の王の争い以降は特に。


必要なのは、創世暦と、神話歴。いわゆる、この世界の創世の時代と神話の時代の事実だ。

真の理を思い出しておかなければ。


この記憶を抱き、現代のメイデーアの、ギガント・マギリーヴァに挑まなければならない。





「……もうすぐだ…………マギリーヴァ」



俺は、暗い地下の書庫の、ただの天井の一点を見上げて呟いた。

死を前にしたマギリーヴァとの約束を、忘れる事など出来ない。



まず、瞳の奥に思い出されるのは、暗い場所で、開けてくれと岩戸を叩く少年の姿だ。

熱い。死んでしまう。


苦しい。

いっその事殺してくれ。


そんな絶望の後の、あの清々しい程の開放感と、自由への歓喜を覚えている。


手を差し伸べてくれた赤毛の少女の、泣きそうな顔も。




大樹だ。


最初に見たあの大樹の根元で、子供たちが集い、笑う。声が聞こえる。

万華鏡みたいな、大樹の木の葉から漏れる木漏れ日の、キラキラした光を浴びながら。



泣きたくなるほど愛おしいメイデーア。

だが、俺たちの創った理想郷を、手放す時代がやってきたのだ。



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